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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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狂獣の恐怖


 ジャバは感情の変化に敏感だ。

 元々言葉の通じない様々な種類の魔獣達と暮らし意思疎通をしていた事もあり、少しの変化で感情を読み取る事に長けていた。

 それを利用しかつてノエルにジンガと意思疎通出来る様に鍛えた事もあった。

 そんなジャバだからこそ気付けた違和感。

 狂獣と言える程猛々しく荒々しいまさに暴力の権化と化した太古のジャバウォックの奥底に見える感情。

 それは正しく、恐怖だった。

 ジャバはその恐怖の原因が何なのかわからないまま、再び正面から太古のジャバウォックを迎え撃つ。

 獣の様に牙を剥き出しにして襲ってくる太古のジャバウォックはジャバの肩に噛み付こうとする。

 直感的に喰われると判断したジャバは後ろへと飛び退いた。

 すると太古のジャバウォックは地面を両腕で殴り付ける。

 その瞬間地面が隆起し、周囲で地割れが起きる。

 地割れに魔族や味方の兵が巻き込まれる中、ジャバは隆起した地面に押し上げられながらなんとか体勢を立て直そうとする。

 そこへ太古のジャバウォックは飛び上がり一気にジャバに迫るとその顔面を掴み地面に押し付ける。

 隆起した地面を砕きながら押し込められ続けるジャバはとうとう一番下まで押し込められる。

 頭部から血を流しながらもジャバはその強靭な脚で太古のジャバウォックの腹を蹴り飛ばした。

 息を詰まらせそうになる太古のジャバウォックは後ろに飛び威嚇する様に唸る。

 その姿にジャバはあるものを連想する。

 それは怯えて威嚇する仲間の魔獣達の姿。

 やはり太古のジャバウォックの凶暴性はジャバの仲間の魔獣達が怯えた時と同じ、恐怖からくるものだった。

「おまえ、何を怖がっている? おまえは強い。 なのに、何をそんなに怖がる?」

 ジャバの問いに、太古のジャバウォックは再び叫び出す。

 同時に、封印したかつての記憶が蘇る。






 それは太古のジャバウォックがラミーア達からウォッキーと呼ばれ、まだ正気を失っていない頃の事。

 ラミーア達との旅を終えたウォッキーは一旦彼女達と別れ、故郷である巨人族(ジャイアント)の集落へと向かっていた。

 ラミーアとの旅で学んだ多くの事を一族の為に活かす。

 そして発展した故郷にラミーア達を招待する。

 そんな未来を想像し、ウォッキーは故郷へと進んでいった。

 だが、その夢は叶わなかった。

 故郷に帰ったウォッキーはまずその匂いで異変に気付いた。

 むせ返る様な大量の血の匂い。

 ウォッキーは急いで故郷の入り口である門を突き破る様に入っていった。

 そこは地獄絵図だった。

 建物は破壊され、同族達の死体が積み上がっていた。

 大量の巨人達の巨体が積み重なり、流れ出る血はまるで山から流れる小さな滝の様だった。

 積み上がっているもの以外にも死体は散乱し、戦士だけでなく女も年寄りも乳飲み子も、全てが死に絶えていた。

 ウォッキーは絶句した。

 愛する故郷の、同胞の、友の変わり果てた姿に。

「・・・だ、誰か、誰かいないか? 誰か!?」

 ウォッキーは生き残りのいる可能性に思い至り、なんとか立ち上がり呼びかける。

「ケイル! ターン! ゴリア! クンバー老様! 頼む! 返事をしてくれ!」

 ウォッキーの縋る様な叫び声は、ただ虚しく周囲に響くのみだった。

 それでもウォッキーは故郷の村を走り誰かいないか探し回った。

 何があったのか?

 一体誰がこんな事をしたのか?

 そんな事はもはやどうでもいい。

 誰か一人でも生き残っていてくれ。

 それだけがウォッキーの望みだった。

 だがその思いも、村の奥でウォッキーの想い人であるケイルの亡骸を見付けた時に砕け散った。

 ケイルだけではない。

 親友で戦士長を努めていたゴリア。

 村一番の鍛冶師で自分の装備を造ってくれたターン。

 戦い方を教え、皆を我が子の様に愛していた長老のクンバー。

 皆ウォッキーと縁の深い者達ばかりだった。

 ウォッキーの表情は絶望に変わり、膝から崩れ落ちケイルの亡骸を抱き締めた。


 だが、ウォッキーの本当の絶望はここからだった。


 ウォッキーは抱き締めたケイルの体が僅かに動いたのを感じた。

 もしやと思いケイルを見ると、その目が開こうとしていた。

「ケイル! ケイル! 目を開けるんだ! 私だ! ジャバウォックだ!」

 ウォッキーの呼びかけに応える様に、ケイルは少しずつ目を開けていく。

 だが次の瞬間、ケイルの目が完全に開かれるとウォッキーの表情が変わる。

 ケイルは目を血走しらせ、いきなり自分に襲い掛かってきた。

 突然の変貌に驚くウォッキーだがまだ異変は続いた。

 確実に死んだと思っていた仲間達が次々と起き上がり、ケイル同様目を血走らせ恐ろしい形相でウォッキーを睨みつけた。

「みんな!? 一体どうしたんだ!?」

 ウォッキーの言葉は届かず、巨人族(ジャイアント)達は一斉にウォッキーへと襲い掛かっていった。

 かつて同族だった者達の死体が一斉に襲い掛かって来る異常事態に、ウォッキーは無我夢中で抵抗した。

 そして気づいた時には、襲い掛かってきた死体達はウォッキーの手により再び死に絶えていた。

 仲間を、親友を、恩師を、そして大切な女性を、我が身を守る為とはいえその手で引裂いた。

 その事実にウォッキーは慟哭し、壊れた。

 ただ一族を皆殺しにされただけなら、復讐鬼となる程度で済んだかもしれない。

 だが完全に死んだ同族が蘇り自分を襲い、それをまた殺したという現実にウォッキーの精神は耐えられなかったのだ。

 精神が壊れたウォッキーは死した同族の死体を喰らった。

 他者を喰らい力を増す巨人族(ジャイアント)の本能に従う様に、愛した者達を喰らい尽くした。

 ラミーア達の仲間である巨人族(ジャイアント)の戦士ウォッキーが、本能のまま他者を喰らう狂獣ジャバウォックとなった瞬間だった。

 そしてジャバウォックは次の獲物を探しに動き、異変に気付いたバハムートと死闘を繰り広げ封印されたのだった。

 他者を喰らう本能と最早誰に向けているのかすらわからない怒り、そして同族を引き裂いたあの瞬間の恐怖を抱えながら。





 太古のジャバウォックは未だにかつての同族達を攻撃した時の恐怖が残っている。

 ジャバが感じた恐怖はそれであり、同じ種族であるジャバを見る事で当時の記憶が蘇りつつあった。

 それは太古のジャバウォックにとって認めたくない事実であり、消し去りたい記憶だった。

 どうしても消し去りたい。

 思い出したくない。

 受け入れたくない。

 その恐怖は太古のジャバウォックの攻撃性を更に引き出す。

 恐怖の対象となるジャバを消し去る為に。

「ブアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 太古のジャバウォックはジャバを排除する為に再び向かっていく。

 ジャバは同族として何かを感じ取ったのか、そんな太古のジャバウォックの姿をどこか悲しげな瞳で見つめていた。

「おまえはおれが止める。 おれじゃなきゃいけない気がする」

 ジャバは迎え撃つ為に、太古のジャバウォックに向かって走り出した。


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