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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
319/360

鬼を討つ者

 八武衆がミノタウロスと戦闘を開始したと同時に、各所でも力を持つ者同士の激突が始まっていた。

 デスサイズの砦でレオナに付いてきたラグザ、ヴィクター、ボクネンは目の前にある敵と対峙した。

 タナトスの死者が一人に男女二人の鬼人(オーガ)

 二人は生者である様なので先程から見かけるキュラミスの人形だろう。

 男が2本、女が1本漆黒の角を生やし、手には棘の付いた金棒と鉄扇が握られている。

 その二人も確実に強者なのは間違いないが、恐ろしいのは真ん中に立つタナトスの死者。

 よくあるプレートアーマーに剣を一本持っているだけのどこにでもいる様な剣士の姿をしておきながら、触れただけで体がバラバラにされるののではと錯覚してしまう程の闘気を宿している。

 そしてその体から発する闘気に、ラグザは最近レオナから同じ闘気を感じている事を思い出しその正体を見抜いた。

「まさか、オーディンの本体までいやがるとはな」

 ラミーアがレオナの特訓相手として用意したリビングアーマーオーディン。

 強過ぎた主の執念が宿り生ける鎧となり、ラミーア達に封印されるまで何人もの強者を屠ってきた怪物。

 その鎧の元々の持ち主であるオーディン本人に、ラグザは冷や汗を流す。

「確かにあの者のみも脅威ですが、両側にいる者も驚異。 油断召されるな」

「知っているのかボクネンさんよ?」

「ゼンキとゴキ。 かつて我が国の鬼、ラグザ殿の国で言えば鬼人(オーガ)を纏め上げた鬼の頭領と言われた者達。 百年以上も昔に行方不明になり死んだと思われていたのだが」

「まさか魔族の傀儡にされていたとは。 強者すらあの様にしてしまうとは、魔族四天王とはこうも恐ろしい力を使うか」

 かつて四天王であるベルフェゴールに祖国ルシスを蹂躙されたヴィクターは当時を思い出し歯軋りする。

 そんな三人を敵とみなし、オーディン達は武器を構える。

「さて、伝説的な強者が3人。 我らの取る道は撤退か応戦か」

「撤退なんかする気ねぇくせにつまんねぇ問いかけすんなっての。 決めんのは誰がどいつの相手をするかだろ」

「ふふ、これはしたり。 では、ラグザ殿はどなたを相手に?」

「オーディンでいく」

「理由は?」

「本音言えばあっちの二人にも興味あるけど、多分あの手の奴なら少なくとも俺なら力負けしねぇ。 それに、レオナ殿に手解きされた身とすればあいつぶっ倒してレオナ殿超えしてみてぇしな」

 ラグザの話を聞き、ボクネンは可笑しそうに笑う。

「この状況でその様な事を言い放つとは、なんとも豪気な! いや、実に愉快な御仁よ! 異国の最高位の剣士と聞き興味があったが、今回は仕方ない」

 ボクネンはゼンキを見据えて鯉口を切った。

「拙者は同郷最強の鬼を相手に鬼退治といこう」

「では私は彼女の方を。 早々に片付け終わらせます」

 ヴィクターは飛び出すと、大地を隆起させゴキを両側から押し潰した。

 だが土は瞬時に吹き飛ばされ、突風と共に無傷のゴキが現れる。

「風使いか」

「ご名答。 ご褒美にこんなものはいかがです?」

 ゴキが鉄扇を振るうといくつものかまいたちがヴィクター目掛けて飛んでいく。

 ヴィクターは土の壁を作りそれを防ぐが、風により土壁はすぐに削られてしまう。

「相性は私が有利の様ですね。 残り物には福があるとは、よく言ったものです」

「なんとも皮肉の効いたお嬢さんだ」

 そう言いながら、ヴィクターはこの状況をまずいと思った。

 ヴィクターの大地の魔術に対し風は天敵といえるものだった。

 現に同じく風使いだった亡き兄ヴェルクとの模擬戦では、ヴィクターはそこを突かれ何度も敗北している。

 打開策を模索しながら攻撃を防ぐヴィクターの横で、ボクネンはゼンキと斬り合いを始めていた。

 驚異的な力で金棒を振るうゼンキに対し、流れる様な太刀捌きでそれをいなしながら傷を与えていく。

「どうされた? まさか力任せに暴れるだけではないだろう?」

「生意気な小僧だ」

 そう言いながら好戦的な笑みを浮かべるゼンキは金棒を回転させ地面を叩く。

 すると地面から芽が生えだし、その身をうねらせながら樹木となっていく。

「これは、見た目に似合わぬ能力だ」

「安心しろ。 こいつはただの補助だ。 てめぇを殺るのはこいつと決まってるんでな!」

 ゼンキは樹木から伸びる太い枝に飛び乗ると、それは意思を持つ様にボクネンへ向かっていく。

 ボクネンは居合でそれを迎撃するが、斬れたのは枝のみでゼンキは宙に飛び金棒を振り下ろす。

 ボクネンは避けるが後ろから突然生えた木にぶつかり、動きが止まった所を更に追撃される。

 振り下ろされた金棒を刀で受け止めるが、その怪力に刀はミシッと音を立てボクネンは膝を付く。

「これは、厄介な」

 ボクネンはそれを振り払うと、なんとか横に飛び距離を取る。

 ゼンキは休ませる気がないと言うように矢継ぎ早に枝に乗り追撃してくる。

「これ程の力を持ちながら操られるとは、敵はこちらの予想以上か」

「はっ! 勘違いしてる様だがな、俺達は操られてなんかいねぇよ!」

「その通り。 私達は自らキュラミス様の配下に下ったのです」

「自らだと!?」

「隙ありです」

 ゴキは風を操りゼンキの生やした樹木の葉を巻き上げるとそれを手裏剣の様に飛ばした。

 ボクネンとヴィクターは葉をそれぞれ防御するが、体が切り刻まれていく。

「ぐっ!? これは!?」

「まさか、かまいたち!?」

「流石ルシスのエルフ騎士(ナイツ)ですね。 その慧眼お見事。 ですが、少々遅かった様ですね」

 葉の手裏剣に紛れたかまいたちに気を取られていた二人の足元に大樹の根が出現し、二人の体を縛り締め付ける。

「ぐっ!?」

「がっ!?」

 全身の骨を軋ませるボクネンとヴィクターに、ゴキは薄い笑みを浮かべる。

「うふふ、やはりいいですねこの音は」

「後はこいつらの頭をこいつでかち割れば終わりってわけだ」

 金棒を嬉々として振り回すゼンキを、ヴィクターがキッと睨む。

「上品なエルフにしちゃあいい目するじゃねぇか」

「勝手なイメージ押し付けないでください。 私は私です」

「この状況でそんな口叩けるとはいい度胸じゃねぇか。 見た目もいいし、こっちに来んならキュラミス様に口利きしてやってもいいぞ?」

「それは遠慮しますが、代わりに質問が」

「あ?」

「先程操られていないと言っていましたが、何故自分の意地で魔族の軍門に?」

「そりゃヤオヨロズがつまんねぇからに決まってるだろうが! 戦しててもどの国も疲弊しきってて骨のあるやつはいねぇ! いてもそいつらは密かに和平だなんだとそっちに舵取りしそうになってたしな!」

「そんな時現れたのが極秘で地上に視察に来ていたキュラミス様です。 彼女に魔界の存在を聞いた時は心が踊りました。 そして、この大戦の計画を聞いてそれは更に高まりました。 そんな大きなお祭りがあるなら、腑抜けた地上より魔界に組みした方が楽しいに決まっていますもの」

「だから、自分が率いた鬼達を見捨てて、奴の軍門に下ったというわけか」

「当然です。 あんな雑魚などを気にかけていては、やりたい事が出来ませんもの」

「つまりだ! 自分の好き勝手やってこその鬼ってわけだ! ガハハハハ!」

 高笑いするゼンキに、ヴィクターは小さく口角を上げる。

「安心しましたよ。 貴方達がそんな人でね」

「あ?」

 すると突然地面が隆起し、ゼンキが生やした樹木事持ち上がった。

 そしてゼンキとゴキを含め空中まで打ち上げられる。

「な、なんだぁ!?」

「不本意に操られているだけならと消極的に動いてましたが、そういう考えならこちらも存分に力を振るえます」

 再び樹木を生やさせようとしたゼンキだったが、地面が吹き飛ばされ空中に投げ出された事でそれも出来ない。

 焦りの色が見えるゼンキをよそに、ヴィクターは拘束から抜け出す。

「ゴキ!」

「わかっています」

 ゴキがヴィクターに向ってかまいたちを放つ。

 だがそれはいつの間にか抜け出していたボクネンに切り裂かれ霧散した。

「なっ!?」

「助かりましたよ、ボクネン殿」

「本来ならば一対一が望ましいが、向こうが組むならこちらもそうするが得策」

「な、なんで私の風が刀如きで!?」

「我が剣はヤオヨロズ最強。 目に見えぬものとて、両断するわ造作なし。 そして・・・」

 ボクネンは近くの樹木を蹴ると一気にゼンキとゴキとの間合いを詰める。

「我が剣、無念無双の極地なり」

 ゼンキとゴキをすり抜け地面に着地すると、ボクネンは静かに刀を鞘に戻した。

 瞬間二人の武器が細切れになり、体から血が吹き出て地面に落ちていった。

「お見事」

「いや、不覚と取り申した」

 ヴィクターはボクネンの左腕が力なくだらんとぶら下がっているのに気づく。

「折れましたか?」

「いや、縛めから抜ける為に外した。 この位の気概を見せねば、この戦場に来れぬシンゲン殿に申し訳ないのでな」

 ボクネンは右腕で左腕を掴むと力を入れてハメた。

「そちらは?」

「肋を少々。 まあ、私の戦い方なら支障はありません。 それより、ラグザ殿を・・・」

「あの御仁に手助けは無用でしょう。 寧ろ今の拙者達では足手まといになりかねん。 今は彼に敵が近付かぬ様にせぬのが先決かと」

 剣戟の音を聞きラグザが奮戦しているのを感じ、ヴィクターも納得した様に他の魔族に意識を向ける。

「では、露払いに励むとしますか」

 ボクネンが頷くと、二人は周辺の魔族の兵士達へと向かっていった。

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