魔甲機兵団VS災厄
オメガが爪を帯電させ向かっていくと、ベルフェゴールは避ける様子もなく余裕の様子で構えている。
かつて完全敗北した相手に対してベルフェゴールが取る態度に違和感を覚えながら、オメガは拳を振るおうとする。
その時、オメガは何かを察知して後方へと飛んだ。
その瞬間ベルフェゴールの足元の地面からガンマが現れる。
「ガンマ!」
「これはこれは。 向こうに付いて行ったと思ったら奇襲ですか」
ガンマのドリルを躱し飛んだベルフェゴールに、目の前にベータが槍を構えて現れる。
「一騎打ちが望みだったなら残念だったな! こいつぁは戦だ! 勝つ為の最善取るのは当然って話だ!」
「それは私も同意です。 貴方とは気が合いそうですね」
「あんたも気が合ったって売れしかねぇよ!」
ベータがノコギリ状の刃を回転させ斬りかかると、ベルフェゴールはそれを片手で受け止めた。
「生憎これでも四天王の一人でしてね。 この程度は簡単に防げるんですよ」
「そうかい。 ま、それも想定内ってな」
瞬間、発砲音と共にベルフェゴールの頭に何かが被弾した。
オメガが見ると、離れた場所からアルファが連射式大口径銃で狙撃していた。
「お前達、なぜ戻ってきた?」
「悪いわね。 別にあなたを信じていない訳じゃないの。 ただどうもあいつが不気味でね。 念の為奇襲仕掛けて早めに仕留めた方が得策だと思って」
アルファの言う事は正しい。
実際オメガもベルフェゴールに生前にはない不気味さを感じていた。
ましてこれはスポーツでも試合でもない。
言ってしまえば殺し合いだ。
ならば速攻で倒し終わらせ、自分を含めギゼル達に合流するのが一番の得策だ。
戦士としては不本意だが、ギゼルの為ならそれも仕方ないと考えるオメガの耳に笑い声が聞こえてくる。
「いやはや、実に合理的ですね貴方方は。 オメガさんより余程好印象ですよ」
「なに!?」
弾が頭に直撃した筈なのに平気そうな顔をするベルフェゴールにアルファが驚くと、今度はベータの顔色が変わった。
「チィっ!」
ベータが槍を手放し飛び退くと、槍は無残に崩れ落ちていく。
「こいつが菌ってやつですかい!?」
「勘がいいですね。 全身蝕んであげようと思ったのですが」
ベルフェゴールが追撃をしようと手をかざすと、オメガは拳を振り抜きライトニングフィストを放った。
雷の渦がベルフェゴールを飲み込むと、ベータとガンマは1時オメガたちの所に集結する。
「ふぅ、助かりましたよ」
「礼はいい。 それより注意しろ。 あの程度で終わるならタナトスがわざわざ蘇らせる筈がない」
「流石によくご存知で」
ライトニングフィストで出来た土煙の中を、ベルフェゴールは何事も無かった歩み出てくる。
その姿に、普段感情をあまり表にダ出さないオメガの表情が変わった。
ベルフェゴールは着ていた服が消え去り上半身が裸の状態だったが、その左胸に人間の顔が埋め込まれている。
「どうしました? 私に何か付いていますか?」
「貴様、なぜその方を?」
オメガの反応にベルフェゴールは愉快そうに口元を歪ませる。
「オメガ。 奴を知っているのか?」
「ああ。 あれは、あの方は、かつての俺の主、ヤオヨロズ爆の国の大名、ヒサヒデ様だ」
オメガが口にしたその名に、アルファ達もその表情を一変させた。
爆の国大名ヒサヒデはかつて魔帝ノルウェの時代、大戦に乗じてヤオヨロズから勝手に独立。
アルビアに攻め込み、ギゼルがいた町メルクを吹き飛ばした張本人。
その時の生存者はギゼルにより魔甲機兵団として蘇り、アルファ達もその中の一人だった。
そしてオメガは、町を消滅させる威力があるて知らされずに爆弾を仕掛けさせられた、元ヒサヒデの密偵だった。
その事件で魔帝として目覚めたノルウェに殺された筈のかつての主の変わり果てた姿に、オメガは静かに怒りを覚える。
「おや、これは意外ですね。 貴方を捨て駒にした外道な主だというのにそこまで怒るものですか?」
「貴様、一体ヒサヒデ様に何をした?」
「これについて私に怒るのは筋違いですよ? 私をこんな風に改造したのはタナトスなのですから」
「なんだと?」
「タナトスの面白い能力の1つとして、死者を改造して蘇らせる事が出来るんですよ。 老人を全盛期の肉体に戻したり、私の様に他の死者を体にくっつけるとかね。 いやはや、私も人の事を言えませんがなかなか悪趣味ですよあのお方は」
笑うタナトスに対して、ベータは腕から槍と同じ刃を持つ小刀を取り出した。
「改造だかなんだか知らねぇが、俺達からすれば仇の顔がくっついてるだけなんでね。 お陰で殺る気倍増って話だ!」
小刀を取り出して向かっていくベータに、ガンマも続く様に左腕のドリルを唸らせて突進する。
「待て! 二人とも!」
二人がオメガの静止を聞かないと見たアルファは援護射撃を放つ。
ベルフェゴールは迫る銃弾やベータ達を前に邪悪な笑みを浮かべた。
「爆ぜなさい」
ベルフェゴールの言葉と共に、それは起こった。
ベータの胸部がいきなり爆発し、それに連鎖する様にいくつもの爆発が起こる。
アルファの銃弾は弾け飛び、ガンマが咄嗟にベータを守る様に抱えるが左腕が吹き飛んだ。
防御に特化したガンマの装甲すら吹き飛ばす威力の爆発に、ベルフェゴールは愉快と言う様に笑い声を上げる。
「ふははははは! 素晴らしい! これでこそこんな男を体に付けた甲斐があるというもの! 実に素晴らしい!」
ベータを抱えたガンマは後退すると追撃を防ぐ為アルファとオメガの盾になる様に立ち塞がり警戒する。
「無駄ですよ! 貴方の体はもはや私の前では紙切れ同然です!」
ガンマの体を幾つも爆発が起こり、頭部が吹き飛ばされる。
するとガンマはゆっくりと倒れてしまった。
「ベータ! ガンマ!」
「その力。 貴様まさか・・・」
「流石かつての主の力となるとよくご存知なようで」
「なんだと? あれが、ヒサヒデの力だというのか?」
アルファの疑問に、オメガは頷いた。
「ヒサヒデ様は自在に火薬を生み出す力を持っていた。 その力で生み出した火薬を採掘や戦に使い、更に調合する事でカグツチの様な爆弾を作り出していた。 だが、こんな風に空中で爆発を起こす等出来なかった筈だ」
「その通り。 ですが、それも私の一部になる事で可能になりました。 その理由は、お分かりでしょう?」
「菌を使ったか」
「ご明察」
ベルフェゴールは菌を使い生み出した火薬を周囲に散布し、それを爆発させていたのだ。
しかも菌を使っているから装甲の内側からでも爆破は可能。
だからガンマの装甲も役に立たなかったのだ。
それでオメガは漸く合点がいった。
ベルフェゴールに感じた違和感の正体はこれなのだと。
同時に、最初の攻防でガンマ達が乱入してくれていなければ自分は倒されていた事を理解する。
もしあのまま突っ込んでいたら、菌による攻撃のみ警戒していたオメガは爆発をモロに喰らい敗北していた。
そしてベータ達はベルフェゴールの違和感の正体を探る為の捨て石になる為に敢えて突っ込んでいった事に気が付いた。
「アルファ、すまない」
「何謝ってるの? 私達は勝つ為にここに来たの。 あの二人はその為に出来る事をしただけ。 それより、二人のした事を無駄にしないで」
二人と隊長と部下以上の深い絆で結ばれているアルファが倒れた二人の事に動揺せず毅然としているのを見て、オメガは頷き両手の爪を帯電させる。
「勝つですか。 まだそんな事を言っているとはおめでたい方だ。 しかし、侮りはしません。 オメガさんとの時は四天王としての奢りと侮りが私を死に至らしめたのですからね。 最後まで、気を抜かずに全力で貴方方を消し去ってあげましょう」
ベルフェゴールはかつてオメガの時に見せた魔族の肉体へと変化を始める。
爬虫類にも似た巨大な姿は相変わらずだが、その肉体は明らかにかつてよりも強靭に改造されている。
「さあ、最終ラウンドと行きましょうか!」
ベルフェゴールは周辺に一気に菌と火薬を散布する。
オメガとアルファが避けると先程までいた場所が大爆発を起こす。
そして自分達を追う様に次々と爆発が起こりだす。
「これじゃ近付けないじゃない!?」
アルファが二丁の銃を乱射し反撃を試みるが、爆発で防がれてしまう。
オメガのライトニングフィストも同様で、巨大な爆風で威力を弱まらせ通用しない。
かと言ってこのまま時間をかければいつかは爆発に巻き込まれ倒される。
打開策はないか必死に考えるオメガは、ある決意をする。
「アルファ。 奴にありったけの銃弾を打ち込め。 奴の注意を少しでも引き付けろ」
「何する気?」
「俺のやる事をやるだけだ」
「死ぬ気じゃないでしょうね?」
「ギゼル様に生きて帰れと命を受けている。 死ぬ気はない」
そう言ってオメガは翼を出し空に飛ぶと、パワーを最大値まで上げ両手の爪を最大に回転させ電力を上げていく。
「全開! 電磁力パワー!!」
両手の上に掲げると、体を回転させてベルフェゴールへと突っ込んでいく。
ベルフェゴールはそれが来ると分かっていたかのように笑い、オメガの進行方向に爆発を連鎖させる。
「その技を破りたかった! 私を敗北させたその技を! その技を使った貴方を殺す事で私の完全勝利はなるのだ!」
爆炎から抜け出たオメガの体には損傷が見られるが勢いは緩まる気配はなく、むしろ上がっていく。
「あのバカ! どう見たって特攻じゃない!」
アルファはそう言いながら、オメガの指示通り全弾を打ち尽くす勢いでベルフェゴールに一斉射撃を開始した。
その間もオメガの雷の矢はベルフェゴールへ向っていく。
爆発の妨害を受けながら勢いは更に増していく。
が、その時オメガの片翼が耐え切れず大破する。
それを皮切りに装甲の一部、そして両足と次々と壊れていく。
とうとう左腕も壊れ、右腕のみとなってしまう。
「フハハハハ! 勝った! これで、今度こそ私の勝ちだ!」
その時、突然のベルフェゴールの腰に何者かが掴みかかってきた。
それは頭部を失い死亡したと思われたガンマだった。
「貴様!? 何故生きて!?」
ガンマの正体はメルク爆破の時全身の機能を失い巨大なアーマーに入れられた少年だ。
その本体は頭部でなく胴体部分に収納され、頭部を失っても動く事は出来る。
それを知らないベルフェゴールは自分同様に死者として蘇ったのかと動揺し注意がそちらに向けてしまう。
同時に、小刀がベルフェゴールの右目に突き刺さる。
「ぎっ!?」
「これくらいしないと、なんの為に来たんだか、わかんねぇんでね」
息も絶え絶えな状態で小刀を投げたベータがニヤリと笑う。
「この、スクラップ共が!!」
ベルフェゴールは怒りを露わにするが、すぐに自分に迫るオメガの存在を思い出し上空に戻す。
すると既に眼前までオメガは迫ってきていた。
「ライトニング・ドライバー!!」
オメガの残った右腕がヒサヒデの顔のあるベルフェゴールの左胸を貫いた。
苦悶の表情を浮かべるベルフェゴールだが、再び笑い始める。
「ふ、フハハハハハ! 残念でしたね! やはり片腕では威力は半減! 昔の私ならともかく、今の強化された私には通用しない!」
攻撃に耐え切りオメガ達はボロボロ。
もはや勝利を確信しベルフェゴールはオメガにトドメを刺そうとする。
すると、その手を銃弾が貫いた。
「ぎぎゃ!?」
アルファの銃弾が届いた事に、ベルフェゴールがオメガ達に気を取られ爆発を起こすのを忘れていた事に気付く。
「オメガ!!」
「感謝する。 ライトニングフィスト!!」
残ったエネルギーを振り絞り、ベルフェゴールの体にめり込んだ右腕からライトニングフィストを放った。
オメガの右腕は大破し、同時にベルフェゴールの胴体が吹き飛び首が宙を舞う。
オメガの胴体とベルフェゴールの首は地面に落ち、ベルフェゴールは無念そうに顔を歪める。
「馬鹿な! 私が! 私がこんな! 再び蘇って同じ相手に敗れるなど!」
「憐れだな」
両手足を失い満身創痍のオメガはなんとか上体を起こしベルフェゴールを見つめた。
「貴様は、かつて自分が直接手を汚すのは下策と言っていた。 共感するかはともかく、そこには貴様の勝ち方、信念が感じられた。 だが貴様は新たに得た力に酔いそれを捨てて、自らの虚栄心を満たす為にこうして直接対決をしにやってきた。 借り物の力に溺れ自分を見失う奴に、魔甲機兵団は負けん」
オメガに指摘されベルフェゴールはハッとする。
そして悔しそうに舌打ちすると、冷静さを取り戻しオメガ達をしっかり見据える。
「一人では勝てなかったくせに、偉そうに。 しかしいいでしょう。 かつて手も足も出なかった貴方をここまで壊したのですからね。 せいぜい私がまた利用されない様に、あのカビ臭い冥王を倒してください」
「それはギゼル様達が必ずやり遂げる。 だから貴様は、今度こそ静かに眠っていろ」
ベルフェゴールは小さく口角を上げると、チリとなって消えていった。
それを見届けると、オメガの胴体が崩れ落ち首だけになってしまう。
地面に落ちそうになると、アルファがそれを受け止めた。
「全く、死ななければいいって訳じゃないのよ?」
「すまない。 だがお前も似たようなものだと思うが?」
防御を忘れ撃ち続けたアルファの体は、オメガ程ではないが爆風でボロボロだった。
「首だけの人に言われてもね。 ま、これで私達もリタイアね」
アルファはギゼル達の向かった砦の方を見つめた。
「勝てるわよね、ギゼル様達」
「無論だ。 そう信じられるからこそ、俺達は戦えたのだからな」
既に限界を超えていたオメガはそう言うと、静かにスリープモードへと移行していく。
薄れゆく意識の中、信じる主と新たな仲間達の勝利を信じて。




