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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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追悼

 一瞬、時が止まったかの様に思えた。

イトスの言葉をノエル達はすぐには理解することが出来なかった。

「あの・・・それって・・・」

「ふざけんじゃねぇ!!!」

 ノエルの言葉を遮り、目を血走らせたリナがイトスの襟首を掴み吊し上げた。

「なにデマ言ってんだよ!? あのおっさんがそう簡単に死ぬわけねぇだろ!? ふざけたこと言うとてめぇを殺すぞ!?」

「う、嘘なんかつくか!! 師匠は・・・師匠は3年前に・・・もう・・・」

「てめ!!」

 リナが怒りのまま拳を振り上げると、レオナがその手を掴んだ。

「リナ、止めて・・・お願い」

 諭す様に、そしてレオナ自身何かに耐えるような懇願に、リナはイトスを下ろした。

「・・・流行り病だった。 師匠の知ってる薬も全部試したけど・・・どうしようもなったんだ」

 当時を思い出すイトスの表情が、彼の言葉が真実であることを裏付けていた。

 暗い空気の中、リナは静かに口を開いた。

「・・・連れていけ」

「え?」

「俺達を、エルモンドの所に連れていけ」






 リナ達がいた場所から少し進んだ森の中。

 人があまり寄り付かないその場所に、イトスとエルモンドの住んでいた小屋があった。

 巨木をそのまま使ったその小屋の裏にある日当たりのいい場所に、エルモンドの墓があった。

 『偉大なる師 ここに眠る』と彫られた墓の前に、リナ達は立ち尽くしていた。

「・・・なんだよ・・・なんであんたが真っ先に逝っちまってんだよ?」

 墓に手を添えたリナの声は、ノエルが今まで聞いたことがないほど弱々しかった。

「俺らの中で一番頭良くて、一番しぶとかったあんたが・・・なんで・・・」

 言葉をつまらすリナの背を見て、レオナは涙を流し、クロードは静かに哀悼を捧げ、ジャバは悲しみの叫びをあげた。

 事態を聞き駆けつけたゴブラド達も、涙を流し、ただただ悲しみに暮れていた。

 ノエルとライルはその光景を見て、リナ達にとってエルモンドという人物がどれ程大きな存在か知った。

「あんな姉さん・・・初めて見たわ」

 ライルがそう呟き、ノエルがリナに視線を向ける。

 いつも大きく力溢れるリナの背中が、とても小さく弱々しく見える。

 その姿に、ノエルとライルは胸が締め付けられる様な思いがした。

 それは五魔が復活出来ない事実よりも重く、二人にのし掛かっていた。






 時が進み、夜を迎えた。

 ゴブラド達はラクシャダに戻り、ノエル達はイトスの好意で小屋に泊めてもらった。

 ゴブラド達と一緒にラクシャダに戻る事も出来たのだが、リナが墓の前から動かずノエル達はここに残ることにしたのだ。

 ノエルは借りたベッドの中でモゾモゾ動きながら、どうしても眠りにつくことが出来なかった。

 ノエルはモヤモヤした気持ちを晴らそうと、起き上がり外に出た。

「なんだ? 寝ないのか?」

 外に出たノエルは、同じく外にいたイトスに声をかけられる。

「なんとなく眠れなくて」

「・・・だろうな。 あいつの様子見てればわかるよ」

 イトスの視線の先には、未だ墓の前に座り続けるリナの姿があった。

 リナだけではない。

 墓の前にはいなかったものの、ジャバはライルに付き添われ森の奥に行き、クロードはリーティアの中に引っ込み、レオナは窓から空を見上げ、それぞれエルモンドを失った悲しみに向き合っていた。

「すみません。 急に押し掛けて迷惑かけてしまって・・・」

「別に構わねぇよ。 つか敬語止めろよ。 タメくらいだろ俺達」

「ああ、うん。 ごめん」

「たく、変な奴」

 そう言いながら、イトスは再び視線をリナに向ける。

「・・・こういうのはなんだけどな、俺、少し嬉しいんだ」

「?どういうこと?」

「いや、師匠から五魔とか魔帝・・・お前の親父さんのこととか聞いててさ。 いつも楽しそうに話してたんだ。 そんな師匠にとって大事な連中が、あんなに悲しんでくれてて・・・不謹慎だけど、ああ、師匠はちゃんと仲間から想われてたんだって思ってよ・・・わりぃ。 やっぱ駄目だよな、こんなこと思っちゃ・・・」

「ううん。 なんとなくわかるよ、その気持ち」

 ノエルはかつて、ラズゴートやゴブラドがノルウェについて話してくれた時を思い出す。

 あの時二人が自分の父をどれだけ慕ってくれていたかを知れて、ノエル自身とても嬉しかった。

 恐らくイトスの気持ちも、それに近いものなのだろう。

「イトスさんは・・・」

「呼び捨てでいいよ」

「・・・イトスはどうしてエルモンドさんの弟子に?」

「どうしてっつわれても・・・俺、師匠に拾われたんだよ」

「え?」

 驚くノエルに、イトスは話続けた。

「俺がまだ5、6才の頃か。 孤児で死にかけてた俺を師匠が助けてくれたんだよ。 で、そのまま弟子として育ててもらったんだ」

「そうだったんだ。 どのくらい一緒に?」

「7年。 その間色々教わったんだけど、俺あんま出来が良くなくてな。 出来んのは姿消したり、怪我や病気の治療だけ」

 そう言いながらイトスは自分の持つ杖を眺めた。

「師匠はいつも言っていた。 経験に勝る知識はないってな。 だから色々な事をして、見て、聞いて、出会う。 それがかけがえのないものなんだって、子供みたいに笑いながら話してたよ。 最も、たまに夢中になりすぎて俺と師匠どっちが子供かわかんなくなることもあったけどな」

 イトスは苦笑しながら話した。

 ノエルはその姿がエルモンドの説明をするリナ達と重なった。

 恐らくエルモンドと深く関わった人は、話す時皆こんな感じになるのだろう。

「僕も会ってみたかったな、エルモンドさんに」

「多分色々予想外で驚くぞ」

ケラケラ笑うイトスは、今度はノエルに問いかける。

「所で、俺からもいいか?」

「なに?」

「なんで五魔集めてるんだ? いや、大体は聞いたけど、なんでわざわざ危険な旅をしてんのかと思ってさ」

「まあ色々あるけど、一番は父さんの守ろうとしたものを守りたかったってことかな」

「親父さんの?」

「そう。 父さんはリナさんやエルモンドさん達とこの国の皆が平和に暮らせる世を必死に守ろうとしたんだ。 それこそ、命懸けでね。 僕は王としての父さんを見たことがない。 でも、あの人がどんな人かはちゃんと知っている。 優しくて、暖かくて・・・だから僕は、そんな父さんの守った国の為に進むって決めたんだ」

 ノエルの話を静かに聞いていたイトスは「そっか」と一言言うと、何かを思い、エルモンドの墓を見る。

「それって、師匠も必死に守ろうとしたんだろうな」

「きっとそうだよ。 そしてリナさんも、クロードさんもレオナさんもジャバさんも、皆で守ろうとしたんだよ」

「で、それをお前が今守ろうとしてるか・・・なんかいいな。 お前らって」

「まあね。 助けてもらってばかりだけど」

「いいんじゃねぇの。 その分お前もあいつら助けてんだろうし」

「うん。・・・でもこういう時、どうすればいいのか、全然わからないんだ」

 今まで支えてきてくれたリナ達が苦しんでいる中、自分が何も出来ないことにノエルは暗い表情になる。

「そりゃ無理だろ。 お前にはあいつらの痛みはわからねぇんだから」

「!どういう・・・」

「だってお前は師匠に会ったことねぇだろ? 会ったことがないお前とずっと一緒いたあいつらとじゃ、師匠がいなくなった悲しみを本当に理解なんか出来るわけねぇよ」

「そんなこと・・・」

「実際俺は親の死に目を見ることの出来なかったお前の気持ちは完全にはわからねぇし、お前も目の前で親同然だった人がなすすべもなく死んでいくを見ていた俺の気持ちはわからねぇよ。 想像は出来るだろうけどな」

 ノエルは漸く、イトスの言おうとすることが理解出来た。

 要するに、実際に経験をしていない者にとって、それはあくまで「きっとこうなんだろう」という自分の他の体験を照らし合わせて出来た想像でしかない。

 本当の人の感情など、その場に居合わせ、同じ経験をした者でないと真に理解出来ないのだ。

 ノエルにはリナ達やイトスに比べ、エルモンドの事を知らなすぎる。

 だから本当に今のリナ達を理解することは出来ないのだ。

「・・・そうだね。 僕には、今リナさん達に何も出来ないんだね」

「お前まで暗くなってどうすんだよ」

 沈むノエルにイトスは呆れたように言った。

「理解出来なくても、あいつらがキツいのはわかってんだろ。 ならお前はその分、いつも通りあいつらと接してればいいんだよ。 それで十分だろ」

「うん。 そうだね。 ありがとうイトス」

「構わねぇよ」

 少し照れるイトスを見ながら、ノエルは彼の事を凄いなと思った。

 彼は自分を出来が悪いと言っていたが、その思考や分析力はかなり高い。

 きっとエルモンドもそこを理解し伸ばそうとしていたんだろう。

 ノエルはそんなことを考えながら、諭してくれたイトスに感謝した。

「イトス、ちょっと台所借りていい?」

「なんだよ? なんかすんのか?」

「うん。 リナさん達の好物でも作ろうかなと思って。 あ、レオナさんも誘ってみようかな」

「そっか。 まあ、大したもんはねぇけど、使えるもんは好きにしてくれ」

「ありがとう。 イトスにも何か作っとくね」

 ノエルは今の自分に出来る事をするために、小屋の中へと戻っていった。

「俺はついでかよ・・・まあいっか」

 苦笑しながら、イトスはリナの方へと歩き出す。

「よっ。 体大丈夫か?」

「・・・なんの用だよ?」

「いや、一応ここ俺の家なんだけど・・・」

背を向けたままのリナに構うことなく、イトスはその横に座った。

「・・・昼間は悪かったな。 乱暴にしてよ」

「別に気にしてねぇよ。 つか、そんなことできたんじゃねぇよ」

「じゃあなんだよ?」

「いや・・・師匠のこと聞かせてくれよ」

「エルモンドの?」

 そこで初めてリナはイトスの方を向いた。

「俺にとって、師匠は親父みたいなもんだったからさ・・・昔の師匠がどんなだったか気になってよ」

「なんで俺なんだよ?」

「あんたが一番手が空いてそうだったから」

 リナは小さく舌打ちした。

「それによ・・・あんたも師匠のこと、ちっとでも話せばスッキリすんじゃねぇか? 少なくとも、俺は師匠のことちゃんと知ってるし、話相手には丁度いいだろ?」

 リナは意外そうな顔をしてイトスを見ると、イトスの気遣いを理解し小さく笑みを浮かべた。

「殆ど愚痴になるぞ」

「ああ。 遠慮なく来い」

 リナとイトスは、ケーキと夜食を持ったノエルとレオナが来るまで、エルモンドの事を語り合った。






 小屋から離れたとある洞窟で、その男は通信機から報告を聞いていた。

『予想通り、五魔は全員ルシフェルの小屋に滞在中。 現在ジャバウオックが少し小屋から離れていますが、影響はないと思われます』

「ご苦労、アルファ。 そのまま朝まで偵察をした後、C地点に迎え」

『了解致しました』

 通信が切れると、ギゼルは通信機を置いた。

「計画通りのようですね」

「うむ。 これで奴等との最終決戦の舞台が整った」

 オメガの言葉にギゼルは頷いた。

 ノエル達より先にルシフェルの所在を突き止めたギゼル達魔甲機兵団はルシフェル死亡の事実を知り、その状況を利用し五魔を殲滅する為集結していた。

「しかしルシフェルが既に死んでいるとは、なんとも拍子抜けですな」

「およしシグマ。 それよりも今は残った五魔を潰すことが先決よ」

 つまらなそうに言うシグマをイプシロンが嗜める。

「イプシロンの言う通りだ。 確かにルシフェルが死んでいたことは驚いたが、これは我らにとってまたとない好機。 ならばその好機を逃す手はない」

 ギゼルは立ち上がると、集結した隊長達に向き直る。

「この機に乗じ、我らはノエル確保と五魔殲滅を執り行う! 皆、心してかかれ

!」

「「「はっ!」」」

 ギゼルの号令にオメガを先頭にした隊長達は膝まづき応える。

 ギゼルとノエル達の最大の戦いは、目前へと迫っていた。

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