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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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作戦会議

「んな話信じられる訳ねぇだろ!!」

 ラクシャダに戻ったノエル達の話を聞き、真っ先に反応したのがライルだった。

 既にいつもの応接間には先に帰ってきていたライルとゴブラドから話を聞き、クロードとリーティアが集まり、ジャバも窓を覗く形で待っていた。

 そんな中、ライルの怒る様な反応にリナは首をかしげる。

「なにそんなにイラついてんだよ? お前らしくもねぇ」

「だって野郎はノエルの親父さん裏切った野郎だ! そいつが言うことなんか本当かどうかなんてわかんねぇだろ!? 第一被害小さくしてぇんなら姉さん達みたいにただ出ていきゃよかったじゃねぇか!?」

「いや、彼の場合そうはいかない」

 ライルの言葉をクロードが否定した。

「僕達はある種の独立部隊みたいな役割だった。 だから兵を纏めたりとかもしないし、その点色々自由が効いた。 でもラズゴート殿は僕達が出てくる前から国を支えてきた名実共に軍の重鎮の一人。 多くの兵を指揮する立場だ。 彼の行動1つに大きな影響力をあったんだ。 そんなもし彼が単独で離反なんかしたらどうなる? 聖帝に下る兵もいるだろうけど、必ず暴走する兵や将校達が出ていただろう。 そして聖帝と激突して、本格的な魔帝対聖帝の内戦に発展しかねない」

「でもよ! あいつ以外にも将軍やらなんやらはいたんだろ!?」

「勿論ラズゴート殿以外にも指揮の出来る将はいた。 だけど彼等にはラズゴート殿程の影響力はない。 むしろラズゴート殿に心酔していた者も大勢いるから、やけになり暴走する可能性が高い。 それだけラズゴート殿の存在は大きかったんだ。 ノルウェ陛下がそれを恐れ、軍の抑え役としてラズゴート殿に聖帝に下るよう命令したのは納得できる理由だ。 少なくとも、ノルウェ陛下とラズゴート殿をよく知っている僕達からすればね」 

 そこまで言われ、先程までの勢いは無くなったがライルはまだどこか納得していないようだった。

「・・・でもよ、明日のことはどうなんだよ? 本当に信用して行っていいのか?」

「ラズゴートいい奴! あいつ、昔おれに色々教えてくれた! だから嘘つかない!」

 ジャバにまでラズゴートを肯定するようなことを言われ、言葉に詰まるライルの肩にリナは静かに手を置いた。

「お前がなんでラズゴートのおっさんにそんなにムキになってんのかは知らねぇが、今は俺らを信じろ。 いいな?」

「・・・ウス」

 いつもの拳骨ではなく諭す様に話すリナの行動に、ライルはまだ思うところがある様だったが引き下がった。

 ライルを落ち着かせたリナはノエルに目配せする。

「では、明日の事ですが、僕は受けるつもりでいます。 ここで逃げても意味はありませんし、むしろ受けた方が後々いいと思うんです」

「俺らは構わねぇよ。 やり合うんならわかってる方がやり易いからな」

 リナの言葉にレオナ達が頷いた。

「それじゃあ明日のメンバーですが、その前にラズゴートさん達の戦力が知りたいですね。 何か分かりますか?」

 ノエルの質問に、クロードが口を開いた。

「ラズゴート殿の能力は単純だよ。 純粋なまでのパワー。 ノエル君はそれを見ているはずだけど?」

「はい。 正直まともに戦って勝てる気がしませんでした」

「その通り。 ラズゴート殿のパワーは砦の壁を粉砕し、地面を隆起させる程だ。 しかもあの巨大な斧により更にその威力を増している。 加えて、彼は一番苦しい時期のアルビアで戦い抜いた経験がある。 はっきり言って、今までの相手とは別格と思っていた方がいい」

「それはあのクリスって人よりもですか?」

「そうね・・・あたしは両方知ってるけど、今日見たラズゴートさんはあのクリスよりも強いと思う」

 同じ聖五騎士団の最高幹部であるクリスより強いというレオナの評価に、ノエルは思考を巡らせる。

「そうなると・・・まともにぶつかれるのは・・・」

「リナとジャバくらいだね。 勿論僕とレオナも戦えるけど、正面から戦ったら確実に苦戦はするだろうね」

「おれ、ラズゴートと戦いたくない」

「心配すんな。 俺がうまくやるよ」

 ジャバを慰めるリナにノエルは視線を向けた。

「ラズゴートさん個人の事はわかりましたが、問題は明日どう来るかですね」

「確か精鋭連れてくるっつってたから、獣王親衛隊の奴等だろ」

「獣王親衛隊?」

「ラズゴート殿直属の獣人部隊の中でも更に精鋭だと聞いている。 彼が連れてくるとしたらまずその精鋭だろう。 問題は誰を連れてくるか・・・」

 リナの言葉を捕捉する形のクロードの説明にノエルは考えを纏めようとする。

「どんな人がいるかはわからないんですか?」

「昔なら何人かはわかるけど今の隊員までは流石にわからないよ。 ただ言えるのは、ラズゴート殿が此方が何人連れてきてもいいと言える程の実力者ってことなのは確かだよ」

「あれから10年だから、あたし達と戦えるのが増えててもおかしくないものね」

 レオナの言葉に頷きながらも、リナ達五魔と互角に戦えるという者がノエルには想像できなかった。

 今まで戦った中で唯一互角と思ったのが先程話したクリスくらいだったのもあるが、リナ達は今までの戦いでどこかしら余裕を持っていた。

 だから今回のどこか真剣なクロード達に、ノエルはこの旅一番の危機感を覚える。

「まあなんだ。 誰が来ようといつも通りやりゃいいんだろ?」

「いや、リナさん、そんな単純な・・・」

「単純だろ? だって目の前の相手と戦えばいいだけじゃねぇか。 んで勝って前に進むだけだ。 なんも変わんねぇだろ?」

 いつもの調子で話すリナに、ノエルを始め少し張り詰めた空気が和らいだ。

「全くあんたは、本当単純なんだから」

「こんくらいがいいんだよ。 実際、昔だってこんな感じだったろ」

「・・・否定できないのが少し悔しいね」

 レオナとクロードもやれやれと言いつつ、笑顔が戻った。

 リナの言う通り、今までも敵の情報がない中戦い、切り開いてきた。

 今回もやることは同じ。

 聖獣ラズゴートという言葉に惑わされず、己の出来る全力を尽くせばいい。

 ノエルはそう決意し直した。

「ならあまり考えすぎても仕方ありません。 明日のメンバーは僕とリナさん達、そしてライルさんとジンガでいきます」

「ジンガを連れていくのかい?」

「明日の場所は決まっていますが、いきなり襲ってくる可能性もあります。 だからジャバさんとジンガの鼻でそれを察知出来ればと思ったんです」

 ノエルの説明にクロードはなるほどと納得し頷いた。

「後ゴブラドさんにはここに残って他のゴブリン達と警戒をお願いします。 もしかしたらラクシャダを狙ってくる可能性も・・・ゴブラドさん?」

 ノエルに反応せず、ゴブラドは何か難しい顔をしたまま固まっている。

「ゴブラドさん、大丈夫ですか?」

「ん・・・あ、はい! なんでしょうか?」

 漸く気付いたゴブラドは慌ててノエルに向き直る。

「ゴブラドさんには残ってラクシャダの警戒をしてもらいたいんですが、大丈夫ですか?」

「はっ! このゴブラドにお任せください!」

 力強く頷くゴブラドに、ノエルはどこか違和感を覚えた。






 その後、場所の確認を済ませてノエル達は各々の部屋に解散した。

 だがノエルはどこか落ち着かなかった。

 恩人であるラズゴートと戦わないといけないこともそうだが、それ以上に気になることがあった。

 1つはライル。

 普段ぎゃあぎゃあ騒ぐ事が多いが、真はしっかりしており冷静な部分もあるライルが、今日は珍しく取り乱した。

 ラズゴートと遭遇した時もリナ達が警戒を解いた後もライルだけは警戒を解かなかった。

 考えてみれば自分はライルの事をあまり知らない。

 リナの舎弟になる前は元荒くれもののリーダーというのは聞いたが、それ以外はライル自身話そうとしなかった。

 それに何か関係があるのか。

 同様にゴブラドの事も気になった。

 ラズゴートに会ってからずっと何かを悩んでいるような気がした。

 一体二人に何があったのか・・・ノエルはどうも落ち着かず、部屋から出た。

 気分転換に屋敷の外に出ると、一人佇んでいるゴブラドの姿を見つけた。

「ゴブラドさん」

 声をかけられ、ゴブラドはノエルに気付き笑顔を見せた。

「これはノエル様。 どうされましたか?」 

「いえ、なんだか落ち着かなくて」

「お気持ち、お察しします」

 いつものゴブラドではあるが、やはりノエルは違和感を感じた。

「ゴブラドさん。 何か迷っているんですか?」

 そう言われ、ゴブラドは体をピクッと震わせた。

「いえ、そういうわけでは・・・ただまさかラズゴート様と対立する日が来るとはと思い、少々戸惑っておりました」

「ラズゴートさんと?」

「ええ。 以前ノルウェ陛下に亜人を救っていただいたお話を覚えていますか?」

 ノエルは静かに頷いた。

「ノルウェ陛下のお陰で、多くの亜人が普通に暮らせる様になりました。 ですがそのきっかけはラズゴート様でした」

「?どういうことですか?」

「当時の大戦の時、ラズゴート様は戦場でとある獣人と出会いました。 その獣人は4人の幼子の獣人を連れていたそうです。 その幼子全員が孤児でした。 当時ラズゴート様は戦争による孤児だと思いましたが、それは違いました。 子供達は皆人間による虐待で親を殺されたのです。 ラズゴート様はその時始めて亜人の現状を知ったそうです。 その後、ラズゴート様はその幼子達と獣人を保護し、ノルウェ陛下へ報告しました」

 その時ノエルは漸くゴブラドの迷いの正体を理解した。

 ノルウェの亜人への政策のきっかけはラズゴート。

 つまり、ゴブラドにとってラズゴートはノルウェと同等に恩のある大事な存在なのだ。

 その大恩人と対立しなければならない状況に、困惑していたのだ。

「・・・すみません。 ラズゴートさんと対立させてしまうなんて」

「ノエル様。 それは違います」

 謝るノエルに、ゴブラドは真剣な眼差しで向き合った。

「確かにラズゴート様にはノルウェ陛下同様大恩があります。 ですが、ノエル様に付いていくと決めたのは紛れもない私の意思。 それは例えラズゴート様と戦うことになろうと変わりはしません」

「ゴブラドさん・・・」

 ゴブラドはノエルに膝まづくと、深々と頭を下げた。

「このゴブラド、何があろうとノエル様と共にあるという想いに一片の曇りもございません。 ですのでどうか、明日は思いきり戦ってきてください。 ここは我らゴブリン一同、全力で死守いたします」

「ゴブラドさん・・・ありがとう」

 ゴブラドの想いに感謝しながら、ノエルは改めて明日のラズゴートとの一戦に覚悟を決めた。


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