ディアブロの信念・サタンの覚悟
旧魔王3人の連携で出来た隙を、躱す事が出来ない完璧なタイミングでサタンは答えて渾身の拳を放った。
必殺の間合い。
避ける隙も皆無。
それは技を受けるディアブロも感じた。
旧魔王最強の力を持つサタンの拳は、空気を裂きその摩擦で炎を纏いながらディアブロに思い切り叩き込まれた。
「・・・驚いたな」
巨大なクレーターをも作り出す拳を、ディアブロが片腕で受け止めていた。
「まさか今の貴様程度で余の腕を痺れさせるとは。 過小評価していたのは認めよう。 だがこの程度で余を倒せると思っているなど、甘く見られたものだな」
ディアブロはサタンの腹に掌底を喰らわせるとサタンは血反吐を吐き壁まで吹き飛ばされる。
「ダーリン! 貴様っ!」
ベルゼブブが嵐をディアブロに向かって放つと、ロキとルキフグスとそれぞれ炎と武器で攻撃を仕掛ける。
ディアブロは魔力を周囲に放つと全ての攻撃を打ち消し、同時にベルゼブブ達を弾き飛ばした。
サタンは起き上がろうとするが、それよりも早くディアブロはサタンの胸元を踏み付ける。
「ぐっ!?」
「礼を言おう。 久しぶりに戦っているという感覚を味わえた。 流石旧魔王達と言う所か」
「そりゃどうも。 でも、これでおじさん達が終わると本気で思ってるのかな?」
「思ってはいないが、貴様とて余に勝てないのは理解しているのだろう?」
ディアブロが足に力を込めるとミシミシっという音と共にサタンは苦悶の表情を見せる。
「我々魔族は本来魔力が衰えなければ殆ど歳を取らない。 貴様も余と戦ったあの頃は青年の姿をしていた。 それが今はどうだ? たかだか1000年ちょっとしか経っていないのにその様だ。 つまり貴様は、余に負けたあの時より遥かに弱くなっているという訳だ」
「その様とはひどいねぇ。 ナイスミドルって言ってほしいな」
「減らず口だけは変わらずだな。 だが、貴様のその姿こそ今の魔界の危機の大きさを表す何よりの証拠となる。 何万年もの永き時を殆ど歳を取らずに君臨してきた貴様が、僅か1500年足らずでその有様だ。 それだけ魔力が枯渇してきているという事だ」
「だから、その為にこんな事をしでかしたって訳か」
「ああ。 最強の魔王と呼ばれた貴様ですらこれ程影響を受けているのだ。 一般の魔族どれ程苦境に立っているか想像出来るだろう」
「それでタナトスなんて胡散臭い奴とまで組んだってのか。 ご立派なことで」
「なんとでも言え。 奴が何か企んでいる事は承知しているが、死なぬだけの化け物など粉微塵にして封印すればそれで済む。 その後余はアーミラを使い魔力を復活させる。 地上の民と貴様達の様な反逆者を生贄にしてな」
「傲慢な事だ。 人の生き死にを勝手に決めるとは、神にでもなったつもりか?」
「なるさ。 今の魔界の危機を救えるなら、余は神すらも超えてみせよう」
ディアブロは恐らく本気だろう。
もし必要ならば神だろうがなんだろうが挑み、その力を魔界の為に使うだろう。
それがディアブロの魔王としての覚悟であり強さなのだろうとサタンは感じた。
サタンは自分を踏み付けるディアブロの足を掴んだ。
「意気込みも覚悟も随分大仰じゃないの。 そこら辺は認めてあげるけどさ、今のお前、ダサいよ」
掴む手に更に力が籠もり、ディアブロの足を体から離していく。
更に魔力がサタンの体から溢れ出し、ディアブロの目つきが変わる。
「同じ無茶苦茶な野望でも、我を破った時の方がキラキラと輝いていた。 だが今の貴様はドス黒く濁っている。 我が魔界を託した男に、その様な濁りは不要」
サタンの魔王時代のそれに空気が変わり、ディアブロは距離を置いた。
同時に、弾き飛ばしたベルゼブブ達の魔力が高まり姿を現す。
「貴様は我が弱くなったと言ったな? 確かにそうだ。 だがそのお陰で見えなかったものが見え、気付かなかったものに気付く事が出来た。 恐らく、今の貴様には見えなくなったもの。 いや、捨てたものと言った方が的確か。 我はそのお陰で、衰えながらも充実した日々を送れた」
「悪いが、余は貴様と違い老後を考えている場合ではないのでな。 そんな戯言は不要だ」
「不要か。 かつての貴様なら多少理解を示したというのに。 つまらない男になったものだ」
「そうしてしまったのは自分だが」とサタンは心の中で呟いた。
自分が表に出る事でいらぬ混乱を生まないようにと去る決断をしたが、そのせいでディアブロは一人で魔界を背負い変わってしまった。
その過ちを償う為、なんとしてもディアブロを止めなくてはならない。
そう決意したサタンの肉体は変化を始めた。
四天王が見せた様に、人間体から魔族としての本来の姿へ戻っていく。
同時にベルゼブブ達も姿を魔族としてのものへと変えていく。
ベルゼブブは背中から透明な翼が生え、眼は昆虫の様な複眼へと変化していく。
ロキは体が大人のものになり、髪は青く燃え盛る。
ルキフグスは一番変化が少ないが、額に第三の眼が開きそこから血の涙が流れ出す。
3人とも魔力は倍増し、ディアブロを包むプレッシャーが増す。
だがその3人をも凌駕する力が、姿を解放したサタンから放たれていた。
体躯は人間形態の時の倍になり、肌は赤く染まり、下半身は黒い毛皮に覆われ蹄を持ち、蝙蝠の様な羽が背中から広がり、山羊の様な角2本頭から伸び、それはまさに原初の悪魔と呼ばれるに相応しい姿だった。
ディアブロは本気となったサタンを見上げながら静かに構える。
「なぜそこまでする? 地上が気に入ったと言っても、貴様がそこまでやる必要はないだろう?」
「我に勝てたら教えてやろう」
四人が一斉に向かっていき、ディアブロはそれを迎え撃った。
爆発的な魔力の上昇を感じ、ベアードは砦の方を見た。
「全く、なんという事をなさる方だミスターサタン。 お陰で私の意味が無くなってしまったではないですか」
自分を倒さねば消えない結界はサタン達の突入で完全に消し飛ばされてしまった。
これでノエル達は簡単に入れる。
立ち往生している間に捨て石とした魔族の兵士達に攻撃させ消耗させる事も出来なくなった。
このままでは最小限の消耗で砦に入ってしまうだろう。
「これは、私が行かねばならない様ですね」
「そう簡単に行けると思うちょるんか?」
ベアードの行く手を阻む様にアクナディン達が立ち塞がる。
ベアードはやれやれと首を振りながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
「仕方ありませんね。 本当ならもっとゆるりと楽しむつもりでしたが、本気を出すとしましょうか」
かつて魔王の一人に数えられたベアードの眼が、好戦的にギラリと輝いた。




