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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
43/360

偽物の真相

「ディアブロ、いる?」 

 偽ルシフェルが扉を開けると、村で見た偽ディアブロが酒瓶片手に振り向いた。

「おお、来たか!待ってたぞ!」

 偽ディアブロは大きな声でそう言うと、偽ルシフェルは顔をしかめる。

「あんた声小さくしなさいよ。 あのバカに聞かれたら面倒よ」

「わかってるわかってる! お、あんたが黒騎士か!? なかなか勇ましいじゃねぇか!」

「・・・貴方がディアブロ殿か。 お会いできて光栄だ」

 ノエルはとりあえず挨拶をすると、偽ディアブロは機嫌よさそうに笑う。

「ガハハ! まあ堅っ苦しいのは抜きだ。 とりあえず座れや!」

 そのまま床にドカッと座る偽ディアブロに内心戸惑いながら、ノエルは偽ディアブロと向かい合う形で座った。

「ルシフェル! お前も座れよ!」

「あたしは広間の方に行くわ。 この人のお仲間の接待しなきゃいけないしね」

「そうか! ならしゃあねぇな! 話したら後でそっち行くからな!」

「ええ、待ってるわ。 それじゃごゆっくり」

 偽ルシフェルはチラッとノエルを見るとそのまま部屋を後にした。

「さてと・・・まあまずは一杯やろうや!」

 偽ディアブロは木製の樽の様な形のジョッキを2つ取るとそこに酒を注いだ。

「いや、酒は話の後で・・・」

「なんでぇ、堅い野郎だな」

 偽ディアブロはつまんなそうに自分のを飲むと、腰に下げた袋から干し肉を出しかじった。

「こいつぁ北にいるナトアザラシの干し肉でな、さっき仲間にした連中が持ってきたんだ! 酒に合うぞ!」

「さっき・・・!まさか、さっき村で貰っていた袋は・・・」

「お、よく知ってんじゃねぇか! あいつらわざわざ俺の好きなもん調べて持ってきてくれたんだ! いい奴等だろ?」

 嬉しそうに話す偽ディアブロに対し、てっきり金か宝石辺りが入っていると思っていたノエルは驚きを隠せなかった。

「はは、随分驚いてんじゃねぇか! そんなに意外か?」

「いや・・・五魔への貢ぎ物だから、てっきり金や財宝かと思っていたのでな」

「そいつもまあ悪かねぇし、実際そういったもん持ってくる奴等もいるな。 でもよ、俺にとっちゃあ、わざわざ調べてまで用意してくれたこいつの方が価値はある! だからあいつら気に入って仲間にしたんだ!」

「それだけで・・・仲間を選ぶのか?」

「何言ってんだよ!? そこが一番じゃねぇか!? 気に入った奴とつるむから面白ぇんだろ!」

 なんとも単純な理屈だ・・・と思いつつ、この偽ディアブロがそこまで悪い人間とはノエルには思えなかった。

 勿論演技の可能性もあるが、この男にそんなことする必要性はないはずだ。

 となるとやはり疑問は出る。

 今話しただけだと、この男に村人から税金を取ったり支配するという考えは見えない。

 むしろ村人と報酬代わりに宴会でもしてる方がいいという感じの男だ。

 それは村の老人の話からも明らかだ。

 それが何故急に村人との交流を断ち、税金を取り、こんな砦を築いたのか・・・ノエルはやはり何か裏があるのではと考えた。

「と、そうだ。 こっちもあんたに頼みてぇ事があるんだった」

「頼み?」

「ああ。 詳しくは知らねぇが、あんた俺らとつるみてぇんだろ? ならよ、丁度今俺らもある計画を立ててんだ。 そいつに協力してくれたら俺らもあんたに手を貸すぜ?」

 偽ディアブロの急な申し出に、ノエルは少し考える。

「・・・手を貸すのは構わない」

「おお、ありがてぇ!なんだよ案外話がわかるじゃ・・・」

「ただし、何故五魔を名乗りこんな砦を建てているのか教えてくれればだが」

 ノエルの一言に、偽ディアブロの表情が変わった。

「なん・・・だと?」

「貴方方の正体を教えろということだ。 偽のディアブロ殿」

 瞬間、偽ディアブロは部屋に立て掛けてあった棘の付いた鉄の棍棒を取ろうとする。

 が、ノエルはそれよりも早く偽ディアブロの首を掴み、壁に叩き付けた。

 片腕で首を掴まれ壁に押さえ付けられた偽ディアブロは苦しそうにジタバタする。

「な、なんで俺が・・・偽物だと・・・」

「簡単だ。 私が本物の五魔を知っているからな」

「本物を・・・知っ・・・!?」

 そこまで言うと、偽ディアブロは何かに気付いたように一気に青ざめた。

「あんた・・・ま、まさか・・・本物の・・・ディアブロ?」

「・・・え?」

 まさか自分がディアブロと間違われると思っていなかったノエルは思わず手を放す。

 偽ディアブロは床にドサッと落ち咳き込んだが、すぐにノエルに向き直り土下座した。

「す、すまねぇ! まさか本物が来るなんて! ほ、ほんの出来心だったんだ! せめて他の奴等は見逃して・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください!とりあえず落ち着いて!」

 勝手に話が進みそうになったので、ノエルは思わず素に戻って偽ディアブロを止めた。

「いや、これでも連中の頭張ってんだ! ここは俺が責任を・・・」

「とにかく落ち着いて! 責任云々は置いといて、まず話を聞かせてください!」

「ん・・・わかった・・・」

 なんとか偽ディアブロを落ち着かせたノエルは、とりあえずディアブロとして話を聞くことにした。

 何より、今さら訂正すると余計面倒なことになりそうな気がした。

「・・・それで、名前は?」

「ゴ、ゴンザだ」

「ゴンザさんですか。 それで、なんでこんなことを?」

 偽ディアブロ改めゴンザはいつの間にか正座になり、ばつが悪そうに話始めた。

「俺は元々この国の田舎の村の出なんだが、昔から喧嘩の腕っぷし以外はまるでダメでよ。 しかもそこは割と穏やかな場所だからここみたいな用心棒みたいなことも出来ねぇから、正直居場所がなくてな。 かと言って聖五騎士団入る程の力もねぇ。 どうすっかなって考えてたらミラ・・・さっきのルシフェルな。 あいつとは昔っからのダチなんだけどよ、そいつが治安の悪い所でなら活躍できるんじゃねぇかって言うから、喧嘩仲間二人加えてこっちに来たって訳よ。 でもいきなり余所者が用心棒だなんて言っても不審がられるだけだからよ」

「それで五魔を名乗ったと言うわけですか」

「そうなんだよ! 苦労したぜ! 噂だけで詳しい容姿なんかわかんねぇからどんな格好だか想像したり、魔獣ってことで強面のスカーマンドリル手懐けたりしてよ! でもこれが効果的面でよ! 五魔って聞いただけで信用してくれる所が増えてな! そっからはごろつきに山賊や盗賊をぶちのめしたり、そいつらの中から改心させた奴等に村の間の道の護衛させたりてよ、報酬に旨い飯食わせてもらったりでいい思いさせてもらったわ!」

 途中からただの自慢話になっている気がしてきたノエルは、本題に話題を移すことにした。

「それで、なんでこんな砦を?」

 すると先程まで嬉々と語っていたゴンザの表情が曇った。

「・・・ベクレムだよ」

「え?」

「ベクレムだよベクレム! あいつが来てから全部変わっちまったんだ!」

「ちょっと落ち着いて。 どういう事ですか?」

 ノエルに宥められ、ゴンザは改めて話し出す。

「あれは確か5か月前か・・・俺らはいつものように山賊退治に出た。 で、山賊をぶっ倒して帰ろうかと主ったらベクレムがやって来て俺らに自分と戦えと言ってきやがった。 賊とはいえ今まで負けなしだった俺らはあいつの挑戦を受け戦っちまった。 唯一実力差に気付いてたミラの制止も聞かずにな。 で、結果は惨敗。 殆ど何もさせてもらえずズタボロにされちまった。 俺らが偽物だってわかってがっかりした奴は、すぐに何かを思い付いたように俺らを見下ろしながらこう言いやがった」

《この程度とは、とんだ期待外れだな。 だが五魔の名前を利用した事は使えるな》

「そっからだ。 ベクレムは付き人として俺らの仲間になったふりをして、逆に偽物だってバラすと脅しながら、俺らを利用して次第に自分の勢力を増やしていきやがった。 終いにゃこんな砦造って、今じゃ村人からの税金で裏から大量に武器を買い漁ってやがる」

「そのベクレムという人は、一体何をする気なんですか?」

「詳しいことは知らねぇ。 ただ、どっかとドンパチやる気なのは確かだ。 だがそんなもん俺らは望んでねぇ! だから今俺らで計画を立ててたんだ!」

「計画?」

「おお、さっき頼みがあるって言っただろ? 俺らもいつまでもあいつの言いなりはごめんだ。 だから密かに俺ら個人の味方を増やしてあいつを抑えることにした。 ミラがあんたをここに連れてきたのも、あんたが強いと判断したからだ。 あいつはそういうの見分けんの得意だからよ。 だから頼む! 勝手なのはわかるが俺らに協力しちゃくれねぇか!?」

 ゴンザが土下座するのを見ながら、ノエルは思考を始める。

 恐らく話していることは本当だろう。

 辻褄は合ってるし、ゴンザにそこまでの嘘をつく理由はない・・・というより、そこまで頭が回りるとは思えない。

 だが、どうしても気になることがあった。

 「大体経緯はわかりました。 ですが、何故今まで放置していたんですか? 自分達が偽物と知られるのがそんなに怖かったんですか?」

 その言葉に、ゴンザは神妙な表情を浮かべながら顔をあげた。

「・・・それがねぇって言えば嘘になる。 今までのもん全部無くなっちまうのやっぱりこえぇ・・・でもな、それだけじゃねぇ。 この砦には俺らを五魔だと思って仲間になった連中が大勢いる。 しかもその殆どが元々悪党だ。 俺らが偽物だって分かれば暴動が起きて、それこそここらの村に被害が出る・・・それだけはしたくなかったんだ」

 真っ直ぐなゴンザの言葉を、ノエルは静かに聞いていた。

「だが、もしベクレムがなんかやったらそれこそここは戦地になっちまう! だから決めたんだ! あの野郎を止めるってな!」

「・・・止めた後どうするつもりですか?」

「事が終われば村の連中にも全部正直に話す。 で、謝って責任取ったら出ていくつもりだ。 さっき言った俺らの味方してくれる連中には既に俺らの正体を話してあるし、そいつらに頼めばここら辺の村の守るくらいわけないだろうからな。 だから頼む! あの野郎止めるのに、力貸してくれ!」

 自分を真っ直ぐ見つめるゴンザに覚悟を感じ取ったノエルは、静かに頷いた。

「わかりました。 あなたの言葉を信じてみましょう」

「お、おお! ありがてぇ! 本物が協力してくれりゃあ千人力だ!」

 ノエルの返事にゴンザは一気に表情を明るくした。

「よし、なら計画の細かいことを話す! とりあえずあんたには新しい部下としてここに入ってもらって・・・あ、他の奴等にも知らせなきゃ・・・」

「いえ、今から行きましょう。 そのベクレムって人の所に」

「・・・へ?」

 ノエルの発言に、ゴンザは間抜けな声を出しながら固まった。

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