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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
326/360

狂獣との再戦

 太古のジャバウォックのいる砦へと入ったジャバとラズゴートは、そこが牢獄の様に感じた。

 光を取り入れる窓などは一切なく、あるのは微かな証明と頑丈な壁のみ。

 腐臭の様な匂いも充満し、息が詰まりそうな 場所だった。

 だが息が詰まりそうになるのはそれだけが原因ではない。

 中央にある地下へと続く巨大な穴。

 底が見えない漆黒の空間から感じられる殺気。

 いや、殺気という言葉すら生温い気配は、それだけでその場にいる者を喰らい尽くす様に感じた。

 そしてその気配はジャバもラズゴートもよく知るものだ。

 確実にこの下に太古のジャバウォックはいる。

 そう感じつつ、ラズゴートは隣のジャバを見る。

 ジャバはラバトゥで太古のジャバウォックに敗北した。

 トラウマとなり一時期戦闘不能になる程の大敗北。

 ラズゴート自身直接その狂獣ともいうべき力を目の当たりにし、その凶悪さは理解している。

 理解しているからこそ立ち直ったとはいえ、この気配を再び感じたジャバが当時の恐怖を蘇らせないか、一抹の不安が過る。

「ラズゴート、おれに乗る」

 だがそれはラズゴートの杞憂に過ぎなかった。

 ジャバはラズゴートに手を差し伸べ、同時に満ちた目で真っ直ぐ自分を見た。

 今度こそ奴に勝つ。

 自分だけでなく仲間の為に。

 そう感じたラズゴートは気負っていたのは自分の方かと苦笑すし、そしていつもの様に豪快に笑った。

「ガッハッハッ! よし! いっちょ暴れるとするかのぉ!」

 ラズゴートが背中に飛び乗ると、ジャバはそのまま穴へと飛び降りた。

 底へと着地すると、それは鎖で壁に拘束された状態で、まるで眠っているかの様に静かにその場にいた。

 太古のジャバウォック。

 ラミーア達と旅をし、活躍したかつての魔獣と呼ばれた巨人。

 ラズゴートはジャバから降りると獣王の斧を構える。

「昼寝中って訳じゃなさそうじゃな」

 ラズゴートが上を見ると、手足をもがれた状態で壁に組む飲まれる形で拘束されている人物を見つける。

 恐らくそれが、ミューと共に結界を維持していた魔甲機兵団のメンバーなのだろう。

「酷い事をしよる」

 怒りで歯軋りしながらも、彼を助ければ結界を弱める事が出来るとラズゴートは獣王の斧を振り被る。

 拘束されている状態でここまでの凶悪な気配を出している存在に危機感を覚えるラズゴートは様子見なしの一撃を叩きこもうとする。

「卑怯だなんて言わんでくれよ。 恨むんならこんな時まで拘束しとる仲間を恨め! 唸れ!

獣王の斧!!」

 ラズゴートが斧を振り下ろすと爆炎を纏った衝撃波が太古のジャバウォックを直撃する。

「ブアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 爆炎が上がり衝撃で砦が揺れる中、それは目覚めた。

 拘束の鎖を千切り、まるで檻から解き放たれた獣の様に目を血走らせ、狂気に満ちた表情でこちらへと向かってくる。

「ウガウ!!」

 ジャバは前に出てその突進を受け止める。

 拘束されていた時以上の凶悪な気配を放つ太古のジャバウォックを前にしても、ジャバは冷静に闘志を研ぎ澄ませながら対峙する。

「ラズゴート!!」

「おうさ!」

 ラズゴートは抑えているジャバの体を駆け上ると再び斧を振り上げる。

「どっせいや!」

 太古のジャバウォックに向けて振り下ろした獣王の斧はその眉間を直撃する。

 かつて砕けた時と違いしっかり通用する事に手応えを感じるラズゴートは追撃をしようとするが、太古のジャバウォックはジャバを持ち上げラズゴートに向けて投げ飛ばした。

「なんじゃと!?」

 ラズゴートはジャバ共々吹き飛ばされるが、なんとか壁に踏ん張る形で着地する。

「ラズゴート!」

「人使い荒いのぉ!!」

 ラズゴートはそのままジャバを投げると、ジャバは体を丸めて回転しながら太古のジャバウォックに向かっていく。

 太古のジャバウォックは正面から激突し弾き飛ばされる。

 そのまま上へと飛び上がったジャバは両の拳を合わせて太古のジャバウォックに振り下ろした。

 太古のジャバウォックはそれを掴むとジャバを地面に叩きつけようと投げ飛ばす。

「うがあ!」

 ジャバは猿の様に体を捻り着地し、そのまま鹿王(ディーア)の突撃を太古のジャバウォックの腹部に喰らわせる。

 モロに喰らった衝撃で後退った太古のジャバウォックは初めて苦悶の表情を浮かべた。

 効いている。

 かつて手も足も出なかったこの怪物相手に、自分達は対抗出来ている。

 これならイケるとラズゴートは更に追撃しようとジャバと攻撃を仕掛けようとする。

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 急に咆哮した太古のジャバウォックに、思わず二人の足が止まる。

 そして、その変化に目を疑った。

 咆哮した太古のジャバウォックの体が大きくなり始め、肌の色が赤くなっていく。

「ウガアアアアアアアア!!!」

 危険と判断したジャバは咆哮を放ち変化を止めようとする。

 だがどんなものでも吹き飛ばすジャバの咆哮に微動だにせず、変化は加速する。

 やがて変化が終わると、太古のジャバウォックの体格は一回り大きくなり、肌は全身赤くなっていた。

 それ以上に、その眼光から放たれる明確な殺気にラバトゥで感じた以上の危険性をジャバとラズゴートは感じた。

「ブアアアアアアアアアアア!!」

 太古のジャバウォックは瞬時にジャバに近付き首を掴んだ。

 ジャバは眼で追えてはいたがその速さに反応が遅れ完全に掴まれる。

 太古のジャバウォックはそのまま跳ぶと、穴の遙か先にある天井へと叩き付け突き破る。

 暴走した時を見越して造られた頑強な砦の天井は簡単に崩れ落ち、一気に陽光が砦内へと差し込んでくる。

 ジャバ達が外に飛び出した事にラズゴートは危機感を覚える。

 これで意図的ではないにしろ分断された。

 この穴では外に戻るのに時間がかかる。

 加えて、陽光が差して明るくなった事でラズゴートは周囲の状況を漸く把握した。

 自分の周りに夥しい数の魔獣や人、そして魔族の骨が散乱している。

 恐らく太古のジャバウォックに喰われた者達だろう。

 充満していた腐臭の正体もこれだ。

 だがそんな事それ以上に重要なのは、ジャバ達巨人族(ジャイアント)は強者を喰えば喰うほど強くなる特性を持っている。

 つまりこれだけの数の魔獣や魔族を喰らっている太古のジャバウォックは確実にあの時よりも強くなっている。

「まずいかもしれんのぉ」

 ラズゴートは合流する為に急いで穴を登り始めた。


 一方、砦から飛び出したジャバは腕から逃れ地面に着地。

 太古のジャバウォックも同様に着地し、途端にジャバに向かって突進していく。

 飛びかかってきた太古のジャバウォックはかつてラバトゥで行った様にジャバを殴打し、容赦なくその体を痛めつける。

 威力も重さも明らかに上昇している太古のジャバウォックの拳が、ジャバの骨を軋ませる。

 しかしジャバも雄叫びを上げて正面からぶつかっていく。

 殴ってくる拳を掴み力比べの形に持っていくと頭突きを放ち引き離す。

 恐怖はある。

 だがそれ以上にここで負けられないという想いがジャバを強く動かした。

 一度折れた自分が立ち上がると信じてくれたリナやノエル達。

 そして自分の一部となり支えてくれているフェンリルとノクラの森の魔獣達。

 それらの想いを背負ったジャバは、より恐ろしくなった狂獣相手に一歩も退かなかった。

 それに、ジャバには1つ違和感があった。

 太古のジャバウォックは力も大きさも増し、その恐ろしさは更に増している筈だった。

 それでもジャバはその裏に何か別のものを感じ、それを口に出した。

「おまえ、なんで怯えている?」

 ジャバの言葉に太古のジャバウォックの空気が一瞬変わった。

「ぶ、ブアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 そして何かを思い出した様に、牙をむき出しにしジャバへと向かっていった。

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