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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
355/360

元魔王VS地上の王3

 蹂躙。

 恐らくその言葉が一番この状況に相応しいのだろう。

 魔族としての姿を現したベアードの触手は空から一斉に降り注ぎ、その射程範囲にいる者を敵も味方も関係なく刺し貫いていく。

 その状況に恐怖し逃げ出す兵士もいたが、それも無駄な抵抗に終わった。

「くっ! 兵をなんと思っているか貴様!!」

 その惨状に怒りを見せたダグノラは暴波天嵐(ぼうはてんらん)の竜巻を放つ。

 触手を薙ぎ払い竜巻はベアードの中央の目に真っ直ぐ向かっていく。

「温い」

 ベアードはその竜巻を人睨みすると、竜巻は一瞬で消し飛んだ。

「なんだと!?」

「私が触手だけだと思ったのかいミスターダグノラ? だとしたら恥ずべき短慮だ」

 ベアードは触手を伸ばすとダクノラの腹を穿いた。

 ダクノラは血反吐を吐きその場に倒れ込む。

「ダグノラ! おどりゃああ!!」

 アクナディンが残ったサンダリオンを手に突っ込み、エドガーも氷でそれを援護する。

 氷の茨が触手をアクナディンに向かう触手を封じ、アクナディンの隙にベアード本体へと迫る。

「学習能力がないのかな君達は?」

 ベアードがまた睨みつけるとアクナディンは吹き飛ばされ氷の茨は全て砕け散った。

「我が魔眼の眼力は人間程度が耐えられるレベルのものではないのだよ。 いくら君が頑丈でもね、ミスターアクナディン」

「ならこれはどうですか?」

 瞬間、ケンシンが七支刀に光を纏わせてベアードの背後から斬りかかる。

「彼らは囮か。 しかし、それも早計だ」

 ベアードは背中と思われていた場所からも瞳を出現させる。

「なっ!?」

「いつからこの姿の私が一つ目だと錯覚していた?」

 ケンシンは七支刀を前にかざし防ごうとするが、睨みつけられるとアクナディン同様に吹き飛ばされてしまう。

「確かに君の刀なら、触手以外を斬る事が出来れば勝てるだろうミスケンシン。 しかしそれも刀が届けばの話だ。 君達では私の体に触れる事はもはや出来ない。 そして・・・」

 ベアードは唯一残っているマークスを見下ろした。

 その瞳の圧に、マークスは屈しそうになるのを堪えるのがやっとだった。

「君は理解しているのだろうミスターマークス。 この中で最も智に長けた賢王。 その君が私を観察し続け、導き出した答えは1つの筈だ。 今の戦力では私には勝てない。 元奴隷であり魔王がどれ程の存在かを知る君なら、この答えに辿り着くのは難しくない筈だ」

 実際そうだった。

 大規模攻撃の出来るダグノラとエドガー。

 白兵戦では最強格のアクナディン。

 そして相手の防御力を抜きに致命傷を与えられる可能性を持つケンシン。

 その全てが通じない今、自分の魔術のみで勝つ可能性は0。

 なにせマークスとベアードでは魔力の量か違いすぎる。

 そう考えれば、もはやこの場は降伏するしか手はない。

 降伏して自身の国の保身を図るのが最適解。

 幸いベアードはこの場で降伏すれば許す程の寛容さがあることはここまでのやり取りで理解していた。

 ならば降伏すれば確実に助かる。

 それどころか上手く立ち回れば地上の管理を任せてもらえるかもしれない。

 それ位分のいい賭けだ。

 マークスの理性は自身に降伏する様に呼び掛け続けた。

 だが、マークスは静かに杖を構え直しベアードに向き合った。

「申し訳ないベアード。 どうやら私は、賢王どころかただの馬鹿に成り下がってしまったようだ」

 降伏するのが正しい。

 しかし、それをマークスの本能がそれを拒絶した。

 今マークスが降伏すれば、それは奴隷時代を脱却しここまで歩いてきた自分自身を完全に否定する事になる。

 それは自分を信じて付いてきたルシスの民達をも裏切る事になる。

 それだけは、マークスにとって絶体できない事だった。

「馬鹿になる。 素晴らしいじゃないですか」

 そんなマークスに賛同したのは、ベアードに吹き飛ばされたケンシンだった。

「私は、理や正論のみを是とする者より、貴方やアクナディン殿の様な理に合わない馬鹿をする方が好きですよ」

「あいつと同じなのは嫌だけど、今はその言葉はありがたいよケンシン殿」

「ふむ。 これはこれはミスケンシン。 貴女もなかなか渋とい。 しかし、立ち上がった所で意味はない。 命を拾ったならば、無駄な抵抗はしない事を勧めるが?」

「残念ながらそれは出来ませんよベアード殿。 なにせ私も、理などを度外視して行動する馬鹿の一人なのでね」

 そう言うとケンシンは刀の鍔から切っ先までを爪で引っ掻くように滑らせる。

「全てを飲み込む真闇を解き放ち、大六天を穿つ魔の装具となれ!」

 するとケンシンの周りに黒い靄が出現しケンシンを包んでいく。

 そして靄が晴れると、ケンシンの純白の装具が真逆の漆黒の装具へと変わっていた。

 まるで闇そのものを身に纏った様なケンシンの姿に、ベアードは興味深そうに眼を光らせる。

「ほぉ、これは面白い。 軍神などと呼ばれている通り清廉潔白な方だと思っていましたが、今の姿は神どころか寧ろ我ら魔族に近い」

「正解ですベアード殿。 破邪顕正は私の戦のない世、そして民の安寧を願う想いを刀に込めた光の奥義。 対してこの闇衣は私の闇の部分。 つまり戦を楽しむ戦闘狂の部分を凝縮した闇の奥義」

「なるほど。 その二律背反する力が貴女の本当の力というわけか。 しかし、相反する力を使うのはリスクが大きい。 長時間は使うのは無理だと思うが?」

「その通りです。 でも、この衣を纏った私はそういう事などどうでもいい位、戦いを求めてしまうんですよ!」

 ケンシンは七支刀を再び光らせるとベアードに距離を詰めようとする。

 先程よりも圧倒的に速いケンシンに、闇衣の効果が身体強化と認識したベアードは触手をケンシンに集中させる。

 ケンシンは触手を切り裂くとそれを足場に一気にベアードに近付いていく。

「いい反応だ。 しかし、これを忘れていないかな?」

 ベアードが睨みつけると再び衝撃波がケンシンを襲う。

 先程よりダメージは受けなかったが、ケンシンは距離を取らざる負えなかった。

「能力を消すだけではないとは思っていたが、軍神と呼ばれるだけの力はあるという事か。 しかし、それでも・・・ん?」

 ケンシンに気を取られていたベアードは、そこで初めて異変に気付く。

 空中に雷雲が広がり、稲光を走らせている。

「これは、ミスターマークスか」

 見るとマークスが杖を地面に突き刺し、魔力を集中させている。

「折角馬鹿の仲間入りしたんでね。 私も奥の手を出させてもらおうかな。 ライトニングレイン!!」

 マークスの杖から魔力を上空に放つと、技の名の様に極太の雷が雨の様にベアード目掛けて降り注ぐ。

 ベアードは眼力を使い雷を消し飛ばすが、それすら上回る量がベアードに降り注ぐ。

 眼力だけでは消しきれないと判断し、触手も使いベアードは雷を叩き落とし始める

「流石賢王。 これ程の大規模魔術を使えるとは」

「ベアードに対しては焼け石に水だろうけどね。 今の内になんとか奴に一撃を」

「ならわしもやらせぇや」

 倒れていたアクナディンがサンダリオンを片手になんとか立ち上がる。

「相変わらずタフだね君は」

「ぬかせ。 してもこんな隠し玉持っとるたあのぉ。 賢王の名は伊達やないっちゅうことか」

「君に褒められるなんて本当に雷の雨が振りそうだ。 でも今の君じゃあそこまで行くのは・・・」

 すると突然竜巻がいくつも発生し、雷を援護する様にベアードに向かっていった。

「ダグノラか!」

 腹から血を流しながら満身創痍のダグノラが剣を振るい竜巻をいくつも発生させていた。

「ここを逃せば我らに勝機なし! 若い者に道を開く為に、我が命使い切ってませようぞ!」

 鬼気迫る表情で竜巻を生み出し続けるダグノラを見て、マークスも覚悟を決めた様に頷く。

「あまり博打は好きじゃないんだけどね。 ここは軍神と武王に賭けるとしようか」

 雷は更に勢いを増し、ベアードに降り注ぐ。

 竜巻と雷両方からの攻撃に、ベアードも防御に集中し始める。

「これなら、十分攻められそうですね」

「後はどがぁして近付くかじゃな」

 すると二人の足元から巨大な氷の茨が現れる。

「それで私が近くまで運びましょう」

「エドガーか。 便利な力じゃのぉ」

「もはやこの位しか役に立てそうにないですからね。 その代わりしっかり届けてみせますよ」

「感謝します。 エドガー殿」

「しゃあ! 行ったろうか!!」

 エドガーの茨に乗り、二人はベアードに向かっていった。

 エドガーは更に無数の茨を出し、二人の進行を援護する。

 ベアードはケンシンとアクナディンに気付き触手を伸ばすが、エドガーの茨とダグノラの竜巻に防がれる。

「小癪な」

 ベアードは眼力を使おうと眼を向けようとするが、マークスの雷がそれを阻む。

 多重攻撃による援護で、アクナディンとケンシンは一気に接近する。

 そしてベアードの前へと飛び出した。

「よっしゃやったらぁ!」

「ええ!」

 二人が武器を構えると、ベアードの瞳が笑った。

「ようこそ。 そしてさようなら」

 ベアードは瞳に魔力を集中させて一気に放った。

 二人を飲み込むのに十分な大きさの魔力光線に対し、アクナディンは前に出る。

「マークス!!」

 アクナディンの声に反応するとマークスはサンダリオンに魔力を込めた雷を落とす。

 マークスの魔力の籠もったサンダリオンを両手で持ち、アクナディンはそれを全身全霊で振り下ろした。

「なんなら〜!!!」

 渾身の一振りに、ベアードの魔力光線は真っ二つに切り裂かれた。

 同時にサンダリオンは砕け散り、アクナディンはその破片と共に落ちていく。

「あとは任せたけぇ! やっちゃれケンシン!!」

「承知!」

 ケンシンは魔力を打って隙の出来たベアードの眼前に迫ると、自身の力を刀に集中させる、

「破邪!! 顕正!!!」

 ケンシン渾身の一撃が、ベアードの瞳を刺し貫いた。

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