手がかり
戦いはノエル達の完全勝利に終わった。
ベクレムは破れ、ベクレムの部下になっていた者達も抵抗せず投降した。
本物の五魔のインパクト(特にジャバ)に恐怖したのもあるが、何よりベクレムに愛想が尽きたそうだ。
ノエルにやられ気絶していた部下等気にせず部屋に大砲を撃ち込んだ行為が大きな原因だ。
幸いその部下達に死者はなく、率先して手当てしてくれたゴンザに感謝していた様だ。
何も知らない偽五魔の手下達も当初は混乱したが、ミラを始めとする偽五魔達により今は落ち着きを取り戻している。
この時ゴンザ達は正体を明かしたが、幸い暴動等は起こらず、ゴンザ達の日頃の行いなのか、ベクレムの下に付いた者達への寛大な対応のせいか、皆納得してとりあえずその場は治まった。
何より、本物の五魔に魔帝の息子が登場したのだ。
暴動を起こすなんて考えが浮かぶ余裕など生まれる訳もない。
そして今、どうなっているかと言うと・・・。
「すまねぇ! 今まで騙していて本当に悪かった!」
ゴンザ達偽五魔は砦のあった村の人達に土下座の体勢で謝っていた。
今回の砦での騒ぎは当然村の人達にも伝わった。
というより、ジャバの咆哮が近隣に響き渡り、どのみち隠す事は出来なかった。
しかしゴンザはその事を気にせず、最初にノエルに話した様に全てを村人に告白し、こうして謝罪をしている。
村人が戸惑う中、ゴンザは続けた。
「許してくれとは言わねぇ! 俺らのせいでベクレムなんかにこの辺りを好き勝手させちまったんだ! どんな罰でも受ける覚悟だ! だが砦の連中は関係ねぇ! ガラは悪いが根はいい連中だ! だから連中には・・・」
「ああいやその・・・ゴンザ・・・殿でよろしいのでしたかな?」
謝るゴンザの前に、村に着いたノエル達に色々教えてくれたあの老人が歩み出てきた。
どうやらこの村の村長だったらしい。
村長は申し訳なさそうにしながら、口を開いた。
「いや・・・実を言うと・・・あなた方が偽物だというのは、最初から気付いておりました」
「・・・へ?」
村長の告白にゴンザは勿論、他の偽五魔達も間抜けな顔で固まった。
「いや、なんと申しましょうか・・・わしらは確かに田舎者ではございますが・・・流石にあなた方は少々・・・その・・・胡散臭過ぎましたし、すぐに偽物だと・・・」
「ちょちょちょ、ちょっと待て! つうことは何か!? あんたらわかってて俺らの事を五魔だって言ってたのか!?」
ゴンザの問いに、村長は真面目な顔で頷いた。
「ええ。 ですがわしらにはあなた方が本物か偽物かなど、どうでもよかったのです」
「?どういうこった?」
「恥ずかしながら、この近隣の村は全て自分達の村を守るだけの力もない、小さく弱いものばかりでした。 ですがそこへあなた方が来てくださり、族を倒す所か改心させ、わしらの身を守る為に力を貸してくれる様にしてくださいました。 お陰でここから離れた他の町等への行き来も出来るようになりました。 これがどれだけわしらにとって嬉しいことか、あなた方にはわかりますまい」
村長はゴンザに視線を合わせるとまっすぐゴンザの目を見て言った。
「本物か偽物かなど些細なことです。 わしらにとって、あなた方が紛れもないこの近隣の真の救い主であることに何も変わりはないのですから」
村長の言葉に、集まった村人達も頷いた。
「ですから今回の事は本当に心配しておりました。 五魔様が変心されてしまったのではないかと・・・ですがあなた方はわしらの知っている五魔様のままでした。 本当によかった」
村人達の思いを聞き、ゴンザは大粒の涙を流しながらずっと「・・・ありがとう・・・」と言い続け、ミラ達も目を潤ませながら頭を下げた。
その様子を見ていたノエルに、リナは小さく声をかけた。
「どうかしたか?」
「あ、いえ・・・なんだかいいな~と思って・・・こういう感じも」
「お前も甘いな・・・ま、これが連中のしてきたことの結果なんだろ」
「そうですね」
最初は五魔を名乗った彼らにノエルは内心怒っていた。
だが彼らは五魔としてこの近隣の希望になっていた事実に、ノエルはどこか嬉しかった。
例え偽物でも本物になり得ることがある・・・そうノエルは感じた。
その夜、ゴンザの発案で砦の中庭で宴会が開かれていた。
自分達を受け入れてくれた村人達への感謝と謝罪を込め、今まで集めた砦の食料を全て振る舞うことにしたのだ。
当然、ノエル達もゴンザ達の大恩人として招かれた。
ラクシャダに残ったゴブラド達も呼ばれ、宴会は歌え踊れの大盛り上がり。
ジャバは偽ジャバウォックだったスカーマンドリルや村の子供と仲良くなり、クロードはリーティアから出て人形劇を披露し、偽バハムートをしていたゾンマと村人を驚かせた。
偽デスサイズのピンスは本物のレオナにひたすら謝り続け、最終的にそのしつこさに逆にイラッときたレオナの鉄拳を貰っていた。
ライルは偽ルシフェルのミラに気に入られ鳥肌と脂汗をかき、リナはゴンザに自身の偽物ならもっとかっこよくしろと説教していた。
そんな皆思い思いに楽しむ中、ノエルは砦の地下に足を運んだ。
本来倉庫として使っているその場所の一画には、現在レオナ特製の鉄格子が張られていた。
「具合はどうですか、ベクレムさん?」
ノエルが声をかけた鉄格子の中には、包帯で全身を巻かれ横たわっているベクレムがいた。
砦から落下し、瓦礫の下敷きになりながらも、ベクレムはまだ生きていた。
ベクレムは仰向けの状態で目を開き、ノエルに顔を向けず口を開く。
「・・・なんの用だ?」
「いえ、具合が少しはよくなったかなと」
「全身骨折に打撲、更に貴様に完敗して精神的にも深刻な痛手を受けた状態で具合がいいと思っているとは、おめでたいやつだな」
吐き捨てるように言うベクレムに、ノエルは苦笑する。
「・・・だが、ここまで完全に負ければ流石に自分の思い上がりを認めざるおえん。 屈辱には代わりないがな」
「・・・そうですか」
「しかし、私は信念まで曲げるつもりはない。 強者が弱者を糧とし頂点に立つ。 それは決して変わることのない真理だ」
破れて身動き出来ない体になりながらも、ベクレムの言葉には自身の信念に対し少しの揺らぎもなかった。
「・・・わかりました。 僕も無理矢理人の考えを変える気はありませんから」
「待て。 私も貴様に聞きたいことがある。 何故私が生きている?」
ベクレムに呼び止めれ、ノエルはベクレムに向き直る。
「ゴンザさんの意思です」
「!?ゴンザだと!!」
ベクレムは驚き、信じられぬというような表情をした。
実際、骨も折れ身動きひとつ出来ないベクレムを見つけたミラは、すぐに殺そうとした。
今まで利用され続け、いくら数が少ないとは手下を殺されているのだ。
そう考えるのはある意味当たり前だ。
冷静に見ても、いつまた牙をむくかもしれないベクレムを生かしておく理由と少ない。
だがゴンザがそれを止めた。
ゴンザは監禁はするが手当てを指示し、生かすように皆を説得したのだ。
「ゴンザさんはあなたを憎んでいます。 ですが、今の事態の責任は自分にもあると言って、あなただけを殺して済ますことをしなかったんです」
「馬鹿な・・・私を殺す方が丸く治まるというのに・・・殺さなくとも聖五騎士団に引き渡せば・・・」
「それは僕が止めました。 もしあなたを渡せば、確実にゴンザさん達も処罰を受けますし、下手をすれば村の人達にも迷惑がかかります」
「・・・理解できん。 何を考えているんだ奴は?」
混乱するベクレムを、ノエルは静かに見据えた。
「僕には本当の強さというのはわかりません。 でも、ゴンザさんの様に何があっても、逃げずに全てを背負おうとする人は強いと思います」
「力のない者がそれをする意味はない。 いずれ押し潰され、崩れていくだけだ」
「確かにそうかもしれません。 でも、だから人は仲間を集めるんです。 皆で支え合っていける仲間を」
「仲間だと・・・」
「そうです。 僕だって一人じゃ今頃背負っているものに潰されてました。 でもリナさんやライルさん、皆に支えられているから僕はこうして進めるんです。 それは魔帝だった父も・・・そして恐らく、聖帝も・・・」
そこまで言うと、ノエルはその場を立ち去ろうと背を向ける。
「最後に聞かせろ。 貴様にとって、王とはなんだ?」
ノエルは少し考えてから口を開いた。
「・・・皆が当たり前の日常を送れる様に努力する人・・・かな」
「どういうことだ?」
「そもそも、国は民がいなければ成り立ちません。 王もまた同じです。 民がいて、民に支えられているから王は王でいられるんです。 だから王はそんな民が普段通りの、争いや飢えのない、誰でも手に入れる権利のある日常を守るんです。 少なくとも、僕はそう思います」
「当たり前の日常か・・・」
ノエルの言葉を聞いたベクレムは何かを考えるように静かに宙を向いた。
その姿を見て、ノエルはその場を後にした。
翌日、ノエル達は村を立ち去るため村の入り口に来ていた。
そこには見送りの為ゴンザ達や村人が集まっていた。
「ノエルの旦那! そして本物の五魔の皆! 今回の件、本当にありがとう!」
改めて頭を下げるゴンザ達に、旦那と呼ばれたことも加わりノエルは照れたように頬をかいた。
「いえ、僕達は何も・・・それで、ゴンザさん達はコレからどうするんですか?」
「暫くは他の村に今まで騙してた事を謝って回るつもりだ。 この村は許してくれたが、やっぱりけじめはつけねぇとな」
「そうですか」
「心配なさるな」
少し心配そうな顔をするノエルに、村長はニコリと笑いかける。
「他の村もわしらと同じじゃろうから、そこまで酷い事はされんはずですじゃ。 それに今回のこと、全てをゴンザ殿達に任せきりだったわしらにも責任があります。 そこで今後各村が連携し治安維持等出来ることがないか、各村の代表を集めて話し合うつもりです」
「その方がいいだろ。 コイツら、そのオカマ以外頭弱そうだしな」
「もう、リナちゃんったらレディに向かって失礼ね」
オカマと呼ばれ頬を膨らませるミラは「そういえば・・・」と何かを思い出した様に話始める。
「あなた達本物のルシフェルを探してるんですってね」
「ええ。 でも手がかりがなくて・・・」
「そのルシフェルかどうかわからないけど、ここから西にどんな怪我や病気でも治してくれる凄腕の魔術師がいるみたいよ」
「魔術師?」
「ええ。 まあどんな怪我や病気っていうのは尾ひれが付いたにしても、治療系の魔術は知識もないと出来ないし出来る人の数も少ないから、もしかしたらと思ってね」
今までなかったルシフェルの手がかりが手に入り、ノエル達の表情が明るくなる。
「リナさん」
「そうだな・・・他に何もねぇし、行ってみるか」
「よっしゃ~!!なら早速西に向かって一直せぐが!?」
「お前が仕切るな!」
リナに拳骨をもらうライルの姿に、回りから笑いがこぼれる。
「ノエルの旦那! なにかあったらいつでも言ってくれ! 旦那の為なら俺達、いつでも駆けつけるからよ!」
「はい。 ありがとうございます」
ノエルはゴンザと握手を交わし、西に向けて出発した。
帝都イグノラにあるアルビア城。
その一室で窓から外を眺めるラズゴートに、彼の腹心であるメロウが問い掛ける。
「じゃあ・・・本当に行くのかい?」
「ああ。 仕方なかろう。 ここまで来たら、流石に覚悟を決めんとな」
メロウに向き直るラズゴートの表情にはいつもの笑顔はなく、真剣な武人のものだった。
「ノエル殿下と五魔は・・・この聖獣ミノタウロスが取る!」
聖五騎士団最強の獣が、今動き出す。
ふぅ~、なんとか偽五魔終了(~O~;)
ここまで長くやる予定ではなかったんですけどね~、不思議です(笑)




