デスサイズの招待
デスサイズ方面を攻めていたレオナ達は順調に進んでいた。
ラグザ達が強敵を引きつけてくれたお陰で消耗も最低限。
寧ろ敵の鉄製の装備を吸収出来る様になった事で武器を作る為の鉄は十分過ぎるほど溜まっており、大規模なものも生み出せる。
つまりレオナはほぼベストコンディションと言える状態だった。
「いやはや流石レオナ殿! 絶好調ですな!」
目の前の敵を斬り伏せるレオナの後ろでそう話しかけてくるのはこのままで同行してきたアルゼンだ。
アルゼンチは魔族や死者の兵との戦いを心から楽しんでいると言わんばかりに上機嫌。
襲いかかる敵に打撃、投げ、関節を仕掛け次々と撃破していく。
「本当あなたは楽しそうに戦うわね」
「これが我輩の性でしてな。 さあ、まだまだ楽しみましょう!」
そう言いながら喜々としながら敵を倒していくアルゼンチンは戦力としては頼もしいが、その性格のせいかレオナとしては少しウザったさを感じてしまう。
「申し訳ありません。 これだけの大戦で色々とタガが外れてしまったようで」
「まあ、結果としてあの方が助かるんだけどね。 あれと毎日一緒なんてあなたも大変ねリザ」
「あれでも一応マスターですから」
共に同行するアルゼンの秘書であり弟子であるリザの存在にレオナは少しホッとするが、謝罪しながら敵を倒していく姿はアルゼンと重なり「やっぱりこの二人同類?」と苦笑する。
とはいえ、二人のお陰もありもうデスサイズの待つ砦は目の前。
後は砦を覆う結界を放つ四天王クラスの敵を倒せばそれでいい。
気を引き締め直そうとしたレオナだったが、近付くにつれある違和感に気付く。
砦を覆う結界がない。
他の砦が結界で守られているという報告を聞いて確実に自分達の所にもあると思っていたレオナは、まるで招き入れるかの様にそびえ立つ砦に警戒を強める。
「これはこれは。 結界も無しとは舐められているのか、それとも歓迎されているのか。 非常に楽しみですな! 早く入るとしましょうか!」
「あんたのその思考、少し羨ましくなってきたわ。 でも、確かにみんなの事もあるしさっさと済ませちゃいましょ」
レオナは砦の扉を斬ると、アルゼン達と共に中へと入っていった。
敵や罠の気配もない通路を進んでいくと、広間へと辿り着く。
薄暗いながらどこかの城のダンスホールの様な綺羅びやかな装飾の広間の中央で、一人の少女がレオナ達を認識するとドレスの裾を持ち丁寧にお辞儀をする。
「ようこそお出でくださいました、地上の魔器レオナ様。 お初にお目にかかります。 ワタクシはディアブロ陛下四天王が一人、吸血鬼女王キュラミスと申します」
貴族の令嬢の様な立ち振る舞いのキュラミスにレオナは気品を感じつつ、デスサイズの砦に似つかわしくない広間の理由を察した。
「なるほどね。 あの男の趣味にしたらいい趣味してると思ったらそういう事」
「お褒めに預かり光栄ですわ。 レオナ様もお美しいお姿で。 是非ともワタクシの人形の一人としてお迎えしたいですが、残念ながら貴女様のお相手はワタクシではありません」
「ということは、我輩の相手をしてくださるということですな!」
レオナの前に進み出たアルゼンに、キュラミスは呆れた様子ながらも肯定した。
「そういう事になりますわね。 非常に不本意ですが、レオナ様のお相手はデスサイズ様に譲る事になっておりますので」
「だから結界はなかったって事ね」
「ええ。 デスサイズ様は貴女様にご執心の様ですので。 レオナ様はこちらへどうぞ」
キュラミスが横に移動すると上階に向かう階段が出現する。
「あちらはデスサイズ様の領域なので趣味は合わないでしょうが、邪魔者もなくデスサイズ様の所へ辿り着ける事は保証いたしましょう」
「本当、嬉しくない招待だけど今更帰るわけにもいかないしね、ノッてあげるわ」
デスサイズの性格上騙し打ちはしないだろうからこの話は信じて問題ないだろう。
それに自分に執着しているのは好都合。
自分もデスサイズに聞きたい事が出来た今、無駄な消耗をしそうな戦闘を避けられるならちょうどよかった。
「というわけで、あたしは行くけど大丈夫?」
「勿論! 寧ろ目当ての相手とこうして出会えた幸運を無駄にする気はありません! ですのでレオナ様はお先にどうぞ!」
「なら、出来れば死なない様にしなさいよ。 リザもそのおっさんに付き合って無茶しないようにね」
レオナはそのまま階段を駆け上がっていった。
アルゼン達はそれを見送るとキュラミスに向き直る。
「さてリザ。 わかっていると思いますが手出しは無用ですよ」
「わかっていますよ、マスター」
「あら、それではもてなす側として顔が立ちませんわ。 ですから・・・」
瞬間、リザの足元の床が開いた。
リザは飛び退こうとしたが、開いた床から手が伸び脚を掴んで引き込んでしまう。
「リザ!」
アルゼンが手を伸ばそうとするが床は閉じてしまった。
「あらあら、貴方がその様に動揺するなんて、余程大事な方だったのですね」
「リザは、どこへ連れて行かれたのですか?」
「この砦の地下に。 ワタクシの人形達がおもてなしをしていると思いますわ。 ご安心なさい。 ちゃんと死なない程度に痛めつけた後ワタクシの人形に加えて差し上げますわ」
「なるほど。 なら安心しました」
狼狽していると思っていたアルゼンがケロッとしたのに、キュラミスは怪訝そうに目を細める。
「何が安心ですの?」
「いやなに、毒等の罠では少々不安でしたがリザの実力ならその程度の相手は切り抜けられるでしょう。 いやはやホッとしました」
「ワタクシの人形がたった一人のエルフに負けると?」
「ええ。 なにせ彼女は我輩自慢の弟子。 簡単に敗北するなどあり得ません。 そして・・・」
リザへの絶対的な信頼を見せたアルゼンは構え臨戦態勢に入った。
「これで我輩は全力で貴殿との闘いを楽しめるというものですな」
「そうですか。 では逆にズタボロになった貴方の姿をあの娘に見せてあげるとしましょうか」
「それは楽しみですな」
アルゼンは闘気を剥き出しにしキュラミスへと向かっていった。




