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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
328/360

狂獣の最期

 ジャバは太古のジャバウォックに向かって飛び上がると体を丸め回転しながら前に構えた両腕をその脳天にぶち当てる。

 ジャバの取った選択は速攻。

 攻撃性の増した太古のジャバウォックに対し、反撃の隙を与えず攻撃を続ける事こそ勝てる可能性が一番高い。

 今の力を増した自分ならそれも可能。

 何より、太古のジャバウォックの根本の感情を理解した今、その悲しい姿を見たくなかった。

 早く終わらせて楽にしてやる。

 その想いがジャバを臆せず進ませる。

 ジャバは頭に攻撃を当てた勢いを利用し背後に回るとその胴体を持ち上げ地面へと叩きつける。

「ウガアアアアアアア!!」

 そのまま太古のジャバウォックに馬乗りになり拳を連続で打ち込む。

 4頭の強力な魔獣を喰らい力を増した膂力をフルに使い、太古のジャバウォックの顔面を殴り続ける。

 その攻撃は有効で、太古のジャバウォックの顔から血が流れる。

 だが、この時既にジャバは見誤った。

 太古のジャバウォックは地面に手のひらを付けると、地面から岩石で出来た槌が現れる。

 それを思いきり振り抜き、ジャバの頭を殴りつけ吹き飛ばした。

 不意にきた武器による攻撃にジャバは痛みで頭を抱えるがすぐにその場を飛び退く。

 太古のジャバウォックは岩石の槌を振り下ろした。

 太古のジャバウォックはずっと本能のままに暴れていたが、本来は巨人族(ジャイアント)の戦い方を学んだ一流の戦士だ。

 そして今出した槌こそ太古のジャバウォックが愛用の武器であり、呼び出せばいつでも地面から出現する魔法の武具。

 かつて殺し尽くした同族の記憶がジャバとの戦いで蘇り、太古のジャバウォックかつての戦法を呼び起こしたのだ。

 太古のジャバウォックは槌を両手で掴むと体を回転させ、その遠心力を利用しジャバへと向かっていく。

 重く強固な槌をジャバは受け止めようとするが、受け止めきれず飛ばされる。

 追撃で振り下ろされる槌を転がる様に避けなんとか反撃しようと攻撃するが槌により防がれ、逆に攻撃を喰らってしまう。

 ならばとジャバは距離を取り、必殺の雄叫びを浴びせる。

 すると太古のジャバウォックは地面を槌で殴りつけ轟音を出し、雄叫びを緩和させる。

 更にもう一度スイングする様に地面を殴ると岩石の弾丸をジャバへと飛ばす。

 ジャバは両腕でそれを防ぐが、太古のジャバウォックはすぐ間合いを詰めて槌を振り抜こうとする。

「どっせいや!!」

 その槌を防いだのはラズゴートの獣王の斧だった。

 突如現れたラズゴートは渾身の力で斧を振るい太古のジャバウォックと槌にぶち当てた。

 ラズゴートの怪力に止められた隙を見逃さずジャバは牙を剥き出しにしその首筋に噛み付いた。

 苦痛の声をあげる太古のジャバウォックをそのまま牙のみで振り回し肉の一部を喰いちぎる形で飛ばした。

「ラズゴート!」

「すまん。 急に壁が崩れてきよったなら吹き飛ばして登るのに時間喰ったわ」

 ラズゴートがいた砦を見ると、先程の太古のジャバウォックが地面を隆起させた事で崩れ落ちていた。

 同時に、中央の結界を形成している一角が消え去っている。

「中にいた奴も担ぎ出しといたわ。 これで結界を消すっちゅう目的は果たしたが、あれをそのままにするわけにはいかんのぉ」

 立ち上がる太古のジャバウォックは肩から血を流しながらも勢いは劣らず、寧ろ凶悪さが増していく様に見えた。

「獣じゃなくて武人か。 全く厄介なもんじゃ」

「ラズゴート。 奴に隙作ってくれ。 そうすれば、おれが倒す」

「なにか策があるのか?」

「作戦ない。 でも、あいつはおれが止めないとだめ」

 ジャバの目を見たラズゴートは、愉快そうに笑い出す。

「ガッハッハッ! 上等上等! そんだけの気迫があるなら乗る価値ありじゃ! それに、太古の武人が相手なら現代の武人が相手をするのは道理。 ここからはわしの領分じゃ」

 ラズゴートは獣王の斧を構えると、太古のジャバウォックに向かって飛び出した。

 太古のジャバウォックは槌を振りかざしラズゴートを潰そうとする。

「聖獣王ラズゴート! 参る!!」

 ラズゴートはそれを受け止めようと思いきり斧を振る。

 だが振り下ろされた槌の勢いに負け弾き飛ばされ宙を舞う。

「流石にあれは受けれんか。 じゃが、逆ならどうじゃ!!」

 弾かれた勢いを利用し頭上を取ったラズゴートは、獣王の斧を大きく回転させ始める。

「唸れ! そして砕け! 獣王の斧! 獣王・激旋爆斧(げきせんばくふ)!!」

 爆炎を纏った状態で放たれたラズゴート最大の技を、太古のジャバウォックは打ち上げる様に槌を振るった。

 巨大な力同士が衝突し、周囲のものが衝撃で吹き飛ばされる。

「獣王の名を、舐めるな小僧!!」

 ラズゴートが腕の筋肉を隆起させ渾身の力を込めると太古のジャバウォックの槌は砕け、その刃が左肩に当たった。

 だが次の瞬間太古のジャバウォックの右拳がラズゴートを横から殴り付けた。

 自分の体以上の大きさの拳をまともに受けたラズゴートは血を吐き吹き飛ばされる。

 しかしその口は笑みを浮かべていた。

「後は任せたぞ、ジャバ」

 そう言い吹き飛ばされたラズゴートから視線を戻すと、太古のジャバウォックの眼前に猛スピードで突進してくるジャバの姿があった。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ジャバの必殺の一撃である鹿王(ディーア)の突撃が、太古のジャバウォックの腹部に入りそのまま上空へと吹き飛ばす。

 太古のジャバウォックはその威力に血反吐を吐くが、すぐに空中で体勢を立て直そうとする。

 すると、太古のジャバウォックを吹き飛ばしたと同時に飛び上がったジャバが目の前に現れその体を捉える。

 そして自分の右肩に背中を乗せて首と胴を掴んで固定した。






「自分よりデカイ奴を倒す方法だぁ?」

 それは皆が特訓期間に入る前、ジャバはアルゼンの特訓に付き合うギエンフォードの所を訪ねていた。

 太古のジャバウォックに完全敗北し、更に自分より巨大な相手との実戦経験があまりない事から、なにか打開策はないかと教えを請いに来ていたのだ。

「おれ、あまり自分よりデカイのと戦ったことない。 だがら教えてほしい。 アイツに勝つために」

「そいつはいいが、俺じゃ懐に潜り込んで殴る程度しか術を知らねぇからな。 それならこの変人に聞いた方が早くねぇか?」

「その変人の申し出を受けて特訓に付き合って下さってるのですから、ギエンフォード殿はお優しいですな」

「内のクソガキの面倒見てもらってるついでだ。 それよりなんかあんなら言えってんだよ」

「と言っても、ジャバ殿の様に獣の動きがメインに人の技術を下手に与えると逆効果。 更に短期間で身に着けられるものとなると・・・」

 アルゼンは髭を撫でながら少し考えると、ある事を思いつく。

「少々変わり種ですが1つ心当たりがありますな」

「うが! 本当か!?」

「ええ。 見世物用の格闘技の技ですが、あれならば相手が大きければ大きい程威力は上がります。 加えてジャバ殿の力なら威力も十分かと」

「おれそれ使う! 教えてくれアルゼン!」

「天下の魔獣殿に技を教えるとは、なかなか面白い経験ですな。 我輩で良ければ、喜んで力となりましょう」






「ブアアアアアアアアアアア!!」

 ジャバは逃れようと暴れる太古のジャバウォックを決して逃さない様に体を固定する。

 そしてそのまま勢いを付け、地面へと急降下していった。

巨人(ジャイアント)背骨折(バックブリーカー)!!!」

 ジャバが地面に着地した瞬間その衝撃が太古のジャバウォックの背骨に一気に集中する。

 更に太古のジャバウォック自身の巨体からくる重量でその衝撃は跳ね上がり、背骨はボキッという鈍い音を上げ、太古のジャバウォックの腹の表面の皮が引き裂かれ出血した。

 ジャバが手を離すと、太古のジャバウォックは地面へと落下した。

「やったのか?」

 殴られた左半身を抑えながら近寄るラズゴートに、ジャバは頷いた。

「こいつ、もう戦えない」

 太古のジャバウォックは藻搔くが体に力が入らない。

 更に背骨が折れた事で立ち上がる事は勿論、這う事も出来ずにいた。

「か、ガアアアアア!?!」

 それでも太古のジャバウォックは抵抗しようと藻掻いた。

 その目は先程の狂気に満ちたものではなく、ジャバが感じ取った恐怖に染まっていた。

「どうしたんじゃ? さっきまでとはまるで別人じゃが?」

 変化に気付いたラズゴートが警戒していると、ジャバはゆっくり太古のジャバウォックに近づいて行く。

 自分が動けない事を悟り、最早抵抗出来ないと本能的に察した太古のジャバウォックには、その姿が恐怖でしかなかった。

 自分が引き裂いた同族達が復讐に来る。

 また蘇って自分を襲ってくる。

 そんな恐怖から藻搔く太古のジャバウォックに、ジャバは手を伸ばした。

「大丈夫。 もう怖くない」

 ジャバは太古のジャバウォックを抱き締めるとその頭を優しく撫でた。

 まるで恐怖を取り除き、安心させる様に。

「おまえ、悪い奴じゃない。 そしておまえは悪くない。 みんな分かってる。 みんな知ってる。 おれにそれ、教えてくれた」

 ジャバはさっき太古のジャバウォックの肩を喰い違った時、その一部を体に取り込んだ。

 その時ジャバはある感情を感じ取った。

 それは太古のジャバウォックのものではなく、かつて彼が壊れた時に喰らった巨人族(ジャイアント)達の感情だった。


 彼を救ってくれ。


 ただそれだけの感情が、ジャバに流れてきた。

 それが喰らった相手の力を取り込む巨人族(ジャイアント)の特性のせいか、ジャバ自身の力なのかはわからない。

 だがジャバはそれで漸く彼の教父の根本を理解した。

 動く死体と化して襲ってきたとはいえ、自分が同族を引き裂いてしまった罪悪感と、それを認める恐怖。

 それが彼を狂わせた。

 ジャバはそれを取り除く事こそ、自分のすべき事なのだと思った。

「大丈夫。 みんなおまえの中で眠ってるだけ。 みんな怒ってない。 おまえは、最初から許されてる。 だから、もういい。 もう大丈夫」

 ジャバの言葉に、太古のジャバウォックは大人しくなっていく。

 そして藻掻くのを止め、目は徐々に穏やかなものへと変わっていった。

「わ、私、は・・・」

 言葉を発した太古のジャバウォックに、ラズゴートは痛みを忘れ驚きの表情を浮かべる。

「私は、許されるのか? 許されていいのか? あんな、あんな事をした、私が?」

「おまえ悪くない。 今までのおまえ、悪い奴に利用されてただけ。 だから大丈夫。 やり直せばいい」

 太古のジャバウォックは、目から静かに涙を流した。

 それは狂獣ジャバウォックが、ラミーア達の仲間であるウォッキーへと戻った瞬間だった。

「感謝する。 若き同胞よ。 それでも、してしまった事への責任は果たさなければならない」

 ウォッキーはジャバを引き離すと、大きく息を吸い込んだ。

「ブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ジャバのそれを超えるウォッキーの雄叫びが戦場全てに響き渡る。

 すると、ウォッキーの殺気に従っていた魔獣達が戦闘を止め、その場から次々と離脱していく。

「これで、少しは戦況も変わるだろう。 それと、獣王殿と言ったか」

 突然声をかけられたラズゴートは驚くが、ウォッキーの表情を見て彼への警戒を解いた。

「このまま世話をかけてしまうのは申し訳ないが、この一撃を放った力を見込んで頼む。 私を終わらせてくれ」

「ウガゥ! それだめ! 死ぬのはだめだ!」

「私は、罪を犯した。 恐怖から同族を手にかけ、仲間を攻撃し、更に先の世である今、大きな被害をもたらしてしまった。 その責は負わなければならない。 それに、まだお前は戦わねばならないのだろう? 私の肉体を食べれば、傷も回復するだろう」

「でも!」

「それに、この戦いは彼女が、ラミーアが命を懸けて望んだものだ。 今の私が彼女の力になれる事と言ったら、それしかない。 頼めるか、獣王殿?」

「・・・ええじゃろう」

「ラズゴート!」

「感謝する、獣王殿」

 ラズゴートが斧を構えるとジャバは止めようとする。

 が、ウォッキーはそれを片手で制した。

「ありがとう、我が名を継ぐ若き同胞よ。 お前のその優しい心が私を闇から救ってくれた」

 ウォッキーが感謝を述べると、ラズゴートの斧が振り下ろされた。

 瞬間、ウォッキーの左腕が斬り落とされた。

「ぐがっ!? 何を!?」

 首をはねられると思っていたウォッキーが混乱すると、ラズゴートは獣王の斧を肩に担いだ。

「回復するなら、これで十分じゃろ」

「なぜ、私の命を、取らなかった?」

「わしもお前さんには負けるが間違えを犯した身でのぉ。 気持ちは痛い程わかる。 じゃが、死んでそれで終わりにするにゃあわしは色々背負い過ぎとる。 それはお前さんも同じじゃろう? じゃったら、生き恥でもええから生きて償え。 そうして罵倒され続けながらも、今度こそ支えるもんを支えりゃいい。 それが、お前さんを生かしたジャバや、こいつの言うみんなとやらに出来るお前さんの償いじゃ」

 そこまで言うと、ラズゴートはまたいつもの様に笑い出した。

「それに、今度は一対一でやってみたいしのぉ! お前さんなら片腕でも十分強いじゃろうしな! ガッハッハッ!」

「獣王殿」

 ジャバがウォッキーの肩に手を置き「うがぅ!」と笑うと、ウォッキーは頭を深く下げた。

「重ね重ね、感謝する」

「よし。 お前さんがやられたのが伝わってここら辺の戦闘は収まるじゃろうし、今の内に応急手当せんとな」

 その時、遠方から周囲を押し潰す様な巨大な魔力が周囲に溢れ出す。

「こ、これはなんじゃ!?」

「まさか、バハムート!?」

「!? クロード! リーティア!」

 ジャバがクロード達が向かった砦の方を見ると、そこから巨大な火柱が吹き出した。

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