後始末
今回ちょこっとノエルの母親のことにも触れます(^_^ゞ
戦いを終えたノエル達はレオナとフランクを連れ、ラクシャダの中の屋敷に戻っていた。
本来ならレオナ達を家に帰したいが、まだ襲われる可能性があるので念のためだ。
ゴブラド達が準備をしていてくれたお陰で、リナの手当て等もスムーズに行われ、現在は屋敷の食堂に集まっている。
何故食堂かと言うと…。
「あ、これ美味しい。ノエル君料理上手ね」
「いえ、フランクさんにも手伝ってもらってますし…所で…まだ食べます?」
「うん、お願い。後このあさりのもおかわり」
「あ、はい」
「…なんなんスかこの食欲は?」
ノエルとレオナのやり取りにライルは思わず呟く。
レオナの目の前には大量の料理が並んでいる。
レオナはそれを一心不乱に食べ続け、ノエルとフランク、そしてゴブリンの料理担当のリムと一緒に更に料理を作り続けている。
「しょうがないでしょ?久しぶりに戦って…はむ…色々補充しなきゃいけないのよ…あむ…」
レオナは豚肉のレバーのミートローフを頬張る。
「こいつは鉄分を人の何倍も貯められんだよ。で、戦闘が終わるといつもこの大食いが始まるんだよ」
「だからってこの量は…」
リナの説明を聞いたライルはそれでもまだ驚いている。
レオナの前には鶏レバーの甘辛煮、乾燥ひじきに干し葡萄等々、鉄分補給に適した料理や食材が山盛りになっている。
はっきり言って食べ過ぎというレベルではない。
少なくともライルはこれを食べきれない。
「五魔の女って皆こんな大食いなんスか?」
「…なんで俺見んだよ?」
「ケーキ20個も食べるんだから当然でしょ?あ、私は大食いじゃないですからね」
リーティアの言葉を半分聞き流しながら「…また買いに行かねぇと…」とまた荷物持ちをさせられる事を想像するライルだった。
因みにクロードはリーティアの中でデブクロの修理をしている。
「言っとくけど…普段はこんなに食べないわよ。ここの所ずっと戦ってなかったから余分に鉄分取る必要なかったし…だから正直、さっきの子が退いてくれて助かったわ。あのままやってたら多分あたし負けてたし」
「うぇ!?だって勝ってたじゃないっスか!?」
「まだ相手本気じゃなかったし、さっきも言ったけど余分な鉄分取ってなかったからあのままやってたら確実に鉄切れよ。武器出せなくなる所か、貧血やら立ちくらみやらで結構大変なのよ。まあジャバやクロードがいるから、最悪全員でかかれば問題なかったと思うけど…ふぅ…漸く落ち着いた」
腹が満ちたレオナは満足そうに息をつく。
「で?お前らこれからどうすんだ?」
「…問題はそこなのよね…」
リナの問いかけに、レオナはため息を吐く。
レオナとフランクは、今度はノエルから旅の目的を聞いた。
ここまで巻き込んだのだからもはや説明しないわけにはいかないとノエルが判断したからだ。
それにレオナがノエルと共に行くかどうかは別として、もうレオナ達はあの食堂で普通には暮らせない。
今回の件で聖五騎士団と敵対してしまったし、ノエルに付いていかなくともよくて監視、最悪新たな刺客が送られてくる。
それはフランクが再び命の危険に晒される事を意味している。
勿論レオナもまたフランクを奪われるつもりはない。
全力で守るだろう。
だがそれでもやはり危険なのには変わらない。
かといって、フランクも共にノエルと旅をする訳にもいかない。
レオナ自身はいい。
実力は当然あるし、何より今はかつての仲間と共にノエルの力になりたいという気持ちがある。
だがフランクを連れていくとなると、フランクをお尋ね者にしてしまうということになる。
当然、それはフランクを余計危ない目に合わせるということだ。
ならフランクが最も安全な道は何か…それはレオナと別れる事だ。
レオナはフランクとは離れたくない。
だがそれ以上にフランクが死んでほしくない。
なら自分と別れ、新しい人生を歩んでもらう…レオナはそう口にしようとした。
「やっぱり…あたし…」
「言っとくけど、僕は別れる気はないからね」
レオナの言葉を遮り、フランクは言った。
「さっきも言っただろ?僕は全部承知で君と結婚したんだ。だからどんな事になろうと、僕は君と別れるつもりはないよ」
「フランク…でも…」
フランクの気持ちは嬉しい。
でもそれではフランクは…悩むレオナは顔を俯かせる。
「だったら…僕の実家はどうですか?」
ノエルの言葉に、レオナは顔を上げる。
「実家って…お前が暮らしていた田舎か?」
「はい。あそこから聖五騎士団の目もないでしょうし、何よりお爺さ…僕の祖父母がいますから、事情を話せばなんとかなると…」
「そういや、あそこのじいさん婆さんって…お前のお袋さんの親だったな」
「はい…凄く良くしてくれました」
ノエルの母は、元々城に仕えるメイドだった。
特に家柄もいいわけではないが、気配りが出来優しく、笑顔の素敵な女性だったという。
ノルウェはそんな彼女に惹かれ、彼女も当時魔帝と呼ばれていたノルウェの本質に気付き、心を通わせる様になった。
やがて二人は結ばれたが、ノルウェは自分の立場上彼女に危険が迫る事を恐れ、五魔等ごく一部の者を除き公表はしなかった。
やがてノエルを身籠るとノエルの母の実家に彼女を戻し、そこで出産する事にした。
その後ノエルの母はノエルを産んですぐに体を壊しこの世を去ってしまい、彼女の両親により育てられる事になったのだった。
ただし、魔帝の子であることを隠すため祖父母とノエルの血縁関係は周囲には伏せていたのだが。
因みに、ノエルの顔は母親譲りの様だ。
「あそこなら二人は事情を知っていますし、事が終わるまで隠れるのに調度いいと思うんです」
「でもそこ…もうあなたが住んでた場所ってバレてるんでしょ?」
「そこは大丈夫です。監視対象はあくまで僕ですから、むこうからしたら祖父母を見張る理由はありません」
レオナの疑問にノエルは丁寧に答える。
だがそれでも、まだ納得していなさそうだった。
「あの…よろしいでしょうか?」
その場で成り行きを見守っていたゴブラドが小さく手をあげた。
「なんですかゴブラドさん?」
「いえ、もしレオナ様が不安でしたら、私の配下で戦闘に秀でたゴブリンを何人か付けてはどうかと思いまして…」
「いいんじゃねぇか?あの辺りは亜人も珍しくないし、ここのゴブリンなら並の兵士とかなら簡単にあしらえるだろ」
ゴブラドの提案をリナが後押しする。
「どうですか?フランクさん、レオナさん」
「僕は構いません」
「フランク…本当にいいの?」
心配そうに見つめるレオナに、フランクは優しく微笑んだ。
「うん。ここに残っても、足手まといになるだけだろうし…それにレオナも行きたいんだろ?ノエル君やリナさん達と?」
フランクの言葉に、レオナは小さく頷いた。
「それなら僕は君が心置きなく前に進める様にするだけだよ…だから僕の事は心配しないで…ね?」
レオナはフランクを見つめ、力強く頷いた。
「…ありがとうフランク…あたし…行ってくるね」
決意を固めたレオナに、フランクは優しく頷いた。
「んじゃ、これで決まりだな…所でレオナ。お前の店、客いんの?」
「何よいきなり…当然いるわよ。ちょっと町から離れてるけど、お昼時とか夕飯の時は結構入るわよ。それに他所の町から来る商人さんとか、こっちに仕事に来る度に寄ってくれるし」
「なら…ちゃんと後始末しねぇとな」
「…え?」
…
翌日、レオナとフランクの食堂はいつも通り開いた。
暫く帰れないからと、最後に来てくれていたお客さんに感謝を込めての開店だ。
発案はリナで、ノエルやリーティア達も料理やウェイトレスとして手伝うことにした。
その間、ライルやゴブラド達は改めて旅の準備を進めている。
やがて朝に来た客から今日が最後と聞いた他の客がやって来て、更にまたそこから話が広がり、大勢の客が集まった。
中には餞別として自分の商品を譲ってくれた商人がいたり、朝に来て夜にまた来るという客までいた。
それだけでどれだけこの食堂がこの町に受け入れられていたかがよくわかった。
レオナとフランクはそんな客に感謝を込め、精一杯料理を振る舞った。
…
その夜、食堂を閉店し皆が後片付けをしていた時…。
「なにサボってんのよ?」
食堂の屋根で寝そべっているリナに、レオナが声をかける。
「誰かさんのせいで怪我してな。少しくらい多目に見ろ」
「全く可愛げないわね…昼間はあんなに愛想振り撒いてたのに…」
「んぐ…」
リナも昼間はウェイトレスとして店を手伝っていたのだ。
しかもノエルと会った時の様なおしとやかで優しいリナとして。
リナがバツの悪そうに顔を背けると、レオナも屋根に上りリナの隣に座った。
「じゃあこれ。お疲れのウェイトレスさんに」
レオナは手に持っていた皿をリナに渡した。
皿にはショートケーキが乗っていた。
「お、気が利くじゃねぇか」
リナはそれを受け取ると早速一口食べた。
「ん…なんか懐かしいな味だな…」
「そりゃね。あたしが作ったんだもの」
「そっか…通りでな」
そう言うとリナは黙々とケーキを食べ続ける。
「…あんたも本当好きね」
「最初に食ったのが旨すぎたのが悪い」
「原因あたしか…自分の才能が怖いわ」
「言ってろ」
リナが最初に食べたケーキとは、まだ子供だった頃レオナが作ったものだ。
無論、当時はここまで旨くは出来ず子供にしては良くできてる程度の物だった。
だがリナはそれを大変気に入り、以来ケーキが好物となったのだった。
「…今日はありがと。お陰でスッキリしたわ」
「別に。いつまでもグズグズされんのがめんどくせぇだけだ」
「…本当素直じゃないんだから」
一番一生懸命働いてたくせに…と思いつつ、レオナはケーキを食べるリナを見ていた。
…
翌日、旅の準備を終えたレオナ達は、ラクシャダを隠した森の近くでノエルの田舎へと向かうフランクの見送りをした。
「これを。祖父母に渡してください」
「ありがとう。助かるよ」
ノエルは事情を書いた祖父母への手紙をフランクに渡した。
「フランクをよろしくね」
「任せてくだせぇ。命に変えてもお守りします」
レオナの言葉に、眼光鋭いゴブリンが力強く返事をした。
彼はゴブラダ。
現在ラクシャダ内にいるゴブリンの中でゴブラドの次に強いゴブリンである。
彼の他男女のゴブリンが2名ずつ、計5人の手練れがフランクの護衛として付いていく事になった。
フランクはこんなに自分に大勢の護衛を付けてもらい申し訳なさそうにしている。
本当は目立つからもう少し少なくてもよかったのだが、ゴブラドが「レオナ様のご家族なのですからこれくらいは当然」とこの人数にしたのだ。
「フランク…元気でね」
「大丈夫。またすぐ一緒になれるよ」
「うん…」
見送るレオナは笑顔を見せるが、やはり寂しいのか、どことなく元気がない。
「…レオナ」
「え?」
フランクは突然レオナを抱き締めた。
「…無茶だけはしないでくれ…絶対…死なないでくれ…君にもしもの事があったら…僕は…」
「フランク…」
心配しているのは自分だけじゃない…むしろフランクの方が、戦う機会の多い自分の事が心配でならなかったんだ…フランクの気持ちを察したレオナは自分もフランクを柔らかく抱き締める。
「…大丈夫…絶対生きて帰ってくる…そしてまたあのお店に帰りましょ。あたし達の我が家へ…」
「ああ…必ずだよ…約束だ」
レオナとフランクは、互いに笑顔をになった。
また会うその日を約束するように…。
「…いい夫婦ですね」
「そうだな…」
フランクを見送るレオナの背を見ながらノエルが呟くと、リナが返した。
そしてフランクの姿が見えなくなると、レオナはこちらに向き直る。
「魔器デスサイズ・レオナ!これからお世話になります!よろしくね、ノエル君」
ニカッと笑うレオナに、ノエルを笑顔で答える。
「はい!よろしくお願いします!」
こうして、魔器デスサイズ・レオナが仲間となった。
これで残る五魔はあと一人…魔人ルシフェルのみ。




