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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
345/360

死神の過去


 レオナの指摘され、デスサイズの頭に過去の出来事が過る。

 デスサイズという男は産まれた時から一人だった。

 親はいるのだろうが顔も知らない。

 捨てられたかそれとも死んだのかそれすらもわからない。

 デスサイズの元に残ってたのは一本のナイフのみ。

 デスサイズはそれのみを頼みに、今まで生きてきた。

 生き残る為に他者を殺め続けてきた。

 

「腹が減ったな。 殺して喰うか」


「あの服いいな。 殺して奪うか」


「うるせぇな。 殺して黙らせるか」


「殺す価値もねぇ。 なら生かす価値ももっとねぇな」

 

 こうして殺しを繰り返し続け、デスサイズにとって殺しは唯一の他者と関わる為の手段となった。

 それ以外のやり方をデスサイズは知らない。

 そもそもその必要性すら感じなかった。

 進んでデスサイズに関わろうとする者などほぼ皆無。

 いたとしてもそれはデスサイズに仕事を依頼しようとするチンピラ、もしくは彼を倒して名を上げようとする身の程知らずか。

 当然その者達は全員デスサイズの餌食になっている。

 そんなデスサイズだが、実は周りに知られていない事が一つだけある。

 それは、デスサイズが無差別に殺しを楽しんでいるわけではないという事だ。

 数多くの人を殺している為勘違いされているが、デスサイズは必要のない時は殺しはしない。


 腹が減ったら動物を。


 欲しい物があれば店員を。


 自分を害する者を。


 傍から見れば理不尽にしか見えない理由での殺しもしているが、全てデスサイズなりに理由と必要性があるものばかり。

 勿論、デスサイズの行動は決して正当化されていいものではない。

 ただデスサイズは殺すという手段以外何も知らない。

 それでしか他者と関われず、他の方法を教える者もいない。

 こうしてデスサイズの意志とは別に、最悪の殺人鬼としてデスサイズの名は広まっていった。


 そんなデスサイズの前に、ある日奇妙な集団が現れた。

 一人の少女を中心に魔族の小僧と巨人の戦士、そして浮世離れした空気を持つ老人。

 

(ああ、また来たのか)


 最近よく来る討伐隊か賞金稼ぎ辺りだろうと思ったデスサイズは苛つきながら立ち上がった。

 魔族の小僧がギャアギャア喚き、巨人の戦士は生意気にも自分を見下ろし、老人はデスサイズを品定めする様に見る。

 極めつけはラミーアという少女はよくわからない事をペラペラと話しだす。

 

 イラつくから殺す。


 デスサイズはナイフを取り出し四人へと斬りかかった。

 結果、デスサイズは惨敗した。

 しかも巨人の戦士や魔族の小僧ではなく、ただの小娘と思っていたラミーア一人にだ。

 今まで敗北どころか苦戦すらしたことのなかったデスサイズは困惑した。

 少女に負けたという事もだが、それ以上に『殺す事の出来ない』という事実がデスサイズを混乱させた。

 今まで殺す事でしか他者と交わる方法を知らなかったデスサイズは、敗北し殺す事の出来ない今何をどうしていいかわからない。

「これで話を聞いてくれる様になったかな?」

 そう言ってラミーアは倒れるデスサイズに声をかけた。

 そして「あなたの事もっと知りたいから一緒に来ない?」と手を差し伸べた。

 意味がわからなかった。

 自分に怖がる事もなく、始末もせず、ただ笑顔を見せてデスサイズの事を知ろうとする。

 そんな行動デスサイズは知らない。

 デスサイズが知るのは殺す事のみ。

 なぜそんな心理になるのか?

 なぜ自分にそんな事をするのか?

 意味も意図も何もわからない。

 混乱が増すデスサイズだったが、同時に初めて他者に興味を抱いた。

 だが殺す事でしか他人と関わってこなかったデスサイズはどうしていいかわからない。

 だからこう言うしかなかった。

「てめぇらは俺の獲物だ。 殺すまで付きまとってやるからな」

 ラミーアはその言葉の真意を理解したかのように、にっこり笑ってそれを了承した。

 そうしてラミーアに付いていく事になったデスサイズは、ディアブロやウォッキーにバハムート、そして自分の後に加わったルシフェルと共に旅を続けた。

 初めての他者との交わった旅はデスサイズにとって面倒な事が多かった。

 何より今までしてきた殺しが獣を狩る以外簡単に出来なくなった。

 だがその代わり相手を観察する事が増え、今までと認識が変わった。

 例えばウォッキーは見下ろしてくるがこちらを軽蔑する意図は欠片もなく、むしろ自分の様な者にも気さくに接してくる。

 バハムートも物を知らない自分に何かと知恵を貸してくれる。

 ディアブロが煩いのは変わらないが、それでもなんだかんだで気性が合うのか息が合った。

 ルシフェルが一番苛つくが、それでもその自信と尊大さに頼もしさを覚えた。

 何よりラミーアが興味深かった。

 デスサイズの反応にコロコロ表情を変え、楽しそうにする彼女が不思議でならなかった。

 一度ラミーアの喋る杖に気まぐれで飾りを作ってやった時など、まるで宝物を貰ったかの様に杖と二人で喜んでいた。

 理解は出来なかったが、いつしかそんな日々が悪くないと思う様になっていた。

 それがデスサイズが初めて知った仲間と安らぎだった。



 だがそれもラミーアの魔力が意思を持ち始めた事により崩れ去る。

 五魔を解散させた後にラミーアの魔力、現在のアーミラがラミーアを乗っ取ろうとした。

 消耗するラミーアを救う為に唯一残ったルシフェルが必死に対応策を考える中、デスサイズは何も出来なかった。

 デスサイズは殺ししか出来ない。

 ラミーアを救うには魔術を使うしかないが、魔術は愚か魔力すらろくに使えず知識もないデスサイズは誰よりも無力だった。

 なぜ残っているのが自分のなのか?

 ディアブロの莫大な魔力なら、バハムートの膨大な知識なら、ウォッキーの柔軟な機転なら、ラミーアの助けになれたかもしれない。

 だが自分では何も出来ない。

 デスサイズは自分の無力さに怒り、人知れず涙を流した。

 デスサイズにとって、ラミーアはそれ程救いたい存在になっていた。


 デスサイズが無力感を感じる中、ルシフェルがラミーアとアーミラを分離させる解決策を見出した。

 が、そこで問題が生じた。

 儀式に使う魔力が足りない。

 ルシフェルと当時のアルビア宮廷魔術師全員使っても、まだ魔力は足りなかった。

 ルシフェルは頭を抱えた。

 方式は完璧だった。

 だがバハムートが眠りディアブロが魔界への道も閉ざしたすぐに莫大な魔力を手に入れる事は出来ない。

 いや、正確に言えばある。

 だがそれは非人道的なものだった。

 それは魂を約千個用意する事。

 それだけの魂を使えば、例え一つ一つの魔力が低くとも儀式を成功させるだけの魔力はほぼ足りる。

 だがそんな量の魂等都合よくないし、だからと言ってそれだけの人を殺す訳にはいかない。

 死刑囚を使うにしても数が足りない。

 一体どうすればいいのか。

 ルシフェルが苦悩していると、ある日部下から報告が来た。


 デスサイズが消えたと。


 ルシフェルはデスサイズまで離れたかと絶望しかけるが、すぐにその性格から彼が何をしようとしているのかを察して飛び出した。

 場所はモスワという街。

 そこは戦争のどさくさで産まれた、街とは名ばかりの犯罪者達の巣食う無法地帯。

 山賊に盗賊、武器商人に奴隷商、更には貴族とも繋がりのある裏の住民達の巣窟で、ラミーアの件がなければ討伐隊を指揮し攻めこもうという話まである場所だ。

 ルシフェルは急いでその場所に向かうと、そこには千を超える死体の山と、街の真ん中で一人佇む血塗れデスサイズの姿があった。

 たった一夜。

 たった一夜でデスサイズは千人を超える犯罪者達を、たった一人で皆殺しにしたのだ。

 いくら五魔の一人とはいえ、ただの人間が一夜でここまでの殺戮を行ったデスサイズに、ルシフェルは珍しくゾッとした。

 だがそれは、デスサイズがラミーアの為にやった事だというのも理解していた。

 それが殺す事しか出来ない、デスサイズが出来る唯一のラミーアの為の行動だという事を。

 デスサイズは「これで足りるか?」と静かに言い、ルシフェルは頷き魂を確保した。

 そしてルシフェルはその魂を秘密裏に魔力に変換し、儀式を成功させラミーアとアーミラを分離させた。

 儀式の成功を見届け、デスサイズは姿を消した。




 それから約80年後。

 魔界の執務室で魔王となったディアブロは一人書類と格闘していた。

 その時、一つの気配を感じた。

「何者だ?」

 ディアブロが声をかけると、扉が開くと同時に護衛をしていた魔族の死体が倒れた。

 ディアブロはその後から入ってきた老人を見て言葉を詰まらせる。

 そして、少し間を起き漸くその名を絞り出した。

「デスサイズ、か?」

「ヒャハハ、やっと見付けたぜクソ野郎」

 老人となって現れたデスサイズに、ディアブロは珍しく動揺し言葉を失った。

 魔界と地上の入り口は閉じられ、ディアブロが許可した四天王以外出入りする事はほぼ不可能。

 それを魔術の素養もないデスサイズが一人で魔界に入り込むなど、ディアブロの知るデスサイズではあり得なかった。

 いやそれ以前に、ディアブロの記憶が確かならデスサイズの年齢は100を超えている。

 ただの人間であるデスサイズがその歳で魔界に入り魔族城に侵入するなど出来る筈がない。

 だがデスサイズはここにいる。

 ルシフェルの手助けがあった事も考えたが、奴の性格上関わっているなら確実に自分もこの場にいただろう。

 となると、デスサイズは本当にたった一人でここに辿り着いたという事になる。

 死に体の体を動かし、自分の元へと。

「どうした? あまりに老け込んでビビっちまったか?」

 相変わらずの軽口も、しゃがれた老人の声へと成り果てている。

 ディアブロは時の流れを感じながら、口を開いた。

「どうやってここに来た? 貴様では辿り着けないと思っていたが?」

「そうだな。 随分色々したなぁ。 情報収集の為に暗殺団立ち上げたりよ。 信じられるか? 俺が組織の長だぜ? 自分でも笑っちまうよ。 で、使えそうな情報頼りに入れそうな場所見つけてそこはコイツで風穴開けたってわけよ」

 デスサイズは先程殺した魔族の血が付いた長年愛用してきたナイフを取り出す。

 老いて尚ルシフェルですら出来なかった魔界と地上の結界を切り裂く程の力を持つデスサイズにディアブロは驚きを隠せなかった。

「余を殺しに来たのか?」

「当たり前だろが? てめぇもラミーアもルシフェルも、みんな俺の獲物なんだからよ。 だが・・・」

 瞬間、デスサイズは崩れ落ちる様に倒れた。

 ディアブロは慌てて駆け寄りその体を支えた。

 触れてみてディアブロは驚愕した。

 体は痩せ細り骨と皮のみ、目からは光がほぼ失われていた。

「お前、こんな状態でここまで!?」

 口調が変わったディアブロに、デスサイズは口角を上げた。

「なんだよ? スッカリ魔王様になっちまったと思ったら、中身変わってねぇじゃねぇか」

「そんな事はどうでもいい! 今治癒をするから大人しく・・・」

「無駄だ。 寿命ってやつだよ。 治癒じゃ治しようがねぇ」

 そこまで言うとデスサイズはギリッと歯軋りした。

「たくっ気に入らねぇな。 俺はまだてめぇらを殺してねぇんだぞ。 なのに俺はここまでだと? 気に入らねぇ。 ああ気に入らねぇなぁ」

 殺しの獲物。

 それはデスサイズにとって仲間を意味する事を、ディアブロは知っている。

 魔族であるディアブロや天翼族のルシフェル、竜族のバハムートに巨人族のウォッキー。

 皆人間より長命な種族であり、デスサイズが最初に逝ってしまうのは必然的だった。

 ディアブロは現在のラミーアの状況を知らないが、デスサイズの口振りから恐らく普通の人間よりも長い時を生きれる様になったのだろう。

 デスサイズは、自分だけ先に逝ってしまう事が悔しく、寂しかったのだ。

 そんな想いを感じ取るディアブロの襟首をデスサイズは掴んだ。

「ディアブロよぉ。 てめぇ魔族なら俺を生かす術知ってるよなぁ?」

「何を言って・・・」

「惚けんなよ? 俺を化け物にして生かす術の事だよ」

 少し考えると、ディアブロは目を見開き声を荒げる。

「お前、あの術の事を言ってるのか!?」

「なんだ、やっぱ知ってんじゃねぇか」

「ふざけるな! あれがどんな術か知ってるのか!? 一度かければ二度と元には戻れず、癒えない飢えと乾きに襲われ続ける生きる屍になるんだぞ!」

「その上てめぇからの魔力供給が無くなりゃぁ死ぬ。 つまりてめぇが生きてる限り自殺も出来ねぇってこった。 ま、生きててもてめぇが魔力断ちゃ終わりだがな」

「そこまでわかっているなら・・・」

「つまり、少なくともてめぇを道連れに逝く事は出来るってわけだ」

 デスサイズは掴んだ襟首を引き寄せるとディアブロの顔を凝視した。

 そこにはまだ、ディアブロが知っている頃の鋭い光が宿っている。

「てめぇが何やろうとしてんのかは知らねぇ。 だがな、そんな事は俺にはどうでもいい。 俺はな、俺に色々余計なもん教えたくせに、俺だけ先に死んで置いてかれんのが許せねぇんだよ。 だからてめぇは俺の道連れだ。 代わりにてめぇの気に入らねぇ奴ら殺してやるよ。 はぐれもん同士、悪かねぇ取引だろ?」

 ディアブロはなぜデスサイズがラミーアではなく自分を選んだのかを理解した。

 ラミーアやルシフェルなら、恐らく断るだろう。

 だがラミーア達と袂を分かち、それでも尚何かを為そうとしているディアブロなら条件次第では術を施す可能性が高いと考えたのだろう。

「・・・いいだろう。 だが1つだけ条件がある」

 ディアブロは何かを話すと、デスサイズは愉快そうに笑った。

「ヒャ、ヒャハハ。 いいじゃねぇか。 俺好みの条件だ。 いいぜ、受けてやるよ」

「いいんだな?」

「ああ。 だからさっさとやれよ。 本当に死んじまうぞ?」

 ディアブロは立ち上がると、魔力を込め寝かせたデスサイズの周りに魔法陣で囲む。

 魔法陣から光が放たれると、デスサイズの体から皮と肉が剥がれていく。

 そして光が消えると、そこには真っ赤なドクロ、不死身の死神デスサイズが誕生した。




 意識を今に戻したデスサイズは舌打ちした。

 レオナに自身の奥底にあるものを見透かされた様な感覚がし、それが気に入らなかった。

 デスサイズは骨のナイフを作り直すとそれをレオナに向ける。

「てめぇのせいでクソくだらねぇ事思い出しちまったじゃねぇか。 もう遊び抜きでズタボロにしてやるよ」

「あら漸く本気って事? あたしはとっくにそのつもりだったんだけどね」

 そう言いながら、明らかにデスサイズの空気が変わった事をレオナは感じていた。

 体が切り裂かれそうな殺気が部屋全体を覆い、デスサイズが本気で自分を倒そうとしていると肌で感じた。

 ここからが本番だと、レオナはより鋭さを増した剣を生み出しデスサイズを迎え打った。

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