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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
46/360

聖獣の来訪

 ゴンザ達と別れ数日、西にいるという魔術師のいる場所へ向かっていたノエル達は、補給の為近くの町に立ち寄っていた。

「これだけ買えばもういいだろ?」

「駄目ですよ。 後砂糖と料理用のお酒と・・・あ、カボチャ買い忘れた」

「あたしレバーも欲しいな」

「ケーキ用のイチゴもまだでしょ」

「・・・もう少し荷物持ちを労ってくれよ」

「はは、お疲れ様ですライル殿」

 例のごとく荷物持ちをさせられているライルがガックリ項垂れるをゴブラドが慰めた。

 今や台所を仕切っているノエルと元食堂で働いていたレオナ、荷物持ちのライルと面白半分でくっついてくるリナ、そして大量の荷物を持たされるライルを心配して付いてくるようになったゴブラドが最近の買い物メンバーだ。

「すみません、ゴブラドさんにまでこんなに持たせてしまって」

「いや構いませんよ。 ノエ・・・黒騎士殿のお役に立てるのは、(わたくし)にとって大きな喜びですから」

 ゴブリンの中では規格外の体格で筋骨粒々のゴブラドは、ライルと同じくらいの荷物を持たされているにも関わらず、その姿は爽やかなものだった。

「やっぱりゴブラドさんって頼りになるわね」

「やっぱり男の人はこれくらいの方がいいですよね。 ね~ライルさん」

 おしとやか状態のリナに言われると、ライルはある意味普段のがさつな状態で言われるよりグサッと何かを刺される感覚がした。

「~だぁ~!!もう、わかりましたよ! どんどん持ってこい!!」

 やけになったライルに隠れ、リナがいたずらっぽい笑みを浮かべ、それを見たノエルは苦笑した。

「がっはっはっ! なかなか賑やかじゃのう! お前さんの仲間は!」

 背後からの聞き覚えのある笑い声にノエルは振り向いた。

「!ラズさん!」

 かつて崖から落ちた所を助けてくれた老人ラズの姿に、ノエルは兜の中で思わず笑みをこぼす。

「お久しぶりです。 お元気そうで何よりです」

「おお! わしは相変わらずよ! お前さんも元気そうで何よりじゃ! がっはっはっ!」

 ラズは嬉しそうにノエルの頭に軽く手を置くと、リナ達に視線を向ける。

「お前さん達も元気そうで何よりじゃ」

「え?」

 ラズの言葉にリナ達の方を向くと、レオナとライルは警戒し、ゴブラドは驚きで固まり、リナは普段のリナの顔になっていた。

「あんたも年の割には変わらねぇな、ラズゴートのおっさん」

「体だけが取り柄での。 お陰でなかなか隠居出来ん」

「する気なんか更々ないくせに」

「バレたか? がっはっはっ!」

「リナさん、これはどういう・・・」

 事態が飲み込めないノエルに、ラズゴートは先程より表情を引き締め向き直る。

「・・・本当はもちっとラズじいさんでいたかったんだが、仕方ないの。 改めて名乗ろう。 我が名バスク・ラズゴート。 かつて魔帝・ノルウェ陛下に仕えた獣王にして、聖五騎士団の聖獣・ミノタウロスの名を冠する者」

 ラズゴートの告白に、ノエルは驚きで目を見開いた。

 それも当然だ。

 聖獣とは、かつてラズゴート自身が語った魔帝を裏切った張本人なのだから。

「ラズさんが・・・聖獣・・・」

「・・・どうだ? わしが憎いか?」

 ノエルを真っ直ぐ見据えて問うラズゴートに、ノエルは己を落ち着かせ静か首を横に振った。

「いえ。 確かにあなたは父を裏切った人です。 でも少なくとも、僕の知るラズさんは、理由もなく自分の欲だけで誰かを裏切る様な人じゃありません・・・ですよね、リナさん?」

 ノエルの問いかけに、リナはフッと笑い、警戒を解いた。

「ま、俺達もある意味似たようなことしてっからな。 それにあんたの馬鹿が付く程の忠誠心を、俺もレオナもよく知ってる」

 リナの言葉に応えるようレオナも警戒を解いた。

 というより、リナとレオナは念のため警戒していただけで、敵意は最初からなかった。

 その様子に、ラズゴートはふぅっと小さく息を吐く。

「たく・・・相も変わらず甘いの~。 だが、ちょっと嬉しいぞ」

 少し顔を緩めたラズゴートはすぐにまた引き締め直した。

「それも含め少し話がある。 近くにわしの馴染みの店がある。 ちょっと付き合え」

 ラズゴートが歩き出すと、ノエル達は顔を見合わせ、荷物をライルとゴブラドに任せ、付いていくことにした。






 暫くして、着いた場所は飲み屋だった。

 昼間にも関わらず客で賑わい、店内はなかなか騒がしかった。

「ここなら周りもうるさいし、人の話なんぞ聞く様な連中もおらん。 腹割って話せるってもんよ」

 ラズゴートはそう言うと奥の席にノエル達を連れていった。

 レオナとノエル、リナが座ると、ラズゴートは3人に向かい合う様にドカッと座った。

 ラズゴートは怪しまれないように適当に注文をし、飲み物と料理を持ってこさせた。

「さて、話をする前に、ちとやらねばならないことがあるな」

 ラズゴートはノエルに頭を下げた。

「これまで貴方をノエル殿下と知りながら、身分を隠し、数々の無礼な振る舞い、誠に申し訳ありまぬ」

「え、いやその、止めてください! 僕はそんな殿下なんて呼ばれる様な・・・」

「無駄よノエル君。 さっきも言ったけど、ラズゴートさんは忠誠心が人の皮被って歩いてるような人なのよ。 だから自分の昔の主人の息子に対して礼を払うのが、この人の筋なのよ。 でも流石に今それはちょっと目立つから控えた方がいいと思うけどね」

「わかっとるわ。 これはわしなりのけじめだ」

 レオナに言われ、ラズゴートは頭を上げる。

「てか、おっさんどうやって俺達の居場所見つけたんだよ?」

「内には探し物が得意な奴や鼻が効くのが何人かいてな。 お前さんらの目撃情報を元に匂い辿ったらすぐ見つかった」

「流石獣王ってとこか」

 そこまで話すと、ラズゴートは改めて向き直る。

「さて、わしがここに来た目的はお前さんらにある提案をする為じゃが、その為にまずいくつか話しておかなければならないことがあるな。 まずは・・・わしの裏切りについてかの」

 ラズゴートは当時を思い出すように静かに語り始めた。

「まずは、お前さんらの言うように、わしの裏切りはノルウェ陛下の指示だった。 わしが率いる主軍が反魔帝軍と全面的に戦えば被害がでかかった。 更に言えば、陛下の望みは己を悪役にした世代交代だ。 負けたとしても、フェルペス陛下に大打撃を与えては他国が攻められやすくなるし、ましてや国の建て直しに大きな遅れが出る。 だからフェルペス陛下にわしを付かせ、早期決着をさせる必要があった。 まあ、そこら辺はリナ達も似たようなもんだろうな」

「まあな。 今までで一番やな命令だったよ」

「そこはわしとて同じよ。 考えてみれば、ノルウェ陛下に口答えしたのはあれが最初で最後だったの」







「なりませぬ!!!」

 リナ達五魔を解散させた翌日、アルビア城の王の間にラズゴートの怒号が響いた。

「陛下の意図はわかります! しかし! この国の為一番御心を痛めながら力を尽くしてきたのは陛下でございます! その陛下が死んでいい通りがございませぬ!!!」

 ラズゴートの反論に、ノルウェは目を丸くしたがすぐ柔らかい表情を浮かべた。

「初めてだな。 あなたが私に口答えしたのは・・・」

「無礼は承知しております。 わしの様な武骨な者が陛下に口答え等・・・」

「いや、そんなつもりはない。 ただあなたの反応が少し意外だったので、驚いただけだ」

 そこまで言うと、ノルウェは表情を引き締めた。

「だがこればかりは君の言葉を聞く訳にはいかない」

「何故です!?」

「この戦の総仕上げとして、どうしても魔帝の死が必要なんだ。 魔帝の死があってこそ、フェルペスは新たな王として確固たる支持を得ることが出来る」

「ならば・・・影武者をお使いになればいい。 陛下は別人として、ノエル様と静かに暮らせば・・・」

「それは出来ない。 私の顔は既に知られ過ぎている。 ましてや甥であるフェルペスが影武者と本物を間違える訳がない。 それに・・・」

 ノルウェは手から黒炎を出現させた。

 黒炎はノルウェの掌で小さく燃えている。

「私のこの黒の魔力を再現できる影等どこにもいない。 なら、私がなるしかないだろう」

 柔らかいノルウェの言葉に、ラズゴートは大粒の涙を流した。

 それは、ノルウェを救う事が出来ないと理解した証だった。

「・・・御無礼を・・・」

「構わない」

 ノルウェは膝まづくラズゴートに歩み寄ると、その肩に手を乗せた。

「むしろ私こそ、あなたに大きな重荷を背負わせてしまった・・・すまない」

「・・・ははは、何を仰いますか陛下」

 ラズゴートは顔を上げ、涙を流しながらいつもの笑みを浮かべた。

「わしはノルウェ陛下の臣下でございます! その意思は永久に変わりません! 裏切り者上等! ノルウェ陛下の最後の命、見事果たして見せましょう! がっはっはっはっはっ!!」

 ラズゴートは笑った。

 いつもの様に大声で。

 だがその目から溢れる涙は、決して止まることはなかった。






 当時の想いを思い出しながら、ラズゴートは気持ちを引き戻し目の前のノエルを見た。

「納得頂けましたかな、殿下?」

「はい・・・リナさんから聞いた話の事もありますし、父の考えとも合います。 ラズゴートさんの言葉を疑うつもりはありません」

 冷静に自分の言葉を分析し答えを出すノエルに、ラズゴートは感慨深いものを感じた。

 きっと心中では色々な想いもあるだろうに、それを出さず、今己の役目を果たそうとしている。

(本当に・・・立派に成長されたものだ)

 ラズゴートはそんな想いを必死に抑えながら、話を続けた。

「なら、わしの事は信用してくれますかな?」

「はい。 そもそもラズゴートさんに、此方を騙す気がないのは最初に会った時からわかってましたから」

「がっはっはっ! 見抜かれてましたか! じゃが、聖獣として来たのは本当ですので、そこは忘れずに」

「わかっています」

「で、なんなんだその提案っつうのは?」

 リナに促され、ラズゴートは本題を話始めた。

「ノエル殿下・・・フェルペス陛下に下ってはいただけませんか?」

「・・・え?」

「ざけんな!!」

 ラズゴートの言葉にノエルが驚く中、リナが激昂した。

「あの野郎に付けだと・・・あんた正気で言ってんのか!?」

「リナ落ち着いて! どういうことなんです、ラズゴートさん?」

リナを抑えながらも複雑な表情を浮かべるレオナに、ラズゴートは深刻な表情を浮かべる。

「近い内聖王・・・アーサーが動く」

「アーサー・・・だと?」

「今の聖五騎士団を束ねる最高幹部の筆頭だ。 その手腕、知謀は他の幹部の比ではない。 無論、その戦闘力もな」

 ラズゴートが着ていた服を少し捲ると、リナ達は驚き目を見開く。

そこには大きな斬り傷が出来ていた。

「一度だけ本気で戦った。 結果はこの通り。 対してわしはあやつに大きな傷は何一つ付けれなかった」

「マジかよ・・・」

 ラズゴートが殆んど傷付けることが出来ずに敗北した・・・これだけでアーサーの実力がどれだけ強いのかよくわかる。

 何より、その事実を聞いたリナとレオナの反応から、それが本来ならそんなことはあり得ない事だということを物語っていた。

「アーサーは普段は慈悲深い。 だが一度敵と認めればどこまでも冷酷にその者を断罪する。 今は最高幹部の入れ替わりの部隊編成等実務関連で動けんが、もしお前さんらが完全復活すれば、奴は容赦なくお前さんらを消すじゃろう」

「つまり、俺らがそいつに負けるってのか?」

 リナの問いに、ラズゴートは重々しく頷いた。

「お前さんらの力はわしもよく知っとる。 5人揃えば1国を滅ぼすとまで言われたのも頷ける。 だが奴と戦えば負ける。 それだけは確実に言える」

 ラズゴートの言葉に、ノエル達の間に沈黙が流れる。

 それだけラズゴートの言葉には重みがあり、それが真実だということを裏付けていた。

「だが先程言ったように普段のアーサーは慈悲深い。 お前さんらが下ってくれれば快く受け入れてくれるだろう。 フェルペス陛下への説得もするじゃろうし、リナ達も普通に暮らせるよう取り計らってくれる。 無論わしも全力でお前さんらの力になる。 だからどうか、こちらに来てくれんか?」

「お断りします」

 自分の申し出をすぐに断ったノエルに、ラズゴートは驚きの表情を浮かべる。

「今・・・なんと仰いましたか殿下?」

「折角の申し出ですが、お断りします」

「何故です殿下!? 確かに御父上の敵に下るのは複雑なのはわかります! しかし・・・」

「いえ、違うんです。 それについては僕は何も思う所はありません」

「では・・・何故?」

「僕はどうしても確かめなければならないことがあって、この旅を決意しました。 それが平穏に生きてほしいという父の望みを破る事になるとわかっいても・・・言ってしまえば、これは僕のわがままです。 そしてリナさん達は全てを承知でこんな僕のわがままに付き合ってくれている。 だから僕は、やり遂げるまでこの旅を止めるつもりはありません」

「・・・先程のアーサーの話を聞いてもですか?」

「んなもん俺が倒せばいいだけだろ」

ノエルの覚悟を見て、なお食い下がろうとするラズゴートをリナが遮った。

「おっさんの目は信用してる。 だからアーサーとかいうのの強さも本物なんだろ。 でもな、だからって俺らが確実に負けるってことにはならねぇよ」

「そういうこと。 あたし達だって、伊達にあの大戦を生き抜いた訳じゃないのよ。 相手が強いなら、それに合った戦い方をするだけよ」

 リナに続き、レオナも旅を止めない決意を示し、ラズゴートは深いため息を吐く。

「まったくお前さんらは・・・」

 何かを諦めたような表情をしながら、ラズゴートはノエルに向き直る。

「せめて旅の理由を教えて頂きたい。 何が貴方をそこまで動かすのですか?」

 ノエルは少し迷いつつ、口を開いた。

「ラズゴートさんは、聖帝がしていることをご存じですか?」

「?どういうことですか?」

「城の地下の祭壇で生け贄紛いのことしてんだよ。 それでそれを知ったアルベルトのおっさんを自殺に見せかけて口封じに殺したんだよ」

 事実を知らなかったのか、ラズゴートは驚愕の表情を浮かべ、そして何かに納得したような顔をした。

「・・・なるほど。 なんかコソコソやっとるとは思ったが・・・アルベルトも不運な男よ」

「僕達はその真相を確かめる為に動いているんです。 それがもし、父の作ったものを壊すようなものなら、全力で止めるつもりです」

「それで五魔か・・・いや、納得したわ」

「なあ、おっさんは知らなかったんだろ?」

「知らん。 わしに知らされとらんということは恐らく最高幹部で知っとるのもアーサーだけだろう。 加えて動いているのも奴の直属部隊だけということになるの」

「だったらおっさんこそ俺達の方に来いよ。 そうすりゃ・・・」

「断る」

 リナの申し出を、ラズゴートはキッパリ断った。

「お前さんらの動く理由はわかった。 納得した。 だがわしにはわしの守らねばならない忠義がある」

「あのフェルペスの野郎へのか?」

「それを話す義理はない。 それに、改めて敵同士となってしまったわけじゃからな」

 その言葉に、ノエル達は一斉に身構える。

「安心せい。 今はやり合う気はない」

 そう言うと、ラズゴートは1枚の紙を差し出した。

「騙し討ちやらなんやらは性に合わん。 その場所に明日来い。 そこでケリを着けよう」

「・・・本気なのか?」

「この手の冗談は好かん。 そっちは何人連れてきても構わん。 こっちはわしと配下の中で精鋭で相手をしよう。 だがもし来んのなら、こっちも手段は選んでおれんがな」

 その表情から、ラズゴートが本気であることを理解したノエルは、ラズゴートから紙を受け取った。

 「すみませんラズゴートさん。 ですが、僕達も止まるわけにはいかないんです」

「わかっております。 です此方もそれは同じ。 明日は本気で潰しにかかるから、覚悟しておけ、小僧共」

 ノエルは頷くと、軽く頭を下げリナ達と店を出ていった。

「あ~あ、見事にフラれちまったなオヤジ」

 ノエル達が出ていったのを見計らい、ラズゴートの後ろの席からフードを被った若者が顔を出した。

それに続く様に、その若者と同い年くらいの猫の仮面を着けた黒髪の女性を顔を出す。

「おお、ヴォルフにハンナ。 悪いのわざわざ来させて」

「おいおい、一番の年寄りには労いの言葉はないのかい?」

 ノエル達が座っていた席の後ろから、ラズゴートの部下のメロウが顔を出した。

 実はこの周りの席は、念のためラズゴートが自身の配下をいわゆるサクラとして潜ませていたのだ。

 つまりヴォルフと呼ばれた若者もハンナと呼ばれた女性もラズゴートの精鋭の一人である。

「おお、いやすまんすまんメロウ爺。 うっかりしておった」

「それより、大丈夫なの父さん?」

「まあ、ある程度は予想しておったがな。 ああいうところは本当に陛下に似ておられる」

 心配するハンナに、ラズゴートはニカッと笑い振り向いた。

「しかし本当によかったんか? あの坊やの話を信じるなら、聖帝も結構キナ臭いよ」

「言うなメロウ爺。 そんな事全て覚悟してここに来たんだ」

「でもよ、やっぱりなんかスッキリしねぇな。 あの胡散臭い野郎の言いなりみたいだしよ」

 ヴォルフの言う胡散臭い奴とは、軍師の事である。

 実は今回ラズゴートが動いたのは軍師の進言があっての事だった。


『現在のノエル様一向は、そろそろ予断を許さぬ状況になってきました。 今はカイザル様の部隊編成等で忙しくされておりますが、もしルシフェルまで揃ったら、恐らくアーサー様が動きます。 アーサー様が動かれた場合どうなるか、それはラズゴート様が一番ご存じだと思われます。 ですがもし、ラズゴート様がノエル様達を説き伏せる事が出来れば、あるいは此方に連れてくる事が出来れば、最悪の事態を避ける事ができるかもしれません』


「まあそう言うな。 あれでもこの国の復興に尽力した男だ」

 ラズゴートは軍師の言葉を思い出しながらヴォルフを嗜める。

 確かに軍師は信用出来ない。

 現にギゼルにも何かしら入れ知恵をして裏で色々と動いている。

 恐らく例の生け贄の事も知っているだろう。

 だがそんなことはどうでもいい。

 軍師の言っていることは事実だし、ラズゴートとしてもノエルやリナ達を死なせる様な事態は避けたかった。

 ならばやることは1つ。

 自分が止めるしかないのだ。

「お前さんらには苦労をかけるが、明日は頼むぞ」

「任せとけよオヤジ!」

「しっかり役目を果たしてみせます」

「ふぇっふぇっふぇっ、まあわしの策でうまく丸めてやるから安心せい」

「また定石とかいうやつのかよ」

「定石の策の良さわからんとは、相変わらずの犬ぶりじゃの」

「俺は狼だ!!」

「ちょっとヴォルフ、父さんの前よ!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐヴォルフ達を微笑ましく思いながら、ラズゴートは少し宙を見た。

(ノルウェ陛下・・・殿下に矛を向けること、許しを乞おうとは思いませぬ。 ですがどうかお見守りください。 貴方の子息の姿を)

 今は亡きノルウェにそう願いながら、ラズゴートは明日の決戦に意識を向けた。

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