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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
39/360

聖竜への挑戦

 アルビア城にある聖五騎士団第一練兵場、普段はそこで兵士達が訓練に明け暮れているがその日は違った。

 聖帝・フェルペスが練兵場を見下ろせるよう造られた特別席に座り、

その周りに聖五騎士団最高幹部であるアーサー、ラズゴート、クリス、ギゼル、そして本日の主役の一人であるガルジがいた。

「まさかあの小僧がガルジに挑むとはのう。 こりゃ面白いわ! ガッハッハッ!」

 ラズゴートが楽しそうに笑う傍ら、ギゼルはやれやれと首を振る。

「全く、貴様も毎度よくこんな挑戦を受けるなガルジ」

「向かってくる野郎はぶちのめすのが俺の流儀なんでな」

 ガルジの返答にギゼルは呆れたように溜め息を吐く。

 ガルジは元盗賊ということもあり、聖五騎士団最高幹部に入れることに反対する者も多かった。

 そこでガルジは反対する者の中で自分と戦う意思のある者は挑戦を受けると言い放った。

 しかも勝てば聖竜の座を渡すというあり得ない条件付きだ。

 そしてガルジはその時挑戦してきた者を全て叩き潰した。

 しかも全員同時にだ。

 死者こそ出はしなかったが屈強な騎士達がぼろ雑巾の様にボロボロにされた光景は、ガルジに反抗する意思を奪うには十分だった。

 こうして文字通り力づくで現在の地位に就いたガルジは、それ以降も時おり来る挑戦者の挑戦を受け、こうして己の強さを知らしめている。

 最近はガルジに挑戦する者も殆どいなかったが、久し振りに自分に挑戦してくる骨のある奴が出てきた事にガルジは凶悪な笑みを浮かべていた。

「陛下、今回はご足労いただき、ありがとうございます」

 アーサーは立会人として来てくれたフェルペスに頭を下げる。

「構わない。 最高幹部の入れ換えはこの国にとって重要事項だ。 私が立会人として来るのは当然だ。 それに、たまにはこうして出てくるのもいい気晴らしだ」

 笑顔を見せるフェルペスに、アーサーは複雑な想いになる。

 フェルペスは最近城の奥に籠る事が多くなった。

 理由はわかる。

 五魔が着実に揃いつつある現状に精神的に追い詰められているのだ。

 その証拠に、地下の祭壇への生け贄を増やさせている。

 お陰でこの間捕らえたダグラ国の捕虜は全て生け贄となった。

 フェルペスの心を安堵させる為、アーサーはここの所反乱勢力の討伐と称した生け贄狩りを行っている。

 アーサーが早急に事態を解決せねばと思考を巡らす中、フェルペスはふと思い出したように声をかける。

「そういえば、カイザルと言ったか。 どこかで修行をしていたと聞いたが、どこに行っていたんだ?」

「聖峰アレスです」

「なんじゃと!? あのアレスにか!?」

 アーサーの言葉に真っ先に反応したのはラズゴートだった。

 フェルペスとギゼルもラズゴート同様に驚愕の表情を浮かべる。

「そこって、どういうとこ?」

 クリスが聞くと、アーサーは丁寧に説明した。

 聖峰アレス、この世界で聖域と呼ばれる数少ない場所であり、その実態は数少ない竜達の住みかだ。

 現在竜はその数が減少している。

 その中でアレスは大小様々な竜が生息しており、中でも強力な古竜種が存在する稀少な場所だ。

 無論、人が入ることは基本禁止されている。

 というより、入ればまず生きては帰れない。

 一般人は勿論、手練れの兵士や冒険家、果ては竜を操るドラゴンライダーですらその聖峰の険しさと強力な竜達により無事に帰れた者は殆どいないのだ。

「だがそれでも未だ聖峰に登ろうとする者はいるんです」

「どうして?」

「それはじゃな、聖峰には昔邪悪な巨人と戦ったと言われる竜の神がいての。今はその時の傷を癒すため聖峰の頂上で石像になって眠っとると言われておるが、頂上まで登り石像に辿り着いた者は竜の神の加護を得られ、その力の一部を分けてもらえると言われておるんじゃ」

 アーサーから説明を引き継いだラズゴートの話に、クリスは目を輝かせる。

「おお・・・僕も行ってみたい・・・」

「止めておけ。 所詮迷信だ。 そんな事の為にあの場所の竜の数が減ったら大事だ」

「僕、手加減できるから大丈夫・・・」

 胸を張るクリスに「そういう問題ではないのだが・・・」とギゼルは諦めた様に呟く。

「だが、カイザルとやらがそこから帰ってきたということは・・・」

「少なくともそれだけの力を手に入れているということです」

 フェルペスの言葉にアーサーが答えると、練兵場の扉が静かに開いた。

 そしてアレックス・カイザルが登場した。

 カイザルは静かに練兵場の中央に立つとフェルペス達に向かい膝まづく。

 その体はかつてなかった傷痕が増え

、以前無かった風格を醸し出している。

「聖帝フェルペス陛下、及び聖五騎士団幹部の皆様。 本来なら勝手に隊を離脱し、処分されるはずの私の勝申し出をお受けいただき、感謝いたします」

「かまいません。 その代わり見せてください。 貴方がそこまでして獲た力の全てを」 

「ハッ!」

 アーサーが言葉をかけると、ガルジはカイザルの眼前に降り立った。

「てめぇ神様から力貰ったんだってな。 どんなおめでたいもんか試してやるよ」

「・・・神の力等ありませんよガルジ殿。 あるのはただ、私が身に付けた力のみです」

 挑発に対し静かに、そして堂々と応えるカイザルに、ガルジはニヤリと笑う。

「上等だ! せいぜい楽しませろよ!」

 ガルジが凶悪な笑みを浮かべると、カイザルは立ち上がり構える。

 アーサーが目配せすると、フェルペスは静かに頷いた。

「始め!」

 アーサーの言葉と同時に二人が動いた。

 ガルジは両手を鱗と爪を出し、カイザルのランスと激突した。

 カイザルはすぐそれを戻し連撃を放つ。

 ガルジはそれを両腕の鱗で全て受け止めていた。

「ヒャ~ッハハ~!! 速ぇじゃねぇか! でも軽いんだよ!!」

 ガルジはランスを弾き飛ばしカイザルを吹き飛ばす。

 カイザルは体勢を整え着地し再びランスを放つ。

 ランスの風圧は空気の槍となりガルジの体を貫こうとする。

「無駄だ! んなもんで貫けるほど俺の体は・・・ぬぐ!?」

 空気の槍はガルジの体に当たると同時に霧散したが、同時にガルジの体がカイザルの方に引き寄せられる。

 空気の槍により真空状態になった空間に一気に空気が入り込むことで起こる引寄せ現象、かつてのカイザルの秘技だ。

 引き寄せられてくるガルジに向かい、カイザルはランスを螺旋状に回転させ、その体を穿とうと渾身の突きを繰り出した。

「せああぁぁ!!」

 ガキン!という大きな金属音と共にガルジの体にランスが激突した。

「・・・いてぇ・・・が!効かねぇ!!」

 カイザルの突きを受けたにも関わらず、ガルジの鱗には傷1つ付いていない。

 カイザルがその事に驚愕する間もなく、ガルジはカイザルに蹴りを食らわせる。

「ぐ・・・」

 カイザルは倒れなかったものの衝撃で後方に吹き飛ばされる。

 蹴られた腹にはガルジの爪の後がしっかりと付いていた。

「久し振りにいてぇって思ったがよ、んなもんじゃ俺は倒せねぇぜ!! ヒャ~ッハハ~!!!」

 ガルジはまさに荒れ狂う竜の如くカイザルに迫った。

 繰り出される爪をなんとか紙一重に避けながらも、カイザルは徐々に傷ついていく。

 そんな状況にありながら、カイザルは小さく自嘲気味に笑った。

(ふっ、やはり貫けんか。 この程度であらゆる物を貫く等とほざいていたとは、私はかなり傲っていたようだ)

 かつて若くして隊長にまで登り詰めたカイザルは自身の力に絶対な自信があった。

 部下もそれを認め、皆自分に期待していると・・・だがバハムート、クロードに負けてから全てが変わった。

 絶対的な自信は脆く崩れ去り、大衆の前で部隊は全滅させてしまうという大失態を演じてしまった。

 悔しかった、何よりこの様な事態を招いた自分自身が許せなかった。

 自分がかつて見たバハムートとクロードを比較し、その実力を冷静に見ようとしなかったことがそもそもの間違いだ。

 それもこれも全て自分の驕り故・・・偽りの自信により自分が正しいと思い込んでいたことこそ、全ての敗因だ。

 だからこそカイザルはアレスに行った。

 自分を鍛え直すために、自分に足りないものを身に付けるために・・・。

 カイザルはガルジの攻撃を利用し、一旦距離を取った。

「へ! どうやらもう終いみてぇだな! 暇潰しにしちゃあ持った方か!」

 暇潰し、自分はガルジにとってその程度の認識。

 その言葉を受け止めながら、カイザルはガルジを見据えた。

「確かに、今の私の力では貴方に勝つのは難しい様だ」

「なんだ? 降参でもすんのか?」

 言葉とは裏腹にガルジは少し警戒を強める。

 何故なら自分を見詰めるカイザルの目は、敗者のものではなかったからだ。

「ですが、私が聖峰で身に付けた力はこれだけではない! 来い! ジーク!!」

 カイザルの言葉に呼応するように、上空から何かの叫び声が聞こえた。

 と同時に、まるで雷の様な勢いで1つの影が練兵場に降り立った。

「!?なんじゃと!?」

 周囲に土煙が巻き起こしながら現れたそれに、見ていたラズゴートは驚愕した。

 カイザルの隣に、体に雷を迸らせる白き竜が現れた。

「まさか、あの小僧アレスの竜を、しかも古竜種を手なずけおったか!?」

 ラズゴートが驚くのも無理はない。

 竜は本来プライドが高く、人に従う事はなかなかない。

 竜を操るドラゴンライダーですら、ワイバーン等弱い竜が主であり、サラマンダー等の上位の竜を操れる者など一握りしかいない。

 ましてや古竜種はその絶対的な力もありまず人間にはなつかない。

 見たところまだ子供の様だが、それでもカイザルの倍の大きさはある。

 全身を白い鱗で覆い、青い瞳の美しい竜は、まるでそこが居場所だというように自然にカイザルの横を浮遊している。

「紹介しましょう。 我が魂の兄弟、ジークです」

 それに応える様にジークは雄叫びをあげた。

「ヒャ~ッハハ~!! なんだよ! そんな蜥蜴一匹呼んで俺に勝てると思ってんのか!?」

 突然のジークの出現にも動じず、ガルジは相変わらず挑発を続ける。

 勿論、ジークの脅威には気付いている。

 というより、彼の血がそう告げていた。

 竜を祖先に持つ竜人(リザードマン)のガルジには、他のラズゴート達よりもジークの力を本能的に感じられた。

 だがそれで退くことはガルジはしない。

 自身の強さへの自信、そして舐められたら負けという盗賊時代からの彼の矜持が、それを許さなかった。

「はっ! おもしれぇ! 2対1で相手してやるよ! かかってきな!!」

「勘違いしないでもらおうガルジ殿」

「・・・なに?」

 ガルジはカイザルの瞳に微かに怒気が含まれているのに気付く。

 己の大事な存在を馬鹿にされるというのはここまで腹の立つものかと、カイザルは今、自分と対峙した時のクロードの気持ちを理解した。

「確かにジークの力は借りますが、これはあくまで私の戦いです」

 そう言うと、ジークはカイザルの真上に 飛翔し、口に雷撃を発生させる。

「ジークは一切貴方に手を出させない。 貴方を倒すのは・・・この私だ!!」

 カイザルがランスを上空に掲げるとジークは雷の息吹(ブレス)をカイザルに放った。

 カイザルはまともに息吹(ブレス)に受ける。

 その行為には流石のガルジも驚愕の表情を浮かべる。

 確実に死んだ。 そう思った瞬間、雷で出来た土煙を払うようにランスが振るわれた。

 そのランスは、いや、土煙から現れたカイザルの全身がまるでジークと同じように帯電している。

「馬鹿な! 古竜種の息吹(ブレス)を受け生きている者など、ましてや己に宿すことが出来る等有り得ん!」

「ガッハッハッ!! あの小僧!大したもんじゃ!」

 思わぬ事態にギゼルは驚愕し、ラズゴートは面白いと豪快に笑う。

 クリスも目を輝かせ、フェルペスは思わず椅子から身を乗り出した。

 唯一冷静なアーサーも、その状況を見る目は先程より真剣なものになっていた。

 そしてその光景を目の前で見ていたガルジは先程までの余裕を消し、一気に全身に鱗を出現させる。

 それは最大限の警戒の証。

 ガルジはカイザルを初めて敵と認識した証だった。

「・・・行きます」

 カイザルがそう呟いた瞬間、ガルジの目の前まで近付いていた。

「んな!?」

 ガルジは後ろに飛びながらカイザルが繰り出すランスを防いだ。

「っ!?」

 防いだはずの腕から痛みが走る。

ガルジがふと防いだ腕を見ると、鱗の部分が削れていた。

(冗談じゃねぇ! さっきと別もんじゃねぇか!!)

 ガルジの鱗は最高硬度の魔鉱並の強度だ。

 それを全身に施したガルジの防御力はクリスと同等以上。

 アーサーに敗北するまで打撃、斬撃、呪文といった全ての攻撃で傷1つ付くことのなかった自慢の鎧。

 それが今削られ、自分に傷を付けた。

 ガルジは歯を軋ませ怒りを露にする。

「てめぇ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!? 本気でぶっ殺してやらぁ!!」

 ガルジは爪を振るい、正面からカイザルと攻撃を打ち合う。

 ガルジの特攻ともいえる攻撃をカイザルは受けて立ち、爪とランスが何度も激突する。

 鱗は徐々に削られていくが、ガルジも聖竜の名を冠するだけはあり、カイザルの体にも確実にダメージを与えていく。

「ぐが!?」

 無数の打ち合いの果て、カイザルのランスがガルジを吹き飛ばした。

その隙を見逃さず、カイザルはランスに力を込めた。

雷槍竜牙(らいそうりゅうが)!!!」

 螺旋状突き出された雷槍はガルジの鱗を砕き、腹部を穿つ。

「がはっ!?」

 ガルジは口から血を吐き、その場に仰向けに倒れた。

 だがそれでもガルジは戦おうと体を起こそうとし、闘争本能剥き出しの目をカイザルに向ける。

「そこまでです」

 瞬間、二人の間にアーサーが降り立った。

「邪魔・・・すんなアーサー・・・ま・・・だ・・・終わってねぇぞ!」

 ガルジの意思とは裏腹に、腹部から流れる血の量を見ても、ガルジがもう戦えないことは明らかだった。

「もはや勝負は着きました。貴方の敗けです」

「ざけんな!! 俺はまだ・・・まだ戦え・・・!?」

 不意に来た背後からの衝撃に、ガルジは意識を失った。

「感謝します、ラズゴート殿」

「今こいつに死なれちゃ困るんでな!しかし、見事なもんだったぞカイザル!久し振りに胸が高鳴ったわ!!ガッハッハッ!」

 ガルジを気絶させたラズゴートは、カイザルを誉めながら再び笑う。

「勿体無きお言葉です。 ラズゴート殿」

 カイザルは体の帯電を解き、その場に膝まずいた。

「見事な戦いでした。 貴方の得た力、しかと確かめさせてもらいました」

 そう言うと、アーサーはフェルペスに目配せする。

 フェルペスは頷くと立ち上がり、カイザルを見下ろした。

「聖帝・フェルペス・アルビアの名に置いて、ここにアレックス・カイザルを新たな聖竜・ニーズホッグに任ずる! 期待しているぞ、カイザル」

「ハハッ! このカイザル! 心命をとして、役目を果たして見せます!!」

 カイザルを祝福するジークの雄叫びが響く中、聖五騎士団に新たな聖竜が生まれた。


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