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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
337/360

竜の神との激突

 立ち上がったバハムートに向かい、カイザルはジークに跨り速攻をかける。

 ジークの速さを加えた高速のランスがバハムートに目掛けて繰り出される。

 そのランスを、バハムート避けずに軽く片腕で受け止めた。

「なにっ!?」

「老人の姿をしているから肉弾戦は苦手だと思ったか? まあ、実際老人ではあるがな」

 バハムートは老人の細腕とは思えない力でカイザルを後方へと投げ飛ばす。

 ジークは素早くカイザルの方へ飛んで受け止めようとするが、それよりも速くバハムートにその尾を掴まれていた。

 ジークは口から雷のブレスを吐き出しバハムートに浴びせる。

 だがバハムートの体には焦げ一つなく効いている様子はなかった。

「その歳でこの威力か。 惜しいな」

 バハムートは力任せにジークを持ち上げると床へと叩き付けた。

 更に今度は逆側の床に叩き付け、何度もその体を痛めつけようとする。

「貴様!!」

 カイザルは渾身の力でランスを振るい、遠距離からジークを掴む手を攻撃した。

 攻撃自体は効いてはいないが弾かれたジークはバハムートの手から離れた。

 そしてカイザルがランスを引くとその素早い動きで生まれた真空空間に引き寄せられる様にジークがカイザルの元へと引き戻される。

「なんとも器用な事をする。 ん?」

 バハムートは周囲を見ると、自身の周囲に数え切れない程の火球が浮かんでいるのに気付く。

「なるほど。 この為の時間稼ぎか」

 クロードとリーティアは魔力を共鳴させ増幅し、普段では作れぬ程の火球を生み出し完全包囲していた。

「「フレアダンス」」

 二人の声で火球から一斉に熱線が放たれ、それがバハムートへと一点集中する形で降り注ぐ。

 逃げ場はない。

 そう思ったクロードは目を疑った。

 バハムートは熱線の隙間を縫う様に素早く包囲網から抜け出していく。

 通常ではかわせない筈の熱線の集中砲火を一気にかわしたバハムートは驚く隙すら与えずクロードに接近する。

 リーティアはそれを防ぐ為にバハムートに蹴りを繰り出すが、それは軽くいなされ弾き飛ばされる。

 クロードは瞬時に火竜の装具を纏い接近してきたバハムートに熱線と肉弾の両方の攻撃を仕掛け迎撃した。

 バハムートはそれらをかわし瞬時にクロードの懐に潜り込むと顎に掌底を叩き込み腹に肘を打ち込み、更に回転蹴りをクロードの頭に叩きこもうとする。

 それをリーティアが素早く割って入りクロードの抱えその場から離脱させる。

 リーティアはカイザル達の方へ着地するとクロードはカハッと息を吐いた。

「大丈夫、クロード?」

「ああ、助かったよリーティア」

 息を詰まらせる暇すらないバハムートの連撃に、クロードは冷や汗をかいた。

 実際、今リーティアが助けてくれなければ頭をかち割られていた。

 しかもバハムートは何も特殊な力を使った素振りはない。

 単純な力のみでここまでクロード達を圧倒している。

 その底知れなさにクロード達の緊張感が高まった。

「五魔とは、どんな連中の集まりだったか知っておるか?」

 突然のバハムートにクロードは警戒しながら答えた。

「ラミーアが旅の途中で出会った気の合う仲間達って事だったかな」

「儂の力を見てもまだジョークが言えるとは愉快な男だ。 まあ、それも間違ってはいない。 そもそもラミーアは意図しとらんかったが、五魔には皆ある共通点を持っておった」

「共通点?」

「各一族のあぶれ者じゃよ。 ディアブロやルシフェルは故郷を追われ、ウォッキーもその強さ故対等な者がおらず故郷を出た。 デスサイズはその性格で人の社会からはみ出た。 儂も神などと言わて敬われておったが、その中身は対等な仲間のおらん老竜に過ぎん。 そんなあぶれ者の集まりでしかない我等が何故当時最強とまで言われたか、その理由がわかるか?」

 聞くと同時にバハムートは瞬時にクロード達の眼前まで接近してみせた。

「強かったからじゃよ」

 一瞬で近付かれた事に驚きながら迎撃しようと全員即座に行動を開始した。

 クロードとリーティアは貯めなしのフレアランスを、ジークはブレスを、カイザルはランスを繰り出しバハムートに浴びせる。

 バハムートはカイザルのランスを掴み力任せにランスを奪い取る。

 そしてランスでクロード達のフレアランスを防ぎ、ジークのブレスは空いた手をかざし受け止めた。

 仕上げに自身の尾を出現させ、回転し4人を薙ぎ払った。

 強力な尾の一撃を受けた4人はダメージを負いながらも、なんとか体勢を立て直して着地する。

 バハムートは追撃せずにクロード達を見据えた。

「実に単純な話じゃ。 菌や死者を操る。 空間を移動する等下らぬ小細工の能力ではない。 単純に儂ら個々の力が強かった。 ウォッキーの常人離れした怪力。 デスサイズの卓越した殺しの技術。 ルシフェルの冥府の力すら操る魔力。 唯一ディアブロのみ最初は弱かったが、その驚異的な成長速度で一気に儂らと同等以上になりよった。 つまらぬ屁理屈や小細工の様な能力すら蹴散らす純粋な力。 それこそ我等五魔が最強と言われた理由じゃ。 お主達は確かに強いが、個々の力では儂らに遠く及ばん。 それでは儂らには勝つ事は出来んよ」

 バハムートが話している事は嘘ではないのはこの攻防で理解出来る。

 何より、バハムートはまだ人の姿で竜の力は尾しか出していない。

 これで全力を出したらと思うと、ゾッとするのを通り越しクロードは笑いがこみ上げそうになる。

 だがそれでも、クロードは負ける気はしなかった。

「確かに貴方達は強いのだろうけど、私達には貴方達にはない力がある」

「個ではなく力を合わせるというのだろう。 ラミーアとの旅でそこは学んでいる。 無念なのはそこを後世に伝える前に眠りについたことか。 伝えられていればここまで竜が衰退する事もなかったろうに」

「なら、私達がこれで終わらないのはわかっているだろうね」

「ああ。 故に残念だ。 その程度なら心を折りその姿を大衆に晒し、外で戦う者共の心も折る事も出来たというのに。 お主らには酷たらしく死んでもらう事になる。 許せとは言わんが、覚悟だけはする事だな」

 バハムートの両手両足も竜のものへと変化していく。

 確実に自分達を殺す。

 その意志を感じ取ったクロードはリーティアに目配せする。

 リーティアが意図を理解し頷くと、クロードはカイザルに語りかける。

「カイザル君、ジーク。 恐らく長期戦になればこちらが負けるだろう。 だから少し私に賭けてくれるかな?」

「聞く必要はない。 寧ろ貴様の知恵が通用しないならどの道負けだろう。 ならこちらは体を張るのみだ」

 カイザルに同意する様にジークも吠える。

 クロードも覚悟を決めてカイザルに指示を出す。

「暫くリーティアと一緒にバハムートを抑えていてくれ。 その隙に私が奴を叩く」

「わかった。 行くぞジーク!」

 カイザルはジークに跨り、ジークは自分達に向けブレスを放った。

 雷を纏った状態になったカイザル達は雷の速度でバハムートに突っ込んでいく。

「頼んだよリーティア」

「出来るだけ早めにお願いしますね」

 笑みを見せてそう言うと、リーティアもバハムートへと向かっていく。

 カイザルの貫通力を増した雷光の連続突きをバハムートはいなし鋭い爪を振るう。

 雷の速さを得た事でなんとか避けられるが、気を抜けば確実に体が引き裂かれる。

 それを理解しジークは避ける事に意識を集中し、カイザルが攻撃に専念出来る様にした。

 リーティアも接近し至近距離からフレアランスを連続で放ちカイザルを援護する。

 バハムートはリーティアのフレアランスを避けながらカイザルの攻撃を捌き、その体を抉ろうとする。

 そうしながらクロードからも目を離さなかった。

(やはり気付いていたか)

 クロードが火竜の装具を解き、魔力を集中しフレアランスの貫通力と熱を高めているのを見てバハムートは狙いを察した。

 クロードは先程の攻防でバハムートがフレアランスのみを避けているのに気付いた。

 ジークのブレスが直撃しても無傷のバハムートが避ける理由は一つ。

 フレアランスがバハムートの体を傷付ける可能性があるからだ。

 フレアランスの特性は熱と貫通力。

 クロードはその2つを限界まで高める事で、バハムートの体を貫こうと考えた。

 かつての自分では無理だったがリーティアが自我に目覚めた今ならそれも可能な筈。

 そう考えての賭けだった。

 実際、クロードの考察は当たっていた。

 バハムートはあらゆる種類の攻撃に耐えられる体を持つが貫通系の技に関しては僅かに抵抗力が低い。

 それでも大抵は耐えられるが、クロードの熱線の熱が加わる事で自分を傷付ける可能性がある事と考えたバハムートは念の為に避ける事を選択していた。

(それでバレるとは、なんとも皮肉な事か)

 用心した結果自分の弱い箇所を見抜かれ苦笑するバハムートだが、大した事はないと割り切った。

 恐らく当たっても多少のダメージは負う程度。

 それならこの3人をすり抜け、ダメージ覚悟でカウンターでクロードの体を引裂けば済む。

 クロードが倒れればリーティアは止まり、カイザルとジークでは自分を倒す決定力はない。

 それで積みだ。

 後は無残に切り刻みその死体を晒せば人間達の士気は落ち、こちらの勝利する可能性を高めればいい。

 そこまで考えたバハムートは、ふと思い直す。

 その方法なら確実に勝てる。

 だがその後のディアブロとの決戦で支障が出る。

 アーミラ奪取の為にディアブロとの戦いは避けられない。

 三竜王が倒れた今、ディアブロと戦えるのは自分のみ。

 となれば可能な限り万全の状態で戦わなければならない。

 バハムートはすぐに考えを切り替えた。

(確実に奴を消すには、これが最上か)

 バハムートはカイザルを無視し離れた所からフレアランスを撃つリーティアに向かっていった。

 リーティアはフレアランスを連発するがその全てがかわされバハムートはリーティアの首を掴む。

「ぐっ!?」

「すまんな人形のお嬢さん。 本来ならこういうのは趣味では無いのだがな」

 バハムートは力を込めてリーティアをクロードの方へと投げた。

 バハムートの力で投げられたリーティアは体勢を整える事が出来ずクロードの方へ飛んでいく。

 クロードもリーティアが壁になってしまった事でその先にいるバハムートを撃つ事が出来ない。

「まずい!」

 クロードがリーティアを傷付けられない事を知るカイザルはリーティアを助けようとジークを飛ばそうとする。

 その瞬間バハムートは背から翼を出し、羽ばたかせる事で強風を発生させる。

 嵐の様な風にジークとカイザルは吹き飛ばされそうになるのを防ぐのに精一杯でリーティアの方へ行く事は不可能となった。

 その事を確認するとバハムートはリーティアを盾にクロードへと向かって行く。

 クロードはなんとかリーティアを外してバハムートを撃とうとするが、バハムートはリーティアを撃ち抜かなければならない場所に張り付いていた。

「バハムート!!」

「お主らの絆の強さ、利用させてもらったぞ」

 バハムートは爪を剥き出しにしクロードの体をリーティア事砕こうとする。

「ヒャ〜っハッハッハッ!!」

 その時、突然響いた笑い声と共に竜人姿のガルジが壁を突き破り突っ込んできた。

「お主は!?」

 突然の乱入者に驚くバハムートに、ガルジは猛スピードで体当たりをぶちかました。

 ダメージこそないが、バハムートの体はリーティアから外れクロードの前に顕になった。

「しまっ!?」

「フレアランス!!!」

 突然の自体でも好機と見たクロードはすぐにフレアランスを放った。

 バハムートは防御する間もなく腹に被弾。

 フレアランスはバハムートの腹部を貫いた。

 バハムートに大きな痛手を与えたクロードはすぐにリーティアを受け止めた。

「大丈夫かいリーティア?」

「ええ、申し訳ありません。 足手まといになってしまって」

「いや、君が無事ならいいさ。 それと、助かっだよガルジ君」

 礼を言うと、ガルジは「勘違いすんな!」と声を荒げた。

「俺はあいつ倒して俺が最強だって事を証明したかっただけだ! つうか俺の手柄横取りしやがって!」

 あくまで自分の為にとぎゃあぎゃあ騒ぐガルジに、クロードはどこかリナを思い出しホッと安堵する。

「わかった。 なら今回は貸しという事にしよう。 この戦いが終わったら君の好きな時に挑戦を受けるよ」

「そいつはおもしれえじゃねぇか! この前の借りをキッチリ返してやるよ!」

「貴様ら何を喋っている! まだ終わっていないぞ!」

 カイザルの警戒した声に振り向くと、バハムートは腹を貫かれたにも関わらず平然と立っている。

 そして出来た傷を触りそれを見詰めていた。

「腹に風穴空いて平気か。 とんだバケモンだなこいつは」

「理解してくれて助かるよ。 実際、君が来なかったら割と詰んでたからね私達」

 再び戦闘態勢に入り5人はバハムートを囲んだ。

 バハムートは暫く5人を見渡すと、ふぅと息を吐いた。

「安全策を取ろうとしてしくじるとはのぉ。 いやそもそもお主らにそんな消極的なやり方を選んだ儂の落ち度か」

 バハムートがそう言うと、周囲の空気が変わった。

 まるでリナの重力の様な、いやそれを超えるプレッシャーが周囲を包み込んだ。

「お主らは何故高等な竜が人の姿を取るか知っとるか? それは人の姿の方が便利なんじゃよ。 竜の姿のままでは地上で活動出来ぬ者や、その高温でマグマ地帯でしか活動出来ん者もおるからな。 人の姿ならその心配もない。 儂もその口でな、滅多に戻る事はせんのじゃよ。 なにせ儂が竜に戻ると、皆踏みつぶしてしまうのでな」

 バハムートの体を魔力が包み込み、それが周囲にどんどん広がっていった。

「みんなここから出るんだ! 早く!」

「はあ!? んな事するより今叩いちまった方がヌガッ!?」

「いいから言うとおりにしろ!!」

 危険を感じたクロードの指示に素早く従ったカイザルはガルジの首根っこを掴み猛スピードでその場から離脱する。

 クロードとリーティアも全速力で砦の中を突っ切り、5人は砦の中から飛び出した。

 同時に砦は崩壊していき、中から何かが姿を見せた。

 その姿を見て、クロードは五魔としてバハムートが他者を圧倒している力の正体を理解した。

 強大な魔力と共に砦を突き破り出てきたのは、100メートルを超す巨大な竜だった。

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