道中にて
今回リナがまたおしとやかに(笑)
皆さんがどっちのリナが好きなのかちょっと気になりますね
ノットを離れ5日、アラビカスに続く道にその3人の姿はあった。
「大丈夫ですか黒騎士様?」
「だ・・・大丈夫です・・・」
そう言ったノエルの声には力がなかった。
リナは出会った当初のおしとやかな雰囲気で優しく声を掛ける。
「もし大変だったら休憩しますか? まだ慣れてないんだから無理はいけませんよ?」
「い、いえ。 少しでも早く進まないといけませんし、まだいけます」
現在ノエルはリナにもらった鎧を纏い正体を隠している。
それに伴い、リナ達も外で旅をしている間ノエルに黒騎士として接している。
リナは黒騎士を慕う女の子、そしてライルは・・・。
「姉さ~ん・・・俺は休憩したいっす・・・」
「もう、使いっ走りなんだからもっと馬車馬の様に働いてくださいよ」
「従者っすよ姉さ~ん!!」
優しい口調でキツい事を言うリナに対し、後ろの方で大荷物を持つライルの悲痛な叫びが響く。
本来ならあの小さな小屋に全部入るから荷物持ち等必要ないのだが、手ぶらなのは明らかに不自然という理由で持たされている。
「つか姉さん! なんかノエルに優しすぎないっすぐわば!?」
「もうライルさんったら~、今その名前言っちゃ駄目でしょ?」
「す、すんません・・・」
殺気混じりの優しい笑顔で拳骨を放つリナ・・・…リナさんも十分怪しいですよ・・・と心で思いながら決して口に出さないノエルだった。
「それに、黒騎士様はまだこの体に慣れてないんですから、消耗させ過ぎると翌日に響いたりいらない怪我をして余計手間がかかっちゃうじゃないですか。 只でさえ中身はひょろっこいのに、それじゃいつまでもアラビカに着かないですよ」
ひょろっこいという言葉に背中に見えない槍が刺さったノエルだが、事実移動だけでこれでは言われても仕方ないとその迫力ある鎧姿に似合わず小さく項垂れた。
「それに黒騎士様が動けなくなったら食事が悲惨な事になりますよ」
「う・・・それは勘弁っす・・・」
そっちが本音かとノエルは更にため息をつく。
「しかし姉さん、飯もそうっすけどこっちも少し不安になってきやしたよ」
ライルはそう言うとこの前持ち帰ってきた袋を取り出した。
中には硬貨が入っていたが、中身は最初の時より減っている。
これはこの国の通貨で、上から金貨、銀貨、銅貨とあり、銅貨は1ラック銅貨、10ラック銅貨、100ラック銅貨、銀貨1000ラック銀貨、1万ラック銀貨、そして最高額の10万ラック金貨がある。
現在袋には1万ラック銀貨1枚、1000ラック銀貨18枚、100ラック銅貨52枚、合計3万3200ラック入っている。
「順調に行って大体後1週間、遅くとも10くらいだから・・・宿代は抜きにしても、このままだとアラビカスに着く前に底ついちまいます」
「憲兵がいなかったらもっと持ってこれたんですけどね」
実はこれ、リナとライルがグリムの屋敷に行き取ってきたものだ。
あの後リナとライルは軍資金をグリムから搾り取ろうとしたのだが、ノエルとの騒動を知った憲兵隊が既に屋敷に乗り込んで来ていた。
その為、今の袋1つ持ってくるのが精一杯だったのだ。
もっとも、それでも本当は30万ラック程あったのだが、リナとライルがノエルの歓迎会という名目の宴会をする為、本来必要な何倍の量の食料と酒を買い占めてしまった為、こんな状態になってしまったというわけだ。
お陰で今小屋の食糧庫はある程度満ちているが、保存の問題の為道中腐る可能性が高いもの多くもあり、料理担当のノエルは違う意味で頭を悩ませていた。
「本当なら屋敷の財産全部貰ってくる予定だったんですけどね」
「・・・まさか最初追われていたのも・・・」
「ええ、わざと捕まってボコボコにして金目のもの全部貰うつもりでした。 ついでに通報して憲兵さんから通報料も貰おうかな~と思ってました」
どうやらリナはこの10年、か弱い女の子を装いわざとチンピラ、もしくは盗賊等に捕まり、アジトに着いた途端暴れては有り金全て奪って生活していたらしい。
確かに見た目も可愛いし、今の口調なら誰も彼女が強い等、ましてや魔王・ディアブロだなんで思わないだろう。
因みにライルも元はチンピラ集団のボスで、リナにボコボコにされながらもその姿に惚れ、彼女にくっついて来たそうだ。
つまりノエルは助けたことでリナの貴重な資金調達を邪魔してしまった事になる。
何となく余計な事をしたかなとノエルが思っていると、リナはニッコリ笑った。
「大丈夫ですよ。 一応これだけ手に入りましたし。 それに・・・助けてもらって結構嬉しかったですよ」
兜で顔が隠れているのに自分の気持ちを察するリナに、ノエルは本当に自分を見てくれているんだなと感じた。
「それに無くなったらまた盗賊とかぶちのめせばいいだけだし」
そしてやはり結構恐いなと感じた。
「いや、騒ぎを起こすのは流石にマズイからそれは・・・」
「じゃあどうするんですか?用心棒とかだと経路や日にちの問題で難しいですよ?」
ノエルは少し考えると、閃いたように手をポンと叩いた。
「なら、これならどうです?」
次の日、途中で見つけた村に立ち寄ったノエル達は出店を出していた。
「いらっしゃいませ~。 焼きたてのクッキーと焼き菓子はいかがですか~? 本日限りですよ~」
甘く香ばしい香りとリナの呼び込みもあり、出店の周りには人だかりが出来、次々と売れていった。
「姉さん、すっげ~売れてますね」
「全く、黒騎士様様ね」
この焼き菓子やクッキーはノエルが仕込んだもので、時間を間違えなければライルでも美味しく出来るようになっている。
しかも例の小屋の中で今もノエルが生地の仕込みをし続けているからストックもある程度補充できる。
お陰で村人は勿論、ノエル達の様な旅人が買いに来てもしっかり対応出来た。
「ひぃふぅみぃの・・・おお!8万ラックもありやがる!」
「急場凌ぎにしちゃあ上出来じゃねぇか。 でかしたぞノエル」
「はは、お役に立ててよかったです」
売り上げの銅貨と銀貨を数え興奮するライルに、リナも満足そうに笑みを浮かべ、ノエルも役に立てて嬉しそうにだった。
「材料も俺らが買いすぎたもんとか使えば問題ねぇし、行く町や村でやればアラビカス行くのに釣りが来らぁ!」
「あんま調子乗んなっての。 しっかし本当お前料理上手いよな。 今日だって結構な量作ってたろ?」
抱える問題が一気に解決して浮かれるライルを嗜めつつ、リナは感心したようにノエルに言った。
「あれくらいならまだ大丈夫ですよ。 それにこの一年、お金が無くなるとその町の食堂やお菓子屋で働かせて貰ってましたし」
「んなことまでしてたのか」
「ええ。 中にはずっとここで働いてくれって言ってくれた所もあったんでちょっと大変でした」
照れる様に言うノエルに「マジでプロ並かよ」と心の中でツッコミを入れる二人だった。
「女ならいい嫁さんになりそうなんだがな~」
「見た目も結構可愛いしな」
「変な想像しないでください!」
「まあなんだ。 せっかく儲かったんだし、今日くらい使っても…」
「ダメです!」
ノエルはテーブルに置いてあった売り上げ金の袋を取り上げた。
「ちょっ! いいじゃねぇかよ少しくらい!」
「ダメです! リナさん達は無駄遣いし過ぎです! 第一食糧庫にはまだ食糧があるんですから無駄に買いすぎない! 特にリナさんは甘いもの買いすぎです!」
「ぐ…ラ、ライルだって食いもん以外に裸の女の本とか結構買ってんじゃねえか!」
「姉さんなんで知ってんだよ!?」
「とにかく! お金は僕が管理します! もし勝手に使ったら・・・リナさんケーキ1か月なし! ライルさんも野菜のみの食事にします!」
「ちょっと待てノエル!」
「てめぇケーキでなしだと・・・ノエルの鬼!」
「魔王に言われたくありません」
かくして、一番弱いはずのノエルがリナ達に勝った瞬間であった。