魔竜奮戦
突如現れたクロードに対し、アルファとアンヌは警戒を強めた。
「何故お前がここに!? あの女の中にいるんじゃなかったのか!?」
「いや、昼間レオナの様子がおかしかったから念のためにね。 まさかこんな事になってるとは思わなかったよ」
と言いつつクロードはクリスの横のフランクに目をやる。
フランクは眠るように静かに横たわっている。
「随分形振り構わないじゃないか。 一般人を人質に取るなんて」
「ディアブロを始末するためだ。 それに五魔と関わった時点で一般人ではない」
「勝手な理屈だね。 しかし狙いはリナか。 道理で今回はいつもと違うと思ったよ。 見慣れない人が二人もいるしね」
クロードはアンヌとクリスに視線を向ける。
『私はアンヌ 。聖人ギゼル様の娘よ』
「僕は、クリス。 聖五騎士団で聖盾イージスっていうのをやってる」
「へぇ、ギゼルって男は造型のセンスはいいみたいだね。 それに聖盾か。 通りでね」
クロードは納得したように見据えた。
鳥の姿のアンヌに巨大な盾を両手に持つクリス。
どちらも異様だが、クリスに対してクロードは見た時から警戒をしていた。
ハッキリ言ってアルファや下のゼータ達とは明らかに別格。
恐らくレオナが戦っても、負けはしないでも苦戦はする。
ましてや下のゼータ達が加われば、いかにレオナでもフランクを取り戻すことは不可能だろう。
それを感じ取ったからこそ、クロードはこっそり魔力の糸でフランクを奪還しようと思ったのだが、それもあっさり見破られてしまった。
「いずれにしろ、彼は返してもらうよ。 何より・・・・」
クロードは意識を臨戦態勢に切り替える。
「仲間同士戦わされて、私も頭に来てるからね! 来いデブクロ! レベッカ!」
クロードはかつて自分が入っていたニセクロードと、劇場の呼び込みをしていた緑のツインテールの女の子の人形を出現させる。
「ムフォフォ! 久し振りの出番だよ~!」
「クロード様! ご用はなんですか?」
「こいつらを止めてフランクを取り戻す。やれるね」
「お任せください♪」
「ムフォフォ、張り切っていきますかね~」
デブクロは大きく跳び跳ねると体を丸め回転しながらクリスの上に体当たりした。
クリスは両手の盾を構えてそれを防ぐが、衝撃で地面に足元が少しめり込む。
「いっきまっすよ~♪」
レベッカは間髪いれず飛び上がると、デブクロに踵落としを食らわしその衝撃でクリスを更に押さえ込む。
一見優勢そうだが、クロードは警戒を緩めない。
クロード自身、今の状況が有利ではないことを自覚しているからだ。
人形は操る数が増す程その精度が落ちる。
それでも普通の兵士を倒すには充分過ぎる能力だが、上位の実力者が相手ではそれは命取りとなりかねない。
目の前のクリスは確実にそれだ。
加えて今、一番強いリーティアは下で戦わせている。
だからこそクロードはリーティアを除けば最も戦闘力、防御力がある2体に絞ったのだ。
クロードはクリスへの攻撃を緩めず状況を分析する。
アルファは恐らく動かない。
自分が動くとノエル達が自由になり、下のゼータ達の撃破、もしくはレオナが拘束される可能性があるからだ。
アンヌはどんな能力があるかはわからないが、今の所攻撃を仕掛ける気配はない。
となると、このままクリスを1ヵ所に押さえ付け、フランクを奪えば自分の勝ち。
クロードはそう考えたその時・・・・。
「・・・・・凄い」
デブクロとレベッカに押し潰されながら、クリスは子供の様にキラキラ目を輝かせる。
「本物の人間みたい。 格好いい。 五魔ってやっぱり凄いな」
この状況がなんともないようにどこまでもマイペースなクリスに、クロードはどこか不気味さを感じた。
瞬間、デブクロとレベッカが弾き飛ばされた。
クリスが盾に力を込め吹き飛ばしたのだ。
クロードはデブクロ達を着地させると、クリスは初めてニヤリと笑った。
「これ連れて帰ったら、アーサー喜ぶかな」
子供の様な無邪気な笑みがその不気味さを引き立てる。
クリスはクロードに向かい盾を振るうが、それはデブクロによって阻まれる。
「ムフォフォ、その程度じゃ、僕のお腹は破れないよ」
「うわ、面白い。 じゃあ次は少し強めに・・・・・」
するとクリスは前とは比べ物にならない速さでクロードの腹に一撃を食らわせた。
「ムフォフォ、何度やっても・・・・・」
クロードはそこで違和感に気づいた。
デブクロが上手く動かない。
(まさか、衝撃で内部を壊されたのか!?)
クロードの顔に焦りが見える。
デブクロはカイザルとの戦い後防御力を強化した。
特に表面の肉は衝撃を吸収する柔らかい盾として機能を大幅に強化してある。
今回その盾は機能した。
だがその柔らかい盾でも吸収しきれないほど、クリスの攻撃は強いということだ。
「可愛い顔して、とんだ怪物だね」
「褒められた。 君いい人だね」
自身の言葉を褒め言葉として素直に受け取るクリスに苦笑しつつ、クロードはレベッカを繰り出す。
「よいしょっと♪」
レベッカは地面を蹴ると土つぶてがクリスに飛んでいく。
クリスは土の散弾を盾で防ごうと前に腕を構える。
するとその背後から動けないはずのデブクロがクリスを抱き締めた。
「ムフォフォフォ。 そう簡単にはやられませんよ」
「ふふ・・・・君達面白いね」
クリスは土つぶてを防ぎながら脱出をしようと力を込める。
(今だ!)
クリスの足が止まった瞬間、クロードは左手の指から1本の魔力の糸を出しフランクに巻き付ける。
「まずい!」
アルファがボウガンを向けるよりも早く、クロードはフランクを自身の元に引き寄せる。
「これでもう用はない! 引かせてもらうよ!」
『そうはさせないわ』
フランクを連れリナ達の所に戻ろうとするクロードの前にアンヌが立ちふさがる。
『本当はお父様に止められてるんだけど、そうも言ってられないし、参戦させてもらうわ』
「それは残念だ。 君の綺麗な姿を傷付けたくはなかったんだけど」
『ありがとう。 でも心配は無用よ。 だって私は・・・・・』
そう言うと、アンヌの体に変化が始まる。
腕に止まる程度の大きさだった体は大きく変化し、羽の先から鋭い爪を持つ手が生える。
嘴の中には細かい牙が生え、更に表面の羽も鮮やかな色から硬質的なものへと変化する。
アンヌは美しい鳥からクロードの倍はある機械の怪鳥へと姿を変えた。
『こう見えて頑丈なのよ』
「みたいだね」
危機感を覚えたクロードはリーティアを通してリナ達にフランク奪還を伝える事も忘れ、アンヌと対峙した。




