魔帝・ノルウェ
今回は一応五魔全員出ます(笑)
反魔帝軍が城に押し寄せようした前日・・・王の間に魔帝と五魔が集まっていた。
「ふざけんな!!」
鎧姿のリナは目の前の人物、魔帝ノルウェに怒りを露にしている。
「まあ落ち着きなよリナ」
「これが落ち着いてられるかってんだ!」
リナ怒りに任せ脇に抱えていた兜を床に叩きつけた。
先程リナを宥めたローブに仮面の男・・・魔人ルシフェルこと、ルドルフ・ミレ・エルモンド はそれに動じることなく、兜を拾った。
「これが彼の考えた結果だ。 僕達はそれに従うだけだよ」
「納得出切るわけねぇだろ!? あいつらが攻めてきてるってのに・・・なんで俺らがあんた置いて逃げなきゃなんねぇんだよ!?」
肩で息をしながら睨み付けるリナに、ノルウェは静かに口を開く。
「フェルペスの狙いは私だ。 ならば私だけ残りお前達はそれぞれ逃げ延びても問題はない」
「そんなこと言ってんじゃねぇ! なんで連中を返り討ちにしねぇ!?」
「確かに・・・我らの力があればフェルペスの軍を倒すことくらい造作もないはずですが?」
プラチナアーマーで全身を包んだ戦士、魔竜バハムートの疑問にノルウェは首を振る。
「お前達なら、確かにフェルペスの軍を倒せるだろう・・・だがそれでは意味がないのだ」
「どういうこと?」
スカルヘルムの戦士、魔器デスサイズが首を傾げる。
「・・・私が今回の戦いで死ぬ事こそ・・・私の最後の役目だからだ」
その言葉に、エルモンドを除く全員が動揺する。
ノルウェはさらに続けた。
「恐ろしい魔帝が死に、優しい王フェルペスが起つ事で国内の不安は軽減し、新たな国作りをしやすくなる。 加えて、周辺諸国も魔帝を倒した男を警戒し、無闇に攻めてこなくなる。 交渉もしやすいだろう。 そうなれば私が魔帝である意味も無くなる・・・」
「ふざけんな!!」
ノルウェの言葉を遮り、リナはその襟首を掴み押し倒す。
「そんなんでいいわけねぇだろ!? 国や政治なんて俺にはわかんねぇ! でも・・・一番国につくしてきたのはお前だ! そのお前の最後が死ぬことなんて! そんなこと許せるか!」
興奮するリナの頬に、ノルウェは優しく触れた。
「・・・すまない・・・だが最初から決めていた事だ・・・」
「違う・・・謝ってほしいんじゃない・・・俺は・・・俺は・・・」
リナの瞳に涙が滲む。
本当はわかっている。
ノルウェが考えを変える事はないことを、これがノルウェの望みなのだと。
それはノルウェこそ、誰よりもこの国を想い、国の平和を願っている事を知っているからだ。
リナだけではない。
五魔全員が、ノルウェの想いを理解していた。
「・・・相変わらずお前は優しいなリナ・・・多少不器用過ぎるが・・・」
「お前にだけは・・・言われたくねぇよ・・・馬鹿野郎・・・」
力なく呟くリナの手を退けると、ノルウェは立ち上がり皆を見渡す。
「魔帝・ノルウェ・アルビアの最期の命を伝える・・・五魔は本日を以て解散。 この場を逃げ切り、それぞれの人生を歩んでくれ。決して、復讐や後を追う事はするな・・・いいな?」
暫しの静寂の後、エルモンドが部屋を出た。
続いてバハムート、デスサイズ、ジャバウォックと続き、最後にはリナも、王の間を後にした。
去るリナの耳に「ありがとう」と言う声が最後に聞こえた。
「それが俺の見たノルウェのおっさんの最後だった」
話し終えたリナはライルの渋すぎる紅茶を一口飲んだ。
「たく・・・これじゃ一息つけねぇな・・・」
毒づきながら、リナは苦笑する。
「あいつは色んなもんを見据えていた・・・俺じゃわかんねぇ色んな事をな。 その為に自分の出来る事を全部やった・・・本当、大した王様だったよ」
リナは改めてノエルを見ると、じっと聞いていたノエルがうつ向き、目から大粒の涙を流していた。
「父さん・・・」
やはり父は自分の知ってる父だった・・・そう知ったノエルは涙が溢れ、その姿にずっと聞いていたライルの目にも涙が滲んでいた。
「・・・ノエル」
リナに呼ばれ、ノエルは涙を拭い向き直る。
「はい・・・」
「最後に聞かせろ。 お前は何の為に動いた? アルベルトが死んだってお前には関係ないだろ? そのまま動かなきゃ、今でも平穏に暮らせた。 ノルウェのおっさんがそれを望んでたのくらい、お前ならわかってんだろ? なのになんで動いた? わざわざ聖帝に目をつけられてまで何で動いた?」
暫しの沈黙の後、ノエルは静かに口を開く。
「・・・父さんが僕に平穏な生活を望んでたいたのは知っています。
父さんが魔帝と気付いた日から、いつか父さんが討たれ、僕をその争乱に巻き込まない為にあそこに僕を住まわせたのも・・・でも・・・それでも僕は行くと決めたんです」
「復讐か?」
ノエルは静かに首を横に振った。
「聖帝に復讐する気はありません。 父さんもそれを望んでないと思いますし。・・・ただ、聖帝が本当に父さんの守ったものを壊そうとしているのか、本当なら何故そんなことをしようとしているのか・・・僕はそれが知りたい。 そしてそれが本当に悪しき事なら止めたい・・・ただそれだけです」
その時、リナの瞳にノエルとノルウェが重なって見えた。
(・・・親子揃って・・・優しそうなくせにこういう時だけ意思の強そうな目をしやがる・・・)
自然とリナの口角が上がった。
「いいだろう・・・この魔王ディアブロの力! 特別に貸してやる! ありがたく思えよ!」
「!・・・ありがとうございます!」
魔王ディアブロ・リナの言葉に、ノエルは頭を下げる。
「よし、そうと決まればまず・・・」
「ぬああああ!! よかったな小僧!!」
リナの言葉を遮り、ずっと黙っていたライルがノエルに飛び付いた。
よく見ると顔か涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「え!?ちょっとライルさん!?」
「おれぁ姉さんの魔帝の話とお前の姿に感動しちまった!! そうだよな! 親父さんの守った国守りてぇよな! にしてもそんな立派な人殺っちまうなんて! やっぱり俺聖帝大嫌いだ~!!」
「いや、だから僕は聖帝本人には・・・」
「俺が力貸してやる! 姉さんと俺が揃えば聖帝なんか・・・」
「お前は喧しいんだよこのドアホが~!!」
「ぐばら!?」
ライルはリナの拳骨で床にめり込んだのだった。
二人のやり取りに驚きつつ、力を貸すと言ってくれた二人の気持ちに、ノエルは笑みをこぼした。
「たく、話の腰折りやがって・・・」
「す、すんません・・・」
床から這い出たライルがリナに謝る姿を見ながら・・・よく体持つな・・・と内心感心していいのか驚いていいのかわからないノエルだった。
「え~と・・・とりあえず最初に言っとくが、俺はお前に仕えるとかじゃなくてあくまで力を貸すだけだからな。 命令とかすんなよ」
「勿論です。 よろしくお願いします、リナさん」
「よし、んじゃ早速だが・・・お前はライルと戦え」