表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
325/360

ライルVSヒュペリオス2


 ライルは目の前の蛇神と化したヒュペリオスを見て戦慄する。

 体躯も筋肉も一回り大きくなり、闘気も人型の時の比ではない。

 そんなヒュペリオスと対し、ライルは自分でも馬鹿だと苦笑する。

 ヒュペリオスの言う通り人型のままなら、あのままの勢いでいけば最悪確実に相打ちに持っていけた。

 そうすれば少なくともジャバ達の援護射撃の役割はしっかり果たせる。

 大局を見ればその方がいいのは当然だ。

 だがライルは言わずにはいられなかった。

 こちらは全力で、それこそ命懸けで全てを賭けてこの戦いに望んだのだ。

 なのに向こうは余力を残したまま不利になり負けそうになっていた。

 そんなふざけた態度を取るヒュペリオスがライルにはどうしても許せず、我慢できなかった。

 小さな意地だと思った。

 だがその小さな意地が、馬鹿な自分らしくどこか納得してしまった。

(すまねぇなジャバ、ラズゴートのおっさん。 俺はやっぱどこまでいっても馬鹿みてぇだ)

 ライルはそう心の中で謝りながら、改めて覚悟を決める。

 何が何でもヒュペリオスを倒す。

 そう思い、ライルはヒュペリオスに向かっていく。

 真の姿になったにも関わらず臆さず向かってくるライルに、ヒュペリオスも全力で応える勢いで迎え撃つ。

 ライルは拳と貫き手の乱打をヒュペリオスに向かって放つ。

 鱗に当たると金属がぶつかった様な音が響き、そのままライルの拳を弾く。

 明らかに硬度が増している事にライルは舌打ちをするとすぐその場を飛び退いた。

 ヒュペリオスの爪がライルの目の前を通り過ぎ、後少し遅れていれば顔面が抉られていた。

 それだけではない。

 掠れば爪から出る毒にやられて終わりだ。

 ライルはここからヒュペリオスの爪を一切受ける事なく勝機を見出さなければならない。

 ライルは着地するがすぐにまた動く。

 ヒュペリオスの尾が鋭い蹴りの様にライル目掛けて放たれ、それが地面を陥没させる。

 脚が尾となっても蹴りの威力は健在。

 いや、寧ろ倍以上。

 ライルはとにかく動き回りながら隙を見つけようとする。

 ヒュペリオスの動きも素早いが小回りならライルの方が効く。

 なんとか撹乱させようとヒュペリオスの周囲を飛び回る。

 するとヒュペリオスは尾を急に縮め始めた。

 そして限界まで縮めると地面に一気に伸ばしライルに向かって飛び込んでくる。

 まるで大砲の様な勢いのヒュペリオスにライルは身構えるが、ヒュペリオスはライルの横へとすり抜ける。

 外れたかと思った瞬間、ライルの体に尾が巻き付き締め上げていく。

「ぐっ! がはっ!?」

「このまま窒息など半端なことはせん! 最大限の力で全身を粉々に粉砕する!」

 ヒュペリオスが力を込めるも息が詰まり、全身の骨がミシミシと悲鳴を上げる。

 気を抜けば一気に体が押し潰されそうな状態に、ライルは力を込めて耐えようとする。

『力み過ぎだ馬鹿野郎!』

 その時、ライルの頭にギエンフォードの声が過る。

 必死にヒュペリオスの力に対抗しようとしていたライルは、急に体の力を抜いた。

 すると瞬間的に尾の間に僅かな隙間が出来た。

 ライルはその隙間から抜け出すとヒュペリオスの尾を掴んだ。

「どぉりゃあああああ!!!」

 ライルは渾身の力でヒュペリオスを振り回し地面に激突させる。

 そのまま再び力を込めて反対側へとまた投げ飛ばす。

 そうやって何度も地面に叩きつけられ、ヒュペリオスの口から血が漏れる。

 ヒュペリオスは尾の力を込めてライルを振りほどき吹き飛ばす。

 地面に転がるライルはすぐに起き上がり臨戦態勢を取る。

 ヒュペリオスは追撃せず地を吐き捨てた。

「あそこで脱力出来るとは、貴様どんな精神構造をしているんだ?」

「親父が防御の達人でもあるんでね。 それこそ血反吐吐くほど防御法を叩き込まれてんだよ」

「それでも実行出来る者は限られている。 少なくとも俺には出来ん。 だが、それもここまでの様だな」

 ライルは既にボロボロで膝が震えている。

 もはや立っているのが精一杯といった様な状態だ。

「次で終わらせよう。 それが貴様に対する俺からの敬意だ」

「随分言うじゃねぇか。 てめぇらにとっちゃ、地上の連中なんかゴミカスなんじゃねぇのか?」

「俺にとって強者こそ正義だ。 そして、強者ならば例え魔族だろうが地上の民だろうが奴隷だろうが関係なく敬意を表する。 貴様もそれに相応しい男だったということだ」

「勝手に過去形にしてんじゃねぇよ。 俺は、まだやれんだよ」

 闘志衰えず瞳に光を宿すライルに、ヒュペリオスは全力で討つことを決める。

 ヒュペリオスは再び尾を縮め、先程以上の勢いで体を発射させる。

「オラァ!!」

 ライルは両手で貫き手を放ちそれを迎撃しようとする。

 するとヒュペリオスは両手を上に上げ貫き手を上へと反らす。

 そして完全にがら空きになったライルの胸に目掛けて両手での掌打を打ち込む。

毒爪双打(どくそうそうだ)!!」

 掌打と共に爪も刺さりそこから毒がライルの体を駆け巡る。

 気を失いそうな激痛が全身に走り、ライルは声を上げる事すら出来なかった。

「さらばだ。 貴様の事は、俺の記憶の片隅に留めておいてやる」

「だから、勝った気に、なんのは早えんだよ」

 掠れる様なライルの声にヒュペリオスは異常事態に気付く。

 筋肉に締め付けられてどんなに力を入れても爪が抜けない。

「貴様!?」

「こういう、体を張ったやり方は、俺の得意分野なんでな!!」

 ライルは両手で拳を作りヒュペリオスの両側頭部に打ち込んだ。

 左右両方から来た衝撃は逃げ場を無くし、ヒュペリオスの頭へダイレクトに届く。

 ヒュペリオスは一瞬意識が飛びそうになるが、それでもカッと目を見開きライルに向かう。

「まさか、こんな賭けを。 だがまだこれでッ!?」

 追撃しようとするヒュペリオスに更なる衝撃が襲う。

 ヒュペリオスはその正体を探ろうとして見ると、ライルの膝蹴りがヒュペリオスの顎に直撃している。

 左右を拳で固定された頭部に完全に不意をつかれた攻撃を喰らい、ヒュペリオスは再び血反吐を吐く。

 左右と下からの集中攻撃で頭部に大きなダメージを負ったヒュペリオスは、それでもライルの胸から爪を抜きその顔を貫こうと手刀を放つ。

 だが手刀はライルから外れ、ヒュペリオスはそのまま倒れてしまった。

 ライルも膝から崩れ落ち、そのまま同じ様に倒れてしまう。

 ピクピクと痙攣を起こしているヒュペリオスを見て、ライルは決着が着いたと安堵する。

 もうヒュペリオスは戦えない。

 砦も開く。

 ジャバとラズゴートは太古のジャバウォックと戦う事が出来る。

 道を作るというライルの役目は、今果たされたのだ。

「こ、こういう事か」

 息も絶え絶えのヒュペリオスの声がライルの耳に届く。

「これが、武術の本質を知る者と、そうでない者の差か。 確かに、俺は、上辺だけでからっぽだったらしい」

「ちげぇよ・・・」

 毒が回り普段からは考えられない程小さな声で、ライルは答えた。

「武術云々なんて知るかよ。 俺は、姉さん達の力になりたかった。 ただ、それだけだ」

 ライルの小さく、だが想いの籠もった言葉に、ヒュペリオスは漸くわかった。

 ヒュペリオスは一族を束ねる立場ではあるが基本は一人だ。

 弱者は切り捨て強者だけが残る。

 だからヒュペリオスの強さはあくまで自分一人だけの強さだ。

 だがライルは、大切な仲間を想って力をつけて来た。

 だからこそ、ここ一番という時に最後の力を振り絞り、限界を超えて戦い抜ける。

 ヒュペリオスはライル一人ではなく、ライルを支える仲間達とも戦っていたのだよ。

「なるほど、それはでは、勝てんか」

 ヒュペリオスの声に、ライルからの返事はなかった。

 ライルの意識は既に失われていた。

 ヒュペリオスはそんなライルに力を振り絞り這う様に近付く。

 そして、人差し指をライルに突き刺した。

 するとライルの体を蝕んでいた毒が消えていった。

「俺に勝った褒美だ。 俺に勝った強者が、こんな所で死ぬなど、許さ・・・」

 力を使い果たしヒュペリオスも意識を失った。






「どおりゃあ!!」

 ラズゴートの獣王の斧の一撃が砦の扉に炸裂する。

 だが扉は傷一つ付かず、その姿を保っていた。

「うがぅ! 次はおれが!」

「やめとけ。 こいつは魔術の類じゃろう。 無理矢理ぶち破るにしても、消耗がでか過ぎる」

「でもおれ達が行かないと、みんな困る!」

「それなんじゃよな。 魔術はからっきしじゃし、ギエンフォードみたいに頭が回らんしのぉわし」

 弱った様にラズゴートが頭をかいていると、扉に急に亀裂が入り、そのまま音を立てて崩れていった。

 ビクともしなかった扉の突然の崩壊に、ラズゴートは目を丸くした。

「? わしの一撃が効いたわけじゃないじゃろこれ?」

「ライル! ライルがやった!」

 何かを察したジャバが嬉しそうにそう叫ぶと、ラズゴートも納得し顎を撫でる。

「ガッハッハッ! ギエンフォードの倅か! こりゃ、会ったら褒めてやらんとな! その為にも・・・」

 ラズゴートは斧を肩に担ぎ直すと武人の顔になる。

「なんとしても奥のバケモン倒さなきゃならんのぉ」

「うがぅ!! おれ、やる!!」

 気合を入れ直した二人は、太古のジャバウォックがいる砦へと入っていった。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ