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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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竜の神との会合

「まずは初めましてと言っておこうか。 人の魔竜とそのパートナー。 そして我が同胞を従えし騎士よ。 よくここまで来た」

 カイザルはバハムートを目にして戸惑った。

 竜の神とまで言われる伝説的な存在。

 現に先程会った竜王を名乗る三人は、人の姿をしていても竜独特の凄みというものを感じた。

 だが目の前のバハムートからはそんなものは感じない。

 それどころか、まるでどこにでもいる老人の様にしか見えない。

 カイザルはそんなバハムートの穏やかな姿が、寧ろ不気味に感じた。

 バハムートはそんなカイザルの警戒に気付きつつも気にする様子もなく二人を観察する様に見る。

「なるほど。 正直竜王達が敗れるとは思っていなかったが、我が友の忘れ形見がいる事を差し引いてもお主達を見れば納得出来る」

「忘れ形見?」

「おお、そうかお主達は知らなかったか。 そこにいる若い竜。 今は亡き竜王の一人であった雷竜王ボルガルスの息子よ」

「雷竜・・・ッ!? まさか、先の大戦で蘇った紫の雷を操る竜か!?」

 バハムートはボルガルスがジークと戦った事を知り、少し表情を曇らせた。

「そうか、戦ったか。 操られていたとはいえ顔も知らぬ親子で戦わねばならぬとは皮肉な運命じゃ」

 あの時戦った相手が自分の父親だと知り、ジークは明らかに動揺する。

 同時に最後のブレスの激突でボルガルスが威力を弱めた理由を理解し、悲しそうに唸る。

「嘆く事はない古き友の倅よ。 お主は奴を屍の王に操られる恥辱から救ったのだ。 息子に倒されたのであれば、奴も本望じゃろう」

 裏表のないバハムートの言葉に、ジークはこれから戦わねばならない相手だというのに安らぎの様な安心感を感じる。

 これが自分達の神とまで言われた竜なのかと肌で感じながら、今の相棒であるカイザルの為に動揺を収める。

「それでこそ奴の倅だ。 そうこなくてはな」

「同族同士の語らいを邪魔するのは恐縮だけど、ついでに私とも少し話させてくれないかな」

 クロードに声をかけられ、バハムートはそちらに意識を向けた。

「無論だ、人の魔竜よ。 儂もお主と話をしたいと思っていた。 最も戦いを止めろという提案は飲めんがな」

「流石にここまでくれば貴方がそれを選択しない事は理解しているよ。 ただ、どうしても知りたい事があってね」

「ほぉ、何かな?」

「私が知りたいのは、貴方が何故この戦いに参戦したかだよ」

 すでにわかりきっている事を聞くクロードにバハムートは興味深そうにその顔を見つめた。

「随分面白い事を聞く。 我が種族の為だという事はわかりきっているじゃろう?」

「それは勿論。 ただ貴方は古から、それこそ私達が想像するより遥かに昔から生きる竜だ。 そして自分の種族を至高とせず他の種族にも目を向ける柔軟性と聡明さ、寛容さを持ち合わせている。 その貴方なら今回魔族と組むのは最善ではない事を理解している筈だ。 いや、今のカイザル君とジークとのやり取りでそれは確信したと言っていい。 なら何故そんな貴方がこの戦いに加わった? 数少ない同胞の数を更に減らす危険性を犯してまで。 それこそ魔族や屍の王に計画の一部として利用される恥辱を受ける事を理解しながら」

「これは驚いた。 なかなか見えておる。 お主の様な者が我が名を引き継いでおるとは嬉しいものじゃ」

 感心した様に顎を撫でると、バハムートは近くにあった椅子に腰掛けた。

「そうじゃな、確かに最善ではない。 ラミーアが提案した様にそちらに付くが中立を維持する事で共に竜が再び復活する手立てを模索する方がいい。 じゃが、我らには時間がなかった。 竜の減少、もっと詳しく言えば力のある竜の減少の理由は知っておるか?」

「人間の台頭もあるだろうけど、一番は魔力の減少か」

「その通り。 我ら竜は魔力に愛され高い魔力を保有して産まれる。 そして魔力は強い肉体と高い知能を我らに与えた。 結果竜は言葉を操り、陸海空の全てにおいて最上位として君臨する程の力を得た。 じゃが、それも世界に発生する魔力が減少した事で変わった。 魔力が減った事で徐々に知恵ある竜は産まれなくなり、ついには言葉を話せる竜はわしを除けば三竜王のみ。 力も減少しワイバーン等が竜に数えられるという始末。 更に我らとは逆に魔力とは関係なく進化を遂げていった人に乱獲され始めた。 ボルガルスも、仲間を守る為に人と戦い死んだと聞いた。 これらの出来事が儂が眠っていたたった千五百年程度で起こったのだぞ? 何十万年も繁栄してきた竜が、たったの千五百年でこのザマだ」

「だから、私達とは組めないというわけか」

「ああ。 確かにそちらに付けばより確実な方法を見つけられるかもしれん。 しかしそれまでどれ程の時が必要だ? その間に竜はただの獣へと堕ちることとなる。 滅びるだけならばまだ諦めもつく。 しかし知性無き獣に堕ちるのは、かつて繁栄した竜の末路としてはあまりに、あまりに酷い末路ではないか」

 バハムートの表情からその苦悩画滲み出ている。

 実際人が猿まで退化して滅びる等という末路に直面すれば、バハムートの様に追い詰められるのも仕方のない事だろう。

 ましてやバハムートは竜に神と讃えられるほどの存在だ。

 今バハムートはその使命感に呪縛の様に縛られている様な状態なのだろう。

「答えてくれた事に感謝するよ、バハムート。 貴方は私が想像した通り高潔な竜の様だ」

「よしてくれ。 真にそうならばこの様な自体に陥る事はなかった。 そして、お主達とも殺し合わずに済んでいただろう」

「そうかもしれないが、それはこちらも同じだ。 皆自分の置かれた状況で必死に藻掻くしかないんだよ。 だから私達は貴方を倒す。 私達も決して退けないからね」

 クロードに呼応しリーティア、カイザル、ジークも戦闘態勢に移行する。

 自分より強者である者に対し奇襲するでもなく、こちらの意を理解し正面から挑もうとしてくるクロード達に、バハムートは一種の心地良さを感じていた。

 同時に残念に思った。

 時や状況が違えば、かつてのラミーア達の様に楽しく語らう事が出来たというのにと。

「本当に、運命というのは残酷じゃな」

 そう呟いたバハムートもゆっくりと立ち上がる。

 この若者達に残酷な死を与える為に。

 

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