デスサイズの欲
レオナはデスサイズのナイフを受け止めると、反撃に転じようとした。
だがそれは無理だった。
デスサイズが骨のナイフの力の入れる角度を変えると、レオナの剣の刃は斬られてしまった。
先程まで普通に斬り合いで、こんな事など起こらなかったレオナは驚きを隠せなかった。
レオナはすぐに新しい刃を剣から生やすが、デスサイズはすぐに追撃をしてくる。
速い斬撃がレオナはまた斬られると判断し受け流す様に躱す事に意識を向ける。
結果刃は斬られずに済んだが明らかに削られている。
恐らく数撃打ち合えば折れてしまうだろう。
レオナは他の武器を生み出し反撃しようとするが、その隙すら与えない程デスサイズの攻撃は激しかった。
一瞬でも他の事に気を回せば確実に斬られる。
そう核心してしまう程、デスサイズの斬撃は鋭かった。
レオナ自身、力を付けてきた。
それは今までのデスサイズとの攻防でも明らかであり、現にデスサイズの骨の強度でも斬り裂くだけの技も身に着けた。
打ち合っている感触として骨の強度も上がっていないし、かと言って何か特殊な力をデスサイズが使っている様子もない。
つまりこれはデスサイズ自身の技術によるものであり、これこそデスサイズの本来の実力という事だ。
(今の今まで遊んでたってわけ? 本当、ふざけんじゃないわよ。 さっきの化け物じみた力使うよりナイフだけのが強いなんて)
考えてみれば当然の事だった。
デスサイズが五魔としてディアブロやルシフェル達と肩を並べていたのは人間だった時だ。
つまりこれが本来の、そして最も力を出せる戦い方であり、デスサイズはナイフ一本で魔王や竜の神と渡り合えるという事だ。
レオナは冷や汗をかきながら剣が折れた瞬間、デスサイズの顔目掛けて刃を伸ばした。
急激に伸びた刃はデスサイズの眉間に当たるが、デスサイズは効いた様子もなくギロリとレオナを睨む。
「随分つまんねぇ小細工しやがるな? てめぇならわかってんだろ? こんなただ勢いだけの一撃じゃ俺に傷1つ付かねぇ事くらいよ」
デスサイズは再び刃を斬るとレオナとの距離を詰める。
レオナはそれを受け流しながら、もはや奇襲じみた攻撃は通用しないと悟った。
その気になれば体の至る所から刃を出せるが、それは恐らくデスサイズには通じない。
届く前に刃を斬られるか、届いたとしてもデスサイズの体を傷つける事は出来ない。
となると、デスサイズに通じる可能性があるのは純粋なレオナ自身の剣の腕のみ。
だがそうなると、レオナは分が悪いと思った。
ここまで斬り合いを続けて、純粋な技術だけで言えば確実にデスサイズの方が上だ。
特殊能力に頼らない、ただ千年を超える時の中鍛え続けた殺しの技。
百戦錬磨のレオナですら足元にも及ばない程の長い年月を戦い続け身に着けたその技術こそ、デスサイズの最大の武器なのだ。
普段のチンピラみたいな粗暴な態度と間逆な洗練された地力の強さ。
それだけでどれだけデスサイズが研鑽を積んできたか伝わってくる。
「本当、悪ぶってても根は随分真面目チャンなのね!」
「つまんねぇ挑発も止めとけ。 もう俺には通用しねぇし、んなもんに意識回してたら・・・」
瞬間、デスサイズが目の前から消え背後に回り込まれる。
「死ぬぞ?」
冷徹な言葉と同時にナイフが振り向こうとしたレオナの顔面に向かってくる。
レオナは咄嗟に剣で軌道をずらし、ナイフは左目の上に掠めるだけで済んだ。
レオナは戦慄した。
もし反応が一瞬遅ければ確実に左目を、いや命を失っていた。
今まで散々感じていた事だったが、改めて目の前の男が規格外の化け物だと実感した。
それでも、レオナはデスサイズに向かっていった。
「まだ来るか」
「当たり前でしょ!? こっちはこの程度で戦意失う程ヤワじゃないのよ! それに、仲間の為に戦ってんのはあんただけじゃないっての!!」
クロードとリーティアが竜の神と言われたバハムートを倒したというのは先程のデスサイズの反応でわかった。
ジャバも恐らく自分のトラウマとなった狂獣ジャバウォックと戦っている。
そして、リナもノエルもイトスも、皆そんな化け物と言える相手と戦っている。
仲間の為、自分達の守りたい者の為に。
この戦場に集まった者は皆そうだ。
それは敵であるデスサイズですらそうだった。
だからこそ、自分がこの程度で折れる訳にはいかなかった。
「あんたを倒してみんなに合流してお母さんも取り戻す! その為なら・・・」
「勘違いすんじゃねぇよ」
言葉を遮る様に、デスサイズのナイフがレオナの肩を貫いた。
レオナは苦悶の表情を浮かべるがすぐに引き抜き距離を取る。
そして傷口周辺を鉄で覆い出血を止めた。
「仲間の為? 違うな。 俺は俺の為にやってんだよ。 俺がそうしてぇからそうしてるだけだ。 この姿になったのも、今こうしててめぇと戦ってんのもディアブロの為でもなんでもねぇ。 俺が、俺の欲望に従ったからこうなってんだよ」
「人に挑発云々言っといて自分は屁理屈? それって結局仲間の為って事じゃない」
「どう取ろうがてめぇの勝手だがよ、自分の欲に忠実な奴は強いぜ? それが汚かろうがなんだろうがな。 俺やディアブロがいい証拠だろ?」
デスサイズはレオナの血が滴るナイフを向け睨みつける。
「てめぇはどうなんだ? 俺の名を継いだてめぇは、なんでここにいる? 何の為に戦う? 綺麗なお題目なんざ捨てて、汚ぇ欲望曝け出してみろ。 その為にわざわざ景品まで用意してやってんだからよ」
「あたしの、欲望」
レオナは上にある母親の鉄像を見上げた。
母親を取り戻したい。
それは本心から思っているが、それだけじゃない。
「・・・そうね。 お母さんにフランク紹介して、休んでる食堂再開させたいわね。 頑張った分、ノエル君やリナ達には上客としてたっぷり通ってもらわないとね。 後は勝手な事したエルモンドも一発入れときたいし。 後は色々終わったら、子供も作りたいな。 うん、考えたら結構やりたい事だらけだわあたし」
「そんだけの力ある割にはちっちぇな」
「別にいいでしょ? これがあんた流に言えばあたしの欲なんだから。 ただそれを全部叶える為には、さっさとこんな戦い終わらせないといけないのよね」
レオナは両手に剣を産み出し構え直し、デスサイズに接近し斬りつける。
すると骨で作られたナイフがミシリと音を上げる。
自分が何の為に戦うのか。
それが明白になり鋭さが増した斬撃にデスサイズは小さく口角を上げる。
「そうこねぇとな。 マジになった甲斐がねぇってもんだ」
「そう。 でもこれだけじゃ終わらないわよ!」
レオナはナイフを弾くとデスサイズの体を斬りつける。
デスサイズはすぐに片方の剣を防ぐがもう片方は防ぎ切れず体に受けてしまう。
先程の奇襲で傷付かなかったデスサイズの体の骨が削られる。
「本当、硬すぎだっての」
「硬すぎついでにもう1つ教えてやるよ。 俺はディアブロの魔力が尽きねぇ限り死なねぇ。 だからてめぇは、仲間がディアブロ殺るまで俺を殺せねぇって事だ」
ディアブロが健在な限り不死身。
更に絶望的な情報だが、それでもレオナは投資を消さなかった。
「なら簡単じゃない。 リナ達がディアブロ倒すまでこうして戦ってればいいんだからね」
「上等だ。 ならとことんやり合おうじゃねぇか」
レオナに不安はなかった。
リナ達ならきっとディアブロを倒してくれると。
レオナは気を抜けばすぐに倒されかねない攻防をいつまでも続ける覚悟で、デスサイズに挑んでいった。
 




