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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
31/360

レオナの葛藤


「これだけ買えばなんとかなりますね」

「そうですね。 ジャバが来てから、ゴブラドさんの畑だけじゃ足りませんものね」

「いや、流石にちょっと買いすぎじゃね?」

 その日、ノエルはリーティアとライルと共に買い出しに来ていた。

 ラクシャダの中には畑がある為ある程度の食料は確保出来るが、やはり足りないものもあるので、こうして時折町で買い出しをしなくてはならない。

 現在ノエル達は買い出しを終え、人通りの少ない町の出口付近に来ていた。

 因みにライルは酒樽1つと小麦の袋3つ担ぎ、背中には野菜がギッシリ詰められた木箱を背負わされていた。

「ライルさんは馬車馬の様に働かせろとリナに言われていますからね。 遠慮するのも失礼かと思いまして」

「ぬぐ、姉さんひでぇ」

 項垂れるライルに苦笑しながら、ノエルは昨夜の事を思い出す。

 実際、レオナを仲間に出来なかったのは残念だ。

 だが無理強いするわけにはいかないし、レオナの想いを守りたいというリナの想いも、ノエルにはよく理解できる。

 だからキッパリ諦められたのだ。

 後は聖五騎士団が嗅ぎ付ける前に、一刻も早くこの町を出なくては。

 そう思うノエルの目に、意外な人物が目に写る。

「あれ?」

「どうしたノエル?」

「あれって・・・」

「いたいた! 探したよ~!」

 笑顔のレオナが此方に向かってくるのが見え、ノエル達は驚いた。

「え? なんでレオナさんが・・・」

「よかった。 まだ町にいたのね」

「一応ね。 それで、レオナはどうしてここに?」

「ん、まあ、昨日あんな感じで終わっちゃったから気になってね。 それに・・・」

 そこまで言うとレオナはノエルに視線を向ける。

「あなたと話がしてみたくてね」

「僕と?」

「そう。 なんであなたがリナやクロード達を集めてるのか、ちゃんと聞いときたいのよ」

「いや、でも僕は・・・」

 リナの真意もあり、ノエルは話していいのか迷う。

「心配しないで。 あたしはどのみちついていく気ないから」

「え?」

「やっぱり気付いていたんですね。 リナの行動に」

「全く、あの子ももう少し違うやり方思い付かないのかしら?」

 レオナは苦笑すると、ノエルに申し訳なさそうに頭を下げる。

「ゴメンね。 リナの事もそうだけど、やっぱりあたしはフランクとの生活を守りたいの。 だから・・・」

「大丈夫ですよ。 最初から無理強いするつもりはないですし、リナさんの気持ちも、ちょっとわかりますから」

 笑顔で言うノエルに、レオナも小さく笑う。

「ありがと、ノエル君」

「でもそれなら、なんで理由を?」

「あなたのことが知りたくてね」

「僕の、ですか?」

「ジャバはともかく、リナやクロードがなんであなたについていってるのか、それを知りたかったの」

「えっと・・・」

 ノエルはレオナに迷惑をかけないためにも、どう話すか考える。

「父の想いを守りたい、かな」

「ノル、お父さんの?」

 レオナは周囲に聞かれぬ為、言いかけたノルウェの名前を引っ込めた。

「詳しくは言えませんが、今父が命懸けで守ろうとしたものが壊されるかもしれないんです」

 ノルウェの守ったものはこの国の平和、それを壊しうる存在は現王の聖帝、レオナは頭の中で確認しながら話を聞いた。

「なるほどね。 でもそれだけ? 父親の仇とか、自分が王になるとか、他になにかあるんじゃないの?」

「それはないです」

 キッパリ言うノエルに、レオナは一瞬ポカンとする。

「復讐することで父が喜ぶとは思えません。 それに僕が王の器とは思えませんし」

「それを言うなら、今あなたがしていることも、お父さんは喜ばないんじゃないの?」

「それを言われるとちょっと痛いですね」

 ノエルは苦笑しながらレオナの目を見た。

「ただ僕は、父の守ったものが壊されると思った時、どうしても守りたいと思ってしまったんです。 そうせずにはいられなかった。 だからこれは、ある意味僕のわがままです」

 そのノエルの表情に、レオナはなぜリナが力を貸すのかなんとなくわかった気がした。

(本当、ノルウェ陛下によく似てる。 リナが気に入るわけね)

 自分がしなければならないと思ったらやり通す。

 そこに打算も欲もない。

 例え誰が言おうと止まらない、まっすぐな馬鹿。

 だから支えたくなってしまう。

 自分がノルウェに抱いた想いと同じような感覚を、レオナはノエルに感じた。

「クロードはなんでこの子と一緒にいるの?」

「クロードはお金も仕事もなくなって、私達を養う為にノエル様に雇われたんです。 3食宿付きおやつ付きで」

 そう言ってニッコリ笑うリーティアを見て・・・要するにクロードもこの子を気に入ったのね・・・とレオナは思った。

 基本クロードはお金で動くような男じゃないし、結構気まぐれだ。

 その彼がノエルについているとなると、ノエルに何かを感じて気に入ったということ。

 レオナは納得したように笑みを浮かべ、ノエルを見た。

「ありがとう。 お陰で少しスッキリしたわ」

「いえ、此方こそ話せてよかったです」

「あの~、そろそろ俺キツいんスけど・・・」

 ずっと気を使って黙っていたライルだったが、流石に限界が近く話に割ってきた。

「えと・・・誰?」

 レオナに全く覚えられておらず、ライルは思わずコケかける。

「ライルっス!リナの姉さん1の・・・」

「パシリです」

「そうパシ・・・て舎弟だ! リーティアてめ何姉さんの真似して・・・」

「だってリナに訂正するよう頼まれてたんですもん」

「ですもんじゃねぇ! つかせめてどっちか持ってくれよ!!」

「女の子にそんな重いもの持たそうなんて、ライルさんって結構酷いんですね」

「てめぇ俺より力あるだろ!?」

「まあまあ、僕が持ちますから」

 3人のやり取りに、レオナはクスリと笑う。

「全く、賑やかでいいねあなた達は」

 そこまで言うと、レオナは小さく息を吐き口を開く。

「あ、そういえばいつまでここにいるつもりなの?」

「え? そうですね、あまり長居すると色々迷惑をかけるかもしれないので、今日中には発つつもりです」

「なら少し待っててくれない? ちょっと渡したいものがあるの」

「渡したいもの?」

「ええ。 ついては行けないけど、ちょっとは力になりたいし。 それにリナとこのまま別れるのもなんかつまんないしね」

 レオナの言葉に、ノエルは嬉しそうに笑顔になる。

「ありがとうございます! リナさんもきっと喜びます」

 そのノエルの反応に、レオナは一瞬表情を曇らせるが、すぐに戻した。

「それじゃあ準備してくるわね。 お店が終わる頃だから、昨日皆で会ったくらいの時間になると思うからそれまで待ってて」

「わかりました。 あ、僕達が今いるのは・・・」

「町外れの西の森でしょ? この辺りでラクシャダを隠せる場所なんて、あそこくらいしかないもの。

それじゃ、また後でね」

 レオナはそう言うと、笑顔でその場を去っていった。






 レオナがノエル達から離れると、表情から笑みが消え、暗く悲しいものへとなる。

 そして一気に走り去る。

 まるでその場から一刻も早く離れたいというように。

 自身の食堂まで辿り着くと、そのまま食堂の中に飛び込んだ。

 レオナは肩を上下させながら扉に背を預け、そのままズルズルと床に座り込んでしまう。

 自分は騙してしまった、大事な人を、かつての家族と、その仲間を。

 ノエルの人格に多少触れた事で、その罪悪感はより重くなる。

 言葉に出来ない気持ちがあふれ出そうになるのを、レオナは理性で抑えようと息を吐く。

「無事終わった?」

 レオナが声の方を睨み付けると、そこにはアルファがいた。

「ええ。 少なくとも今日はあたしが行くまで止まってるはずよ」

「上出来ね。 1度引き受けた任務なら情は一切挟まない。 流石死神と言われただけあるな」

 レオナは再度アルファを睨み付けるが、必死に怒りを治める。

 戦う力のないフランクが人質になっている以上、レオナは彼を選ばざるおえなかった。

 いや、もしフランクに戦う力があってもレオナはフランクを取っただろう。

 自身の過去、五魔としての血塗られた過去を知ってなお、全てを受け止め愛してくれた。

 それがレオナにとってどれだけ大きな喜びだったか、どれだけ安らぎを与えられたか。

 故にレオナにとってフランクを失うのは、自身の命を失うよりも恐ろしいのだ。

「あなたも流石ね。 こんなセコい手を使う主の元で命懸けで支えられるんだから」

「信頼しているからな。 あの方は私達が死なないようにいつも考えてくださっている」

 せめてもの抵抗として皮肉を言うが、アルファは欠片も気にしていないようだった。

「よくそれだけ信じられるわね。 あなたが押さえ付けられた時、あの男欠片も心配してなかったじゃない」

「信じるさ。 何故ならあの方は私達に居場所をくれたからな」

 そう言うと、アルファは自身の右腕を掴んだ。

 そしてその部分の(アーマー)を外すよう腕を引っ張ると、右腕の肘から下の部分が丸々外れてしまった。

 レオナも流石にその状況に驚き目を見開く。

「これがギゼル様の部隊が一番多い理由だ。 私達は皆魔帝の時代に戦乱に巻き込まれ、体に大怪我を負った者の集まりだ」

 アルファは静かに語りながら腕を元に戻した。

「ギゼル様は我々を引き取り新たな手足、動ける体を下さった。 そして、望む者は自身の配下として迎えてくれた。 例え敵国の者だろうとな。 信じるには充分過ぎる理由だと思うが?」

 レオナはアルファの話に少なからずショックを受けた。

 彼女を含むギゼルの部隊はつまり、自分達五魔により手足を失ったということだ。

 無論、その事は覚悟していたし、かつての行動に後悔はしていない。

 だが、こうして当事者を目の辺りにするとやはり罪悪感を感じてしまう。

「念のため言っとくけど、私は五魔を恨んではいない。 戦争とはそういうものだし、何より、私も新兵として参加していたからな。文句は言えん」

 レオナの様子に思う所があったのか、アルファは少し気遣うようにそう言った。

「だから保証しよう。 この作戦が終われば、あなたの夫を帰し、その後一切我々はあなた達夫婦には関わらない」

 アルファの言葉を聞きながら、レオナの気持ちは深い闇に堕ちる様な感覚がした。

 どちらにしろ自分は何かを失う。

 ならば、せめて後悔しない選択を。

 そう決心すると、レオナの瞳が暗い闇の様に光を失った。


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