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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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異国への道中


 ノエル達はセレノアへ乗り込むことを決め、準備を整えた二日後にラクシャダで村を出た。

 その間、キサラ達は今後の対策の為ギエンフォードに連絡を取り事の詳細を伝えておくという。

 ギエンフォードはノエル達とも繋がっているから、恐らく国の方にも上手く報告してくれるだろう。

 そんな訳でセレノアへ向けて旅をしているノエル達だったが、そこには新たな顔ぶれがあった。






 ラクシャダの中で剣撃の音が響く。

 同行を申し出た鬼人(オーガ)の長ラグザが、レオナと稽古をしていた。

 身の丈程ある巨大な刀を体の一部の様に自在に操るラグザと、その重い一撃を簡単に捌くレオナの技をノエルとリナは眺めていた。

「二人とも凄いですね」

「まあ、あいつらまだ本気じゃねぇけどな。 つか本気でやりあったら確実にここ滅茶苦茶になるぞ。 特にラグザは頭に血が登ると見境無くなりそうだしな」

「あんたにだけは言われたくねぇよリナ殿!」

 レオナと打ち合いながらしっかりこちらの言葉を聞いていたラグザのツッコミに、リナはケラケラ笑った。

 実際、リナの見立てではラグザはギゼルの所のオメガクラスの実力はあるという。

 ただその血気盛んな性格が元で周りが見えなくなる傾向がある為、実力を発揮しきれていないのだとか。

「はい、よそ見しない」

「うげ!?」

 言ってるそばからリナに気を取られレオナの存在を忘れた為、レオナからキツい峰打ちを脳天に喰らった。

「これじゃリナの事言えないわよ。 もっと私みたいに冷静にならないと」

「お前も結構すぐ煩くなるけどな」

「余計なチャチャ入れないの馬鹿リナ!」

「んだとアホレオナ!」

 喧嘩を始める二人にノエルはいつもの事と苦笑し、ラグザは巻き込まれないようにコソコソとノエルの方へ避難した。

「しっかし流石五魔だ。 凄まじいったらねえや」

「お疲れ様です、ラグザさん」

「いや、こっちは無理言って付いてきた身なんで。 こんくらいしっかり稽古しとかないと、いざって時足引っ張ったら情けねぇだろ?」

 ニカッと笑いながら汗をぬぐうラグザの表情は、村にいた時よりどこかスッキリしていた。

 ずっと村で防戦一方だった状態から、こうして前に向かって行動できるのが嬉しいのかもしれない。

「ノエル様、少しよろしいでしょうか?」

 そんなことを思っていると、ノエルの後ろから優しい声色の一人の女性が声をかけてきた。 

 彼女はノーラ。

 ドルイドの長であるマグノラの一人娘だ。

 ローブ姿に目元に赤いアイシャドウを付けた真珠の様な光沢のある白地の微笑を浮かべた仮面を着けている彼女は、ラグザ同様同行を申し出てくれた。

 ドルイドはその高い魔力と醜い顔以外は人とほぼ同じ姿をしている為、セレノアでも活動するのに支障はない。

 更にノーラの力は既に父親を凌駕しており、その多種多様な魔術を今回の奪還戦で役立てたかったそうだ。

 ノエル達としてもノーラの多様な魔術は大きな助けとなる為、同行してもらうことにした。

「どうしたんですかノーラさん?」

「先程私の感知魔法が3つの影を捉えました。 ずっとこちらを追跡している様ですが、捕らえますか?」

 3つの影と聞き、ノエルはある3人を思い浮かべた。

「その人達、女の人と男二人ですか? あ、男の人は片方とても大きいと思うんですが」

 ノエルの質問に、ノーラは驚きの表情を浮かべた。

 最も、素顔は仮面で隠れている為実際に顔は見えないのだが。

「よくわかりましたね。 ノエル様も感知魔法をお使いに?」

「いえ、少し心当たりがあって」

 ノエルはその3人の事を思い出しながら、少し思考する。

「その3人なら、恐らく手を出してこないでしょう。 だから暫く様子を見ててくれますか?」

「おいおい、大丈夫なのかよ?」

「ええ。 彼女達とは今無理に敵対する理由もないはずなので。 いざとなったら対処しますから」

「畏まりました。 ではノエル様の指示通りに」

 ノーラは恭しく頭を下げ、ノエルは丁寧過ぎるノーラの態度に苦笑する。

「ノーラさん、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。 ラグザさんも僕の事様付けじゃなくても、普通にノエルって呼んでください」

「そっか? じゃあお言葉に甘えて」

「ラグザ殿、不敬ですよ」

「でも本人がいいって言ってんだからいいじゃねぇか」

「ですが族長の一人であるゴブラド殿が敬語なのです。 まあラグザ殿は鬼人(オーガ)の族長ですから多少は砕けても平気でしょうが、呼び捨てまでしたらノエル様を敬うゴブラド殿に対して失礼です」

 ラグザは「それもそうか」と納得した様に頬をかく。

「んじゃ、ノエル殿ならいいだろ。 様よりは気安いしな」

「僕は構いません」

「よし。 んじゃ次はノーラだな」

「私は族長ですらないのですから、この形を崩す気はありません」

「でもよ、気を使いすぎてノエルに堅苦しい想いさせんのも違うんじゃねぇか?」

「確かにね。 別にノーラちゃんはノエル君の部下とかじゃないんだし、もう少し砕けてもいいんじゃない?」

 いつの間にか喧嘩を止めたリナとレオナは、面白そうにニヤニヤしながら話に参加していた。

 もはや面白半分で迫る3人に、ノーラは困った様にオロオロする。

「で、でも、私はこれが普通ですし。 今更砕けてと言われても・・・」

「ちょっとだけだよ。 な? 呼び方だけでいいからさ」

「え、えと・・・・・の、ノエル、さ・・・・や、やっぱり無理です~!!」

 ノーラは顔を赤らめその場から逃げ出した。

「顔隠してるのに表情豊かな子ね」

「まあ、あいつ結構箱入りだったからな。 からかうとおもしれぇんだよ」

 イタズラっ子の表情になるラグザにノエルはやれやれと苦笑する。

「そういやもう一人の問題児はどうした?」

「ああ、今ジャバさんが見てますよ」

「ふ~ん、そっか」

 リナが悪い顔をすると、ノエルは「リナさんも好きだな」と半分呆れ顔になる。





 屋敷の奥の部屋を、リナは勢いよく開けた。

「お~! 元気にしてっか!?」

「ひぃ!?」

「リナ! エミリアに会いに来たか」

 部屋にはエルモンドの薬で普通の大男サイズになったジャバと、イタズラっぽい笑みを浮かべるリナを警戒するエミリアの姿があった。

「ああ、傭兵さんが使い物になるようになったかと思ってな」

「あなたって人は・・・」

 からかうリナを睨み付けるエミリアだったが、その目には村の時の様な覇気がない。

「おいおい、昼間っからこんな閉めきってよ。 余計体に毒だぜ? こうパ~っと窓くらい開けろよな」

「ちょっ!? 止め・・・」

 エミリアの制止を効かずリナがカーテンを勢いよく開ける。

 すると、ラクシャダの体内の景色が窓の外に現れる。

「きゃ~!!!?」

 瞬間、エミリアは悲鳴を上げベッドのシーツを頭から被りくるまってしまった。

「ハハハッ! 何回見てもおもしれぇな!」

「リナ、からかうの良くない」

 ジャバが珍しくリナを嗜める中、エミリアはシーツの中で「蛇はイヤ、蛇はイヤ・・・」とブツブツ呟き始める。

 エミリアは当初、村の警護の為残る筈だったのだが「自分がいる間に拐われた者もいるから、その人達を助けないと依頼を守ったとは言えない」と言い、ノエル達に同行を申し出てくれた。

 エミリアの実力を知るリナも頷き、共に行くことになったのだが、問題はその後だった。

 移動手段であるラクシャダを目にした瞬間、エミリアは悲鳴を上げて気を失った。

 仕方なくそのままラクシャダの中の屋敷に運びいれたが、目を覚ましたエミリアはそこがラクシャダの体内だと聞くと再び気絶した。

 後から聞くと、エミリアは蛇が大の苦手で、昔から触ることは愚か、近付くことすら出来なかったそうだ。

 そんな苦手な蛇の中でもトップクラスに巨大なラクシャダを見て、更にその体内にいるとなると、エミリアの反応も仕方ないと言えるのかもしれない。

 だがラクシャダが最適な移動手段だということは理解しているらしく、こうして外を見ないよう部屋に閉じ籠って一緒に移動しているのだ。

「しかしお前にこんな弱点があるとはな。 おもしれぇったらねぇや」

「だって・・・だって~」

 シーツから覗くエミリアの顔はいつもの精悍としたものではなく、年相応の女の子のものだった。

 村にいた時の敵に容赦なく凜とした姿を知るリナにとって、今のエミリアを見るのは非常に面白く、こうしてよくからかいに来ていたのだ。

「リナ、やり過ぎ良くない。 エミリア大丈夫。 ラクシャダ怖くない」

 カーテンを閉めると、ジャバはエミリアの頭を優しく撫でた。

「うぅ、ありがと」

「そうですよリナさん。 あまりやり過ぎると可愛そうですよ」

 リナが振り向くと、ジンガを連れたノエルがいた。

「わりぃわりぃ。 つい面白くてな」

「もう、リナは。 大丈夫ですかエミリアさん?」

「ええ。 ごめんなさい、情けない所を見せて・・・」

「大丈夫ですよ。 誰だって苦手なものはありますから」

 どことなくバツの悪そうな顔をするエミリアに笑いかけると、ノエルはジンガに目配せした。

 ジンガはエミリアに近付くと前足をエミリアの手にポンと乗せた。

「あ・・・」

 エミリアはジンガの柔らかく温かい前足に触れると、ふにっと肉球を触った。

「・・・可愛い」

 ジンガが気に入ったのか、エミリアはそう呟くと前足を軽く触り続けた。

「モフモフしたもんは好きみてぇだな」

「ええ。 ジンガなら人に慣れてますしね。 それよりリナさん、あまり人の苦手な物でからかうのは良くないですよ?」

「ちょっと位いいじゃねぇかよ、減るもんじゃねぇし」

「じゃあ今夜は、ピーマンの肉詰めでも作りますか」

 その瞬間、リナはピキッと固まった。

「ま、待て、ノエル。 それは流石に・・・」

「リナさんって、もしかして・・・」

「リナ、苦いの苦手。 中でもピーマン嫌い。 子供みたい」

「ジャバてめぇ! バラすんじゃねぇ!」

 自分の苦手なものをバラされ顔を真っ赤にするリナに、エミリアはクスリと笑った。

「へぇ。 魔王様はピーマン駄目なんだ。 可愛いとこあるじゃない」

「蛇が駄目な奴に言われたかねぇ!」

「どっちも似たようなものです。 でもあまりやり過ぎると、今度からリナさんの食事ピーマン尽くしに・・・」

「待てノエル! それだけは勘弁してくれ! 後生だから頼むよ!」

 必死に謝るリナの姿にジャバもエミリアも笑い、ノエルもクスクス笑った。


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