魔器対聖盾
レオナの圧倒的な技に、ノエルは驚きを隠せずにいた。
「これが、レオナさんの・・・・」
「ただ武器出すだけじゃ、五魔は勤まらねえよ。 つかあっさり殺ったな」
「別に殺してないわよ。 ほら」
レオナがゼータの下半身を蹴ると、倒れた下半身の側面には配線や機械で埋め尽くされていた。
「え!?」
「なんだそりゃ!? そいつらも人形か!?」
驚くノエルとライルに、レオナは静かに否定する。
「ギゼルの部隊は、あたし達が五魔時代に戦争で体の一部を失った人達の集まりだそうよ」
「なんだと?」
その言葉にリナの顔色が変わる。
すると、上半身だけとなりながらまだ意識のあるゼータから笑い声が聞こえた。
「くくく・・・・そうか、だから俺達の体も機械だと」
「まあね。 あれだけの磁力操るのも普通じゃないし。 体自体が改造されてると思ったのよ」
「くはは、なるほどな。 だがなら何故止めを刺さない?
この体が自分達のせいだと同情でもしたか? それなら無用だ。 むしろ俺達はこの体を・・・・」
「そんなことはどうでもいいの」
「なに?」
自身の言葉を遮って否定するレオナにゼータは首をかしげる。
「さっきはリナをキレさせる為に何だかんだ言ったけど、あたしは五魔として生きたこともしたことも後悔してないし、逃げるつもりもない。 でもね、今のあたしは五魔じゃなくて小さな食堂の美人主婦よ。 そんなしょっちゅう殺してなんかいられないってだけ」
レオナの言葉に思わずゼータはポカンとする。
「美人は余計だ美人は」
「そこ! いらないチャチャ入れるな!」
「レオナ、大丈夫か?」
「ありがとうジャバ。 あなたは相変わらず優しいわね。 何処かのがさつ女とは大違い」
「んだとこら!?」
「リナさん動かないで!」
「傷口開いちまうよ!!」
ドタバタするレオナ達に、ゼータは不思議な気分になる。
五魔とは自分達の体を奪った元凶。
だからと言って恨んでいる訳ではないが、化け物の様な集団だと思っていた。
だが今いるのはどこにでもいる人間のやり取りだ。
力は異形でも心は普通の人間。
ある意味、異形の体を持つ自分達と似たような感覚がした。
(なるほど、これが五魔か・・・・)
ゼータは小さく口角を上げた。
「どうやら我々の負けの様だ」
「あ、そういうのもいいから」
「な、なに?」
「あたしは殺しはしないけど、ちゃんと落とし前は付けてもらうから。 特に! あんたらの上司のギゼル! あいつのへんてこな計画せいであたしはリナと戦うわフランク巻き込むわあたしとフランクの甘い生活壊すわ! 絶対ボコボコにしてやるんだから!」
どす黒い笑みを浮かべ堂々と宣言するレオナに、ゼータは慌てだす。
「ま、待て! ギゼル様には手を出すな! あれでもあの方は俺達の恩人だ! 代わりに俺達が・・・・」
「何かやらかしたら上司が責任取るのは当然でしょ!? 第一あんた達がどう責任とんの!? 更にボコボコにする!? あたしにはそんな趣味ないけど!?」
今までの鬱憤もあって捲し立てるレオナに、ゼータはタジタジになっていた。
「あいつに口で勝てる訳ねぇよ」
「ははは・・・・」
リナの指摘にノエルは乾いた笑いをしながら、ゼータに近付いた。
「少しいいですか? え~と・・・・」
「ゼータです。 ノエル殿」
急に話しかけてきたノエルに戸惑いつつ、魔帝の息子ということでゼータは敬語に直す。
「ああ、そうでしたね。 大丈夫ですか?」
「この程度では死にません。 もはや痛みすら感じない体ですしね」
「そうですか。 なら1つ、聞きたい事があります」
「聞きたい事?」
「ええ。 聖帝・フェルペス・アルビアの企みを教えてください」
「陛下の企み? なんのことだ?」
「それは・・・・」
「皆さん! 注意してください!」
ノエルの言葉を遮りリーティアが叫んだ。
すると森の奥で木が薙ぎ倒されていく。
「な、なんだ~!?」
ライルが驚く中ノエル達は薙ぎ倒されていく木の方を見た。
するとそこからフランクを乗せたジンガとレベッカを操るクロードが飛びだしてきた。
「クロードさん!」
「フランク!」
クロード達はノエル達の近くに着地すると、すぐ自分達が飛び出してきた場所に視線を向ける。
「皆! 気を付けて!」
クロードの言葉に反応し構えると、木を粉砕してクリスが現れる。
「うわ・・・・いっぱい人がいる・・・・」
興味深そうに自分達を見詰める得たいも知れない少女に、皆警戒心を強める。
「おいクロードなんだ? リーティアに飽きて浮気でもしたのか?」
「冗談でも流石に質悪すぎるよリナ。 彼女は・・・・」
「イージス様!」
クロードの言葉を遮ったゼータの声に、クリスは「・・・・あ」と反応した。
「磁石の人だ。 あれ? なんで体半分?」
「申し訳ありません。 作戦は失敗です。 急ぎ撤退を・・・・」
「え~、でもそれじゃギゼルに叱られちゃうし・・・・」
子供の様に悩むクリスの姿に、リナ達は何処かの困惑する。
「おい、本当こいつなんなんだ?」
「聖盾イージス。 聖帝が対五魔として選んだ聖五騎士団の最高幹部だ」
「通りでガキっぽい癖に隙がねぇと思った」
「あ~、そうだ」
クロードの説明に納得するリナの言葉を遮り、クリスは何か思い付いたように声を出す。
「代わりに僕が、ディアブロ殺せばいいのか」
まるでクイズの答えが分かったかの様な感覚でとんでもないことを言うクリスに、全員が身構える。
「なら早速・・・・・て、どれがディアブロ?」
首を傾げるクリスに、リナは立ち上がろうとする。
「上等だ。 暴れたりねぇとこだったんだ」
「待ってリナ。 ここはあたしが」
レオナはそう言うとリナを守るように前に出る。
「あたしもまだやり足りないし、あの女のせいでフランク取り戻せなかったのよね。 だからここはあたしに譲って。 いいでしょ?」
「・・・・しゃあねぇな」
リナはそのままその場に座り込む。
「あれ? 君は・・・・デスサイズだよね? ああ、その人が帰ってきたからそっち付いたのか。 失敗しちゃった・・・・」
「まあね。 これで遠慮なくあなたをボコボコに出来るってわけよ」
「へぇ、面白そう・・・・やってみてよ」
クリスが言い終わるより速くレオナは剣を振るう。
クリスはそれを盾で防ぐとそのまま後ろに回ったレオナを見る。
「うわ、速いね」
驚くクリスにレオナは再び剣を繰り出す。
上段から勢いよく降り下ろすと、剣は盾に当たり折れた。
「剣が!?」
「慌てんなよ」
リナの言葉通り、すぐにレオナは新たな武器を生み出す。
それは巨大な片刃の斧。
レオナはそれを持ち舞い上がると、勢いよく降り下ろす。
クリスは両腕をクロスさせてそれを防ぐ。
瞬間、レオナは片手に巨大な鎚を産み出す。
そしてそれを思い切り斧に叩き付け、盾を砕こうとする。
だが砕けたのは斧と鎚の方だった。
鎚を斧に叩き付けた瞬間、盾の強度に負け硝子の様に粉々になってしまった。
「むだ。 これすっごく固いんだ。 ・・・・あ、傷出来てる。 お気に入りなのに・・・・」
クリスは盾でレオナを弾き飛ばすと、盾に出来た傷を見て残念そうに言う。
「でも凄いね。 ただの鉄で僕の盾傷付けるなんて・・・・やっぱり五魔って面白いや」
「そっちこそ、随分力あるじゃない? どんな体してんのよ?」
「えへ、また誉められた。 五魔っていい人いっぱい・・・・」
喜ぶクリスに調子が狂いそうになりつつ、レオナは再び剣を出し斬りかかる。
「レオナさん、このままだとまずいんじゃ・・・・」
「心配すんなって。 あいつはあんなもんじゃねぇよ」
リナが心配するノエルを制した瞬間、再びレオナの剣が折れた。
だが次の瞬間、クリスの肩から血が流れる。
「あ・・・・血だ」
肩を斬られたにも関わらず全く動じないクリスだったが、その傷口を興味深そうに見ていた。
「ねぇ? いつ斬ったの?」
「剣が折れたのと同時にね」
よく見ると、レオナの左手から糸のように細い鉄線が垂れてた。
「鉄は固いだけじゃないのよ」
挑発的に笑うレオナに、無表情だったクリスの表情が笑顔になる。
「やっぱり五魔って面白い。 僕に傷付けたのアーサー達くらいなのに・・・・」
無邪気な笑みに不気味さを覚えながら、レオナは油断なく構えた。
「あ、もういいみたい」
クリスは何かに気付きそう言った。
慌てて振り向くと、ゼータとシータが消えていた。
「あいつら!? 逃げやがった!」
ライルが驚く中、レオナは舌打ちしてクリスを見る。
「逃げる時間稼いでたって訳ね。 やってくれるじゃない」
「任務失敗もだけど、磁石の人死なせたらもっと怒られちゃうもん」
そう言うとクリスは地面を盾で叩き大量の土煙作り目眩ましをした。
「久しぶりに楽しかった。 また遊ぼうね」
声が終わった時には、既にクリスの姿はなかった。
「ごめん、逃げられた」
「大丈夫です。 レオナさんが無事でよかった」
謝るレオナに、ノエルは笑顔で答えた。
「う・・・・」
「!? フランク!?」
ジンガから下ろされ寝ていたフランクが意識を取り戻すと、レオナは急いで駆け寄った。
「レオナ? 僕は・・・・」
「フランク! よかった・・・・」
フランクの無事にレオナは涙を滲ませる。
意識を取り戻したばかりのフランクは最初混乱したが、周りの様子と、鎧姿のレオナに全てを察した。
「そうか。 僕のせいで、レオナをひどい目に・・・・」
「フランクは悪くないよ! あたしが、あたしと一緒だったから、目をつけられて・・・・」
謝るレオナの頬に、フランクは優しく手を添える。
「レオナ。 僕は全て承知で君を選んだんだ。 もし何かに巻き込まれても、それでも僕はレオナと一緒にいたいんだ。だからそんなに自分を責めないで」
「フランク・・・・ありがとう」
涙を流すレオナを、フランクは優しく抱き締めた。
「いい男じゃねぇか」
そう呟いたリナの表情は、どこか嬉しそうだった。
森から離れた場所で、アルファは回収したゼータとシータの応急処置をしていた。
「すまない、俺達のせいで・・・・」
「いや、私が甘かった。 まさかアンヌにまで怪我をさせてしまうとは」
アンヌは既にアルファから手当てを受け、普通の鳥の姿に戻りスリープモードになっていた。
「ギゼル様はお怒りになるだろう。 処断を覚悟せねば」
「そうだな。 だがそれも仕方ない。 任務に失敗し隊長二人とアンヌが大怪我。 全ては私の責任だ」
「馬鹿! やられるなら俺もだ! 危うく捕虜になり情報を・・・・」
そこまで話すと、ゼータはあることを思い出す。
ノエルの話した聖帝の企み、それは自分には全く覚えのないことだ。
少なくとも、魔甲機兵団は隊長格すら知らないだろう。
それはアルファの態度を見ても明らかだ。
本当にそんなものがあるのか?
それとも、自分の知らないところで何かが動いていて、それでノエルが動いているのか。
「どうしたゼータ? どこか不具合が?」
考え込むゼータに、アルファは心配そうに声をかける。
「いや、大丈夫だ。 それより、ギゼル様に確認したいことがある」
「おのれおのれおのれ~!! 五魔め! よくも私の部下を!! よくも私のアンヌを~!!!」
報告を受けたギゼルは研究室で激昂した。
クリスまで動かしたにも関わらず作戦は失敗。
隊長格二人は当分任務に付けなくなり、娘の様に愛しているアンヌまで怪我をした。
ギゼルの目は怒りで血走り、額には血管が浮き出ている。
だがそれでも思考を冷静に戻そうと必死に歯を食い縛る。
今回の事で恐らくデスサイズは五魔に付く。
しかも自分に恨みを持つ事は必定だ。
自分に恨みを持つ事はまだいいとして、とうとう五魔が四人揃ってしまったということは大きな問題だ。
早急に対処せねばならない。
それとゼータからの気になる報告だ。
聖帝が何か企んでいる。
そんな事実をギゼルは知らない。
惑わすための流言という可能性も充分あるが、ゼータよりも中枢にいるギゼルにはそれがただのデマだと言えなかった。
そもそも何故ノエルが五魔を集めているかギゼルは知らない。
父親の敵討ちというのが有力だが、今までのデータと照合してノエルはそういう人物ではないというのがギゼルの見解だ。
では何故?
今まで見落としていた当たり前の理由に、ギゼルは思考を巡らせる。
そういえば興味がないので気にしなかったが、捕らえた反乱分子が全て姿を消している。
処刑したとも聞かないのにだ。
企みとやらに利用されたのか?
もしそうなら、聖五騎士団のどの辺りまで知っている?
自分が知らされていないことを考えると、少なくとも最高幹部以下は知らない。
そして恐らく、クリスとガルジもだ。
考えられるのはアーサー、ラズゴート、そして聖帝の知恵袋の軍師。
そこまで考えると、ギゼルは一旦思考を止めた。
(とにかく、今は五魔が先決だ。 この様な不確定な情報に惑わされる訳にはいかない。 万一企みとやらがあるとするなら、尚更一刻も早くノエルを確保して、真相を確かめねばならない)
そう考えたギゼルは、机の通信機を手に取った。
「私だ。 魔甲機兵団の全隊長を集めろ。 ・・・・そうだ。 負傷した第2部隊と、任務中の第7部隊の隊長を除き全ての隊長をだ。 大至急、いいな」
ギゼルは通信機を切るとモニターに写るノエルとリナに視線を向ける。
「もう容赦はしない。 私自らケリを着ける!」




