遭遇
ノエル達は砦があるという山岳地帯の村にやって来ていた。
メンバーはノエル、リナ、リーティア、レオナとライル、そしてジャバがいつものようにリナが使っていたミニチュアサイズの小屋に入り付いてきた。
「それで、どうするんですか黒騎士様?」
「とりあえずその偽物の情報を集めたいですね・・・あ、ちょっとすみません」
おしとやかモードのリナに聞かれ、ノエルが周りを見渡すと、一人の老人に声をかけた。
「ん? なにかご用ですかな?」
「突然すみません。 お聞きしたいことがあるのですが・・・」
「・・・ああ、五魔様のことですか」
「!?なんでわかったんですか?」
「ここんとこ、この村に来るのは五魔様に会いたいっちゅうもんばかりなんですわ。 ほれ、あちらを見なされ」
老人に言われた方を見ると、村の住民とは明らかに違う武装した集団がいた。
「あやつらは皆五魔様の部下志望のごろつきや山賊崩れですわ」
「え?五魔ってごろつきとかやっつけてるんじゃないの?」
レオナの問いに、老人は首を振った。
「 まあそうなのですが・・・ここ数ヶ月急にああいった連中を手下に迎え始めたんです。 その噂を聞きつけ、更にその様な者達が村に訪れる様になりまして・・・あなた方も五魔様の手下になりに来たでしょう?」
「いえ、あたし達はあの五魔が村を守っていると聞いて・・・ほら、五魔って昔の大戦で怖いイメージあったから・・・」
「そうでしたか。五魔様は当時近くの村を回ってごろつき達から守ってくれていました。ですが最近は守る代わりにわしらから税を要求したりし始め、極めつけは村の奥に砦まで建ててしまわれた。 まあそれでも、わしらも守っていただいている身ですから、文句はないのですが・・・」
「ガ~ハハハハハハ!!!」
突然辺りに響いた大きな笑い声に、老人は慌て出す。
「どうしました?」
「五魔様です。 目をつけられると厄介です。 そこに隠れて」
ノエル達は慌てて近くの建物の影に隠れた。
ノエル達は偽五魔の姿を確認しようと、影からこっそり覗こうとする。
五魔に気付いた村人達はその場に慌てて膝まずいていく。
やがて笑い声がした方向から、集団が近づいてきた。
「控えよ!五魔様のお通りである!」
お付きと思われる男に先導され、ついに偽物の五魔が姿を現した。
が、その姿にノエル達は絶句した。
上半身裸で首に動物のしゃれこうべを首飾りにしてナイフをちらつかせる細身の男。
竜のつもりなのだろうが、角のついた大きな爬虫類の頭を被っている男。
顔はいいが濃い化粧をし、燕尾服を着ている男。
その後ろには魔獣の代わりであろう怖い顔をした巨大な赤毛の猿を連れている。
極めつけはその中央にいる大男のおっさんだ。
髭面に頭に2本の角を付け、黒い鎧を着て、指にはいくつもの指輪をはめている。
しかも似合っていないからかなり滑稽だ。
「ガ~ハハハハハハ!!!お前らご苦労!今日も俺達が守ってやるからな!この魔王ディアブロ率いる五魔がな!!」
大きな態度で膝まずく村人に声をかける中央の男がディアブロだとわかり、リナの額に青筋が浮かぶ。
「・・・黒騎士様・・・あいつらぶちのめしてきていいですか?」
「ちょっ!?リナさん待って!まだ抑えて!ね?」
おしとやかなまま明らかに怒っているリナをノエルは慌てて宥める。
「まさか・・・ここまで小物臭満載とは・・・」
「あのどくろ・・・まさかあたしのつもりじゃないでしょうね?」
リーティアとレオナも明らかに怒っており、暴走はしないものの殺気が漏れている。
そんな本物の五魔を抑えながら様子を見ると、偽五魔達は先程のごろつきの集団の所にやって来た。
「お前らか!俺達の子分になりてぇってやつらは?」
「へ、へぇ。五魔様の活躍を耳にして、せひ俺達もお仲間にいれて欲しくてやってきやした。勿論ただとは言いやせん」
ごろつきのリーダーと思われる男が目配せすると、その手下が大きな袋を2つ偽ディアブロに差し出した。
偽ディアブロは中身を確認すると、ニヤリと笑った。
「なかなか見上げた連中だ! 気に入った! 来い! 今日からお前達はこの五魔の子分だ!」
「へへぇ!ありがとうございます!」
ごろつき達が頭を下げると、偽ディアブロは村人に向き直る。
「喜べ! これでまた新しい守り手が増えた! 俺達五魔がいる限り、この地域の安寧は確実だ!」
そう言うと、偽五魔達はごろつき達を連れて来た道を戻っていった。
「・・・あれじゃただのごろつきと変わんねぇじゃねぇか」
偽五魔が行った事を確認しライルは呆れた様に呟いた。
「この辺りの村は自衛する力のない小さな村ばかりでしたので、当初は救世主が現れたと喜んでおりました。 五魔の皆様も気のいい方々で、お礼に食事をお出しするとたいそう喜んでくださり、村人も交え宴会騒ぎをしておりました。 ・・・しかし最近はわしらと滅多に関わろうとしません。 一体どうしてしまわれたのか・・・」
先程の老人が複雑な表情を浮かべる中、ノエルは偽五魔が去っていった方を見ていた。
「おじいさん。 五魔の砦はあっちの方でいいんですか?」
「ん?ええ、そうですが・・・」
「ありがとうございます。行きましょう、皆」
「はい、黒騎士様」
「ちょっと待ちなされ! 行くって、五魔様の砦にですか!?」
砦の方に行こうとするノエル達を老人は慌てて止めた。
「ええ。少し話がしたいので」
「止めた方がいいですじゃ。 あそこは五魔様の部下以外誰も近寄ってはならぬ決まりです。 ましてや余所者等が近寄れば攻撃されかねん」
「じゃあ五魔と会うにはどうすればいいんですか?」
「むぅ・・・それは・・・部下になりたいという事を五魔様の部下に話して、後日先程のごろつき達の様に五魔様と謁見というのが一番簡単ですかな? ただ五魔様の部下になるなら、何か手土産が必要です。 金などにもそうですが、酒等の趣向品等も好まれますな」
老人の言葉に、ノエルはなにかを考えると、老人に礼を言い一旦村を後にした。
「なんだか用心深いんだか何だかわかんねぇ連中っスね・・・」
ライルの言葉に皆頷く中、ノエルは切り出した。
「あの・・・リナさん」
「ん?なんだ?」
「ちょっと今回、リナさんにやってもらいたいのことがあるんですけど・・・レオナさんやリーティアさんにも」
「あたし達に?」
「はい。 ただ、ちょっとやな思いをさせちゃうかも知れないんですけど・・・んが!?」
申し訳なさそうにするノエルの頭に、リナの拳骨が炸裂した。
「つまんねぇこと気にすんなっての。 こっちははなからお前の考えでここに来てんだ。 だから変に気を使わねぇで堂々としろ」
リナの言葉にレオナ達が頷く。
リナ達の気持ちに、ノエルは静かに頷いた。
「わかりました。じゃあ、僕の考えた作戦を話します」




