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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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魔竜対獣王の爪

 穴の中に落下するクロードはリーティアを使い、なんとか体勢を立て直して着地した。

 そしてすぐに己の前に猫の様にしなやかに降り立った人物、ハンナに戦闘体勢を取る。

 そうしながら、周りに他の仲間がいないか視線を巡らせる。

「無駄よ。 他の人達も仲間達が押さえているわ」

 仮面越しのくぐもった声でハンナは語りかける。

「・・・なるほど、うまく分散されたってことか。 メロウ殿の策かい?」

「正解。 そしてあなたの相手はこの私。 獣王親衛隊が一人、獣王の爪・ハンナが担当するわ」

 ハンナは両手の指先に着けた猫手と呼ばれる鉄製の爪を構えた。

「まさか君と戦う日が来るとはね。 立派になったと誉めるべきか、この事態を嘆くべきか・・・」

「なら今すぐ投降して、他の五魔を説得して。 そうすれば、昔みたいに肉料理ご馳走してあげる」

「それはありがたいな・・・けど、それが出来ないのも、君達なら理解してるよね?」

 クロードの言葉に、ハンナはふぅとため息を吐いた。

「全く、あの頃はちょっと変わった優しいお兄ちゃんだったのに・・・」

「それはこっちも同じだよ。 人懐っこい妹みたいに可愛かった」

 実は五魔の内エルモンドを除く四人は、このハンナを含めた現在の獣王親衛隊主要メンバーと共に過ごした時期があった。

 そもそも獣王親衛隊主要メンバーは、ラズゴートがかつて戦場で保護した四人の幼児と、その世話をしていたメロウで構成されている。

 当時リナ達が五魔になる為ラズゴートに面倒を見てもらっていたこともあり、両者はよく交流し、共に学んだ仲だった。

 当時10代後半だったクロードは皆の兄役を勤める事が多く、ハンナ達共仲良く過ごしていた。

 当時を少し思い出したクロードは、懐かしさを打ち消し目の前のハンナを見据える。

「でもこっちもどうしても後には引けないんでね。 容赦はしないよ」

 クロードは先制とばかりリーティアを使い自慢の熱線、フレアランスをハンナ目掛けて放つ。

 皆と早く合流し、かつハンナを出来る限り傷付けない為に早期決着を狙っての一手だ。

 だが熱線がハンナを貫くと、ハンナの姿がまるで幻の様に消え去った。

「なに!?」

「ちょっと私の事を舐めすぎよ、クロードさん」

 驚くクロードの背後から聞こえたハンナの声に、クロードは急いでその場から飛び退いた。

 するとクロードのいた場所にハンナの爪の痕がクッキリ刻まれた。

「残像・・・そうか、君は黒豹の獣人だったね」

「正確には半獣人よ。 速さだけは今の親衛隊の中じゃ一番だって自負してるわ」

 半獣人とは、獣人と人のハーフの事である。

 人の要素が強いため本来の獣人より弱いとされているが、ハンナのそれは並の獣人より明らかに速かった。

 加えて黒髪に紛れた猫耳とタイトな黒の戦闘装束、そして付けている猫の仮面から覗く獣の眼と、その姿はまさに美しい黒豹そのものと言える。

 クロードは事態を瞬時に把握すると距離を取りつつハンナの頭上にいくつもの炎の球体を出現させる。

「フレアダンス」

 瞬間、いくつもの熱線が雨の様にハンナに降り注ぐ。

 だがハンナはそれをまるで踊る様にするりと掻い潜り、クロードへと距離を詰める。

 ハンナの爪がリーティアの鎧に当たると、クロードは再び距離を取った。

「遅いよ」

 ハンナは素早く背後に先回りし、今度はクロード自身の肩に爪で斬りつける。

 掠めたクロードの肩から血が滲む中、ハンナは攻撃の手を休めなかった。

 ハンナは昔の事もあり、クロードの特性と性格をよく知っていた。

 クロードはリーティアを使った熱線による遠距離攻撃が主体。

 視野も広く、どこにいても正確に狙える精密な魔力コントロールと、莫大な魔力を有している。

 半面、接近戦を嫌う傾向がある。

 理由としては遠距離主体というのもあるが、実はクロードが使うリーティアが一番の理由だ。

 理由は知らないが、クロードにとってリーティアは他の人形とは異なる感情を抱いている。

 故に他の人形と違いリーティアが傷付く事を極端に恐れている。

 リーティアに魔鉱製の特別な鎧を着せているのもそれが理由だ。

 その為ハンナは、距離を空ける隙を与えぬ高速の接近戦に持ち込んだのだ。

 加えて視界に関しても半獣人であるハンナの方が夜目が効く。

 この薄暗い穴の中では、獣の眼を持つハンナの方が圧倒的に有利だった。

 クロードは致命傷を避ける為なんとかギリギリで避けながら熱線で反撃をするが、全てかわされ徐々に傷が増えていく。

(これは、本当に強くなってるね)

 クロードが焦り始めたと感じたハンナは天井も足場に使い、縦横無尽に更に攻める。

 徐々に逃げ場が無くなり、ハンナはクロードとリーティアの防御の隙間を縫っていく。

(これで、終わり!)

 ハンナは渾身の力を込めて、クロードの人形操りの要である右肩に向け、爪を奮った。

「取っ!?」

 だが次に来たのは、顔面への衝撃だった。

 クロードはハンナの勢いを利用し、裏拳をハンナの顔に叩き込んだ。

 仮面がひび割れ、ハンナは後方へと吹き飛ばされた。

「やれやれ、本当に君の成長には驚いたよ。 メロウ殿より速くなってるんじゃないか?」

「な、なんであなたが?」

 予想していなかったクロード自身の生身の攻撃に驚きながら、ハンナはヨロヨロと立ち上がった。

 その時、ひび割れていたハンナの仮面が崩れ、猫眼の綺麗な女の子の素顔を露にした。

「一言で言えば、今度は君が僕を舐めすぎたってことだよ。 人形使いが人形より弱いなんて決めつけちゃいけないよ」

 クロードは子供に諭すように言いながら振り向くと、ハンナを見据えた。

「一流の人形使いっていうのは操者が一番の弱点だってことを理解しているものだよ。 それに戦闘時は人形以上に素早く動かなきゃならないしね。 だから体術に関しては、五魔の中でもリナやレオナにだって負けない自信はあるよ」

「それだけの腕があって、なんでわざわざ人形を・・・」

「それは、やっぱり好きな女性には美しくあってほしいだろ?」

「・・・は?」

 クロードの答えに、ハンナは意味がわからなかった。

「リーティアの戦っている姿は美しいからね。 それを間近で見たいというのが、男心ってものだよ。 あ、でも彼女が傷付きそうになったら、僕は喜んで盾になるけどね」

 半分ノロケてるのかと言いたくなる様なテンションで話すクロードに、ハンナは少し呆れながらもすぐに意識を戦闘に戻した。

「・・・あなたのリーティアさん好きはよくわかったけど、こっちも大好きな父さんの為に戦ってるんでね、まだ付き合ってもらうわ」

 ハンナが四つん這いの体勢で構えると、クロードの表情が変わった。

「父さんか・・・相変わらずラズゴート殿の事をそう呼んでいるんだね」

「当然よ。 私達4人にとって、あの人は実の父と同じ。 だからどんなことがあっても、支えるって決めたのよ」

「・・・ラズゴート殿は幸福者だね。 こんな親孝行な子供が4人もいるんだから」

 そう言いながら、ハンナの覚悟を悟ったクロードも改めて構え直す。

「なら此方も、五魔の魔竜として受けてあげるよ」

「ありがと・・・いくわよ!」

 ハンナはそのまま本物の黒豹の様な跳躍で、一気にクロード都の間合いを詰めた。

 だがその爪が届くよりも速く、ハンナは腹部に強い衝撃と熱を感じた。

「なっ!?」

 リーティアの放つ熱線が突然地面から吹き出し、ハンナの腹部に被弾した。

「言っただろ? 魔竜として相手するって」

 クロードはフレアダンスを放つ時いくつかの球体を作ったが、予めその幾つかを地面に仕込んでおり、今ハンナに放ったのはその一つだ。

 ハンナは熱線の勢いのまま上空に浮きあげられ、そのまま地面へ落下した。

「ぐはっ!?」

 ハンナは地面に背中を叩き付けられ、口から血を吐き出す。

 それでも瞳からは闘志は失わずクロードを見るが、もはや体が言うことを聞かなかった。

「本当・・・昔からズルいんだから・・・」

「悪いね。 でもこっちも君と同じで新しく支えたい人が出来たんでね」

 クロードの言葉に、ハンナは悔しさと少しの満足したような表情を浮かべ意識を失った。

 それを確認するとクロードはふぅ、と息を吐き、リーティアの兜だけを解除した。

「大丈夫クロード?」

「ああ。 思っていたより強くなってたよ。 全く、本当に嬉しいのやら悲しいのやらって感じだね」

 苦笑するクロードに微笑むと、リーティアはハンナの傷を見た。

「どうだい?」

「大丈夫よ。 火傷も酷くないし、痕も残らないと思う」

「よかった。 流石に自慢の娘に痕になるような傷を付けたら、ラズゴート殿に殺される所だった」

「冗談になってないわよそれ」

「ははは・・・でも本当にちょっと危なかったね。 恐らく此方の苦手な相手を宛がわれているんだろうけど、皆このレベルならノエル君やライル君、後ジャバ辺りが危ないかもしれないね」

「なら早く合流しないとね」

 リーティアは頷くと、ハンナを抱えた。

「このまま放っておく訳にはいかないでしょ?」

「まあね。 一応両手は拘束しといて」

「ええ。 急ぎましょう」

クロードはリーティアと共に穴の奥へと進んでいった。






 ズガンという轟音が鳴り響き、衝撃から破片が舞い散る中、薄明かりが照らし出すのは全身鎧(フルアーマー)の戦士と、壁に吹き飛ばされめり込んでいるジャバの姿だった。 

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