魔器の真価
ちょっと間が空いちゃいましたね(~O~;)
またペース戻さないと
リナはレオナの猛攻を防ぎながら今の状況に舌打ちした。
ノエルやジャバ達は動きを封じられ、自身も防戦、更にレオナが向こうに付いた理由がわからない。
本心から聖五騎士団に付いたとは思っていないが、理由がわからない以上迂闊に攻撃できない。
八方塞がりの状況に、リナは苛つきながらも攻撃を防ぐしかなかった。
そんな中レオナはいきなり蹴りを放つ。
リナはそれをかわすが、頬に切り傷が出来た。
よく見るとレオナの足には、先程までなかった刃が飛び出していた。
恐らく蹴りをかわす瞬間出したのだろう。
それを含め、リナの体には既に幾つかの傷が出来ていた。
リナの斥力には弱点がある。
1つは、ジャバのように斥力の反発力を越える威力の攻撃は完全には防ぎきれない。
もう1つは、1度に出せる斥力の量が決まっていることだ。
リナの斥力はその密度によって強さが変わる。
例えば全身を覆えば当然全方位の攻撃を防げる絶対防御となる。
大抵の攻撃ならこれでも充分な防御力なのだが、これだと斥力の密度が薄くなり、強力な攻撃を防ぎきる事が出来ない。
逆に両腕等、部分的に覆えば密度が増し、その反発力も大きくなる。
レオナの攻撃が全身では防げない事を知るリナの選択は自然と後者になる。
レオナも当然それを知っている。
だからこそ不意を付く様な攻撃で、リナを徐々に削っていっているのだ。
「本当やりづれぇな」
ぼやくリナを他所に、レオナは手を休めず攻撃を続けた。
(こいつ、なんか焦ってるのか?)
攻撃を捌きながら、リナはレオナへの違和感を覚える。
「レオナさん! 止めてください! 僕達はあなたと戦いたくない!」
ノエルの言葉に、レオナはピクッと反応するとその動きを止めた。
「戦いたくない? なに勝手な事を言ってるの?」
漸く口を開いたレオナの声は、昼間会った時の様な明るさはなく、兜でくぐもった冷淡なものだった。
「あなた達が来たせいで、こんなことになったんじゃない。 あなた達のせいで、フランクが奴等に・・・・・」
そこで漸くリナ達はレオナが聖五騎士団に味方したか理解した。
「フランクは、五魔だったあたしを受け入れてくれたただ一人の人。 その人との生活が、あなた達のせいで・・・・・」
ノエルは言葉が見つからなかった。
自分が関わったせいで、漸く手に入れた平穏を壊された。
それは自分のせい以外の何物でもなかった。
「思えば五魔に入った時からそうだった。 あなたのお父さんの命令で何百、何千も人を殺して、死神なんて言われて、まともに人とも付き合えなくて、そのくせ自分はさっさと子供作って勝手に死んで、自分勝手もいいとこよ」
「レオナ、やめろ」
リナは静かな、だが強い怒気を纏わせ言った。
魔帝と五魔の否定、それはかつての自分達との事を否定することであり、ノエルを大きく傷付けるものだった。
「真実よ。 しかも漸く自由になって苦労して手に入れた大切なものを、今度はその子供に奪われた。 本当親子揃って勝手よ」
「レオナ! それ以上何か言ってみろ。 ・・・・ぶちのめすぞ」
「そうだ。 この親子がいるからあたしはずっと不幸なんだ。 なら・・・・・」
レオナは視線をノエルに向け、剣を向ける。
「あなたを殺せば、あたしは解放されるのかな」
ノエルが反応するよりも早く、レオナはノエルに接近した。
「ノエル!」
リナは斥力を全開にしノエルの前に割り込む。
レオナは剣を、リナは重力を拳に纏わせ、交錯する。
瞬間、ノエルとライルが見たのは、骸骨冑に拳を叩き込みながら、レオナの剣に腹を貫かれたリナだった。
「リナさん!!」
「姉さん!!」
ノエルとライルが絶叫する中、刺した本人であるレオナが震え始める。
「なん、で? そんな・・・・・」
明らかに動揺するレオナに呼応するように、骸骨冑がひび割れていく。
「どう、して・・・・・」
「・・・・・っと下らねぇことすんなよ。 バレバレだっつの。 お前の考えることくらい・・・・・」
リナは刺された場所から血を流しながらレオナを見据える。
その瞳は敵意ではなく、優しさと哀しさを宿している。
「お前、死ぬ気だったろ? わざと俺怒らせて、攻撃させて・・・・・」
「なんで、わかっ・・・・・」
レオナの声は震え、骸骨冑のヒビが更に大きくなる。
「何年一緒にいたと思ってんだよ? それに・・・・・」
瞬間、骸骨冑は砕け散る。
「お前がそれ着けるのは、色んな感情無理矢理さえ込つ為だしな」
砕けた骸骨冑の中から現れたのは、子供のように涙を流すレオナの素顔だった。
「たくっ、泣き虫は変わんねぇな・・・・」
リナがふらつくと、ノエルとライルが慌てて支える。
「だって、こうするしか・・・・・あたしが死ぬしか、皆を助ける手が・・・・・」
レオナはその場に崩れ落ちると、大粒の涙を溢す。
そんなレオナの頭を、リナはゴツンと叩く。
「だから、下らねぇことしてんじゃねぇよ。 もっと俺達を頼れよ。 俺達は、家族みたいなもんだろ?」
レオナは涙を流しながら静かに頷いた。
どれだけ喧嘩をしようと、どれだけ敵対しても、しっかり繋がっている。
それがリナ達の、五魔の築いた絆なんだ。
ノエルは二人を見てそう感じつつ、リナの腹に回復魔法をかける。
「姉さん、じっとして」
ノエルを手伝うようにライルはリナから剣を抜くと、止血するように布を当てる。
その姿を、ゼータとシータは見ていた。
「ゼータ兄さん、チャンスだよ」
「ああ。 今ならディアブロだけでなくデスサイズも排除出来る。新しい砂鉄を集めて一気に・・・・」
「・・・・・せない」
「「ぬ?」」
ゼータとシータが上を見ると、ジャバが怒りの形相で拘束を外そうとしていた。
「お前ら、リナ傷つけた。 レオナ泣かせた。 俺、絶対許せない!!! ウガアアアアウウウウウウウウウ!!!!!」
ジャバの怒りの咆哮に、木々が揺れ、周囲のものを吹き飛ばそうとする。
そして、ジャバを拘束していた砂鉄の固まりが、咆哮により散り散りに霧散していく。
「兄さん!?」
「馬鹿な!? 俺達の磁力で強固に繋がった砂鉄を、叫び声だけで!?」
「お前ら! 許さない! ウガアウ!!!」
ジャバはゼータ達に向かい拳を振るう。
ゼータ達は急いでかわしたが、かわした場所の地面が大きく抉れた。
「くそ!? もう一度・・・・」
「駄目だ兄さん! 砂鉄を集めようにも、これだけ地面を荒らされたら・・・・・」
ジャバは再び咆哮をあげ、ゼータ達に襲い掛かる。
そしてその咆哮は、もう1つの戦況をも変えることになる。
クロードはレベッカでアンヌの攻撃を捌きながらなんとか凌いでいた。
鋼鉄の怪鳥と化したアンヌの空中からの攻撃は、レベッカでは防ぐのが精一杯だった。
更にデブクロも既に足が動かない。
残った両腕もクリスにより引きちぎられるのは時間の問題だ。
フランクを守りながらの戦いは、圧倒的にクロードを劣勢にしていた。
アンヌは爪を構えながら上空からクロードを見下ろした。
『そろそろ限界みたいね。 どう? 投降すれば悪いようにはしないけど?』
「ありがたい話だが、ハイそうですかとその話を信じられる程、私は素直じゃないんでね」
『そう。 じゃあそろそろ・・・・』
「ウガアアアアウウウウウウウウウ!!!!!」
突然響いた方向に思わずアンヌは視線を向ける。
『どうしたの?』
「ジャバウォックが、ゼータ達の拘束を振りほどきました!」
『なんですって!?』
報告しながら、レオナ達の戦況を見ていたアルファは標的をノエル達ではなくジャバに変える。
狙いはその頭。
貫通力のある矢でジャバに標準を合わせる。
「これで・・・・・」
「グギャウ!!」
「なに!?」
矢を放とうとしてアルファの前に、突然ジンガが襲い掛かる。
「ジンガ!」
ジャバの咆哮で駆けつけたジンガは素早くアルファに接近すると、ボウガンを噛み砕いた。
「しまった!」
ジンガはそのままクロードの方へと駆け寄りフランクを守ろうとする。
「助かったよジンガ」
「ガウ!」
『く! 獣一匹くらいで、まだ勝負はついて!?』
瞬間、熱線がアンヌの翼を貫いた。
『な!?』
驚愕するアンヌが熱線の放たれた方を向くと、リーティアが此方に手をかざしているのが写った。
「ジャバが自由になったってことは、私のリーティアも自由が効くというのとなんだよ」
アンヌは翼を傷つけられたことで地面に落下した。
クロードはそれを確認するとフランクをジンガに乗せるとデブクロとレベッカを自分の元に下げる。
「悪いけどこれで退かせてもらうよ!」
クロードはデブクロを収容するとレベッカで牽制しながらジンガと共に森に消えていく。
「イージス様!」
「大丈夫。 すぐ追い付くから」
クリスはクロード達を追い森へと入っていった。
「レオナ! フランクさんはクロードが助けました! じきにこっちに来ます!」
「フランクが!?」
リーティアの言葉に、レオナはハッと顔を上げる。
「よかった・・・・・」
「だから言ったろ? 俺達を頼れって」
レオナは頷くと涙を拭い、立ち上がる。
「なら、今度はあたしを頼ってもらわないとね」
レオナは新たな剣を生み出すと、ゼータ達に向かっていく。
「ジャバ下がって! そいつらはあたしが片付ける!」
「うがう!」
ジャバはレオナを見るとゼータ達から距離を取った。
「くそ! なめやがって!」
「でもいくら五魔でも、鉄を使うなら僕達の敵じゃ・・・・」
シータがそう言わるより早く、全てが終わっていた。
ゼータが達は風が通り抜けた感覚がしたと思うと、前方にいた筈のレオナは背後にいた。
手に持つ剣には、何かを斬ったかのように赤い血がついている。
「遅すぎよ、あなた達」
瞬間、二人の体は上半身と下半身に別れた。
ゼータ達は何が起きたか理解できず、ただ自身の下半身を見ながら落下していった。
「い、いつ斬ったんだあれ?」
レオナの動きが見えなかったライルは目をパチパチ動かし、ノエルはリナを支えながら呆然としていた。
レオナが速いのはわかっていた。
だが今のはただ速いだけではない。
その片鱗は大木を斬った時から見せていた。
それはレオナの持つ技。
まさに言葉通り武器が体の一部となるまで研ぎ澄まされた鋭い技。
それが相手の意識の隙を突き、斬撃を瞬間的に通り過ぎた様に錯覚したのだ。
レオナの力を知らないライルやゼータ達には、まるでレオナが瞬間移動でもしたかの様に感じたのだ。
気付いた時には死が通りすぎていたと感じる程の技の冴え、それこそが魔器デスサイズの本当の武器なのだ。




