ガルジの新たな道
「ガルジ!」
倒れるガルジにコルトバが駆け寄ると、クロードはリナ達の元へと戻る。
「クロードさん!」
「クロード殿、ご無事ですか!?」
「まあ、なんとかね」
心配するノエルとゴブラドに、クロードはニッコリ笑みを浮かべる。
「病み上がりにしちゃ楽勝だったじゃねぇか」
「そうでもないよ。 彼を怒らせたから上手く誘導できたけど、もし挑発に乗らなかったらもっと苦戦してただろうね」
リナの言葉にクロードはそう答えた。
事実ガルジの鱗にはクロードの攻撃は何一つ通用しない。
その上身体能力も凄まじいガルジの体に細かい仕掛けを施すのは本来かなり厳しい。
その証拠がガルジが最後に放った一撃だ。
クロードはガルジが落下に堪え攻撃してくるだろうと予測していたにも、その一撃を胸に受けた。
これは単純な身体能力はガルジの方が上だということ。
だからクロードはわざとガルジから言葉を引き出し、それを否定することで挑発した。
そうすることでガルジの攻撃ルートを絞り、仕掛けを付けやすくしたのだ。
もしガルジが挑発に乗らず冷静なままだったら、クロードはかなり厳しい戦いを強いられていただろう。
「まあ、二人がいるから最悪退いてもよかったけど、そうしたらまた私の出番が減りそうだしね」
「お前ほんっと根に持つな」
クロードの皮肉に苦笑するリナだったが、すぐその表情を引き締めた。
クロードもリナ同様背後の気配に気付き警戒しながら振り向くと、ガルジはチを流しながら立っていた。
「驚いたね。 まさかその体で立ち上がるとは」
殺さないまでも確実に動けないレベルのダメージは与えたと思っていたクロードは、ガルジのタフさと衰えない闘争本能に驚嘆する。
ガルジは肩で息をしながらも、爪を構えクロードに向かおうとする。
「駄目だよガルジ! このままじゃ死んじゃうよ!」
「うるせぇ! 俺は負けねぇ! 負けられねぇんだ!」
コルトバの静止も聞かず、ガルジはクロードに闘志を剥き出しにし対峙する。
「1つ聞こう。 何故君はそこまで自分が強い事を証明しようとする?」
「んなもん決まってらぁ! 強くねえ俺なんかに意味はねぇんだよ!」
アーサーに負け、カイザルに負け、その上クロードにまで負けたとなれば、ガルジは自身の存在意義を失う。
少なくともガルジはそう感じていた。
だから負けられない。
クロードに勝ち、再び強い自分を、その想いがガルジを突き動かす。
噛み付くように答えるガルジに、クロードはふぅと息を吐く、
「君、昔の誰かさんによく似てるね」
「誰の事言ってんだこら?」
リナの睨みを受け流しながら、クロードは続けた。
「まあ君の気持ちはわかるよ。 でも、そう思っている内は勝てないよ」
「んだと!?」
「だって君の強さを一番信じてないの、君自身じゃないか」
クロードの言葉にガルジは動きを止める。
「少なくとも私は君を弱いとも思わない。 恐らくここで君の戦いを見た者も同じだろう。 君は強い。 ただそれを自分で信じられないだけだ」
「な、なに言って、俺がそんな・・・」
クロードの言葉にガルジは動揺を見せる。
恐らく自身でも気付いていなかったのだろう。
それをクロードに言い当てられ自覚し、混乱している。
「昔似たように自分の力を信じられない子がいてね。 その子も自分の力を誇示する様によく人に噛み付いてたよ。 まとめ役だった私も苦労させられたよ」
「だから誰の事言ってんだよ!?」
遠回しに過去の自分を暴露と当時の愚痴を言われ怒るリナを、ノエルとゴブラドが宥める。
「でもその子も変わった。 強さの意味を知って、自分の力を信じるようになったんだ」
「強さの意味だと?」
ガルジの問いに、クロードは静かに続ける。
「強さとは、その者の心次第。 どんなに屈強な者でも、最終的に心が折れれば敗北する。 今の君みたいにね。 逆に心が強ければ、最後まで立ち上がる力を得られる。 彼みたいにね」
クロードはチラッとノエルに視線を向けた。
「心だと!? じゃあどうすりゃいい!? どうすりゃその心ってのが強くなる!?」
普段なら確実に反発するのだが、今のガルジは素直にクロードに答えを求めた。
それだけ今のガルジは精神的に追い詰められていた。
強者のプライドは度重なる敗北で崩れ、更に自分でも気づかない本心まで見透かされた。
まるで土台がボロボロになった橋の様に、ガルジの精神は不安定だった。
それでも答えを求めたのは、ガルジの強さへの執着が本物だったからである。
「それは人にも寄るだろうけど、私達にとっては仲間だよ」
「仲間?」
「ああ。 少なくとも私は仲間を信頼している。 仲間を信じる事で、私は強くなる」
「ざけんな! 他人に頼るなんて雑魚のすることだろうが!?」
「逆だよ。 所詮一人の力なんてたかが知れてる。 それこそ、さっき言った張り子の虎と似たような者さ。 でも仲間を信じ、頼る事が出来れば、その想いが支えになる。 崩れそうなギリギリの状態でも、その仲間を想う事で乗り越えられる。 私は五魔時代、何度かそういう感覚を味わっているよ。 君にもいるんじゃないかな? 本当に信じられる仲間が?」
ガルジはハッとし、コルトバとゲレダを見た。
自分が抜けた後の盗賊団を仕切り、何かと世話を焼いてくれるゲレダ。
最初は貴族のボンボンと甘く見ていたが、自分を殴る気概を見せ、ここまで着いてきたコルトバ。
その二人を見て、ガルジは笑い始める。
「く、くくく、ははは、ヒャ~ッハハハ~!!」
「が、ガルジ?」
突然笑いだしたガルジにコルトバは動揺する。
「くっだらねぇ! 本当くっだらねぇなおい!」
言葉とは裏腹に、ガルジの顔はどこか吹っ切れた様だった。
「おいゲレダ! てめえに預けてたもん、返してもらうぞ!」
ゲレダは待ってましたとニヤリと笑った。
「その言葉待ってたよ。 やっぱり親分はあんたじゃないとね」
「え? どういうことガルジ?」
「俺は聖五騎士団を抜ける!」
突然のガルジの宣言に、コルトバは驚き慌て出す。
「ちょっ!? 本気なのガルジ!?」
「おお! 考えてみりゃあんなとこに拘ってたのが間違いだったんだ! あんなとこにいなくても、アーサーだろうがなんだろうがぶちのめしてやらぁ!」
コルトバが頭を抱える中、クロードはクスリと笑う。
「それが君の答えか」
「おっと! 勘違いすんなよバハムート! 俺はてめぇらを狙うのを止めた訳じゃねぇ。 特にてめぇは確実にぶちのめす! それだけは決定事項だ!」
改めて宣戦布告するガルジに、クロードは不敵に笑む。
「構わないよ。 私自身、今回の勝ちには満足してないんでね」
「ヒャ~ッハハ~! 上等だ! 必ずまた来るからな! 首洗って待ってろよ! おら行くぞコルトバ!」
「え!? 僕も!?」
「たりめぇだろうが! ここまで来たんだ! 最後まで付き合ってもらうぜ!」
コルトバは困惑する。
ガルジのしていることは完全な離反行為だ。
今ガルジに着いていけば自分も当然共犯者として手配される。
当然実家にも迷惑がかかる。
第一貴族生活の長かったコルトバに盗賊生活が勤まるわけない。
そんな考えを巡らせたが、やがてコルトバは諦めた様に溜め息を吐いた。
「わかったよ。 どうせやだって言っても無駄でしょ? なら最後まで見届けさせてもらうよ」
「よ~し! そうこなくちゃな!」
重傷とは思えない力で背中を叩かれ痛がるコルトバだったが、どこか嬉しそうだった。
コルトバに肩を貸されそのまま去ろうとするガルジは、あることを思い出しクロードに顔を向ける。
「ああ、そうだ。 1ついいこと教えてやる」
「なんだい?」
「今の聖竜は俺じゃねぇ」
ガルジの告白にノエル達の表情は一変する。
「え? だってさっき竜って」
「その方がてめぇらがやる気になると思ったんだよ。 俺はそいつに負けて聖竜から外された」
ガルジの実力を見たノエル達にとって、それは衝撃的な事だった。
そんな中クロードは冷静に問う。
「それは、一体誰だい?」
「カイザルって小僧だ。 てめぇに随分ご執心だったみてぇだぜ、バハムート」
その名に、クロードはノエルと出会った時に戦った男が脳裏に過る。
「そうか。 彼は君を倒すほどに強くなったか」
「ああ。 しかも、少なくとも攻撃の威力だけなら、てめぇより上だ」
「なんだと!?」
驚くリナの他所に、クロードはその言葉の意味を分析する。
自分より威力が上、つまりカイザルはガルジの鱗を傷付けた、もしくは破壊したということ。
それは自分の熱線を明らかに越える力だった。
「あの小僧もいずれ俺がぶちのめす。 が、それまでにてめぇが小僧にやられんのも気に食わねぇ。 せいぜいやられねぇようししとけよ」
「忠告、感謝するよガルジ君」
ガルジは「ケッ」と言うとそのままコルトバ、ゲレダと共にその場から去っていった。
「あいつが出てくるとはな。 勝てんのか、クロード?」
リナの問いに、クロードは静かに笑い、リーティアの鎧を解いた。
「勝つさ。 私自身、負けるわけにはいかないからね。 ねぇリーティア」
「ええ。 相手が強くなったなら、私達も強くなります。 仲間と一緒にね」
そう言って、リーティアはノエル達に優しく微笑んだ。




