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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
360/360

魔人の逆鱗

 ルシフェルはラミーア達を守る様にタナトスの前に立ち塞がった。

 タナトスを一瞥するとラミーアにすぐに意識を向ける。

「我が君、ご無事か?」

「ルシ、フェル、あたしは・・・」

 ショックから立ち直っていないラミーアを見て、ルシフェルは何かを言おうとしたが思い止まりイトス達の方を向く。

「よく我が君を守り通した。 感謝する」

「よせよ。 あんたに感謝されたら槍の雨でも降りそうだ」

「槍で済めばいいがな」

 イトスとギゼルが軽口で返すが、それなりにダメージが大きいのは明らかだった。

「貴様達は我が君をお守りしろ。 奴は私が始末する」

「あ〜あ。 間に合っちゃったか」

 臨戦態勢のルシフェルに対し、タナトスは少し大袈裟に残念そうな素振りを見せる。

「折角死んで僕の言いなりになったラミーアを見せてあげようと思ったのに、本当空気の読めない駄天使だよ君は」

「貴様に言われたくないなゴミクズ。 わざわざ同胞を差し向けてまで私との対決を避けた臆病者が」

「その同胞も容赦なく屠ってきたんだろ? 故郷を見捨てて、同胞すら邪魔なら容赦なく始末する。 血も涙もないって君の事を言うんだろうね」

「死者を捨て駒程度にしか考えていない貴様がそれを言うか?」

「え〜? これでも僕は彼らに感謝してるんだよ? 何せそこそこの痛手は与えてくれているみたいだしね」

 ルシフェルの体には、浅くない傷が幾つも付いていた。

 流石の魔人ルシフェルも、天界最高峰の実力者である四大天使を相手に無傷ではいられなかった。

「貴様が傀儡にしなければ、こんな程度では済まなかっただろうがな」

「いちいち癇に障る男だね。 いいさ。 望み通り相手にしてやるよ。 そしてお前も僕の操り人形になるんだ。 冥界と地上が融合した後も永遠にね」

「冥界と地上の融合か」

 ルシフェルはその言葉を聞き、纏っていた闘気が静まり返った。

 それが逆に、周囲にいる者達には不気味に感じられた。

「そんな事の為に、私の同胞達は滅んだのか?」

「なんだ、さっきの会話聞こえていたのか。 そうだよ。 僕が魔力を減らしたせいさ」

「そんな事の為に、私の五魔(とも)をバラバラに引き裂いたのか?」

「そうだよ」

「そんな事の為に、我が君の心は傷付けられたのか?」

「だからそうだってッ!?」

 タナトスが苛立ちだした瞬間、ルシフェルから爆発した様に殺気が溢れ、タナトスの腹を巨大な氷塊が貫いた。

「貴様に最早安息はないと思え。 その罪、百万回死んでも償えると思うな!!」

 怒りを顕にするルシフェルは魔力を全開にして両手を振り下ろす。

「冥獄の落雷!」

 複数の鋭い落雷がタナトスに降り注ぎ、地上のものとは比べ物にならない強力な電流がタナトスの体内を駆け巡る。

「冥獄の豪風!!」

 電撃に襲われるタナトスを巨大な竜巻が包み込み、その体を切り裂いていく。

「冥獄の獄炎!!!」

 更に冥府の業火が竜巻の中にいるタナトスに襲いかかる。

 イフリートのそれを超える業火はタナトスの全身を焼いていく。

「その体、塵芥も残せると思うな! 冥獄の、断頭台!!!」

 透明な断頭台の刃が、炎の竜巻内のタナトス目掛けて振り下ろされた。

 轟音と共に激突した衝撃が周囲に駆け巡り、イトス達はラミーアを衝撃から守ろうとした。

 ルシフェルの怒涛の連撃に、これが魔人ルシフェルの本気かと圧倒された。

「今のはそこそこ痛かったよ」

 声がしたかと思うと、タナトスが炎の竜巻を吹き飛ばし姿を現した。

 流石に無傷ではなかったが平然とした様子で立っていた。。

「仮にも冥府の王を名乗るだけあって無駄に頑丈だな」

「そっちこそよくそれだけ使いこなせてるね。 冥府の力を使える奴なんて、長年見てきて君が初めてだ」

「貴様如きの賛辞など嬉しくもない。 冥獄の・・・」

「獄炎」

 ルシフェルが炎を放った瞬間、タナトスも炎を放った。

 しかもそれはルシフェルのものと同じ冥府の炎だった。

 炎同士がぶつかり合い消滅すると、ルシフェルは小さく舌打ちした。

「その表情、理解してるみたいだね。 今君が言った様に僕は冥府の王だ。 その力は当然使えるし、君よりも威力は高い。 その証拠に、今軽く押し負けてたよね?」

「黙れ!」

 ルシフェルが冥獄の落雷を放つとタナトスも同様に反撃する。

 いくつもの雷撃同士がぶつかり合う中、徐々にルシフェルの方が押されていった。

「ほらね。 これがただ使える奴と王の差だよ。 ついでに言えば、君は四大天使と戦って消耗している。 そんな状態で僕に勝とうなんて、舐めるのもいい加減にしろ!」

 タナトスの雷撃が勢いを増しルシフェルの雷撃を消し飛ばしていく。

 ルシフェルは雷撃を上空に避けるが、タナトスはそれを読んでいたかの様に瞬時に目の前に接近。

 蹴りを顔面に喰らわせルシフェルを床に叩き付けた。

「確かにお前はこの世で唯一無二の存在だ。 でも、本家本元の僕には敵わないんだよ」

 ルシフェルは立ち上がると口から血を吐き捨てる。

 顔を蹴り飛ばされるのは、本来ならルシフェルにとって更に怒りを増す程の屈辱的な行為だ。

 だがルシフェルは逆に冷静だった。

 怒りが消えた訳でもなく、中でマグマの様に煮え滾っていたがそれでもルシフェルの思考は静かだった。

 その中、ルシフェルはラミーアが心配そうに自身を見ている姿が目に入った。

(あの頃と変わらないな、貴方は)

 ルシフェルにはかつて自分が五魔になって間もない頃、人の姿だったラミーアが同じ様に自分を見ていたのを思い出す。

 圧倒的な力を持っている自分に対し心配とは無知な小娘だと最初は思ったが、彼女が自分を大事に想ってくれているという事が今はわかる。

 だからルシフェルは変わった。

 ラミーアにあの様な表情をさせないと誓った。

 我が君と呼ぶ様になったのも、不甲斐ない自分の傲慢さを戒める為にラミーアに最後の我がままと言い頼んだ。

 全ては自分に仲間と居場所、そして他者を想う事を教えてくれたラミーアに報いる為だった。

 今ラミーアがあの様な顔をするなら、自分はそれを消さなければならない。

 その為に出来る最善は何か?

 ルシフェルは怒りとは裏腹に冷静になった思考を巡らせる。

(屈辱だが奴の言っている事は正しい様だ。 消耗が無くても押し切られただろうし、そもそも多少ダメージを与えた所で本体がここにいないのであれば根本的な解決にはならない。 もしあれ以外に予備の体を用意されていたら私の負けは確実。 我が君も他の者も消耗している所を突かれて敗北は確実。 となると、奴の本体を叩くのが一番だがそれは冥界にある。 どうすれば本体を消す事が出来る?)

「どうしたの? 急に黙り込んじゃって。 もしかして僕の本体を倒す方法でも必死に考えてる? 無理無理。 死んで冥界に来ない限り僕の本体に触れる事すら出来ないんだから。 最も、死んだら僕に操られて終わり。 どの道君達は僕には勝てないんだよ」

 勝ち誇ったタナトスの挑発に、ルシフェルは小さく笑みを浮かべる。

 するとタナトスはルシフェルに向けて手をかざした。

「冥獄の茨」

 何本もの漆黒の茨が地面から現れルシフェルを拘束する。

 強く締め付けられる事で茨の棘がルシフェルの体に食い込み血が滴り落ちる。

「そういう笑い浮かべる時って大抵面倒な事思いつかれてんだよね。 流石にもうその手の油断はないから。 何かする前に確実に殺してやるよ」

 タナトスはルシフェルに接近してその体を貫こうと手刀を繰り出す。

 その時、ルシフェルの体が炎に包まれる。

 体と一緒に茨が焼け落ち拘束が解かれ、ルシフェルは素早く手刀を躱し背後からタナトスを羽交い締めにする。

「何をっ!?」

「感謝するぞタナトス。 貴様が接近してくれたお陰で近づく手間が省けた」

「近づいてどうするの? どんなに接近したって僕を倒す事は無理だってまだわからない?」

「ああ、無理だな。 だが、これならどうだ?」

 ルシフェルが魔力を地面に放つと、地面に巨大な穴が空いた。

 それは床をぶち抜いたものではなく、完全な暗闇の空間が広がっていた。

 その穴を見て、タナトスは初めて本気の焦りの表情を見せた。

「お前、まさか!?」

「さあ堕ちてもらおうか。 一緒に冥界に」

 瞬間、穴が周囲のものを吸い込み始めた。

 タナトスは魔力を全開にし、必死に抗おうとする。

「なんだあの穴は!?」

「ルシフェル!?」

 吸い込まれない様に耐えるギゼルの横を、ラミーアがすり抜けルシフェルに近付こうとする。

 イトスは慌ててラミーアを捕まえ自身も吸い込まれない様に剣を地面に刺した。

「おいどうしたんだよ!? ルシフェルは何をしようとしてんだ!?」

「あれは冥府の穴だ! 一度出したらルシフェルが閉じるまで無差別に全てのものを冥界へと落としてしまう! それも生きたままだ! その危険性からルシフェル自身が封印した最悪の術だよ!」

「生きたままって、まさかあいつ、タナトスと一緒に!?」

 ルシフェルの意図とタナトスの焦る理由を理解したイトスはラミーアを更に強く抑える。

「離すんだよイトスの坊や! このままじゃルシフェルが!」

「んな事出来るかよ! こっちはあいつにあんた守れって託されてんだ!」

「ルシフェル! ルシフェル!!」

 ラミーアが必死に名を呼ぶ中、ルシフェルはタナトスに対し笑みを浮かべた。

「改めて礼を言うぞタナトス。 死んだまま冥界に行っても意味はない。 貴様の挑発のお陰でこの術を思い出す事が出来たのだからな」

「この、駄天使が!?」

 タナトスは抜け出そうと抵抗するが、ルシフェルは笑みを浮かべたままタナトスを離さなかった。

「これなら生きたまま貴様と本当に対峙出来る。 ついでにその体も持っていってやろう。 腹いせに我が君達に攻撃されても不快だからな」

「このっ!」

 タナトスはルシフェルに攻撃を加えようとするが、吸引力が強まりその余裕すら無くしてしまう。

「ルシフェル!」

「ラミーア」

 必死に呼びかけるラミーアに、ルシフェルは久しぶりにラミーアの名を呼んだ。

「貴女は何も気にするな。 何があっても貴女の思った通りに動け。 それが、私達五魔が認めたラミーアという女性なのだから」

「ルシフェル!!!」

 名を呼ばれたルシフェルは、穏やかな笑顔を最後にラミーアに向けた。

「ありがとう」

 ルシフェルは振り絞り、タナトスと共に冥府の穴へと落ちていった。

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