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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
67/360

終結


「ぬおおおおお!!」

 ゴブラドはガンマの腕を掴み、力を振り絞り後方へ投げ飛ばした。

 リナ達が戦っている中、ゴブラド達はアルファ達の足止めを突破する為奮戦していた。

 ゴブラドはガンマを、ジンガはベータを相手にし善戦していたが、アルファの矢の雨によりゴブリン部隊も負傷者が出ており、一進一退といった攻防を繰り広げている。

「たくよ~、ちっとは大人しくしろってのこの猫は!」

 ベータの槍とジンガの腕の刃がぶつかり火花が散る。

 ベータは素早く動き翻弄してくるジンガに苛立ち舌打ちする。

「たかがゴブリンと魔獣一匹と侮ったが、意外としぶとい」

「我らもノエル様達に従う者! 甘く見てもらっては・・・!?」

 アルファとゴブラドは睨み合う中、森の奥で火柱が上がったのに気付きそちらに意識を移した。

「な、なんだあの炎は!?」

「ギゼル様の炎ではない・・・まさか!?」

 アルファは事態を察しベータとガンマに視線を向ける。

「ベータ、ガンマ! 本隊が危ない! 今すぐここを放棄し本隊と合流する!」

「あいよ隊長! ガンマ!」

 ベータの指示を受けたガンマは、右手のドリルを地面に激突させ周囲に土煙を撒き起こす。

「ぐ!? 待て!」

 ゴブラドは止めようとしたが、土煙が晴れると既にアルファ達の姿はなかった。

「く、このままではまずい! 動ける者は負傷者の回収と手当てを急げ! 私とジンガはノエル様達に合流する! 行くぞジンガ!」

 ゴブラドは指示を終えると、雄叫びを上げるジンガと共にノエル達の元へ駆けていった。






 ギゼルを下し精霊を宝玉に戻すと、エルモンドは背後からの気配に気付き振り向いた。

「ふひひ、初めましてだねノエル君。 会えて光栄だよ」

「初めまして、エルモンドさん。 怪我はないですか?」

 ライルの容態が落ち着いたのを確認したノエルは、戦いを終えたエルモンドの事を心配しやって来ていた。

「この子達のお陰で無傷だよ。 しかも彼のお陰でなかなか面白い経験が出来たしね。 ふひひひひ」

 上機嫌に話すエルモンドに苦笑しながら、ノエルはギゼルを見下ろした。

 火柱から解放されたギゼルは地面に倒れ伏していた。

 魔力で防御したのだろうが防ぎきれなかった箇所に火傷を負い、片眼鏡型のバイザーも熱で壊れていた。

 ギゼルだけではない。

 オメガを始めとした魔甲機兵団の隊長達もリナ達の反撃に満身創痍といった状態だった。

 最早勝負は決した。

 だが・・・。

「止めとけ。 それ以上やったら死ぬぞ」

 リナは腹部に風穴が開きながら立ち上がろうとするオメガに忠告する。

 オメガは体から火花が飛び、既に戦える状態ではなかった。

 それでもその無機質な瞳から闘志は消えず、リナに向けられる。

「下らん。 この命既にギゼル様に捧げている。 あのお方を救う為なら、死だろうがなんだろうが、我らの恐怖とはならん!」

 オメガに呼応するようにシグマ、イプシロン、デルタも立ち上がる。

 ボロボロながら、その目の闘志はオメガ同様強く輝いている。

 手負いの獣は手強いという言葉があるように、万全の戦士よりも今のオメガ達の状態の者の方が危険な場合がある。

 その事を知るリナ達は迎え撃つ為構える。

『待って!』

 一触即発の雰囲気の中、アンヌが元の小さな姿に戻りながらノエルとエルモンドの前に立った。

「おやおや、君とはもっと話したいと思っていたんだ。 何かご用かい?」

 周りの雰囲気等全く気にする様子もなくマイペースに聞くエルモンドに、アンヌは小さく頷いた。

『あなたは私に興味があるんでしょ? なら私を好きにしてれていいわ。 勿論私の持っている情報も可能な限り渡す。 だからお父様と皆を見逃してほしいの』

「アンヌ! 何を言って・・・」

『ごめんなさいお父様。 でもここは既に私達の負け。 例え援軍が来ても今の五魔相手に逆転することは不可能よ。 なら少しでも此方に被害が少ない形で撤退するのが得策・・・』

「それだけは駄目だ!!」

 ギゼルの一喝に、アンヌはビクンと体を震わせた。

 ギゼルは力を振り絞り、よろめきながら立ち上がろうとする。

「それだけは・・・お前を犠牲にすることは絶対にさせん。 いや、お前だけではない。 誰一人私の為に犠牲になることは、この私が許さん!」

「ギゼル様・・・」

 オメガ達が見守る中、ギゼルはノエルの前にふらふらと歩み寄り膝まづく。

「魔帝の子ノエルよ。 この戦いは我が部隊の敗けだ。 敗者がどうなるかは私も理解している。 だが、許されるならこの者達だけは見逃してほしい」

 意外にもすぐに自身の敗北を認め、仲間の助命の為に頭を下げるギゼルの姿に、ノエルはギゼルと視線を合わせるように屈んだ。

「顔を上げてください。 僕はあなた達をどうこうする気は、元々ありません」

 ノエルの言葉に、ギゼルは驚き顔を上げる。

「それは・・・本気で言っているのか? 私は今までお前達を散々襲ってきたのだぞ?」

「勿論です。 そもそも、僕の目的はあなた達を倒すことじゃありませんし、これで済むなら僕は構いません。 いいですよね?」

 ノエルは確認する様にリナ達を見た。

 リナは「はぁ~」と息を吐きながら頭をかいた。

「お前がそれでいいなら構わねぇよ。 俺は借りは返したしな」

「あたしも、フランク人質にされたお返しはエルモンドがしてくれたみたいだし、特別に見逃してあげる」

「おれ! ノエルがいいなら大丈夫!!」

「私も構わないよ。 というより、体が痛くて仕返し所じゃないしね」

 皆の賛同を得たノエルはエルモンドを見ると、エルモンドはニッコリ笑った。

「僕は全然構わないよ。 むしろそこの彼女の思考を色々観察できたからね。 それだけで素晴らしいものを見せてもらえたと感謝したいくらいさ」

 エルモンドが満足そうに笑い、ノエルはギゼルに向き直る。

「どうでしょう、このまま退いてくれませんか?」

 安心させるよう笑みを浮かべて問いかけるノエルに、ギゼルはエルモンドとは違う意味で奇妙なものを見ている気分になる。

 ここまで追い詰めたのだ。

 此方の要求など聞かず捉えて洗いざらい情報を吐かせるなり、自身を人質にしオメガ達隊長達を操る方が得策だ。

 それは個の性格の善し悪しではなく、勢力の長として当然すべき行為である。

 そうして少しでも自身に有利に運ぶ様にすることこそが、仲間を守る為に必要不可欠でありノエルの役目だからだ。

 だがノエルはそれを放棄した。

 ライルやクロードの重傷は勿論、他の者の傷も決して浅くはない。

 そこまで傷つけられたにも関わらず、ノエルは自分達を逃がすという。

 非常に愚かだ。

 優しさと言えば聞こえはいいが、現状に置いては甘いとしか表現出来ない行為だ。

 だがギゼルは、そう断じ切れない自分がいることにも気付く。

「私は・・・」

「ギゼル様!」

 ギゼルの言葉を遮り、駆けつけたアルファがその名を呼んだ。

 直後アルファは絶句した。

 自身の同胞達は既に敗北と言っていい状態に追い詰められ、敬愛する主は地面に倒れ伏していた。

「・・・き、貴様ら~!!」

「隊長!?」

 現状に激昂したアルファはせめて一矢報いようとノエルにボウガンを放った。

「ノエル!!」

 リナが叫ぶ中、アルファの矢はノエルの顔の目の前で燃え尽きた。

 よく見ると、ギゼルは右手で魔力を飛ばしアルファの矢を消していた。

「な!?」

「もういい、アルファ。 もういいのだ」

 アルファが全てを察し沈痛な表情で膝まづくと、ギゼルはノエルの顔をまっすぐ見た。

「ここは素直に引き下がろう。 貴殿の温情に感謝する」

 ギゼルは深く頭を下げると、よろめき倒れそうになる。

「!ギゼル様!」

 アルファが駆け寄る前に、ノエルがその体を支えた。

「全く、甘過ぎるわ」

 そう言いながら、ギゼルは小さく笑みを浮かべた。

 その光景に、エルモンドは小さく笑う。

「ふひひ、なかなか面白い子の様だね」

 エルモンドはまだノエルとまともな会話すら殆どしていないが、持ち前の観察眼と経験からノエルがどの様な人物かある程度理解した。

 恐らくノエルはギゼルが思った事をわかっている。

 自身の立場も本来どうすることが最良かも理解している。

 その上でノエルはギゼル達を逃がす選択をした。

 その行為を甘さと取るか大器と取るかは人にも寄るだろう。

 だが、ノエルの行動を理解し容認したリナ達や今のギゼルの表情を見て、既に答えが出ているとエルモンドは思った。

「さてと、そうと決まれば皆の手当てをしないとね。 イトス、手を貸し・・・イトス?」

 エルモンドが振り向くと、クロードの応急処置を終えたイトスが立っていた。

 その表情はどうしていいのかわからなず、混乱しているようだった。

 恐らく戦いが一段落したことで、抑えていた様々な感情が彼の中で動いているのだろう。

 「イトス」

 エルモンドが声をかけると、イトスは静かにエルモンドに抱き付いた。

 まるで本当にその場にいることを確認する様に。

「師匠・・・師匠・・・」

 絞り出す様に声を出し背中を震わせるイトスの頭を、エルモンドは優しく撫でた。

「どうやら、僕の行為は想定以上に君を傷つけてしまったようだね。 本当に人の心だけは読みきれないよ」

 自嘲気味に言いながらエルモンドはまるで親が子にするように、イトスを優しく抱き締めた。


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