会議
ジャバの天然により、結局エミリアにもノエル達の正体を話した。
意外だったのは、最初こそ驚いていたがそれほど動揺もなかったことだ。
「魔帝の息子が五魔集めしてるって噂は傭兵仲間の間でそこそこ話題になってたから。 でも信じてる人は殆どいなかったけどね」
ノエルは理由を聞き納得しながら、エルモンドの予想通り自分達の事が広まり始めている事を改めて実感した。
「ふひひ、まあとりあえずエミリア君も此方の正体の事は気にしてないみたいだし、そろそろ対策を話し合おうか」
エルモンドに促され、キサラが代表して現状を話始め、マグノラがそれを補足するために魔術で映像を写し出す。
話されたのは今までの被害の状況と現村の防衛状況、戦力などだ。
特に目を引くのはこの村の戦力。
戦闘種族である鬼人は勿論、レオノア率いる多種多様な獣人の戦士団、巨体を活かしたタフさとパワーを誇るジャックのトロール軍団、マグノラのドルイドの魔術師達にエルフの弓術隊と遠中近全てに対応できる面々だ。
しかもそれがドワーフ達特製の装備を装備している。
単純な戦力なら下手な軍隊よりよっぽど強力だ。
しかもこの森はドリアードの特性を十分に活かせる植物が豊富だ。
ハッキリ言ってまともに聖五騎士団でも最高幹部直属部隊でもない限りここは落とせないだろう。
そして逆に言えば、ここで100名を越える人数を誘拐した相手は少なくとも聖五騎士団並の実力、もしくは組織力を持っていると言っても過言ではないということだ。
しかも外との連絡が取れないよう常に包囲網を張っているという。
そこでノエルに疑問が浮かぶ。
「でもそれならなんで僕達は村に入れたんでしょう?」
「多分問題にならないと思ったんだろうね。 この村で誘拐をするような連中だ。 ちょっと強そうな者が来ても対処できるという自信があるんだろう。 後は、下手に亜人以外に手を出すと外に漏れる可能性があるからね、村に閉じ込めとこうってことだろう」
「で、さっき犯人がわかったとかどうとか言ってたけどよ、それはどうなん」
リナの質問に、エルモンドは人の悪い笑みを浮かべる。
「まあ慌てない慌てない。 所でキサラ君。 ここに来ていた商人達はどこにいるんだい?」
「今は宿屋で保護をしています。 万一彼らに危害が及べば、私達亜人の信用が無くなります」
「じゃあその中から、ソビアから来た者と会わせておくれ」
「わかりました」
キサラはすぐに部下に指示を出す。
程無くして商人達はやって来た。
村のトップが集まっている状況に呼び出され、商人達は戸惑いを隠せなかった。
そこへエルモンドが商人の前に1歩歩み出る。
「さてさて、では始めようか。 ああ、そんなに緊張しないで。 別に取って喰う訳じゃないから、リラックスリラックス」
エルモンドは穏やかな笑みを浮かべるが、正体不明の男に急に落ち着けと言われても商人達に無意味だった。
「実は君達に1つ報告があってね。 ボルゴー君が失脚したんだよ」
その言葉に、商人達はざわつきだす。
ボルゴーはソビアの経済面の要だ。
商人達がざわつくのは無理はない。
「それは本当なのか!?」
「ボルゴー殿が失脚等、何かの間違えでは!?」
「まあまあ落ち着いて。 失脚の理由だけど、囚人の私的利用と異母薬物による洗脳、危険生物の所持。 そして、奴隷の売買だよ」
「なんだと!?」
「奴隷!? ボルゴー殿がそんなことを!?」
「信じられん! 一体なんの目的で!?」
動揺する商人達を、エルモンドは観察した。
そして人の悪い笑みを浮かべる。
「君は知っていたみたいだね、ボルゴー君の悪事を」
そう言われた商人は驚きながら、肝は座っているらしく落ち着いてその言葉に対応する。
「何を言うか。 私は確かにボルゴー殿と私的な取引もしているが、それはここにいる全員に言えることで、私も彼ら同様にボルゴー殿がそんな事をしていたなどと・・・・」
「君の動揺の仕方、他の人と明らかに違ったんだよ。 驚きはあった。 だけどその驚きの種類が違う」
「なんだと?」
「他の人はボルゴー君の失脚と悪事両方驚いていた。 けど君だけボルゴー君の失脚には驚いていたけど、悪事に関しては違った。 特に奴隷売買という言葉を聞いてから、まるでイタズラがバレるのを恐れる子供の様だった」
「い、言いがかりだ! そんなことどうしてわかる!?」
「汗のかき方、体の動きの変化、視線、他にも色々あるけど、さっき僕に見せた落ち着いた対応こそ何よりの証拠だよ。 こんないつ自分に危害が及ぶかも分からない状況に閉じ込められて、そんな中自分が疑われたんだ。 どんな商人でももっと動揺する。 では何故君が落ち着けたか? それは君が既にボルゴー君の悪事を知っていて、それに自分が関わっていることを隠す為に思考を切り替えたからだよ」
「そ、そんなものなんの証拠にもならない! 何か物的証拠があるのか!?」
疑われた商人は言葉とは裏腹に脂汗をかいている。
「ボルゴー君の事の証拠は残念ながらない。 けど、今回の村の騒動に関わっている証拠は、恐らく君が持っているんじゃないかな?」
その言葉に、場にいた全員の空気が変わった。
エルモンドは更に続けた。
「現在奴隷が禁止されているアルビアで奴隷を手に入れるのは不可能だ。 なのにボルゴー君は相当数の奴隷を手に入れていた。 何故か? それは君を仲介にしてある者達と取引をしていたからだよ。 恐らくボルゴー君は亜人の奴隷を向こうに提供する見返りに金銭と人間の奴隷を手に入れていたんだろう。 今回の村の騒動も、ボルゴー君の指示で君が手引きしたんじゃないかな?」
その言葉に、ラグザが立ち上がり商人のむなぐらを
「てめぇか!? てめぇがサクヤを拐いやがったのか!?」
「ひ、ひぃぃ!!」
激昂するラグザに商人は恐怖し、先程の落ち着きは消え失せた。
そんなラグザをジャックが引き剥がす。
「おちつけラグザ!」
「離せ! こいつが! こいつのせいでサクヤが!?」
「静まれ。 想いは皆同じだ。 だが今はしなければならないことがあるだろう」
レオノアはラグザを諭すように落ち着かせると、商人に近付き鼻を動かす。
「直接探した方が早いよ。 恐らく匂いや魔法避けの仕掛けはしてあるだろうからね」
「そういうことなら、俺の出番だな」
エルモンドの言葉に従いドルジオスは商人の体を探す。
「ん? こいつは・・・・」
ドルジオスは何かに気付き商人の靴を取り上げる。
そして少し観察すると、踵部分に手をかけると蓋のように開いた。
「よしよし。 随分手の込んだ隠し場所だなおい」
青ざめる商人を他所にドルジオスは靴に隠してあったメダルを取り出す。
「こいつは紀章か? 随分凝った造りだ・・・・ん!?」
ドルジオスはその紋章を見て目を見開く。
「この紋章は・・・・まさか・・・・」
「ふひひ、やっぱり予想通り、あそこがバックに付いてたか」
驚愕するドルジオスと予想通りという表情のエルモンドに、ノエルは身を乗り出す。
「一体その紀章は? 誰がこの村で誘拐を?」
「ああ、ある意味僕達五魔と深い因縁があるところだね」
「俺達と? どういうこった?」
「この紀章、大樹の元で多くの異形の者を従えている王の紋章。 間違いない。 これは西の大国、人間至上国家セレノアのものだよ」
国の名前に、リナ達五魔は勿論、その場にいた殆どの者の空気が変わった。
内通をしていた商人以外の商人達ですら「セレノアだと!?」「馬鹿な! それは本当なのか!?」と動揺を隠せない。
「あの、セレノアとはどういう国なんですか?」
唯一状況がわからないノエルに答えたのはイトスだった。
現在この大陸にはアルビアを含め大小幾つもの国があるが、その中で巨大な力を持つ国が東西南北に1つずつある。
南の城塞国家ラバトゥ、北の氷の都ルシス、東の集合国家ヤオヨロズ、そして西の人間至上主義国家セレノアだ。
この国の大きな特徴として上げられるのはただ一つ、亜人の奴隷制度だ。
建国から亜人を奴隷、果ては家畜として使い、労働、軍事等様々な面でその能力を活用し発展してきた。
その思想はもはや宗教と言ってもいいほど徹底されており、亜人と恋仲になれば人間ですら重罪とみなされ、よくて奴隷、悪くて極刑に処せられる。
だが、そんな国にある転機が訪れた。
魔帝ノルウェの逆襲だ。
当時アルビアに進行していたセレノアは、魔帝による国土奪還戦の標的になった。
五魔やラズゴート等の主力が猛威を震い、停戦条約を結ぶまでセレノアは多大な被害を受けた。
だがセレノアにとって最も痛い被害は戦争による痛手ではなかった。
その時魔帝は亜人に対する考えの変革の為に動いていた。
当然、セレノアにいた奴隷達も魔帝は救おうとした。
結果軍や国からアルビアへと亡命する奴隷が大量に出た。
更にルシスやヤオヨロズ等亜人に対して寛容だった他国も魔帝のこの考えには賛同した。
結果現在、各国で亜人の扱いや奴隷制度というもの事態が大きく見直され始め、セレノアは奴隷を多く失ったばかりでなく新たな奴隷を入手しづらくなったのだ。
主要な労働力である亜人奴隷が減り、まだ大国としての力を保持してはいるもののその力は大きく削がれたのだ。
「つまりこれは、セレノアが国の労働力を確保するために仕組んだことだと?」
「そういうことになるね。 セレノアが裏にいるなら、この村で誘拐をするだけの手練れがいてもおかしくはないからね」
エルモンドの補足にノエルは事の大きさを理解した。
かつてアルビアと戦った大国がバックに付いているなら、これは国家レベルの問題だ。
下手をすればまた戦争になりかねない。
「どうするのですか? あの国が意図を引いているとなると、私達は・・・・」
「取り返しに行くに決まってんだろ! 仲間が拐われてんだぞ!!」
「しかし下手をすれば戦争になりかねない!」
「だがこのまま連中を見捨てるわけにはいかねぇだろ!」
各亜人の長達が紛糾する中、エルモンドはノエルを見た。
「どうするノエル君? 君はこの問題をどう対処する?」
ノエルはエルモンドに試されていると感じた。
これからノエルが王を名乗るならば、この手の問題に直面することは多々あるだろう。
ならそれをどう対処するか、それによってノエルの王としての資質や方針が試される。
無論彼らはまだノエルの民ではないから、本来ならそこまでする必要ない。
だがエルモンドはノエルの性格を知っている。
だからノエルがどう答えるか、既に予測は付いている様だった。
「助けましょう。 拐われた人達を」
ノエルの言葉に、会場にいた全員の視線が注がれる。
「しかしノエル様。 いったいどうやって・・・・」
「まだ具体的な事は考えていません。 しかし、このまま何もしないわけにはいきません。 それに父が必死に守ったものを壊されるのを、許すわけにはいきません」
魔帝ノルウェが守ったもの、その言葉に長達は何かを想い静まる。
「だからまず、この村を襲う者達を捕らえましょう。 そして拐われた人達を救う為の手段を探りましょう」
ノエルの話に、長達は互いを見合い、代表しキサラが立ち上がる。
「感謝します。 私達も同胞が拐われたまま放っておけません。 我等も共に貴方に賭けましょう、ノエル様」
キサラが頭を下げると、長達も続いて頭を下げる。
「っし! 久し振りに暴れるか!」
「まあ、ノエル様が決めたのなら、私達も付いていきますよ」
「あの国はあたしもあまり好きじゃないしね」
「おれ! 皆のためがんばる!」
リナ達もやる気を見せる中、エルモンドは嬉しそうに笑う。
「ふひひ、なら僕の出番だね。 とその前に、大事になりそうだけど君は構わないかいエミリア君?」
エルモンドは先程から事態を静観していたエミリアに問いかける。
「まあ厄介事はあまり好きじゃないけど、政治やらなんかは私には関係ないしね。 雇い主の意向に従うわ」
「了解。 それじゃ君も入れて作戦を伝えようか」
 




