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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
334/360

蟲の王VS炎竜王

 炎竜王フレイザーを不意を突き掴み吹き飛ばしたヘラクレスはある程度距離を進むと体を離した。

 リリィも追い付きヘラクレスの隣に降り立った。

「大義じゃったヘラクレス。 大事ないか?」

「ハッ。 ギリギリでしたがね」

 よく見ると、フレイザーを抑えていた角の一部から煙が出ていた。

 そしてフレイザーの体からは高温の熱により周囲の空気が歪み始めている。

 もう少し放すのが遅ければヘラクレスは角のみでなく全身が焼かれていたかもしれない。

 しかも、恐らくこの熱は攻撃の為ではなくフレイザーの感情から漏れ出たものだ。

 その証拠に、フレイザーはこちらに眼中なく感情を抑える様に息を荒げている。

「随分立腹の様じゃのぉ。 たかが虫けらと侮っていた妾達に一杯喰わされ頭に来たか?」

 フレイザーの危険性を理解しながらリリィが挑発する様に言うと、フレイザーは睨みつけながらなんとか感情を抑えようとしている。

「ああ、それもある。 だが一番頭に来ているのは、貴様らを弱小種族と見下しこの戦いに参戦する程の強者だという事を失念してまんまと分断されたこの俺自身の浅はかさだ!」

 言葉と同時に更にフレイザーの周りの熱が上がり、周囲の地面が燃え始める。

 攻撃目的でなく出る熱でこれかと、リリィとヘラクレスは戦慄する。

 だがそれを表には出さず、フレイザーと対峙する。

「己の愚を素直に認めるとは殊勝な奴よ。 じゃが、じゃからと言って妾も容赦する気はない。 あの屍繰りに操られていたとはいえ、そちら竜に同胞が傷付けられたのじゃからな。 女王として落とし前は付けねばならん」

 タナトスに蘇らされたボルガルスによって腹心であるマンティは片腕を失った。

 その事はリリィとしても見過ごせるものではなく、女王として、仲間として、竜に一矢報いねばならない事だった。

「あの冥府の王を名乗るカビ臭い男か。 同胞を侮辱したアイツもいずれ焼き尽くす。 だがその前に、俺達の悲願を達成する為、貴様らを叩き潰す!」

「やる気十分じゃな。 なら妾達も遠慮はせん。 始めるとするかの!」

 リリィは最初からトップスピードでフレイザーに接近し蹴りを喰らわせる。

 フレイザーがそれを腕で防ぐとリリィの脚に熱による痛みが走る。

「流石に素早いな。 それに重い。 だが俺の炎熱はその程度では揺らぎもしない!」

 フレイザーが振り払う様に腕を振るうと同時に炎が発生し辺りに広がる。

 リリィは得意のヒットアンドアウェイが通じないと感じ瞬時に距離を取る。

 それと入れ替わる様にヘラクレスが突進しショルダータックルを決める。

 だがフレイザーは先程の様に吹き飛ばされず正面からそれを受け止めた。

「ほお、俺の炎に耐えるか。 下手な竜より頑強の様だ」

「丈夫さが俺の自慢でな。 この程度の炎で怯んでいては、蟲人最強の名は名乗れん!!」

 ヘラクレスは角をフェンシングの様に連続で突き出しフレイザーの体を穿とうとする。

 フレイザーはそれを敢えて防がず数発受ける。

「種族最強か。 その名に相応しい力強さだ。 自ら前線に立つ女王も王として頼もしいのだろう。 だが! 竜に比べれば児戯に等しい!!」

 フレイザーは角を掴むと力任せに振り回す。

 ヘラクレスはなんとか振りほどこうとするがフレイザーの力に敵わずされるがまま地面に叩きつけられる。

 しかも掴まれた場所の熱で焼かれ角から煙が出始める。

「ヘラクレス!」

 リリィが援護に回ろうと高速でフレイザーの顔面に蹴りを入れようとする。

 するとフレイザーは周囲に炎を発生させヘラクレスとリリィの体を焼き吹き飛ばす。

 吹き飛んだ二人に目掛けて間髪入れずにフレイザーは巨大な火球を生み出し投げ付けた。

 するとヘラクレスが前に立ちはだかり火球を正面から受け止める。

「ぬおおおおおおおお!!」

 ヘラクレスは体が焼かれながらも力を込め、火球を両腕で握り潰す。

 ヘラクレスの頑強な外殻が焦げ、中の肉まで焼けている事からフレイザーの炎の威力を証明している。

「ヘラクレス! 大丈夫か!?」

「問題ありません。 まだやれます」

「予想より粘るな。 だが無駄だ。 もはや俺に油断はない。 最強種族である竜の力で押し潰してやろう」

 再び火球を作り出そうとするフレイザーにヘラクレスは再び構える。

「随分種族に拘るのぉ。 それが竜の誇りというやつか」

「無論だ。 俺は自分が最強種である事に誇りを持っている。 その中で竜王の名を関する者として、強者である者の教示を示さねばならんのだ」

「強者である者の教示か。 ご立派な事じゃ。 じゃからこそというべきか」

 リリィは妖しく口角を上げた。

「手段を選んで倒せると思う程妾はお主を侮ってはおらん」

 その時、フレイザーの足元からリリィの近衛の一人ポネラが現れ体を掴んだ。

 同時に熱で焼かれるが、ポネラは自慢の怪力でフレイザーを拘束する。

「貴様っ!?」

「ヘラクレス程ではないが俺も頑丈さには自信があってな。 それにこの戦いは我ら蟲人の誇りを賭けたもの。 卑怯だがこれで終わらせる」

「そういうこった!! これでしまいにしてやらぁ!」

 更にオブトも地面から現れその尻尾を突き刺し毒を流し込み、ポネラも首筋に噛み付き毒を流し込む。

 異なる二種類の毒流し込まれ、フレイザーの体に激痛が走る。

「ど、けぇええええ!!」

 フレイザーが炎を強めて二人を引き離すが、その隙にリリィとヘラクレスがフレイザーに突っ込んでいく。

「これで、終いじゃ!!」

 リリィは高速での蹴りを顔面に、ヘラクレスは回転しながら角を胴体に炸裂させ、フレイザーは後方に吹き飛んでいく。

 そして地面に仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。

「油断はせずとも、最強種族である事による無意識の慢心。 それがお主の敗因じゃ」

 蹴りを入れた脚が熱で火傷を負ったリリィは膝を付きそうになるが、ヘラクレスに支えられなんとか持ち応える。

「すまんな。 お主の方が傷が深いのに」

「頑丈さが俺の取り柄なので」

 リリィはクスリと笑うとオブトとポネラの方を向く。

「お主らもよくやった。 大事ないか?」

「この程度、奴を引きつけてくださった陛下達に比べればなんの事ありません」

「その通り! これでここに来れなかったマンティの無念も晴らせたと・・・ッ!?」

 オブトが気配に気付き振り向くと、フレイザーが静かに立ち上がっていた。

「コイツ! まだ立つか!」

「だが二人の毒は効いている。 もはや戦う事など・・・」

 するとフレイザーの体を炎が包んだ。

 自らを焼く行為に驚くが、すぐにリリィは炎で毒を焼いているのだと気付く。

「無意識の慢心か。 我ながらなんという愚かな思考だ。 そもそもこの姿のままでいたのが侮りの表れか」

 静かにそう言うフレイザーの体から、何がかドロリと落ちた。

 真っ赤な泥のような物は地面に落ちると地面が燃えだす。

「竜王最強と言われた炎竜王フレイザー。 本当の力を見せてやろう」

 炎が強まり炎の渦となると、炎の渦から巨大な爬虫類の腕が出てくる。

 そしてそこから全身が這い出てくると、黒いひび割れた岩の様な肌に竜が現れる。

 そのヒビ割れた箇所からマグマが滞留しているのが見え、そこから漏れ出て地面に落ちている。

 リリィ達はそこでフレイザーの本質を理解する。

 炎竜王と呼ばれているがその本質はマグマを体に宿すその体。

 今まで人の姿の時に使っていた炎はその余波に過ぎず、フレイザーが本気を出していなかったのだと本能的に理解した。

「こ、攻撃じゃ! 奴に何かさせるな!!」

 危機感を抱いたリリィの号令に三人は即座に反応し動き出す。

 リリィを加えた四人はそれぞれの最大威力の技を使い、一気にフレイザーを仕留めようとする。

「バーストエンド」

 フレイザーは赤く光ると、体に貯めた熱を一気に解放した。

 全方位に広がる超高熱が周囲を焼き尽くし、近くにいた不運な魔族や人間の兵達は皆焼け死んでいった。

 熱が収まると燃える地面と巻き込まれた者達の焼死体が転がり、攻撃を仕掛けたオブトとポネラ、そしてヘラクレスは息こそあるが大火傷を負い虫の息となっていた。

 唯一リリィのみ瞬時にこの攻撃の危険性を察して盾となったヘラクレスによってなんとか動けたが、それでもかなりの重傷を負っていた。

「な、くぅ」

 近くにいたヘラクレスに這い寄ろうとするリリィだが、フレイザーが前脚でリリィを踏み付ける。

 踏み付けられたリリィは全身を焼かれ、苦悶の声を上げる。

「卑小な蟲の王よ。 貴様の奮闘に敬意を評し、忠臣共共々滅ぼしてやろう」

 フレイザーは更に力を込め踏み潰そうとする。

 するとリリィは手から針を出しそれをフレイザーの顔を左眼に突き刺した。

「ギッ!?」

「妾は蜂なのでな、奥の手はしっかり取っておいてあるんじゃよ。 卑小じゃろうがなんじゃろうが、王たる者簡単に屈する訳にはいかんじゃろう」

 実力差を悟りもはや自分の生を諦めたリリィは最期に一矢報い、苦しみながらニヤリと笑った。

 フレイザーは怒りに右眼を血走らせて前脚に力を込めた。

 そして、リリィの体は虫の様に潰された・・・かに見えた。

 踏み潰した瞬間リリィの体が霧散しその場から消えた。

 リリィだけでなく近くにいたヘラクレスや倒れていたオブト達も消え去り、フレイザーは辺りを見回した。

「やれやれ、小娘とはいえ王を名乗るだけあるというわけか。 いや、実に立派でありんすな」

 フレイザーが声がした方を向くと、着物を着た少女がリリィ達を回収し、保護する様にそっと寝かせていた。

 自分に気付かせずリリィ達を回収した謎の少女に警戒しながらフレイザーは構える。

「小娘、何者だ?」

「大したもんじゃありんせん。 主さんに分かりやすく言うなら、人の魔竜の師匠というところじゃのぉ」

 クロードの師匠ダキニは金平糖を一粒食べると不敵に笑った。

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