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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
341/360

価値観の変化

 アルゼンは鋭い蹴りを放つが、蹴りを放った場所にキュラミスはおらず空を切る。

「オホホホホ。 全くなっていませんわね」

 アルゼンが上を見上げるとキュラミスは宙に浮かびアルゼンを見下ろしていた。

「レディとダンスをするのにガッつく様に飛び付いてはいけませんわ。 まずは上質な音楽を奏でなくては」

 そう言うとキュラミスの周りから無数のコウモリが出現する。

 コウモリ達はアルゼンを囲むと一斉に口を開けた。

蝙蝠(バット)楽団(オーケストラ)

 四方からコウモリ達は超音波を発しアルゼンに浴びせた。

 共鳴し合う超音波はその威力を何倍にも上げ、アルゼンの内部を攻撃する。

 コウモリの特性を活かした攻撃は徒手を得意とするアルゼンには不利の筈だが、アルゼンはいつも通り戦いを楽しむ様に笑った。

「なんとも素晴らしき楽曲ですが、この手のものは既にジャバ殿のものを聞いていますので、二番煎じは退場願いましょうか!」

 アルゼンは両拳を床に付けると力を込め轟音を鳴らす。

 超音波が轟音にかき消されるとアルゼンは跳び、ムエボーランの技である肘も膝の連撃でコウモリ達を撃墜していく。

「やはり今のご時世ダンスはこの位激しくなくてはなりませんな!」

 コウモリ達を倒しながら接近するアルゼンにキュラミスは手に持つ日傘で突いてくる。

 アルゼンは体を回転させながらそれを避けると、その回転の勢いと雷声の呼吸を使い肘鉄をキュラミスの頭に喰らわせる。

「雷帝の叫び!」

 脳天に直撃したキュラミスは床へと叩き落されるが、落下の勢いはすぐに緩やかになり優雅に着地した。

 アルゼンはそこへ目掛けて回転蹴りを放つがキュラミスは日傘でそれを受け止める。

 日傘は壊れるが、アルゼンは弾かれ距離を取った。

「いやはや、相変わらず涼しい顔で受けられますな〜。 それでこそ貴殿を見据え鍛え直した甲斐があるというもの」

「ワタクシとしては少々期待外れですわね」

「おや? それは何故でしょうか?」

「あら? お気付きにならない? 今の貴方の技、威力は申し分無いですがとても粗いですわ」

 キュラミスの指摘に今まで楽しんでいたアルゼンの表情が変わった。

「ほぉ、粗いですか」

「ええ。 今まで2度貴方とは対峙しましたが、自分が不利にも関わらず常に余裕の様なものがありましたわ。 ですが今回それがない。 まるで決着を急ぐかの様に猛攻のみ。 しかも、そのせいで貴方は今のワタクシを見誤っている」

「これは心外! 我輩、貴殿との闘いを存分に楽しんでいますとも! ましてや見誤る等と・・・」

「いいえ、見誤っています。 なぜなら・・・」

 話していると、キュラミスは急に影に溶け込む様に消えた。

 アルゼンはすぐに背後に意識を向けるが逆に蹴り飛ばされてしまう。

「屋内で太陽の影響を受けない今、ワタクシの力は以前より増している。 その事に気付かず外と同じ様に闘っている時点で、貴方はおかしいのですよ」

 蹴り飛ばされたアルゼンが起き上がるのを見ながらキュラミスは考察する様に人差し指を頬に当てる。

「服のセンスは壊滅的ですが、ワタクシですら美しいと感じる闘いの美学を持っている貴方が、この様な粗雑なミスをするとは少々疑問ですわ。 そこで、一つ仮説があるのですが」

「ほお、それは是非ご教授願いたいですな」

我輩が闘いを疎かにするなど、大問題なので」

「先程落ちていったエルフのお嬢さん、お弟子さんと言っておりましたね? 心配していないと言っておりましたが、実は気になっておられるのでは?」

「何を馬鹿な。 先程も言った様にリザの実力ならば心配など・・・」

「因みに今下にいる人形達の実力ですが、四天王に次ぐ力の持ち主ばかりで構成しています。 貴方に分かりやすく言えば以前あのお嬢さんが倒したベラルガよりも全員上です。 それが5体です。 さて一流の格闘家として貴方に聞きますが、あのお嬢さんの生き残れる可能性はどのくらいだと思いますか?」

 キュラミスの問いに、アルゼンは言葉を詰まらせる。

 アルゼンにとって強者との闘いは何よりも優先すべき事で、その為なら他のものなど些事と言っていい。

 ましてや他者に気を回し一番大切な闘いに集中出来ないなどあり得ない事だ。

 だがリザの状況を聞かされ、自分は確かに動揺している。

 その事実にアルゼン自身困惑していた。

「まさか無意識だったとは。 これは面白いものを見れましたわ」

「ハハ、面白い考察ですが、我輩が闘い以外で意識を乱すなど。 ましてやリザは我輩の手塩にかけて育てた弟子。 その様な些事で動揺する我輩ではありませんぞ!」

 アルゼンは自分の迷いを振り切る様に殴りかかった。

 キュラミスはそれを振払おうとするが、アルゼンはそれを読んでおり腕を取ると関節で折ろうとする。

「これでも動揺していると言えますかな?」

「確かに上手いですがやはり雑です。 そんなに力任せでは折角腕を取ってもこの通り」

 キュラミスはアルゼンの技からすり抜けると逆に顎に掌底を当てる。

 即座に後方に逃げ直撃は避けたが、脳を揺さぶられアルゼンは思わず頭を抑える。

「我輩とした事が」

「なかなか無様ですわね。 ですが恥じる事はありませんわ。 己の中の価値観が変化する瞬間というのは、大体そういうものです」

「それは、キュラミス殿も似た様な事があった様な口振りですな」

「ええ。 その通りですわ」

 キュラミスはコウモリの一体にブローチを持ってこさせた。

 中央でサファイアが青く光るそれは、シンプルながらも一級品である事がわかる。

「これを見てどう思います?」

「そうですな。 我輩宝石には興味ありませんが、カットや細工の細かさから見てかなり良い品ではありますな」

「ええ、その通り。 昔ある貴族が家宝としていた物らしいです。 ですが魔界にいた頃のワタクシにとって宝石はただの石ころでした。 だってそうでしょう? 強さこそ全ての魔界で、ただキラキラした石になんの価値があるというのです? なんの価値もありませんわ」

「そこは同感ですが、その価値観が変わったと?」

「ええ。 ディアブロ陛下の指示で隠れてち上の視察に行った時に。 本当に地上の文化には驚かされましたわ。 ただの石ころが人を惹き付ける装飾品に。 落書きを描いた紙切れが芸術品に。 ただの布切れが素敵なドレスへと変わるのですから。 そしてそれらはワタクシの心を変えましたわ。 こんなに美しい物がこの世に存在するとはと。 それから美しいものを愛でるのがワタクシの楽しみになり、ワタクシの手中に収める事が第一欲求となりました。 ですが同時に、美しいものがそうでなくなるのは我慢なりませんの」

 当時の事を思い出しうっとりするキュラミスだったが、突然アルゼンを冷たく見据えた。

「貴方の武術は確かに美しかったですわ。 でも、それが損なわれるのであればそんなものは見たくありません。 ですからせめて、ワタクシに美しいと認めさせた事に敬意を評して全力で終わらせて差し上げますわ」

 そう告げると、キュラミスの体が変化を始めた。

 背中からコウモリの羽が生え、吸血鬼の特徴である牙が伸びてくる。

 着ていたロリータファッションの服も黒い鎧の様なドレスへと変化し、少女の様な体躯も大人の女性のものへと変わっていく。

 そして変化が終わると、吸血鬼女王(ヴァンパイアクイーン)の名に相応しい気品を持つ美しいヴァンパイアが降臨した。

 他の魔族に比べれば人に近い姿ではあるが、そんな見た目など関係ない事は膨れ上がった魔力が証明している。

 アルゼンはその力を感じ、口角を上げた。

「これはこれは、我輩にその様な姿を見せてくださるとは光栄ですな。 しかしその理由が失望からというのは我輩としても遺憾ですので、我輩も気を入れ直しお相手しましょう」

「それは無理ですわ。 何故なら・・・」

 キュラミスが姿を消すと、アルゼンの体に激痛が走る。

 その原因はすぐにわかった。

 いつの間にか移動していたキュラミスの手刀が、アルゼンの腹部を貫いていた。

「貴方はもう、死ぬのですから」

 

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