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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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魔人のレッスン


 ライルと別れて数日、ノエル達はラクシャダでガマラヤに向かっていた。

 ライルが去ってからラクシャダの中は少し変わった。

 まずジャバが暫く元気がなかった。

 なんだかんだでジャバの面倒を見ていたライルはジャバに好かれ、いなくなり寂しさを感じていた。

 似たような形で一緒に買い物の荷物持ちをしたり何かと世話を焼いて話す機会の多かったゴブラドも、どことなくもの足りなさそうな様子だ。

 他のゴブリン達もライルに組手の相手や雑用の手伝いをしてもらっていたらしく、どこか寂しそうだ。

 改めて皆に本当に好かれていたんだなとノエルは感じた。

 思えば自分もライルの明るさや真っ直ぐな所に救われた。

 まさに自分にとって兄のような存在だった。

 勿論、変わったのはそれだけじゃない。

 ノエルの組手の相手をリナがするようになった。

 一番ライルと長くいたリナにとっても、ライルがいなくなった事は大きなことだ。

 恐らくこの場にいる誰よりもそれを感じている。

 でもリナはそんな素振りを見せず、積極的にノエルとの組手を申し出た。

 リナは「あいつがいなくなって皆辛気くせぇから相手してやる」と言っていたが、レオナ曰く「ただのやせ我慢よ」とのこと。

 リナはリナなりにライルの想いを受け止めて前に進もうとしているんだろう。

 そしてもう1つ、ノエルにとって大きな変化があった。






「そういうわけで、バルク帝国の国主であるバル・キルスタは経済危機を打破する為、当時最も黄金の産出国として有名だったカガを手中に治めようと戦争を仕掛けたというわけだよ」

 エルモンドは自身の作った装置で空中に地図を映し出し、その地図を指しながら話し、ノエルはエルモンドの弟子であるイトスと共にその話を聞いていた。

 ここは屋敷の一室を改造したエルモンドの教室。

 五魔全員がノエルになにかしら教えていると聞いたエルモンドは、それなら自分もと王になるために必要な知識を教え始めたのだ。

 現在ノエルとイトスは世界の歴史をエルモンドに教わっている。

「さて、ここで問題。 バルク帝国はカガを手中に治める事に成功したんだけど、思ったほどの成果は挙げられなかった。 何故だと思う?」

「無駄に金貨を発行してインフレを起こしたから?」

「ん~いい所に目をつけるけど違うんだよね。 ノエル君はどう思う?」

「恐らく、その場凌ぎですかね」

「というと?」

「いくら他所から金を集めて一時潤っても、元々の経済基盤が見直されずに放置しては長続きしません。 そこにさっきイトスの言ったインフレが起こり、より深刻な不況に陥ったんじゃないかと」

「ふひひ、正解。 付け加えるなら彼らは金を手にいれても、ただ金貨を発行して一時的に金持ちになる術しか知らなかった。 金自体を輸出する他国とのパイプもなければ、金細工を造る職人の育成もしない。 更に言えば、その潤っている間に元々の農業なり何なりを見直して、他国に輸出できる産業を作るべきだった。 言うなれば、ギャンブルで大穴を当てたけど次に繋げる投資ではなく、遊びに全て注ぎ込んで、気が付けば更に厳しい状況になってたってことだよ。 結果バルク帝国は弱り、ついには支配した筈のカガを始めとした国々に潰されてしまったというわけさ」

 そこまで話すと、エルモンドはニカッと笑みを作った。

「どうだい、僕の授業は?」

「ええ。 とても分かりやすいです」

「当たり前だろ。 師匠の授業なんだから」

「ふひひ、気に入ってもらえてよかったよ」

 ノエルの反応にエルモンドは嬉しそうに笑う。

「でも少し意外でした。 僕はてっきり帝王学とか経済を習うのかと思っていましたから」

「そうだね、確かに王となる者はその手の者は習わされるけど、僕に言わせればまずは歴史だよ」

 エルモンドはそう言うと地図を消した。

「極端な話、王はそんななんでもかんでも出来なくていいんだよ。 経済はお金儲け儲けの上手い商人に、法律も専門知識を持つ者に任せた方がいい。 生半可な知識で当たるよりも、より洗練された経験や知識を持つ者に委ねた方が効率的にも成果としても確実にいい」

「じゃあ、王は一体何をすればいいんですか?」

「間違えないこと」

「間違えない?」

「そう。 現在の大半の国家は最終的に王による判断で物事が決まる。 理由は様々だけど、それが最も早く手間がかからない。 でもその分、王の責任は重い。 王の判断1つでバルクの様に国が滅びてしまうんだからね」

「その為の歴史ですか?」

「その通り」

 エルモンドは装置を操作すると、空中に多くの王の名が映し出される。

「ごらん。 ここにはこれだけの王の名が刻まれている。 優秀な王もいれば愚王も当然いる。 成功した王も判断を誤った王も、まさに選り取りみどりだ。 そしてこれらの王の所業は、良くも悪くも君のお手本になる。 これはイトスにもしっかり聞いて欲しい事だから、ちゃんと聞いといてね」

「はい、師匠」

 イトスが真剣な表情になると、エルモンドは説明を続けた。

「いいかい? 歴史を学ぶ時一番重要なのは、起きた事よりもどうしてそうしたのか、何故それが起こったのかという真意を見ることだよ」

「真意?」

「そう。 何年に何が起きたなんて字面だけの意味がないものではない。 何故その時の王や権力者はその行動を取ったのか? 何故そうせざるおえなかったのか? さっきのバル・キルスタにしてもそうだ。 何故さっき僕が言った様な手段を使わず、他国を攻めるという手段を用いたのか? 何故せっかく手に入れた金を有効活用しなかったのか? それらを考えるだけで、君達に不足している経験を補う機転や発想力を産み出す元になるんだ」

「それが、歴史を学ぶ意味ですか?」

 ノエルの言葉にエルモンドは頷いた。

「いいかい? 知識というのは、己が理解して初めて知識と呼ぶんだ。 それを最も確実に出来るのは実際自分が行って経験することだ。 でも、全ての事象を経験することなんてとても出来ない。 僕ですら、まだまだ経験してないことはごまんとある。 特に人の感情というのは想像して推測することしか出来ない。 そっくりそのまま他者の感情を経験することなんか心が読めたとしても不可能だろう。 だから僕は人をよく怒らせてしまって・・・と、話が反れたね。 つまりだ、君達には歴史を学ぶ事で彼らの心理や真意を考え、理解して欲しい。 そうすることで彼らの正しい選択、間違った選択の意味を理解し、もし自分が同じ様な事態に陥った場合どうすればいいか、どうすれば間違えを起こさないか考えられる様になってもらいたい」

「凄く、難しいことですね」

「そう、難しいよ。 例えここに書いてある王達の心理を全て理解できたとしても、間違えを起こす可能性は十分にあるしね。 でも、それでもしなければならないんだ。 何故なら、王の間違えは国を、そして民を苦しめ、最悪大勢の命を奪う。 それを防ぐ為にも、王のみならず人の上に立つ者は正解を模索しなくてはならないんだ。 こうして学んだ知識を元にね」

 そこまで言うと、エルモンドはノエルとイトスの肩に手を置いた。

「いいかいノエル君、イトス。 人は常に経験して学んで生きていく。 僕もリナも皆そうだ。 そしてそれを活かす為に更に学び、経験を積み重ねていく。 歴史にはそうして歩んできた者達の経験が存分に詰まっている。 君達は彼らの経験をしっかり理解して、活かしていく。 それがこれからの世界を歩んでいく君達のすべきことだ」

「「はい!」」

 ノエルとイトスの返事に、エルモンドはニッコリ笑みを浮かべる。

「いい返事だ。 よし、ならこの後は二人でどうしてバル・キルスタが他の手段を使わなかったのか話し合ってごらん。 そうすることでより理解を深める事が出来るようになるよ」

「はい。 じゃあまず、当時のバル・キルスタの周りの状況を整理しようか」

「いや、それよりもバル・キルスタ個人の事を見た方がいいんじゃねぇか?」

 様々な意見を言い合うノエルとイトスを、エルモンドは面白そうに眺めていた。


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