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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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ノエルの本気

 それはジャバを仲間にし、クロードに魔術の特訓を受ける様になったく時のこと。

 リーティアが鎧に魔力で文字を書くと、ノエルの全身の魔力に負荷がかかる。

「うぁ・・・これは・・・」

「魔力強制ギプスと言った所ですね。 体に宿る魔力に負荷をかけて、その両と質を向上させるものです。 簡単に言うと、今まで筋肉だけ鍛えていたものを、魔力も鍛えられる様にしたんです」

 なんでもないように話すリーティアだったが、実際その負荷はかなりのもので、魔力を練って魔術や魔法を使うのに普段の倍以上の集中力を必要とした。

「ま、魔力も磨かねぇと鈍るからな。 鍛えられる内に鍛えといた方がいいだろ」

 困惑するノエルを見てケラケラ笑うリナだったが、すぐ表情を引き締める。

「いいかノエル。 そいつは着てりゃ着てる分だけ効果があるから、戦闘の時も出来るだけずっと着てろ。 だけどもし、本気で強い奴が出てきた時は、前言った条件忘れろ。 お前の全力を、そいつにたっぷり見せつけてやれ」

 リナ再びニカッと笑った。






(やってみます、リナさん)

 リナの言葉を思い出しながらノエルはそう心の中で呟くと、闘志を目に宿しヴォルフに向かった。

 それに対しヴォルフは迎撃しようと身構える。

 が、真っ直ぐ向かってくるはずだったノエルの体がふいに視線から消えた。

「な!?」

 先程の攻防よりも明らかに速いノエルの動きにヴォルフは驚きつつ上空を見ると、右足を上げるノエルの姿があった。

「うおおおおおおおお!」

 ノエルは黒の魔術で強化した強化魔法で足を覆うとそのまま踵落としを繰り出した。

 ヴォルフは両腕をクロスさせガードするが、勢いは止まらずヴォルフの脳天に直撃する。

 ノエルは更に空中で体を回転させるとソバットの様な蹴りを放つ。

 蹴りを腹部に受けたヴォルフは後ろに吹き飛ぶが、ノエルはそれが勢いを消すためヴォルフがわざと飛んだ事に気付く。

 案の定、ヴォルフはすぐに体勢を立て直すと、ぺっと口から血の交じる唾を吐いた。

 頭を強打されふらつきながら、ヴォルフはここで漸く自身の認識の誤りに気付く。

 ヴォルフはノエルの実力を低く見ていた。

 それはリナ達五魔の戦闘力に隠れていたのもあるが、この短期間でここまでの戦闘技術が付くとは思っていなかったからだ。

 だがノエルは強くなった。

 ライルの体術を始め、クロードから魔術を、レオナからは武器の戦い方を、ジャバからは気配から相手の心理を読む術を、そしてリナからは戦う為の心構えを教えてもらった。

 それら全てが結集したのが、今のノエルの強さなのだ。

 ヴォルフはノエルを保護する対象から、下手をすれば喰われる敵へと意識を切り替える。

「悪い、正直完全に舐めてたわ。 まさかそんだけやるとは思わなかった」

「だてに五魔に鍛えられてないですからね」

「そうだよな。 あんたリナの姉貴達に鍛えられたんだよな。 そりゃ強くもなるか・・・でもな!」

 ヴォルフは全身から闘気をみなぎらせる。

 すると上半身の服が弾け飛び、髪と同じ色の毛皮に覆われた筋肉質の肉体が現れ、両足の爪が靴を突き破り、両手の爪と牙がより鋭く変化した。

「こっちだって獣王ラズゴートとメロウのジジィに何年も鍛えられてんだ! そう簡単に勝てると思うなよ!」

 変化を終えたヴォルフの瞳に先程以上の覇気が宿る。

 ヴォルフ達半獣人は人とのハーフであり、本来の獣人より力は低い。

 だがヴォルフはラズゴートとの特訓で獣人の持つ本来の力を引き出す術を身に付けた。

 それはヴォルフの本気の姿であり、切り札でもあった。

 それだけヴォルフはノエルが危険だと判断したのだ。

 同時に確実にラズゴートの望みであるノエル捕獲をするためでもある。

 ヴォルフはこの計画の要だ。

 ラズゴートを含む他のメンバーが周りを抑える間にノエルを捕獲するという、最も重要な役割。

 ヴォルフ自身それは十分自覚していた。

 だからこそ決して失敗は許されない。

 狼の持つ強い忠誠心が、己にそう語りかける。

 だからヴォルフは己の切り札を早々に出すことを決めたのだ。

 全ては今も戦っている仲間の為、そして大恩ある主、ラズゴートの為に。

「ウオオオオオオオオン!!」

 狼の咆哮とともにヴォルフはノエルに迫ると腕を振るった。

 ノエルはすぐそれを回避すると、先程いた場所が大きく抉られる。

 しかも変化前よりも明らかに深く大きく抉られている。

 恐らく人間の胴体くらい簡単に引きちぎってしまうだろう。

 ノエルは防御ではなく回避に意識を集中する。

 ヴォルフは再び腕を振るいノエルに襲い掛かる。

 ノエルは先程と同じように避けようとする。

 が、ヴォルフの攻撃は今度は地面を抉らなかった。

 ノエルがしまったと思った瞬間、ヴォルフは地面に手を着くとそのまま逆立ち状態で体を回転させ鋭い蹴りをノエルに叩き込む。

「かはっ!?」

 なんとか黒の魔術で防御したノエルだったが防ぎきれず吹き飛ばされ、壁に激突する。

 口から血を吐き、地面に倒れそうになりながらなんとか立っているノエルに対し、ヴォルフはゆっくりと立ち上がる。

「やってくれるじゃねぇか・・・この野郎」

 ヴォルフの体からは煙が上がり、明らかにダメージを負っていた。

 ノエルは蹴りが当たる瞬間、防御と同時に黒雷を身に纏い、ヴォルフの体を感電させていた。

 全身に黒雷が巡りグラつくが、ヴォルフの闘志は欠片も衰えてはいない。

 それどころか、むしろ増加している。

 ノエルは体勢を立て直すとすぐ黒炎を生みだしヴォルフへと放つ。

 ヴォルフは黒炎に向かい、そのまま炎を引き裂いた。

「な!?」

「こんな炎ごときで、俺が止められるか!!」

 黒炎すら引き裂く本気のヴォルフに、ノエルは驚愕しながらも両腕に魔力を溜める。

 迫るヴォルフの攻撃を、ノエルは魔力の籠った腕でいなし、かわし続ける。

「どうした!? 五魔に鍛えられてその程度か!?」

「舐めないで・・・ください!」

 ノエルはヴォルフの腕をいなすとカウンターで肘を腹部に入れる。

 一瞬ヴォルフが怯んだ隙に掌低を顎に打ち込む。

 だがヴォルフは打ち上がった頭を止めると、そのままノエルに頭突きを見舞う。

 完全に不意を付かれふらつくノエル。

 ヴォルフも顎へのダメージからそのまま追撃出来ずフラフラと後ろに下がる。

 一進一退の攻防に、二人はお互い肩で息をしながら見つめあった。

(くそ・・・この姿になってこれかよ・・・冗談キツいぜ)

(一撃一撃が・・・なんて重さだ・・・長引かせるとこっちが不利だ)

 互いに心の中で感想を漏らしながら、二人は状況を整理した。

 ノエルが先程思ったように獣人であるヴォルフに長期戦はスタミナ的な意味でも不利、一宝ヴォルフは時間的な理由で長期戦を避けたかった。

 いくらラズゴート達が時間を稼いでいるとはいえそろそろ持たない者が出てきているかもしれない。

 ましてやこの状況で一人でも助っ人が来れば確実に不利になる。

 そうなると両者は自然と次の一撃で勝負を決めるという結論に辿り着いた。

「・・・1つ、聞いていいですか?」

「なんだ? 時間稼ぎなら無駄だぞ?」

 唐突にノエルから声をかけられながらも、ヴォルフは冷静に対応した。

「あなたがラズゴートさんを慕っているのはわかりました。 それがどれだけあなたにとって大切な事かも」

「んだよ突然? そんなもん当たり前だろうが」

「じゃあ、なんであなたはラズゴートさんが苦しんでいるのを黙って見ているんですか?」

「・・・あ?」

 ノエルの言葉に、ヴォルフの空気が変わった。

 だがノエルは言葉を続けた。

「ラズゴートさんが本物の武人だということはわかります。 その忠義心の強さも。 でも今のあの人は、その忠義心と自分の想いに潰されそうになっている気がするんです」

「てめぇに何がわかるんだよ!? オヤジは忠義の男だ! 俺達にとって、あれだけデッケェ男はいねぇ! 憧れの人だ! そんなオヤジが自分の想いで苦しんでるだと!? あの人はそんなやわじゃねぇ!」

 怒りのまま怒鳴るヴォルフに対し、ノエルは尚続けた。

「僕は確かに、あなたに比べればラズゴートさんといた時間は長くない。 それでも、ラズゴートさんが苦しんでいる事くらいわかる」

「下らねぇ! 例えそうだとしても、俺達がオヤジを支える! オヤジの命に従う忠実な手足として、オヤジの望みを叶える!」

「ならなんでラズゴートさんはあんな目をしていたんですか!?」

 ノエルの言葉に、ヴォルフは初めてハッとラズゴートの様子を思い出す。

「昨日会った時、ラズゴートさん凄く悲しそうな目をしていました。 表面上はいつも通りにしていてもわかります。 太陽の様に暖かかった目が、あの時は今にも壊れそうなくらい儚く感じました」

「全部てめぇのせいだろが!? てめぇさえ、てめぇさえこっちにさっさと降ってりゃあ、オヤジはあんな顔しなかったんだよ!」

 ヴォルフは関を切った様に話し出した。

「オヤジはな、てめぇに偶然会ったあの日、本当に嬉しそうだったんだよ! あんなオヤジ久しぶりに見たってくらい機嫌が良くてよ! でも暫くしてあの目になった! まるでこうなることが最初からわかってたみたいにな! それでもオヤジは最後までてめぇをどうにか出来ねぇか必死だったんだ! なのにてめぇはそれを全部踏みにじった! オヤジが苦しんでるのを知りながらだ! そんなてめぇが! 俺に偉そうに説教すんじゃねぇ!」

 想いを吐き出し肩で息をするヴォルフに、ノエルは静かに口を開く。

「・・・確かに、僕はラズゴートさんの想いに応える事は出来ませんでした。 それが僕自身が選んだ道でしたから。 それでも僕は進むと決めたんです。 今の僕には支えてくれる人達がいるから。 その人達の為にも、僕はここで立ち止まる訳にはいかないんです!」

 ノエルの言葉に、ヴォルフは自分には強い意思を感じた。

 ヴォルフはラズゴートにかける想いは誰にも負けない自信はあった。

 例え犬と揶揄されようと、ラズゴートを慕い付いていくのが自分の使命だと思ってさえいる。

 だがノエルは違う。

 ノエルから感じたのは前に立つ意思。

 五魔に支えられながらも、ただ付いていくのではなく己が前に立ち、支えてくれる人達と並び、時に導くという強い意思だ。

 ただ付いていくことだけを考えていた自分と、己から前に立とうとするノエルでは重みが違う。

 同時に、黙って見ていると言われた真意もわかった。

 ラズゴートの支えになると言うなら、何故自分で考えずラズゴートの命でしか行動しないのか。

 何故自分でラズゴートの為に出来ること考え、行動に移せないのか。

 それは結局、ラズゴートに頼っているのと同じだ。

 ノエルが言いたかったのはそういうことだったのだろう。

 ヴォルフはそれを感じ、自然に拳を握る力が強くなる。

「・・・てめぇの・・・あんたの言いたいことはわかった。 だけどよ、なら尚更ここであんたを逃がす訳にはいかねぇ! あんたを捕らえてオヤジの保護下に置く! それが俺の考えるオヤジの為に出来る最大の行動だ!」

 再び闘志を巡らせるヴォルフに、ノエルは応える様に構える。

「なら、決着を着けましょう!」

「おおさ! かかってこいや!!」

 先に仕掛けたのはノエルだった。

 ヴォルフの力から後手に回るのは不利と考えた結果の行動だ。

 右手に魔力を込め、渾身の一撃を放とうとヴォルフに接近する。

 対するヴォルフは必殺の狼の(ウルフバイト)で迎え撃つ。

 加減はしない。

 確実にノエルを戦闘不能にするつもりで放つ自慢の牙が、ヴォルフの選んだ最善の一手。

 両者が接近し、その手が激しく激突する。

 ノエルの拳を、ヴォルフの狼の(ウルフバイト)が掴む形で膠着状態になる。

 だが上背もありパワーも上のヴォルフが徐々にノエルを押していく。

 ノエルの右手からはミシミシと骨が軋む音が聞こえ、状況はノエル不利に見えた。

 だがヴォルフは違和感を感じた。

 固い岩盤すら軽々破壊する狼の(ウルフバイト)で握られ、この程度で済むこと事態おかしい。

 それに握ったノエルの拳が尋常ではないくらい固い。

 攻撃に魔力を集中していても、この固さはあり得ない。

 これではまるで逆。

 攻撃ではなく防御に集中しているようだ。

 そこまで考えるとヴォルフはハッとノエルの左手に意識を向ける。

 だが既に遅かった。

 ノエルの左の拳から繰り出された正拳は正確にヴォルフの鳩尾にめり込んでいた。

「これで・・・最後だ!」

 ノエルが渾身の力で拳を振り抜くと、ヴォルフは胃液を吐きながら後方へ吹っ飛んだ。

 右の拳はヴォルフの技を受け止める為の囮。

 その為全魔力を右の防御に集中させ、後は純粋な肉体の力のみでヴォルフを撃ち抜いたのだ。

 魔力と肉体、両方の鍛練を続けてきたノエルだからこそ出来た芸当だった。

 ヴォルフはなんとか立ち上がろうと体を起こすが、遂に力尽き血を吐き仰向けに倒れた。

 ノエルは方膝を付きながら、強敵を退けた事を確信し拳を強く握り締めた。






「たくよ、相変わらず化けもんだな」

「お前さんにだけら言われたくないわい! がっはっはっ!」

 対峙しながら戦闘開始当初と変わらぬ調子で言葉を交わすリナとラズゴート。

 変わっていたのは体に出来たいくつかの傷と、荒れ野原と化した草原の姿だった。


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