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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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迎撃


 ノエル達が村に着いた晩、村の回りでは集団が息を潜めその様子を観察していた。

 彼らは<ヴォックス>。

 食料や衣類、医療品や雑貨等の表向きなものから、武器や違法薬物、そして奴隷などまでも扱う所謂裏の商人の集団だ。

 この集団には優れているものが2つある。

 1つは分析能力。

 裏表関係なく、次に需要が必要となる商品をそれぞれの国や世の情勢から分析し、どこよりも早くその商品を大量に入手する。

 現に過去の大戦では魔帝の力をいち早く見抜き、苦戦するであろう国々を予測し武器や防具、医療品から食料まで高値で売り付けることに成功した。

 魔帝に追い詰められた国々は当然物資が不足し、普段より法外な値段ながらもそれらを買わざる終えなかったのだ。 

 そしてもう1つは、商品の入手の的確さ。

 ヴォックスは国、個人問わず特定の顧客から注文を受けることも多々あった。

 その一番の理由がどの様な商品であろうと必ず入手するからだ。

 どんなに貴重で入手困難なものだろうと必ず注文通りの数を手に入れ売り渡す。

 その特性にいち早く目をつけたのは、大戦後のセレノアだった。

 セレノアが注文するのは当然奴隷。

 数ある裏の商人の中で良質な奴隷を大量に入手出来る商人は少ない。

 ましてや魔帝の影響で奴隷入手が困難になった現在の状況では、ヴォックスの存在は非常に有益だった。

 無論ヴォックスも、大国セレノアの動きを見越しておりすぐに行動を開始した。

 各地にある亜人の小さな集落を練習代わりと言わん勢いで狩り、セレノアに出荷した。

 セレノアはヴォックスの働きに非常に満足し、以後両者の関係は良好に続いている。

 そんなヴォックスを纏めているこざっぱりした、だが眼光鋭い眼鏡の男ルキアーノは静かに村の地図を眺めていた。

(かしら)

 やって来た部下を、ルキアーノは睨み付ける。

「馬鹿野郎! 俺達は盗賊や山賊じゃねぇんだ! 社長と呼べ社長と!」

「す、すいません!」

 謝る部下に不満そうにしながらも、ルキアーノは話すよう促した。

「潜り込ませた商人の話じゃ昼間に村に入った連中かなりの手練れだそうで、そいつら中心に村の防衛を固めるそうです」

「ふん。 無駄だってのにまだ気付かねぇとは、亜人ってのも馬鹿ばっかりみてぇだな。 それで、他にはねぇのか?」

「はい。 そいつの話しじゃ、この辺りが比較的に手薄になってる様です」

 部下は村の南東にある一画を指差した。

 そこは重要な施設も住宅も少なく、確かに限られた警備を削るのも仕方ない場所だった。

 だが、ルキアーノは鼻で笑った。

「罠だな。 あの野郎、ヘマしやがって」

 ルキアーノが此方に抱き込んだ商人が見破られたのに瞬時に気付いた。

 恐らく偽の情報を流されたのだろうとルキアーノは予測し、捕まった商人を馬鹿にした。

「多分今回村に入った連中の入れ知恵だろう。 多少は頭が回るみてぇだがそうはいかねぇ。 こちとらこの商売でどれだけ修羅場潜ってると思ってんだ」

 そう言いながらも、ルキアーノの中で村に入った者達への警戒度が上がった。

 ルキアーノは今回、セレノアから各亜人の特徴や弱点となる情報を大量に貰っている。

 それは亜人を奴隷として使うためにセレノアが長年研究し集められたもので、他では手に入らない程正確なものだった。

 現に亜人奴隷を取り扱っていたヴォックスですら持っていない様な情報も数多くあった。

 ルキアーノはその情報を元に強力なガマラヤの亜人達の能力の隙を突き、今までの計画を成功させてきた。

 当然、村に入れた商人にも各種亜人の探知能力を誤魔化す仕掛けを散々施した。

 だがそれを見破る者が今日村に入った者達の中にいる。

(少ししくじったかもしれないな)

 下手に村への訪問者を刺激し今の包囲状態が外部に漏れるのを避けるため、敢えて村に入れ半監禁状態にしていたのだが、今回はそれが裏目に出た。

 だがそれでも、ルキアーノは己の優位を疑わない。

(どうせそろそろ感付く奴等が出てくると思っていたんだ。 ここらで潮時だろう。 なら最後にもう一仕事して撤収するのが得策か。 欲を言えば長クラスが欲しいが、贅沢は言えねぇ。 可能な限り良質な奴等を捕まえるとするか)

 ルキアーノはそう思考を切り換えた。

 本来ならもう少し商品を増やしセレノアとの関係を確固たるものにしたかったが、ルキアーノにとって重要ではない。

 彼にとって重要なのは金だ。

 そこに取引相手との干渉もなにもない。

 金を取れるだけ取ったら、また別の金づるを見つければそれでいい。

 どのみちセレノアは落ち目の大国。

 体裁を整える為金払いはいいがどのみち長続きはしないだろうとルキアーノは考えていた。

 ならば深追いせず、最低限の信用と金さえ手に入ればそれでいい。

「おい。 他の奴等に知らせろ。 今夜襲撃をかけたら速やかに撤収だ。 わかったら早く行け!」

「は、はい!」

 部下が慌てて走り去ると、ルキアーノは地図を見ながらどの獲物を取るか考えを巡らせた。






 月明かりもない暗闇の深夜、ルキアーノ達は全身対亜人用の魔術の施された黒装束に身を包み襲撃地に身を潜めている。

 暗視魔法のかかったゴーグルで周囲を索的しながら、ルキアーノは背後の部下に聞く。

「別動隊はどうだ?」

「今頃武器庫の辺りに着いているはずです。 じき火の手が上がるでょう」

 ルキアーノは報告に頷くと目の前の目的地を見た。

 そこは先程の情報で警備が薄いと言われた南東の真逆、村の北西部分。

 キサラの薬学研究所と診療所のある場所だった。

 ルキアーノは診療所なら今までの小競り合いで負傷し激しく動けない者が多く拐うのが容易だと見ていた。

 が、それはオマケだ。

 ルキアーノの真の狙いは子供を宿した各種族の妊婦だ。

 妊婦ならば激しく動けないのは勿論、産まれてくる予定の子供も売れる。

 上手くいけば2つの亜人の特徴を持つ混血が手に入るかもしれない。

 しかも産まれた時から買い手の好みに育てる事が出来るので買い手にとっても2度おいしい、まさに一石二鳥の獲物だ。

 当然値段も高値で売れる。

 最後に大儲けするのにこれほど適した獲物はいない。

 警備は厳重だが、大人数の別動隊に他を襲撃させればそれを囮に診療所の者を拐うことくらい容易い。

 ついでにエルフの薬を幾つか持っていければ万々歳だ。

 ルキアーノは小さく口角を上げると、予定していた場所から火の手があがった。

 案の定、そちらに警備の亜人達が慌てて駆けていく。

 ルキアーノ達は僅かに残った見張りの後ろをすり抜け、診療所へと忍び込むことに成功した。

 診療所の病室にはシーツにくるまりベッドに横になっている患者が数人。

 ルキアーノにはそれが大金に見えほくそ笑む。

 ルキアーノが合図すると、部下達は眠り薬を染み込ませた布と拘束道具を持ってそれぞれベッドに近付きシーツに手をかける。

「よぉ、なんか用か?」

 その声と共に、シーツに手をかけた部下達は吹き飛ばされ壁に激突する。

 ルキアーノ達が驚いていると、先程までベッドで寝ていた者が凶悪な笑みを浮かべて立ち上がった。

「漸く来やがったか。 危うく本当に寝ちまうとこだったぞ」

 リナは両の拳を鳴らしながら立ち上がると、同じ様に寝ていたノエル、リーティア、レオナが立ち上がる。

「エルモンドさんの予測通りでしたね」

「本当、いつもながら凄い先読みね」

 目の前に現れた3人の姿にルキアーノは瞬時にその危険性に察知した。

 同時に異変に気付く。

 ノエル達に続き先程まで寝ていた者達が起き上がってくる。

 が、それは亜人達ではなく普通の人の姿をしている。

 この村にここまでの人間がいないことを知るルキアーノは目を凝らすと、その人の姿をしたものから糸のような細い魔力が繋がっているのが見えた。

(まさか、傀儡術か!?)

 ルキアーノはその知識から術の正体を見破るが、それが仇となった。

 彼は気づいてしまった。

 目の前にいる者が何者なのかを。

(傀儡術を操る者は確かこの国じゃ五魔のバハムートだけのはず。 てことは、目の前にいるのは・・・)

 仕事柄あらゆる情報を集める事に重点を置いていた為、五魔が復活したという噂は聞いていた。

 そして今、部下の報告だけでは気付かなかった目の前の者達の力を感じそれが五魔だと認識してしまった。

 それは普段冷静なルキアーノを大いに動揺させた。

(冗談じゃねえ! こちとらそんな化け物とやり合う術なんかねぇぞ!?)

「ウガアアアアアアア!!」

 脳内で何か打開策がないかと焦るルキアーノに、追い討ちと言える咆哮が鳴り響く。

「あっちも始めやがったか」

 リナはニヤリと口角を上げた。






 ヴォックスの別動隊は戦慄した。

 自分達が囮となることも承知していたし戦闘になることもわかっていた。

 故にある程度の覚悟はしていた。

 だが目の前に立ちはだかる巨人の姿に、その覚悟は完全に粉砕された。

 ジャバは別動隊を見下ろすとその腕を振るい凪ぎ払う。

 前の方にいた何人かが紙切れのように吹き飛ばされると、残った者は恐怖のあまり来た道から逃げようとする。

 だが退路には既にジャック率いる巨体のトロール軍団が壁となり塞がれ、その前に戦闘が得意な獣人で構成された戦士団を従えるレオノアの姿があった。

「ふん。 散々我らを脅かしておきながら、形勢不利と見るやこの体たらくとは。 この程度の者共にしてやられていたかと思うと自分の不甲斐なさに腹が立つ」

 レオノアはヴォックスの別動隊に侮蔑の眼差しを向けると、手にしたグレートソードを片手で持ち目の前に振り下ろす。

「かかれ!!」

 レオノアの合図で獣人の戦士団とトロール軍団がヴォックスの別動隊に襲いかかる。

「ぬはあああ! 我らの怒りを思いしれ~!!」

 ジャックは戦闘を切り手に持つ刺の付いたメイスで敵を凪ぎ払う。

 ジャバとジャック達トロール、そして獣人達に一気に襲いかかられ、ヴォックス別動隊はまさに阿鼻叫喚の様相だった。

「ふひひひひ。 流石に圧巻だね。 これだけの面子が暴れるとまさに爽快の一言だね」

 その様子を面白そうに眺めるエルモンドの隣には、全てエルモンドの予想通り驚き固まるイトスと、リナ達の方の人形操作に集中するクロードの姿があった。

「全く、君の予測の精確さはたまに怖くなるよ」

「誉め言葉としてもらっておくよ。 で、あちらの方はどうかな?」

「敵の首領各っぽい男がいるね。 どうやらこちらの正体に気付いた様で酷く動揺している」

「やっぱり僕達の情報は裏じゃそれなりに広まっているらしいね。 でもそれだけで此方の正体に気付くなんて、流石セレノアに気に入られるだけのことはあるね。 最も・・・・」

 そこまで言うと、エルモンドは人の悪そうな顔をし再びふひひと笑う。

「僕達の相手をする時点で、既に結果は見えてるけどね」






 ルキアーノは先程のジャバの叫びとその後に聞こえた複数の雄叫びに事態が自分達にとって最悪なものだと気付く。

 自分の考え通りなら恐らく今の声はジャバウォック。

 それが本当なら別動隊は確実に全滅だ。

 しかも目の前にはバハムートが操る人形と五魔とおぼしき3人の“女”。

 ルキアーノは何とか残る思考を総動員する。

「っ! 退け~!! 今すぐ撤退だ!!」

 ルキアーノは部下にそう叫ぶ。

 ルキアーノ自身実力はあるが武闘派でない。

 あくまで彼は商人だ。

 利益がなくデメリットが多いこの状況で、これ以上無理をし強行策に出る等愚策以外のなにものでもない。

 とにかく今撤退を。

 そう思い先程入ってきた入り口から逃げ出そうとする。

「引き際はわかってるみてぇだが、むだだぜ?」

 リナが不敵に笑うと、入り口から誰かが吹き飛ばされる。

 それは外に見張りとして残したルキアーノの部下の一人だった。

「てめえらが拐い屋か? 会いたかったぜ」

 ラグザは静かに、だがその怒りを隠そうとせず現れた。

 その後ろからエミリアも続いた。

「もう逃げ道は全て塞いだ。 抵抗は無駄だと思うけど?」

 エミリアに告げられ、ルキアーノは青ざめる。

 退路が塞がれ、取引を持ち掛けようにもあの鬼人(オーガ)の様子では取引に応じる筈がない。

 最早八方塞がりの状況で、ルキアーノが出した結論は・・・・。

「怯むな! 鬼人(オーガ)を除けば女四人だ! 強行突破だ!」

 まだ五魔の事に気付いていない部下達をけしかけ、自分だけ逃げること。

 仲間意識などないルキアーノは自分の助かる事を最優先した。

 ルキアーノに促され部下達は一気に襲いかかる。

「逃がすかよ! おらぁ!!」

 ラグザは愛刀の大刀を振るい部下達を斬り裂いていく。

 エミリアもそれに続き、腰の剣を抜き部下達に振るう。

「また女扱いされてるぞノエル」

「もう慣れました」

「まあ、可愛いってことでいいじゃない」

 ベッドに入る為鎧を脱いでいたせいかまた女と勘違いされた事にため息を吐くノエルも、リナとレオナと共に部下達を軽く倒していく。

 その騒ぎの隙に、ルキアーノは自身の気配を断ちその場から離脱しようとする。

「どこに行く気?」

 そんなルキアーノの前に、エミリアが立ちふさがる。

「部下を見捨てていくなんて、仮にも組織のトップとして恥ずかしくないの?」

「そこをどけこのアマが~!!」

 冷めた瞳で見下すエミリアに、ルキアーノは隠し持っていたナイフを出し斬りかかる。

 だがそのナイフがエミリアに届くことはなかった。

 ナイフを握っていた右腕は宙を舞い、ルキアーノの足元にボトリと落ちた。

「へ・・・・っ!? ぎゃあああああ!?」

 自身の状態に気付いたルキアーノは斬られた箇所を抑えながらその場に倒れ悶絶する。

「安心しなさい。 まだあなたには聞くことがあるから、大人しくしていれば命は取ら・・・・」

「舐めるな! このくそが~!!」

 ルキアーノは起死回生を狙い、靴に仕込んだ刃を出しエミリアに蹴りを放つ。

 対処に遅れたエミリアにその刃が迫ろうとした。

 瞬間、ノエルが二人の間に割って入り

、ルキアーノの蹴りあげた足を掴んだ。

「!?」

「させません!」

 ノエルはルキアーノの顔面に拳を叩き込んだ。

「ぷぺぁ!?」

 ルキアーノは潰れた蛙の様な声を出し、意識を失った。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ。 助かったわ。 ありがとう」

 少し戸惑いながら答えるエミリアに対し、部下を全て倒したリナ達が近寄る。

「やれやれ、手応えのねぇ連中だな」

「そいつが親玉か?」

 殺気を剥き出しにルキアーノを睨むラグザをリナが制する。

「こいつには拐われた連中の事を聞かなきゃならねぇ。 今は堪えろ」

「・・・ああ、わかってる」

「それより、早く手当てした方がいいんじゃない? このままだとこの男、本当に死ぬわよ?」

「だな。 ノエル、イトスの奴連れてこい」

「わかりました」

「俺も行こう。 ここにいると本当にそいつ殺しそうだしな」

「あたしも行くわ。 ジャバ達が気になるしね」

 ノエルとラグザとレオナが出ていくと、リナはふぅと息を吐く。

「しかし斬り落とすとは容赦ねぇな」

「この手の人間を見るとどうもね。 でも少しやり過ぎたわ。 ごめんなさい」

「別に構わねぇよ。 似たような事は散々してっからな」

 リナはそう言うと重力を巧みに操り、ルキアーノの出血を止めた。

「だけどよ、お前さっきの一撃、本当は避けれたんじゃねぇか?」

「普段ならね。 でもあの時は単純に私が油断しただけよ」

「そうか。 俺はてっきりノエルを試したのかと思ってたよ」

 リナの指摘に、エミリアは無言を貫いた。

「まあいい。 お前がどんな思惑か知らねぇし興味もねぇけど、ノエルにいらねぇことはすんなよ」

「よく覚えておくわ」

 二人は話を切り上げると残りの部下達を拘束した。


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