表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
58/360

それぞれの決着

 ノエルは目の前の状況動揺した。

 目の前にラズゴートが現れたということはノエルにとって最悪の事態だ。

 現在ノエルはヴォルフとの死闘で消耗し、満足に戦える状態ではない。

 ラズゴートも傷付いてはいるがノエルとラズゴートでは元々の実力が違いすぎる。

 更にラズゴートがここにいるということは、リナが破れたのではないかということを思考に行きつく。

 自分が最も信頼し、いつも勝利していたリナが敗北したかもしれないという事実は、ノエルが予想していたよりも遥かにショックが大きかった。

 だがノエルはそれを目の前のラズゴートに悟られまいと必死に抑えながら、なんとかこの場を脱しようと思考を巡らせようとする。

 リナの敗北が真実にしろ違うにしろ、自分が捕まれば全てが無駄に終わる事をノエルは知っていたからだ。

 一方ラズゴートはノエルを一瞥すると、ノエルの後ろで倒れるヴォルフに視線を移す。

「・・・まさかヴォルフが負けるとはな。 正直今の貴方の実力ならヴォルフが確実に勝つとふんどったんだが、どうやらわしは貴方を過小評価しすぎ取ったらしい」

「これでもリナさん達に鍛えられてますから」

「ふふ、なるほどあいつらがな」

ラズゴートは小さく笑みを浮かべた。

 本来ラズゴートにはこんな話をすら余裕はなかった。

 時間をかければ確実にリナはここにやって来るだろうし、他の五魔もいつ来るかわからない。

 しかもヴォルフが敗北するというラズゴートにとっても大誤算な事態だ。

 今すぐにでもノエルを気絶させ連れ去るのが最良の手だった。

 だがラズゴートはノエルをとの話を止めなかった。

「最後にもう一度だけ聞きますが、わしと共に来る気はないですか?」

「・・・すみません。 そこだけはどうしても譲れないんです」

「どうしても・・・ですかな?」

「ええ。 それが僕の選んだ道ですから」

 ノエルの強い眼差しを見たラズゴートは、その背後にかつて仕えた主の姿を見た。

「全く貴方は・・・そういう所は本当にお父上に似ている」

 そう言い見せたラズゴートの笑みに、ノエルはラズゴートが何かを吹っ切った様に感じた。

 瞬間、ノエルの目の前に何かがいきなり落ちてきた。

「無事かノエル!?」

「リナさん!? 無事だったんですね!」

 ノエルの無事を確認すると、リナはノエルを護るようにラズゴートの前に立ち塞がる。

「随分らしくねぇことするじゃねぇか。 勝負投げ出して逃げを選ぶなんてよ」

「今回のわしらの目的はノエル殿下なんでな。 ノエル殿下を連れていくことこそわしらの勝利よ。 もっとも、最早それは叶わん様だがな」

 ラズゴートが背後に視線をやると、そこからクロード、リーティア、ジャバ、レオナがやって来た。

「ノエル! 無事!?」

「皆!」

 ノエルとリナの姿を確認し、レオナは安堵の表情を浮かべる。

「どうやら大丈夫みたいね」

「そうだね。 でも、一番手強い人も一緒だ」

 クロード達が警戒する中、ラズゴートはジャバ達が連れている気絶したハンナ達を見る。

「ここまで連れてきたか。 あまい奴等よ」

 そう言いながら、ラズゴートの顔はどこか安心した様だった。

「こりゃ、後はやけになって大暴れするしかないか・・・なあメロウ爺?」

「なに!?」

 リナが驚くと同時に、天井からメロウがラズゴートの後ろに降り立った。

「フェっフェっフェっ。 お前さんがそうしたいならそうすりゃいいが、それが望みじゃないんじゃろ?」

 自身の考えを見透かしたメロウに苦笑しながら、ラズゴートはノエルに向き直る。

「殿下、取引といきませんか?」

「取引?」

「なに、簡単なことです。 そこに転がっとるヴォルフ含めたわしの部下全員、此方に渡していただきたい。 そうすりゃ、わしらもここで引き上げましょう」

「もし、断ったら?」

「先程言ったことを実行するしかないですな」

 張り詰めた空気の中、ノエルは表情を緩ませた。

「わかりました。 僕自身、これ以上ラズゴートさん達とは戦いたくありませんから」

「感謝します」

 ラズゴートは軽く頭を下げると、レオナ達からハンナ達を受け取った。

「たく、若いくせに年寄りに担がせるとは、後で折檻じゃ」

 背後から聞こえた愚痴にノエルが振り返ると、いつの間にかメロウがヴォルフを担ぎ上げていた。

「たく、相変わらずすばしっこいジジィだな」

「ほっ、久しいのぅリナの小娘。 外見だけは随分女らしくなったじゃねぇか」

「うるせぇ! それよりてめぇ、ライルはどうした!?」

「ライル・・・おお、あのへたれ小僧か」

 メロウは意地の悪い笑みを浮かべた。

「死んではおらんが、早く手当てした方がいいかもの。 最も、もう手遅れかもしれんがな」

「!?てめ!? あいつに何を・・・」

 怒るリナを、ノエルが制した。

「今は早くライルさんと合流することが先決です」

「・・・ちぃっ。 わかったよ。 ジャバ」

「うがぅ! ライルの匂い! あっち!」

 ジャバが1つの横穴を指差し、ノエル達はその中に進もうとする。

「殿下」

 ラズゴートに呼び止められ、ノエルは彼と向き合った。

「わしらは退きますが、これで近い内にアーサーが動くでしょう。 くれぐれもお気をつけを」

「ラズゴートさん・・・ありがとうございます」

「なに。 聖獣・・・いや、ラズじいさんからの、最後の情けだ。 がっはっはっ!」

 ラズゴートの笑いにノエルは頭を下げ、リナ達と横穴へと進んでいった。

「全く、お前さんも甘過ぎじゃのう」

「そう言うなメロウ爺。 本当にこれが、わしからの最後の情けだ。 殿下はもう、己の道をお決めになられた。 ならばわしがどうのこうの言う資格はない」

 ラズゴートは少し寂しそうな、それでいてスッキリした顔をしていた。

「・・・本当、不器用な男だよお前さんは」

 メロウはため息を吐きながらそう呟いた。






 洞窟を暫く進み開けた場所に着いたノエル達は、座り込む人影を見付けた。

「ライルさん!」

 ノエルの言葉にピクッと反応したライルは、少し間を置き振り返った。

「おお! ノエル! 姉さん達も無事だったんスね!」

 ライルは立ち上がると急いでノエル達に駆け寄った。

「ライルさん無事だったんですね! !?その傷は!」

 ライルは全身傷だらけで、特に右手は痛々しい程血塗れだった。

「こんなもん掠り傷だよ。 それよりすまねぇ。 俺だけ駆け付けられなくて・・・」

 ライルが深々と頭を下げると、ノエルは首を横に振った。

「いいんですよ。 ライルさんが無事でよかった」

「そういうこった。 それにお前がやり合ったメロウはあの中じゃある意味ラズゴートのおっさん以上に質がわりぃジジィだ。 それにしちゃよく持った方だよ」

 珍しくリナに労われ、ライルは少し笑みを浮かべた。

 だがリナは気付いていた。

 ライルの右手の傷がメロウに付けられたものではないことと、何度も殴った様な跡がライルが座っていた場所に出来ていることを。






 あの時、ライルの渾身の拳がメロウに当たった筈だった。

 だがメロウは吹き飛ばされながらもすぐにヒラリと体を捻り何でもないようにその場に着地した。

「んな!?」

 驚くライルをよそに、メロウの意識は既にライルには向いていなかった。

「・・・ここまでか・・・今のあやつらでも、五魔は厳しかったか」

「おいこらジジィ! 何余所見してんだ!? 俺はまだ・・・」

「結果は見えた。 わしらの敗けじゃ」

「ッ、んだと!?」

 意味が分からず混乱するライルにメロウはため息混じりで話した。

「どうやら他の連中は負けたようじゃ。 しかもノエルの小僧を捕まえに行ったヴォルフっちゅう内の一番の手練れがやられよった。 あの小僧の実力を見謝ったわしのミスじゃな」

「なんでそんなことが・・・」

「んなもん気配でわかるわい。 しかしまあ、こりゃ仕方ない。 さっさとラズゴートと合流して撤退せにゃならんな」

 メロウは移動するため天井に張り付いた。

「おいこら!? どこいきやがる!? まだケリは着いてねぇぞ!?」

「調子に乗るな小僧」

 ライルに呼び止められたメロウは目線だけ後ろに向け睨み付ける。

 ライルはその迫力に先程の勢いが一気に失速する。

「大局も見えずただ個の勝ち負けしか見れん愚か者が。 わしと戦えていたと本気で思っとるのか?」

「な、なんだと・・・」

「第一その個の勝ち負けですら、わしに言わせればお前さんの負けよ。 実力は言わずもがな。 戦略的に見ても、お前さんはわしに固執しノエルの小僧を守る事を忘れた。 結果お前さんはノエルの小僧の為に何も出来ておらん。 なにもな」

 メロウの指摘に、ライルは言葉を失った。

 ノエルの力になる為にこの戦いに望んだ筈なのに、メロウに焚き付けられ、父親の事で頭に血が登り、結果ノエルの事を忘れた。

 その事実に気付かされ呆然とするライルに、メロウはさらに続けた。

「結局お前さんの覚悟はその程度のものよ。 いくら口で偉そうに言っても実がない。 そのくせ下らない意地を張り、親父に泣きつく勇気すらない。 そんな半端者ごときが、わしと張り合おうなど千年早いわ」

 メロウはそう言い残すとその場を後にした。

 呆然とするライルはその場に座り込むと、拳で地面を殴り付けた。

 まるで自分のやりようのない感情をぶつけるように、何度も何度も・・・自分の手が血塗れになるまで、ライルは殴り続けていた。






「そうか! あの小僧ドラグの息子か!? 道理で見覚えがあると思ったわ!」

「つまらん小僧だったよ。 相手して損したわ」

 穴から脱出したラズゴートは、メロウからライルの話を聞きかつてのライバルを思い出す。

「なるほど奴の息子が殿下に・・・これも縁か」

「あれが仲間じゃ、小僧達も苦労するだろうよ」

「随分厳しいな。 その腹の傷の恨みか?」

 実はライルの放った拳はメロウに届いていた。

 メロウは瞬時に後ろに逃げ直撃は逃れていたが、肋骨が2、3本程折れていた。

 メロウはラズゴートに見抜かれ苦虫を噛み潰したような顔をする。

「それもある・・・が、今回は普通にイライラしたんでの」

 ライルは気づいてはいなかったが、先の戦いはメロウの思惑をライルに潰された様なものだった。

 メロウは本来、ライルをすぐに倒し他の者の加勢に向かう筈だった。

 そうすることで五魔を倒せずとも、ノエルをこちらに連れてくる事は出来ると踏んでいたのだ。

 だがライルは倒れなかった。

 精神的に揺さぶり、素性がわかってからは念のため速攻で終わらせる為攻勢に出たにも関わらず、ライルはメロウに食らいついた。

 結果メロウはいらぬ傷を負い、助成も間に合わなかった。

 ライルに言った言葉は、そのままメロウ自身にも言えたことなのだ。

 結果メロウは実力では勝てていても、大局の面でライルに破れたのだ。

 その事を思い返し、メロウは歯を食い縛る。

(全てはわしの見立てが誤っていたせいじゃ。 わしがもう少しあやつらの実力を正確に読み解いておれば・・・)

 メロウは自身に対し怒りを抱き、思考はライルへと移った。

(あの小僧め。 もしまたわしの前に立ち塞がれば、今度は息の根を止めてくれる。 正真正銘の本気でな)

 こうして、それぞれの想いを抱きながら、ノエル達とラズゴート達の激突は幕を閉じたのだった。






 城の研究室、ギゼルはモニターに写し出された一文に笑みを浮かべた。

<報告:魔人ルシフェル、ルドルフ・ミレ・エルモンド発見>

ラズゴートと獣王親衛隊との戦い、如何だったでしょうか?

まだ1話後処理的な話を書く予定ですが、この後はいよいよ、魔人ルシフェルことエルモンドのお話です。

なんとか年内に入れそうなのでホッとしてます(^o^;)

それでは次回もお楽しみに(^_^ゞ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ