魔器の急襲
「たく、なんで俺がレオナ待たなきゃなんねぇんだよ?」
リナはイライラしながら町外れの西の森の入り口近くにいた。
そこにはノエルとリーティア、ライルとジャバもいる。
昼間のノエル達の話を聞いたリナは、ぶつくさ言いながらも、こうしてレオナを待っていた。
「つうか、レオナの奴なにモタモタしてんだよ。 来んならさっさと来いっての」
「リナさん、随分イライラしてますね」
「そりゃそれだけレオナの姉さんが気になるってこったろ? シシシシギャ!?」
「下らねぇことこそこそ話してんじゃねぇ!!」
ノエルとライルのひそひそ話に気付いたリナの拳骨が、ライルの脳天に直撃した。
その様子に、ジャバは嬉しそうに笑った。
「リナ、楽しそう、よかった」
「そうね・・・」
同意しつつ、リーティアは微かに複雑そうな顔をした。
リーティアは昼間に会ったレオナに若干違和感を感じていた。
気のせいならいいけど・・・そう思っていると、近くでガサッという音がした。
「んだよ、やっと来やがったか・・・!?」
そう言って音の方を見ようとしたリナに向かい、鋭く尖った鉄の棒数本飛んできた。
リナは驚きながら斥力を発生させ、それを全て止めた。
「姉さん!?」
「リナさん!?」
辺りに緊張が走る中、リナは棒が飛んできた方を見据えた。
「・・・なんのつもりだ、レオナ?」
リナの言葉に答えるように、茂みの中からレオナが現れた。
だがそれは普段の明るいレオナではない。
体を鋼鉄製の骨を型どった骸骨鎧と黒いマントに身を包み、頭部をドクロの形をした骸骨冑で覆いその上にフードを被った、魔器デスサイズの姿だった。
「レオナさん!? どうして!?」
ノエルの問いかけに答えず、レオナはリナを見据えた。
「つかあれ!? マジでレオナの姉さんっスか!? 雰囲気全然違うっスよ!?」
「間違いねぇよ。 しかもあの姿出来たってことは・・・」
リナがそこまで言うと、レオナは腕を前にかざす。
すると、掌から生えてくるように剣が出現した。
「本気ってことだよ!」
瞬間、リナは近くのノエルとライルを突き飛ばす。
するといつの間にか接近していたレオナの剣がリナを襲う。
「チィ!」
リナは拳を繰り出しレオナの剣とぶつかり合った。
「レオナ! なんでリナ襲う!?」
ジャバはリナとレオナの間に割って入ろうと走り出す。
すると、2つの影がジャバとリーティアの目の前に立ちふさがる。
「魔甲機兵団第2部隊隊長ゼータ!」
「同じくシータ!」
「「あなた達の足止めをさせてもらうよ!」」
「お前ら邪魔! そこどく!!」
ジャバはゼータとシータを凪ぎ払おうと拳を振るう。
ゼータとシータは素早くジャンプし、上空に避ける。
「行くぜシータ!」
「OKゼータ兄さん!」
そう言うと二人の体が帯電するようにバチバチと音を立て始める。
「マグネットパワープラス!」
「マグネットパワーマイナス!」
二人は磁力を地面に向けて放つと、巨大な黒い塊がうねりを上げながら出現した。
そしてそれは徐々に人型へと姿を形成していく。
「「マグネティックゴーレム!」」
ゼータとシータが作り出した黒い巨人はジャバへと向かって突進を始めた。
「邪魔! どく!!」
ジャバは迎え撃つ様に再び拳を繰り出した。
「待ってジャバ!」
リーティアの制止を聞かず、ジャバの拳は黒い巨人の体を貫いた。
「うが!?」
手応えに違和感を感じたジャバはすぐに手を抜こうとする。
だがそれよりも早く、黒い巨人は粒状になりジャバの腕に絡み付いていく。
「うが!? 取れない!?」
「これは、砂鉄!?」
「「その通り! 磁力で造った最強の砂鉄の巨人だ!」」
リーティアはやられたと思った。
砂鉄は砂の様に細かい。
1ヶ所に集めれば固く、散らせば流動的になる。
いくらジャバの怪力で砂鉄を砕いても、それは砂鉄をより細かくするだけだ。
「俺達じゃあんたらには勝てない。 だけど」
「足止めだけなら充分出来るんだよね」
巨大な砂鉄が、徐々にリーティアに迫っていった。
「リーティアさん!」
ノエルがリーティアを助けようとすると、目の前に矢が掠めた。
「これは、確かあの時の」
「くっそ! 完全に嵌められた!」
アルファに狙われていると察したノエルとライルはそこから迂闊に動けずにいた。
「そういうことかよ。 お前そっちに付いたのか?」
相変わらずリナの問いかけに答えず、レオナは剣を振るい続ける。
「たく、素顔の時とキャラ違いすぎだろが!」
リナは剣を弾き殴ろうとする。
だがレオナは剣を持たない手の指先から、先程リナがかわした尖った鉄の棒を発射した。
リナは斥力でそれを止め、逆に弾き返した。
レオナは飛び上がってかわすと両手で剣を降り下ろす。
リナはそれを受け止めると剣に重力をかけへし折った。
だが次の瞬間、両手の指の第3間接から左右合わせ8本もの爪が飛び出してきた。
斥力が間に合わないと判断したリナは剣を放し避けるが、何本かリナの体を掠めた。
「くっそ! 一体どんだけ武器仕込んでんだよ!?」
「仕込んでねぇよ」
リナの言葉に、ライルは「へ?」と間の抜けた返事をする。
「あいつの体は特殊でな。 溜め込んだ鉄分を武器や鎧にして体のどこからでも出すことが出来るんだよ」
「え~!!? てことは、今までの武器や今着てる鎧は・・・」
「ああ。 全部レオナの体から産み出されたもんだ。 しかも・・・!」
話すリナの隙を付きレオナは再び産み出した剣で斬りかかる。
剣は避けたリナの代わりに近くの大木を真っ二つに切り裂いた。
「どれも業物。 だから質がわりぃ」
リナの解説を聞きながら、ノエルはレオナを分析した。
単純な戦闘力ならリナの方が上だろう。
だがレオナの持ち前のスピードと体のどこからでも武器を出すことの出来るトリッキーさはリナと相性が悪い。
しかもリナは本気を出せずにいる。
やはりレオナが本気で聖五騎士団に寝返ったとは思えないのだろう。
この戦い、明らかにリナにとって不利なものだった。
『順調みたいね』
リナ達から離れた場所から様子を観察していたアンヌは、隣でノエル達に狙いを定めているアルファに言った。
「ええ。 やはりジャバウォックにゼータとシータを当てたのが正解でした。 イージス様、そちらは・・・」
アルファが背後に視線を向けると、意識のないフランクの横で聖盾イージスことクリスが涎を垂らして寝ていた。
「イージス様!? 何してるんですか!?」
「ふぇ? ごはん?」
寝ぼけるクリスに、アンヌは呆れたように頭を抱える。
『あなたね、もう少し緊張感持ちなさいよ? お父様が何のためにあなたを頼んだと思ってるの?』
ギゼルがイージスに助っ人を頼んだ理由とは、レオナの夫フランクの見張り役だ。
アルファとゼータ兄弟だけでは、レオナにフランクを奪還される可能性が高いと判断したギゼルは、聖五騎士団1の防御力を誇るクリスに見張り役を頼んだのだ。
因みにクリスは報酬として、東の果てにあるシンの高級料理、満漢全席をギゼルに奢らせている。
クリスは涎を拭きながら相変わらずマイペースを崩さない。
「大丈夫。 だって・・・」
クリスはそう言うと素早く右手の盾で何かを払った。
すると、魔力で出来た糸の様なものが切断され宙を舞う。
「もうそこにいるの・・・知ってるから」
アンヌとアルファはクリスの見つめる方へと警戒を強める。
「いや~失敗失敗。 まさか私の糸に気付く程の人間が来ているとは・・・」
そう言いながら出てきたのは、今リーティアの中にいるはずのクロードだった。




