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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
65/360

魔王の逆鱗


 リナは目の前の光景に目を疑った。

 ライルが帯電するオメガの拳に腹を貫かれ、傷口と口から大量に血を吹き出している。

「ライル!!!」

 絶叫するリナを他所に、オメガは思わぬ邪魔に戸惑うことなく、すぐ体勢を立て直そうとする。

 が、その腕は抜けないことに気付く。

「捕まえたぜ・・・」

「貴様・・・」

 抉られた傷口の激痛と全身を駆け巡る電撃に苦しみながら、ライルはニヤリと口角をあげる。

「どおりゃ!!!」

 ライルはオメガの攻撃の要である右腕を己の両の拳で挟むように殴り付けた。

「!?」

 無表情なオメガの顔に一瞬焦りの色が見え、その腕を強引に引き抜いた。

 腕を抜かれた傷口からは鮮血が飛び散り、ライルはその場に仰向けに倒れた。

「ライルさん!」

「ライル!」

 リナはそれを受け止め、ノエルは急いでライルに駆けつけた。

 急いで止血しようとするノエルの横で、リナは己の行いを後悔した。

 普段のライルならここまでの無茶はしない。

 だがメロウとの戦い以降、ライルの様子がおかしかった。

 それはどこか焦りにも似た何かだったのだろう。

 リナはそれに気付きつつ敢えて放置した。

 ライルなら必ず自力で戻ると思っていたからだ。

 だがライルの焦りは自分の想像以上だった。

 あの時ノエルの言葉通り、自分がライルに何かしていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

 それをリナは、後悔せずにはいられなかった。

 一方距離を取ったオメガは、瞬時にライルにやられた箇所の自己診断を開始する。

「右腕関節部にダメージあり。 損傷レベル1。 行動障害率5%。 誤差の範囲レベルと判断・・・戦闘に支障なし」

 診断を終えたオメガは改めてリナ達に向き直る。

「雑魚と思い侮ったのが失敗か。 だがまあいい。 次で仕留める」

 オメガの言葉に、リナがピクリと反応した。

「おいてめぇ・・・今なんて言った?」

 ゆっくり立ち上がるリナの雰囲気の変化に、オメガは何かを感じ取った。

「てめぇ・・・俺の舎弟のことを・・・俺のたった一人の舎弟を・・・何て言った!?」

 リナから発せられた殺気に、対峙したオメガのみならず近くにいたノエルすら戦慄した。

 するとノエルは、リナの瞳が普段の黒から、髪と同じ燃えるような赤に変化していることに気付いた。

(リナさんが・・・怒っている・・・)

 ノエルがそう思った瞬間、リナはいつの間にかオメガに急接近していた。

(!速い!?)

 オメガは両手をクロスさせガードするが、リナの拳の一撃に吹き飛ばされる。

 体勢を立て直そうとするオメガの背後に、リナが素早く回り込み再び殴り飛ばす。

「おらああああ!!!」

 リナはそのままオメガが体勢を立て直す暇を与えず、吹き飛んだ先に先回りして殴り続ける。

(魔力なしで・・・ここまでの力が・・・これが魔王・・・)

 体の殆どを失い人間的な感覚を失って久しいオメガだったが、今のリナの姿に恐怖にも似た寒気を感じた。

 圧倒的な死の予感ともいうべき迫力、オメガがリナから感じたのはまさにそれだった。

 そして理解した。

 己が魔王の逆鱗に触れたのだと。

「・・・だが!!」

 オメガは吹き飛ばされながら体を捻りリナの拳を受け止めた。

「俺とてギゼル様より魔甲機兵団総隊長を任された身! 魔王が相手だろうと敗北は許されん!!」

 受け止めた拳を軸に体勢を立て直したオメガはそのままリナに反撃を開始する。

 リナはそれを迎え撃ち、激しい乱打戦へと突入する。

「これが、リナさんの力・・・はっ! ライルさん!」

 リナの変貌ぶりに驚愕していたノエルは我に返り、ライルへの手当てを再開する。

 だが魔力を封じられたノエルには、ライルの血を止めることしか手立てはなかった。

(どうすればいい・・・考えろ、考えるんだ!)

 既に昨日エルモンドの死という辛い現実と向き合ったリナに、これ以上誰かを失う悲しみを与えてはならない。

 ノエルはライルを救おうと必死に術を考える。

 するとノエルはライルのある変化に気付く。

(なんだろう・・・傷口がさっきより小さく、出血も止まってる)

 徐々に傷口が塞がっていくライルに驚きながら、ノエルはあることに気付いた。

(!?イトス!?)

 そういえば先ほどからイトスの姿が見えない。

 イトスの特技は姿を消すことと治癒。

 つまり、ギゼルの魔力封じから逃れたイトスが、姿を消しライルを治療しているということだ。

 やがて傷口は完全に塞がり、ライルの呼吸が安定した。

(とりあえずこれで平気なはずだ。 でもまだ危険な状態だからそばで守ってやれ)

「!?イト・・・」

(馬鹿! 声出すな! 俺の居所がバレるだろうが!)

 頭に直接響くイトスの声に、ノエルは心の中で返事をした。

(ありがとうイトス)

(気にすんな。 それより、お前はここでじっとしてろ)

(?何をする気?)

(あのギゼルって野郎が魔力を封じてるから苦戦してんだろ? だったら俺があいつを叩きのめしてやるよ)

(!?無茶だイトス止めるんだ!)

(安心しろ。 絶対気付かれねぇよ。 第一、師匠の眠るここでこんなことしやがって、ぶっ飛ばさなきゃ気がすまねぇ)

(イトス!)

 ノエルが止める間もなく、イトスの気配がその場から消えた。

 ノエルは急いでギゼルの方を向くと、ギゼルは未だクロードに電撃を浴びせていた。

「ふむ。 まだ倒れないとは、その精神力は評価に値する」

「ふ、ふふ・・・なかなかいいマッサージだ・・・君マッサージ屋でも開いたらどうだい?」

「ほう、よく私が電気マッサージ椅子を開発したことを知っているね。 いやお見事お見事」

『父様、多分そういう意味では・・・』

「わかってるよアンヌ。 彼の皮肉に対する私なりの遊びだ。 と言っても、流石に飽きてきた。 ディアブロにも変化が現れた様だし、そろそろ終わりにしよう」

 ギゼルが一旦電撃を止めると、クロードは膝を付いた。

 だがなんとか戦闘を続けようとギゼルを見据える。

「楽に終わらせてやろう」

 ギゼルは上空に手を掲げると、巨大な火球を造り出す。

 それには普段ならともかく、今のクロードが喰らえば確実に殺される威力の魔力が込められている。

 それでもクロードはリーティアの前を離れなかった。

「大した男だよ貴様は。 それに比べ、貴様はなんだ!?」

 ギゼルは急に火球を消すとその身を横に反らした。

 瞬間、先程までギゼルの頭があった場所に何かが通った様な風圧が起きる。

「な!? ぎやあ!?」

 ギゼルが何もない空間を殴ると、驚きと苦悶の声と共に杖を振り抜いたイトスの姿が現れた。

「イトス君!」

 クロードが叫ぶ中、イトスは前のめりに倒れ、ギゼルにその頭を踏まれた。

「があっ!?」

「なるほど、貴様が魔人の弟子か。 確かに姿を消す術はなかなかのものだ。 だが、いかにうまく隠れてもそれだけ殺気を出していたら意味がない」

 睨み付けるイトスにギゼルは踏む足に力を込める。

「更に私がそこのバハムートの蹴りを避けた事から、ある程度の体捌きは身に付けていると見抜けなかったその観察力。 どうやらルシフェルは最期の最期で人選を間違えたか。 もしくは、これがルシフェルの限界か」

「!?師匠の悪口は・・・」

「黙れ愚か者」

 頭をあげようとしたイトスを、ギゼルはより地面にめり込ませる。

「己の未熟さを素直に聞きもせぬただ感情のまま怒るなど知恵者として下の下だ。 ましてや、その程度の子供騙しで私とバハムートの間に入るなど、1万年早いわ」

 そこまで言うと、ギゼルは再び火球を造るが、その視線はクロードではなく、エルモンドの墓だった。

「おい・・・なにを・・・」

「弟子の不始末は師の不始末というからな。 この様な半端な弟子を残してしまったルシフェルへの罰。 そして・・・」

 更に火の勢いを強めた火球を見て、イトスはギゼルがなにをする気かわかり慌て出す。

「待て! それだけは! あれは師匠の・・・」

「思い上がった愚か者への、最大級の罰だ!」

 イトスの制止はなんの意味もなさず、ギゼルの火球は発射されエルモンドの墓に直撃した。

「あ・・・あああああああああああああ!!!!!?」

 一瞬茫然とした後のイトスの慟哭に、リナ達の視線が集まる。

 エルモンドの墓は大きな炎に包まれ燃え上がり、イトスはなんとかそれに近付こうとギゼルの足元でもがいている。

「あの野郎!!!」

「エルモンド!!!」

 リナから怒りの、ジャバからエルモンドを心配する叫びが響き、レオナとクロードは戦闘から意識を離してこそいなかったが、その顔は悲しみと怒りの混ざった様なものだった。

『父様』

 そんな中アンヌに声をかけられ、ギゼルは少し熱くなりすぎたかと己の行いを反省した。

「すまないなアンヌ。 今のは少々死者への礼を欠いた行為だった。 以後気を付け・・・」

『違うの父様・・・あの中・・・生体反応がある』

「!? 馬鹿な!?」

 ギゼルは急ぎ自身の方眼鏡で炎の中をサーチする。

 すると、中に確かに生体らしき反応が検出された。

「これは、一体どういう・・・」

「ふぁ~あ・・・」

 ギゼルの言葉を遮り聞こえたあくびに、その場にいた全員が静止した。

 直後、炎が突風と共に舞い上がり、エルモンドの刃かがあった場所に、ローブ姿の男が4色の宝玉が埋め込まれた杖を手に、後ろ向きで伸びをしようとしていた。

「ん~、やっぱり外の空気はいいね~。 生き返る気分だよ。 ふひひひひひひ」

「な、何者だ貴様!?」

 動揺しながらギゼルは思わずそう叫んだ。

 まるで自身に過る考えを打ち消す為に。

「ん? おや、見ない顔だね~」

 男は振り向くと、知らない人間であるギゼルを見て子供の様な興味津々な笑顔を向ける。

「僕はエルモンド。 ルドルフ・ミレ・エルモンド。 かつて魔人なんて呼ばれた男さ」

漸くと言いましょうかやっとと言いましょうか、エルモンドの登場です。

いや~長かった(笑)

彼が今後どんな活躍をするのか、お楽しみに(^_^ゞ

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