最初の目標
今回ノエルの意外な特技が明らかになります(笑)
「な、なんだこりゃ・・・」
夕暮れ時、リナとライルが袋を1つ持って小屋に帰ると、1つの事件が起こった。
「あ、おかえりなさい。用事は済んだんですか?」
「あ、ああ・・・て、これ・・・どうしたんだ?」
リナとライルの視線の先には、直されたテーブルの上に夕食の準備がしてあった。
みずみずしいサラダにいい焼き加減の魚の炭火焼きがテーブルに並べられ、ノエルの持つ鍋からはクリームシチューのいい香りが漂う。
「いや、折角だから夕食の準備しとこうと思ってちょっと台所借りて作ったんです・・・マズかったですか?」
勝手な事をしたと思い申し訳なさそうにするノエルに二人は急いで首を振る。
「い、いや!そんなことねぇよ!」
「つかお前、このテーブルどうした!? 姉さんが叩き割ったはずだろ!?」
「ああ、そのままじゃ不便だと思って簡単にですが直しました。後でもう一度ちゃんと直しときますね」
なんの事はないように言うノエルに、リナは呆然とした。
「お前・・・何気に凄いな・・・」
「家ではよく家事や日曜大工程度の事は良くしてましたから」
意外なノエルの才能に驚きながら、二人はとりあえず袋を置くと席に付いた。
ノエルがシチューを皿に盛ると二人の前に差し出す。
「どうぞ。お口に合えばいいんですけど」
二人は勧められるがままシチューを一口飲んだ。
すると二人は目を輝かせた。
「「うめえええええ!!」」
よく炒めた玉ねぎの甘さ、ジャガイモとニンジンと鶏肉が柔らかく煮込まれ、噛む度に旨味が口に広がる。
二人は一心不乱にシチューを食べ始め、すぐに皿は空になってしまった。
「「お代わり!!」」
「は、はい!」
二人の食べっぷりに驚きながらも、ノエルは喜んで食べてくれる二人の姿が嬉しかった。
「うっめぇ!なんだよこれ! 旨すぎだろ!?」
「うぅ・・・こんな飯いつぶりだろ・・・」
リナはシチューと炭火焼きを口一杯に頬張り、ライルはあまりの嬉しさにうっすら涙を流している。
一体どんな食事を今までしてきたんだろう・・・と、ノエルは思わずにいられなかった。
「喜んで貰えてよかったです。 本当はパンも付けたかったんですが焼く時間が…」
「ああ!全然いいって! お前凄い特技だな! 目茶苦茶上手いぞこれ!」
「いや、普通の家庭料理レベルなんですけど・・・」
「充分上等だって! 姉さんなんか魚焼きゃ炭、パンは岩、シチューはうっすい水みてぇなパシャパシャなのでぐはわ!?」
ライルの失言にリナの拳骨が飛んだ。
「てめぇだって似たようなもんだろが! このアホライル! 罰としてこいつは俺が貰う!」
「ちょっ! すんません姉さん! あ!それ俺の魚!」
魚を巡りぎゃあぎゃあ騒ぐライルとリナに圧倒されながら、久し振りの賑やかな食卓にノエルは自然と温かい気持ちになった。
「ふはぁ~!食った食った~!」
「やっぱり飯はこうじゃなきゃな~」
食事が終わると、リナとライルは満足そうに腹を押さえ、ノエルはそんな二人に食後の紅茶を入れていた。
「気に入って貰えてよかったです。 もし言ってくれれば、今度何か好きな物作りましょうか?」
「マジか!? 俺は肉! ガッツリしたの食いたい!」
「わかりました。 じゃあ何か作りますね。 リナさんは何かありますか?」
「ん・・・俺は・・・」
何故か口ごもるリナに、ノエルは首を傾げた。
「け・・・ケーキ作れるか? イチゴ乗ったやつ・・・」
「ショートケーキですか? 大丈夫ですよ。 材料さえあれば出来ると思います」
「本当か!?」
出来ると聞いたリナは表情がパァッと明るくなる。
「姉さん性格に似合わず可愛いもんが好きなんすねぐひゃ!?」
「うっさい! 最近甘いもん食ってないから聞いただけだ!」
顔を赤らめたリナの拳がライルに炸裂した。
(ああ、だから照れてたのか・・・リナさんって意外と可愛い)
とノエルは一人心の中で納得しながら、あまりこの事に触れないようにしようと心に誓った。
「さてと、腹も一杯になったし、今後の事でも決めるか」
まだ少し顔が赤いリナは誤魔化す様に話を変えた。
「ノエル、お前は他の五魔がどこにあんのかは知ってんのか?」
「いえ・・・リナさんも含めて、五魔がどこにいるかは全然わかりませんでした。 この一年も、噂を頼りに探し回ってた情態で・・・」
「姉さんは何か知らないんすか?」
「正確な居場所は知らねぇ・・・が、心当りがある奴ならいる」
「!?本当ですか?」
リナは頷くと地図をテーブルに広げた。
「今俺らのいる所から南に進んだ町・・・歓楽街アラビカス。 そこにここんとこ評判の店があるんだが、俺の予想じゃ多分バハムートの奴がいるはずだ」
「魔竜・・・バハムート・・・」
魔竜バハムート、竜を型どったプラチナのフルアーマーに全身を包み、天空を自在に駆け、その槍はあらゆるものを貫くと言われた空の支配者だ。
そのバハムートの名に、ノエルは息を飲む。
「ああ。丁度いい。 かなり稼いでるみたいだし、軍資金も兼ねて奴を最初に引き入れる」
「・・・大丈夫でしょうか・・・」
「そこはお前次第だな。 でだ、お前をいくらかマシにするために考えたんたが・・・」
そう言ってリナは部屋の奥から何か大きなものを取り出した。
「暫くこいつを着て過ごしてもらう」
リナが被せてある布を取ると、漆黒の鎧が現れた。
「!これって・・・まさか・・・」
「ディアブロの鎧一式・・・だがこいつは俺が着てたやつの前に造られた試作品だ。 エルモンドがこの家の物置に大事にとっておいたみてぇでな。 ほら、結構違うだろ?」
確かにその鎧はかつてノエルが見たよりも全体的に小さく、スッキリとしたシンプルなデザインだった。
「本音言えばこっちの方がゴテゴテしてなくて好きなんだけどよ、エルモンドの奴が『威圧感を出すためにもう少し装飾をしないとね♪』ってあんなに肩尖られたりしてよ、邪魔でしょうがねぇ」
「あはは・・・それで、僕がこれを着るってどういう事ですか?」
「持ってみろ」
リナは右腕の部分を外すとノエルに渡した。
すると持った瞬間ノエルはあまりの重さで落としそうになる。
「どうだ?結構重いだろ?」
「結構ってレベルじゃない気が・・・するんですけど・・・」
ノエルは両手で持ちながらテーブルの上に鎧の右腕を置いた。
「まあ単純にこいつ着てれば全身の筋肉が鍛えられる。それだけじゃねぇ。 体のバランス、体幹、体の力の入れ方、更に兜を被れば視界が狭くなるから目以外の感覚も鍛えられるし、息苦しい中動くから肺活量、強いてはスタミナも付く。 てっとり早くお前の弱点を克服すんにはこいつを四六時中着てるのが一番だ」
「た、確かにそうですけど・・・」
「ついでに言えば、お前の手配書が出回ってたろ? 兜被って顔隠しちまえば外でも普通に出歩ける。 一石二鳥処か三鳥・・・いや、五鳥くらいになるな」
得意げに話すリナをよそに、ノエルはこの重い鎧を着なきゃならないのかと内心苦笑する。
だが実際リナの言うことは理に叶ってはいる。
第一今は早く強くならなければならない。
なら日常的に鍛えられる方がいいに決まっている。
「あの・・・それはどのくらい着ていればいいんですか?」
「そうだな・・・風呂と寝る時、後飯作る時は脱いでいい。 後は基本一日中着続けてもらう」
「一日中!?」
「当たり前だ。 飯の時も兜以外は着けてろ。 移動も組手も全部そいつ着たままだ」
「ちょっと待ってください! 移動とかはともかく、今でも負けてるのにこれ着て組手してたら勝てないじゃないですか!?」
「いいんだよ勝たなくて」
「・・・え?」
リナのあっけらかんとした物言いに、ノエルは思った以上に間の抜けた声で返事してしまった。
「当分お前にはライルに負け続けてもらう。 だからと言って負け前提じやねぇ。あくまで勝つ気でやれ」
「えと・・・言ってる意味が・・・」
「そいつを着たお前は枷が付いた状態だ。 木の上登るとか小細工も出来ねぇ。 つまり、不利な状況で正面からぶつかって勝つ術を身に付けなきゃならない。 だから常に勝つ方法を考えろ。 その重くて動きづらい体でどうねじ伏せるか? どうしたら相手を出し抜けるか?闘いながらその方法を体で覚えろ。 それが今お前の最優先ですることだ」
リナの性格上、勢いで決めた事だと思っていたノエルは、リナがしっかりと自分の今後を見据え、最適な手段を考えていてくれていた事に驚いた。
そして、リナの想いに感謝した。
父の事も多少あるだろうが、こうして真剣に自分に向き合ってくれる事が、一年間一人で旅をしてきたノエルにはありがたかった。
「・・・わかりました。 きっと強くなってみせます」
礼を言うノエルに、リナはニカッと笑みを浮かべる。
「よし。それじゃ早速着てみろ。 サイズは・・・まあ大丈夫だろう」
「はい」
そう言うとノエルはライルに手伝ってもらいながら何とか鎧を着始めた。
身に付ける度体にズッシリと来る重みに耐えながらなんとか着ていき、最後に兜を被った。
「お、なかなか様になってるじゃねぇか」
「そ・・・そうですか?」
黒い騎士の姿になったノエルから鎧独特のくぐもった声が聞こえる。
鎧の中は予想以上に視界が悪く、重さで動きが制限される。
しかも空気が少ない。
初めての鎧に戸惑うノエルに、リナはクスッと笑う。
「まあなんだ。 とりあえずその鎧に慣れろ。 そうすりゃ、脱いだ時違いがわかるし、上達しやすいからな」
「はい、頑張りま・・・あ!?」
ノエルは蹴躓き、思いきり前のめりに倒れてしまった。
「・・・起きれない・・・」
鎧の重さで立てないノエルに、リナとライルは苦笑した。