魔竜対暴竜
「ヒャ~ッハハ~!!」
ガルジは両手に赤い鱗と爪を展開するとクロードに向けて降り下ろす。
(速いな)
クロードはリーティアを操作し上空へとかわす。
「フレアランス」
クロードはリーティアの前に火球を出現させると、得意の熱線をガルジにむけて放った。
しかしガルジはそれを避けず、正面から受け止めた。
熱線はガルジの鱗に当たると弾け跳び霧散した。
「なに!?」
今まであらゆる物を貫いてきたフレアランスを正面から止められ、クロードの顔に驚きの色が見える。
「その程度かよ!? うらぁ!!」
ガルジは爪を長く伸ばしクロード目掛け大きく振るった。
クロードとリーティアはそれを避けるが、後ろにあった建物が爪になぎ倒されていく。
「これは凄まじいね」
クロードはこの時漸くガルジがラズゴートやギゼルと同格だということを理解する。
「ああ! あれじゃ人が!!」
「その心配はないみたいだよ。 ほら」
「え?」
ガルジの暴れぶりに慌てるコルトバにゲレダはノエル達の方を指差した。
するとリナの引力に引っ張られ助け出された人達を、ノエルが黒い色の結界を出現させ護っている。
「た、助けたっていうの? あの瞬間に?」
「流石五魔と魔帝の子ってとこだね~。 で、あんたこれ弁償できんの?」
「さ、流石に無理ですよ~!!」
コルトバが頭を抱える中、クロードとガルジの戦闘は続いている。
クロードは遠距離では拉致が開かないと接近し、リーティアの拳をガルジに叩き込む。
数発浴びせるとクロードは異変に気付きすぐリーティアを下げる。
するとリーティアの拳部分の魔鋼製の鎧が砕け、リーティアの手が露出していた。
「ヒャ~ッハハ!! 効かねぇな~!!」
余裕のガルジに、クロードはリーティアを一旦後ろに下げる。
「なるほど、これが蜥蜴人の鱗の固さか」
「はっ! そこに気付くたぁ大したもんだが、他の雑魚と一緒にすんじゃねえ! 俺は蜥蜴人の中で、最も竜の血を色濃く体現したただヒトリノ男! そんじょそこら奴とは硬度も力も違うんだよ!」
「そうか。 ついでにもう1ついいかな?」
「なんだ? 命乞いでもするか?」
「君はどうも正規の任務で来た訳じゃないみたいだけど、目的はなんだい?」
クロードにはそこが見えなかった。
今までの最高幹部達は、共通の目的の元自分達も相対してきた。
一見一番惚けたようなクリスですらそこは変わらず、その為に行動していた。
だがこのガルジは違う。
聖帝の命を受け、ノエルを止めるために来たのではない。
まるでそんなもの眼中になく、ただ自分達と闘いたいだけ。
クロードにはガルジがその様に見え、今までの幹部達と比べると異質だった。
「んなこた決まってんじゃねぇか。 てめぇをぶちのめしに来たんだよ」
「聖帝の命ではないんだね?」
「あんなおっさんどうでもいい! 俺は俺が最強だってことを周りに知らしめてやるんだよ」
そう言いながら、ガルジは昔を思い出す。
それはガルジが盗賊として名を馳せていた時の事、大きくなり過ぎたガルジの勢力をアーサーが危険視したのが始まりだった。
アーサーはガルジを討伐する為に自ら出向いた。
今まで1度も負けたことのなかったガルジはそれを真っ向から受けた。
それはどんな強敵も力でねじ伏せてきた自信の現れでもあった。
ガルジの思惑通り最初は優勢だった。
ガルジの怒濤の攻めがアーサーを圧倒していた。
少なくともガルジはそう思っていた。
だが次の瞬間、ガルジは全身から血を吹き出し地面に倒れた。
何が起こったかさえわからず、ガルジは敗北した。
敗北を知らずに生きてきた男の初めての敗北、それはガルジのプライドを大きく傷付けた。
故にガルジはアーサーの誘いを受けた。
それはガルジにとって、自身が強者であることを取り戻す為の決意だった。
それから力をつけ、実力のみで聖五騎士団の最高幹部にまでのしあがった。
だがそれでもアーサーには勝てない。
それどころか、カイザルに負け聖竜の名を取られるという二度目の屈辱を味わった。
それはガルジにとって許されない敗北だった。
怒りのまま暴れても決して消えることない屈辱。
どうすればいい?
答えは簡単だった。
ゲレダが告げた五魔の来訪。
カイザルは五魔に負けて強くなった。
ならこの五魔に勝てば、自分は強くなる。
カイザルを負かし、アーサーを悩ませる五魔を倒せば、自分は再び二人に挑む自信を手に入れられる。
ガルジにとって、これは誇りを取り戻す戦いでもあった。
「最強か。 それが君の求めるものか」
ガルジの答えを聞き、そうクロードは返した。
「おおよ! 世の中結局強ぇ奴が正しいんだよ! だから俺は強くなる! アーサーだろうがディアブロだろうが、バハムートだろうがぶちのめして、俺が最強になってやる! それが今の俺の目的だ!」
「下らない」
「!?んだと!?」
ガルジの答えをクロードは冷たく切り捨てる。
「強さだけの最強なんて、所詮張り子の虎と同じさ。 簡単に覆される。 特に君みたいな理由のない強さをはね」
「ふっざけんじゃねえぞこら!!?」
ガルジは怒りのままクロードに突進する。
クロードはそれに対応するべく上空に火球を複数作り出す。
「フレアダンス」
火球から放たれる数多の熱線がガルジに一斉に降り注ぐ。
しかしガルジはそれをものともせず、全身に鱗を展開させた。
「効かねぇ! 効かねぇ効かねぇ効かねぇ! そんなもんで、俺を止められると思ってんのか!?」
ガルジはそのままクロードを切り裂こうと飛びかかる。
「ああ、だから仕込ませてもらった」
瞬間、ガルジの真下から幾つもの熱線が放たれる。
ガルジは訳がわからず、熱線の勢いで上空へと舞い上がる。
「馬鹿が! こんなもんで俺が殺れると・・・」
「思っていない。 でも、ここから下に叩きつければどうかな?」
いつの間にかガルジの上空に飛んだクロードはリーティアに脚を大きく上げさせる。
「いくら頑丈でも、落下の衝撃自体は防ぎきれないだろう」
リーティアは自分の方に向かってくるガルジの背中に踵落としを食らわせる。
リーティアの脚の鎧が砕けると同時に、ガルジは猛スピードで地面に叩きつけられた。
クロードはリーティアとともに地面に降りると、ガルジが落ちた場所から土煙が上がっている。
だがその時、ガルジは土煙を吹き飛ばしクロードに突進する。
「舐めんじゃねぇぞ!? あの程度でやられるかよ!!」
ガルジの爪がクロードの胸を掠め、鮮血が飛び散る。
「まだだ! 切り刻んで、次にディアブロを!」
「いや、もう終わった」
「あ? ッ!?」
ガルジが勢いのまま一気にクロードを切り刻もうとしたその時、ガルジの全身から鮮血が溢れる。
「んな!?」
「ミクロランス。 君の硬さは嫌というほど知ったからね。 なら鱗の隙間に細かい熱線の種を仕込ませてもらったよ」
クロードの言葉と同時に、ガルジは己の血溜まりに倒れた。




