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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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ライル対獣王の目


「のあああああ!?」

 ラズゴートの開けた巨大な穴を、ライルは絶叫しながら落ちていた。

「ぐ!? こなくそ!!」

 ライルはなんとか空中で体勢を起こすと壁に向けて掌底を放つ。

 掌底が岩壁に当たると、ライルはその勢いで横に跳ねた。

 その結果落下する速さが弱まり、ライルはそのまま地面に転がる様に着地した。

「いつつ・・・やっぱりあのジジイ仕掛けて来やがったじゃねぇか・・・はっ! ノエル! 姉さん!!」

 起き上がりながらノエル達の事に気付きライルは大声で叫んだが、周囲に自分の声が反響するだけで返事はなかった。

「くそ! こんなあっさりハメられちまうなんて」

 ライルは自分の不甲斐なさに歯軋りした。

 ライルはノエルやリナと違いラズゴートを信じてはいなかった。

 だからこそ最も警戒し、何があろうとすぐ反応出来るようにしていたのだ。

 だが結果は見事に向こうの策にハマり分断された。

 只でさえ自分らしくない所を見せてノエル達にいらぬ心配をさせていたというのに、これでは完全に空回りもいいところだ。

 ライルは一旦息を深く吐き、なんとか冷静になろうとした。

 辺りを見回すと薄暗いが、目が慣れればある程度視界は効く。

 登れるかと思い上を向くと、てっぺんが見えない位岩壁が高く伸びており、とても無理そうだった。

「・・・とにかくノエル達を探さねぇと。 あのジジイがまたきたねぇ手を使ってたらやべぇしな」

「ふぇっふぇっふぇっ、意外に器用な小僧と思ったが、頭の方は空みたいじゃの~」

「!?誰だ~!!?」

 ライルは突然した声に反応し振り向いた。

 すると天井部分に覆面とゴーグルで顔を隠した黒装束姿の小柄な男が、蝙蝠の様に逆さの状態で立っていた。

「てめぇ! ラズゴートとかいうのの手下か!?」

「その通り。 獣王親衛隊が一人、獣王の目・メロウじゃ。 よろしくな小僧」

「何がよろしくだ! だが丁度いい。 ぶちのめして出口吐かせてやらぁ!」

 ライルは跳躍すると一気にメロウとの距離を縮めると殴りかかる。

 メロウはそれをひらりとかわし、ライルの後ろへと着地した。

「ふぇっふぇっふぇっ、全く手が早いの~。 ちっとは落ち着け」

「うっせぇ! こちとらあのジジイのつまんねぇ騙し討ちでムシャクシャしてんだ!」

「だからお前は頭が空なんじゃ」

「んだと~!?」

「戦闘ってのは遊びじゃない。 この程度の駆け引き位出来んでなんとする。 まあわしから言わせれば、わざわざ1度出向いて話をする時点でラズゴートの小僧も甘いがの」

「この野郎ベラベラと・・・」

「第一今回の策を考えたのはわしなんじゃからラズゴートに文句言うのはお門違いもいいところじゃ。 そもそもあやつは策を考えるのが苦手でな、その手のことは全部わしがやっとるのよ。 そんなことも見抜けんとは、ノエルっちゅう小僧もこんなのが仲間じゃ苦労するの~」

「じゃあ今からてめぇに文句言ってやるよ! 拳でな!!」

 長々と話すメロウに苛立ちライルは再び攻撃を始める。

 だがライルの連続で繰り出される拳を、メロウは笑いながら軽々とかわしていった。

「ふぇっふぇっふぇっ、単調単調。 本当単細胞じゃの~。 これじゃ猛牛の方がまだ頭使っとるぞ」

「うるせぇんだよ!」

 ライルはメロウの顔面に蹴りを放つ。

 メロウはそれをヒョイとかわすと、ライルが見たことのない刃物を何本か投げた。

「んなもん食らうか!」

 ライルは後ろに跳ね刃物を全てかわすと挑発的な笑みを浮かべる。

「どうした!? 偉そうなこと言って、こんなヘンテコなナイフ投げるだけか!?」

「無知とは恐ろしいの~。 こいつはヤオヨロズにあるくないっちゅう武具でな、投げてよし、斬りつけてよし、更に穴を掘ったり壁を登るのにも使え、ロープとの併用も出来る優れもんじゃ。 何より・・・」

 メロウの様子に何かを感じたライルは先程避けたくないを見た。

 だがそれが失敗だった。

 くないは破裂すると同時に強い閃光を放ち、ライルの目を襲った。

「ぐあああ!? な、なんだこりゃ!?」

「こいつは色々加工がしやすくてな。 どうじゃ? この暗さで浴びる閃光の味は?」

「こ、この野郎!!」

 ライルは気配を頼りに拳を振るうが、それは全て空を斬るだけだった。

「ふぇっふぇっふぇっ、まあ落ち着け。 わしらはお前達を殺す気ははい」

「な、なんだと?」

 驚くライルに対して、メロウは余裕のまま「どっこらせ」と腰を下ろした。

「わしらの第一目標はノエルの小僧の保護じゃ。 だからこうしてお前達を分散させて、それぞれ足止め役を付かせたんじゃからな。 まあラズゴートの本音は全員確保したいんじゃろうがそれは流石に荷が重いからの」

「へ、随分余裕じゃねぇか。 姉さん達を簡単に足止め出来ると本気で思ってんのか?」

「無論じゃ。 リナにはラズゴートを付けたし、他の連中もわしが苦手な相手を選んだんじゃからな」

「なんでんなもんがわかんだよ?」

「そりゃわしが連中のことをガキの頃から知っとるからじゃよ」

「な、なんだと!?」

 ライルの反応にメロウは意外と言う様に目を丸くした。

「なんじゃ? お前さんそんなことも聞いとらんかったのか?」

「てめぇどういうことだ!? 説明しやがれ!」

「ふぇっふぇっふぇっ、まあいいじゃろ。 そもそも五魔っちゅうのはルシフェルのエルモンドが集めた連中じゃ。 その時ラズゴートの小僧も同行した事があってな、連中に戦い方を教えたりと何かと面倒見とったんじゃよ。 わしはその時からラズゴートと一緒にいてたまにその光景を見とったのよ。 特にリナの小娘はよく突っかかっては吹っ飛ばされとったわ」

 ケラケラ笑うメロウの話に衝撃を受けつつ、ライルは何故リナ達がラズゴートを信用するのか理解した。

 メロウの話を信じるならリナ達にとってラズゴートはある種の師弟の様な関係だ。

 しかも子供の頃からならその絆はかなり深いはず。

 だからこそリナ達はあんなに簡単に警戒を解き、こうしたラズゴートの話を信じたのだ。

「しかしお前さんリナの小娘とはそこそこ長くおるくせになんも知らんの。 信頼されとらんのじゃないか?」

 その言葉に、ライルの中で何かがブチッと切れた。

「てめぇ・・・よく知りとしねぇで俺と姉さんの関係を語るんじゃねぇ!」

 ライルは拳を繰り出しメロウが座っていた場所を砕いた。

 メロウはライルの拳を上に跳ねて避けると今度は天井に張り付いた。

「ふぇっふぇっふぇっ、怒ると勘だけはよくなる様じゃの。 しかしそんだけ怒るっちゅう事は、自覚があるんじゃないのか?」

「うるせぇ!」

 ライルはメロウのいる方に攻撃を繰り出すが、メロウは挑発を止めなかった。

「1つ教えてやろう。 今回の戦いの前にギゼルの小僧の分析データとやらを勝手に見たんじゃが、お前さんの事はなんと欠いてあったと思う? 格闘能力を多少確認。 それ以外の特記事項なし、じゃと。 完全にその他大勢扱いじゃの~」

「うるせぇ!」

「更に今回のわしの策、他の連中はそれぞれ適した相手に宛がったが、わしに関してはノエルと五魔以外の全員を相手にすることになっとった」

「んだと!?」

「分散させた後は弱い連中をさっさと片付けて、他と合流するのが定石じゃ。 わしはお前を片付けた後他の助っ人も兼ねとったんじゃよ。 しかしゴブラドがおらんで助かったわ。 あやつがおったらもっと手こずっておったろうからな。 いや~助かったわ」

「この・・・くそジジイ!!」

 ライルは完全に冷静さを失い、全ての攻撃は空を斬るだけだった。

 これこそメロウの狙い。

 獣王親衛隊での彼の担当は諜報と作戦立案。

 ゆえに相手を観察し、瞬時にどの様な手が有効か見抜くのに長けている。

 今回もライルの性格を瞬時に見抜き、こうして挑発と絡め手を混ぜて対処していたのだ。

 「く、この・・・うおあ!?」

 ライルは足をもつれさせその場に倒れてしまった。

「あ~あ、情けないの~。 ま、わしの定石の策にかかれば、おまかせごときこの程度よ」

「じょ、定石定石って・・・んなもん簡単に潰せる使いふるされたやつだろうが」

 肩で息をしながら挑発返しをしようとするライルに、メロウはやれやれと呆れた様に首をふった。

「全く、ヴォルフといいお前といい、最近の若いもんはなんも分かっとらんな。 そもそも定石とは、その場で使えば絶大な効力を発揮し、皆が使う様になったから定石と呼ばれるんじゃ。 場所や敵の状況をしっかり把握しとればこれほど優れた策はない。 んなこともわからんとは、やっぱりおつむは駄目じゃ

な・・・となるとヴォルフのおつむがこやつ並っちゅう事になるの。 そりゃいかんな」

「んなことはどおでもいい・・・俺はお前をぶっ飛ばすだけよ!」

 再び立ち上がってくるライルを見ながら、メロウはあることを感じていた。

「(全く諦めの悪い小僧じゃの~・・・しかしどこか見覚えがある様な・・・この荒削りながら消える事のない闘志、褐色の肌にあの体躯・・・誰かに似とる様な・・・)小僧、お前こっちの元関係者かの?」

 メロウの言葉に、ライルの動きが止まった。

「・・・なんだと?」

「いや~、お前さん見とるとな~んか誰かに似とる気がしての~。 こっちに血縁者でもいるんかと思っての」

「・・・やめろ」

 ライルの声色の変化に、メロウは新しい挑発のネタだと思い更に追求を続ける。

「いや、確実に見たことあるんじゃ。 特にお前さんの時折見せる体術擬きが誰かに・・・あれは確か・・・」

「やめろって言ってんだろ~!!!」

 ライルはメロウの方向へ拳を繰り出した。

 距離が離れ届く筈がないその拳に、今まで完全に遊んでいたメロウは初めて危機感を覚え瞬時に避けた。

 すると避けたメロウの顔を物凄い拳圧が掠め、覆面とゴーグルを弾き飛ばし、背後にあった岩壁を粉々に砕いた。

 素顔を露にしたメロウはその拳にハッと何かを思い出すと笑いだした。

「ふぇっ・・・ふぇ~っふぇっふぇっふぇっ! そうか! 思い出した! その拳! お前さんあの男の子か!? かつて魔帝の元でラズゴートと肩を並べ、共に王の名を関した男! 拳王・ドラグ・ギエンフォードの!」


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