ギゼルと軍師
聖人ウリエルことギゼルの部隊である魔甲機兵団は、第一部隊から第七部隊があり、それぞれに特色がある。
例として、ノエル達を追っていたアルファ率いる第七部隊は諜報と追跡、レオナに破れたゼータとシータの双子が率いる第二部隊は特殊戦闘といった具合である。
これらはギゼルが隊員の特性に合わせ義手義足等のパーツの能力を決め、それぞれの部隊に振り分けている。
そして現在、ギゼルの研究室にある会議室に、先程のアルファとゼータ達を除いた全ての隊長が終結していた。
第六部隊防衛特化部隊隊長ミュー。
第五部隊空中戦闘部隊デルタ。
第四部隊戦闘特化部隊隊長シグマ。
第三部隊中・遠距離戦闘部隊隊長イプシロン。
そして第一部隊及び魔甲機兵団総隊長オメガである。
その魔甲機兵団の集う円卓の中心、第一部隊オメガと今回欠席の第二部隊ゼータの席の間にギゼルが座している。
ギゼルはゆっくり立ち上がると集まった隊長達を見渡した。
「諸君。急な召集によく集まってくれた。既に聞いての通り、奴等の討伐に本腰をいれなければならない事態になった」
「ギゼル様!俺に行かせてください!俺の第四部隊にかかれば、五魔等蹴散らして見せましょう!」
いの一番に討伐に名乗りを上げたのはシグマだ。
ガンマと同じ全身装甲で魔甲機兵団1の巨漢だ。
魔甲機兵団の特攻隊長を自負しており、いの一番に敵を粉砕することを誇りとしている。
「お待ちシグマ。ギゼル様がまだお話の途中でしょう。それを遮るのは不敬というものよ。まあ、私の第三部隊も命があればいつでも出撃出来るけどね」
シグマを諌めながらさりげなく自身の事をアピールしたのがイプシロン。
アルファと同じ女性の隊長だ。
魔甲機兵団には珍しく魔甲鎧はつけておらず、真っ赤なドレスに白のロンググローブと、まるで貴婦人の様な出で立ちだ。
「二人とも、逸る気持ちはわかるけど冷静にね。申し訳ありませんギゼル様」
二人を諌め、ギゼルに謝罪した男がデルタ。
空中戦闘部隊の名の通り空中戦を得意とし、今は折り畳まれているが背中に二枚の翼を装備している。
尚、空を飛ぶ為顔を常に酸素マスクで覆っている。
デルタに続きイプシロンとシグマも頭を下げるが、ギゼルは気にするなと制した。
「二人の気概は喜ばしい。だが事態は諸君が思っているより深刻だ。第七部隊アルファ、第二部隊ゼータとシータ、更に聖盾イージスが加わった布陣ですら敗北したのだからな」
その言葉に場はざわついた。
だが破れた隊長を下げずむ言葉を発する者はいなかった。
何故なら皆、ギゼルにより最高の力を与えられた同志だと信頼しているからだ。
その信頼する同志である隊長格の敗北、しかもギゼルと同格の聖盾イージスがいての敗北である。
隊長達にとって、それは大きな驚異だった。
「そして向こうは現在四人まで揃っている。共にいる魔帝の子ノエルやゴブリンの戦士団も含め、もはやその危険度は下手な反乱勢力の比ではない」
そこまで話すとギゼルは一旦言葉を治める。
隊長達はギゼルの次の言葉を静かに待った。
「・・・よって、これより第二、第六を除く全ての隊長による、五魔掃討作戦を開始する!そして私も直々に出陣する!」
ギゼルの宣言に、おお!と隊長達から声が上がる。
「尚、第六部隊は帝都の守護に当たれ。我らがいない間、お前の部隊の結界が頼りだ」
「慎んでお受けいたします」
白いローブに身を包んだ第六部隊隊長ミューは、うやうやしく頭を下げた。
ミューの部隊は防衛特化。
その真価は部隊が保有する巨大結界装置による完全防御にある。
アーサーやラズゴート達といった戦力とはまた別の大きな守りの力である。
「うむ。ではこれより具体的な内容を…」
「私からも、1つよろしいでしょうかギゼル様?」
ギゼルの発言を遮った声の方を一同が向くと、そこには扉を背に立つ軍師の姿があった。
「軍師殿…」
「貴様~!!我らの会議に土足で上がり込むとは、どういうつもりだ~!!」
「落ち着けシグマ」
怒るシグマを諌めながら、ギゼルの表情には不快感が滲み出ていた。
「これはこれは隊長の皆様…いや、私としたことが大変申し訳ありません。少々お話ししたいことがありまして、無礼とは思いましたがこうして参上した次第でして。しかし流石魔甲機兵団の隊長様達が揃うとその光景も素晴らし…」
「下らん世辞はよせ。それと、余計なことはするなと言った筈だが?」
ギゼルの威圧的な言葉を受けても、軍師は調子を崩さず話続けた。
「ええ勿論。私ごときが聖五騎士団最高幹部である貴方様に意見するなど余計なこと以外のなにものでもないことは存じております…ただ、最近少し考えが片寄りぎみと思いまして…」
「貴様!!」
「無礼にも程があるだろうこの小わっぱが!!」
シグマとイプシロンが激昂し、デルタとミューは不快感を露にし、オメガは沈黙を保った。
「・・・どういうことだ?」
シグマとイプシロンを制すと、不快ながらもギゼルは聞く姿勢を見せる。
「いや、実は最近のギゼル様は直接五魔を叩くことばかり考えておいでかと」
「当然だ。奴らを排除することはこの国の安寧に繋がり、ノエル殿を捕獲するのにも必要なことだ」
「ええ、勿論そこは存じてます。しかし現在五魔は四人。しかも聖盾イージスことクリス様をも退いています。となると・・・方々の実力は十分理解しておりますし、ギゼル様御自ら出陣されるのですからあり得ないとは思いますが・・・万が一討ち漏らす事になる可能性もあり得ます」
「だからそれがないよう策を考えてある」
「勿論ですとも。ですが世の中何が起こるかわかりません。そこで、五魔の完全復活を阻止する方法を、私愚考致しているのですが・・・」
「・・・なんだと?」
イライラしていたギゼルの微妙な変化に、軍師はすかさず言葉を続けた。
「なに、簡単な事です。ディアブロ達よりも早く、魔人ルシフェルを探しだし・・・始末するんです」
「ルシフェルだと?」
「今のディアブロ達を崩すのは容易ではありません。ですが、ルシフェルは今単体。万一何処かと与していたとしてもディアブロ達と比べればその力の差は歴然。ならば先にルシフェルを排除し、その後ディアブロ達を叩く方が効率的です。少なくとも奴等の目的である五魔復活は阻止できますしね」
軍師の言葉にギゼルは思考を巡らせる。
確かにこれまでの襲撃を凌いできたディアブロ達を叩くより、その方が効率はいい。
ましてやルシフェルは五魔の司令塔と呼ばれる程の知恵者。
もしルシフェルが加われば、五魔の力は今の数倍になる。
更にノエルの元に五魔が復活という噂が広がれば、反聖帝派や今はおとなしくしている旧魔帝派が奴等の元に集う。
そうなれば聖五騎士団の総力を上げた全面戦争へと発展しかねない。
それだけはなんとしても阻止しなければならない。
「・・・貴様の言うことも一理ある。ルシフェルを先に始末しよう」
「ギゼル様!?」
隊長達が驚愕する中、軍師は悟られぬようニヤリと笑った。
「いや~流石はギゼル様。素晴らしいご英断ですな。私の言を聞いてくださり感謝致します」
「下らん言葉はいらん。用が終わったなら、さっさと行け」
「おお、そうでしたな。それでは皆様、失礼致します」
軍師はお辞儀をして部屋を立ち去った。
「・・・よろしいのですか、ギゼル様?」
それまで沈黙を守っていたオメガがギゼルに静かに問う。
その体を全て覆う純白の全身装甲は、無駄な飾りはないが洗練された美しさを醸し出している。
更に何事にも動じないその姿は、装甲の美しさと合わさり、魔甲機兵団総隊長に相応しい風格を感じさせる。
「構わん。奴は信用ならないが、確かにそちらの方が効率はいい」
ギゼルは改めて隊長達に向き直る。
「標的を魔人ルシフェルに変更する。全力で奴を探しだし、それを排除する。オメガ、お前が捜索の総指揮を取れ」
オメガは立ち上がると、ギゼルの足元に膝まずいた。
「・・・拝命承ります、ギゼル様」
会議を終え皆に指示を与えたギゼルは研究室を出ると、物陰でうろうろしている人物を見付ける。
「・・・何をしているクリス?」
クリスは体をビクンとさせると、恐る恐るギゼルの方を振り向いた。
「ギゼル・・・えと・・・」
どことなく何か怯えている様な空気のクリスにギゼルは首をかしげた。
「・・・まあいい。それよりお前に言っておくことがあった」
その言葉にクリスは再び体をビクンと震わせる。
「えと・・・この前の五魔とのこと?」
「ああ。前回はお前のお陰で助かった。遅くなったが礼を言う」
嫌みもなにもない普通の礼に、クリスはポカンとした。
「え・・・怒らないの?」
「?何故怒る必要がある?」
「だって・・・僕がいたのに・・・失敗しちゃったし・・「」
そこまで聞き漸くギゼルはクリスの態度に納得した。
「なるほど、そんなことか・・・あれは五魔の実力を侮った私のミスだ。お前に否はない。むしろお前がいなければ、少なくともゼータとシータは捕虜になっていた可能性が高いからな」
「・・・本当?」
「私は下らない嘘はつかん。だからお前もそんな下らないことを気にするな」
そこまで言うと、クリスは漸く小さく笑った。
「そっか・・・よかった・・・」
「納得したならいい。それより、何か用があったのではないか?」
「あ、そうだ・・・アーサーが最高幹部は全員集合だって」
「なに?また反乱勢力の掃討か?」
「違うよ・・・前五魔にやられた人が帰ってきて・・・ガルジと聖竜の座をかけて戦うんだって」
「なんだと?」
ギゼルは顔に驚愕の表情を浮かべると同時に、その無謀な挑戦者が誰なのかわかった。
何故なら、自身の魔甲機兵団以外で五魔に破れた聖五騎士団員は一人しかいないからだ。
「・・・漸くこの時が来た」
その男は控えの間に通されその時を待っていた。
自身の獲物であるランスを手に、静かに気を高ぶらせる。
「この戦い・・・必ず勝利する・・・そして貴様と戦うに相応しい力を手に入れたことを証明してやる・・・待っていろ、バハムート!」
元聖五騎士団第六部隊隊長アレックス・カイザルは、ここにいない雪辱の相手に向かい宣言した。




