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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
308/360

人魔決戦14・終結

「おらぁ!!」

 ライルの拳をヒュペリオスは左腕でガードしカウンターに肘を打ち込む。

 ライルはその肘を掠めながらなんとかかわし距離を取る。

 そんなライルにヒュペリオスは「またか」と舌打ちをする。

 攻めてきたと思えば退く。

 攻勢のタイミングでも深追いしない。

 ただただヒット&アウェイを繰り返すのみ。

 勿論それは間違った戦法ではない。

 寧ろ正解の部類だろう。

 実力差があるにも関わらずダメージを負い、まんまと相手のペースに乗せられ屈辱を味わった。

 だから今回のヒュペリオスには油断も侮りもない。

 ライルを戦う価値のある敵として認識し、己を鍛え直し戦いに臨んだ。

 それを証明するかの様に、ライルには致命傷ではないがそれなりの傷が無数に出来ている。

 もしライルが今の戦法を取っていなければ、決着は付いていたかもしれない。

 だからライルの戦法は正しい。

 だがそれでもヒュペリオスは違和感を拭えない。

 ラバトゥでライルと戦った時、ヒュペリオスは確かに感じた。

 この男は実力差等気にせず真っ向から向かってくるタイプだと。

 ましてや前回の戦いの事を考えると是が非でも自分に勝つ為に攻撃してくる筈だ。

 なのに消極的な戦い方をずっと続けている。

 前の挑発の時の様に何かの策かとも考えた。

 ならば自分はライルから離れて別の所に向かうべきではないかと。

 だがライルは放置していい相手ではなくそれも出来ない。

 勝っている筈なのにどうもスッキリしない展開にヒュペリオスは苛立ちを見せる。

「貴様! 何をしている!? もっと本気でかかって・・・ッ!?」

 瞬間、ヒュペリオスは周囲の異変に気付き顔色を変えた。

 死者の兵達が次々と塵になり消えていっている。

「ま、まさか! 貴様ら!?」

 事態を察したヒュペリオスに、ライルはニヤリと口角を上げた。

「やってくれたみてぇだな。 流石姉さんとノエルだ」






 タナトスは消えた。

 リナの重力の塊が消えた後もその欠片すら残さず消滅した。

「やったのか?」

 ダグノラは負傷した肩を抑えながら問う。

 祖国を滅ぼし仕えた王を殺されたダグノラにとって、タナトスの死はどうしても確認したい事だった。

 リナは答えないまま周囲を見ると、残っていた死者の兵達が消えていく。

 その事からも、タナトスの力が消えたのは明らかだ。

 だが、とリナの思考を遮る様にベアードが拍手をし始める。

「いやお見事ですな。 まさかミスタータナトスを退けるとは。 正直予想してませんでしたよ」

 ベアードはタナトスが倒されたのにも関わらず普通に賛辞を送る。

「退いたって事は、まだ生きてんのかあの野郎は?」

「さあ? そこまでは私も知りません。 ミスタータナトスがあそこまで粉砕されるのは私も初めて見ましたしね。 しかし、そんな事は貴女方には今はどうでもいい事でしょう。 何せ、この戦はこれで終いですからね」

「貴方は戦わないんですか、ベアードさん?」

 前に出たノエルに、ベアードはかつて会った時の様な穏やかな笑みを返す。

「ええミスターノエル。 ミスタータナトスを退いた皆さんと戦いたいという欲求はありますが、彼が消えた今軍の全権は私にあるのでしてね。 死者の軍団という最大の強みを失った我が軍がこれ以上戦うのはいらぬ犠牲を生むだけですし、軍を預かるものとしてそんな真似は出来ません」

「今あんたが俺達を殺れば、決着は付くんじゃねぇか?」

「挑発は止めてほしいですなミスリナ。 私はミスタータナトスより弱いですから、敗北は濃厚ですので」

「とてもそうは見えねぇけどな」

「事実ですよ。 単純な能力ではあちらが上です。 まあ強いて言うなら、ミスタータナトスは強者ではあったが戦士ではないという事です」

「戦士じゃない?」

「ええミスターノエル。 彼は確かに絶大な力を持っていました。 ですが、彼は戦いに関して戦士の持つ様な覚悟も何もない。 ただ単に自分のしたい様に暴れるのみ。 だからすぐに精神を乱し、ここ一番という場での気迫も足りない。 もし皆様が彼より私の方が強者に見えるならその差が原因ということですな」

 そこまでは説明すると、ベアードは人差し指を上空に向け紫の魔力弾を放った。

 それを合図に、魔族の軍は退却を始めていく。

「では、そろそろ失礼しましょう。 貴方達の勝利に賛辞を。 そして、次の戦いへの期待を贈りましょう。 なにせ、次は私も戦いたいのですしね」

 そうニヤリと笑ったベアードに、リナ達の背中にゾクリと寒気が走った。

 ベアードは穏やかな表情に戻り姿を消すと、リナ達は緊張を解くように息を吐き出した。

「たくっ、何が敗北濃厚だよ。 やり合う気満々じゃねぇか」

「とにかく、去ってくれて助かったわね。 こっちも無傷じゃないし」

 エミリアが見るとアシュラは両拳を、ダグノラは肩を、そしてオメガ、シンゲン、アンドラスは手足切断と重傷を負っている。

 もしあのまま戦闘を続けていたら、誰かが死んでいた。

 そう考えると、ベアードがすんなり退いてくれたのは幸運だった。

「すぐに手当します。 その後イトス達に診てもらいましょう」

 ノエルが黒の魔術で強化した治療術を使いに向かうと、エミリアは隣のリナを見た。

「やっぱりタナトスは生きてると思う?」

「だろうな。 手応えが変だった」

 体は欠片も残らず、死者の兵も消えた。

 普通なら死んだと考えるのが普通だが、リナはタナトスを消し飛ばした瞬間何かが抜け落ちた様な感覚を感じた。

 恐らくその時タナトスは逃げ出したか何かをしたのだろう。

「まあ、とにかく戻りましょう。 戦闘を継続している所もあるだろうし、早く軍を纏めないと」

「そういうのは俺の役割じゃねぇよ聖王様」

「あら? 天下の五魔の魔王様なんだから、少しは手伝って貰わないとね」

 エミリアはからかう様に言うとすぐに表情を引き締め、オメガに通信を頼みに行く。

 リナは戦場の様子を一瞥すると負傷者を運ぶ為にノエル達の方へ歩いていった。






 空に紫の閃光が広がり、それを見た魔族達は動揺しながらも退却を始めた。

 死者の兵達も崩れ落ち、連合軍は自分達の作戦が成功したと悟った。

 そんな中、レオナと戦っていたデスサイズは逆に愉快そうに大笑いした。

「ヒャハハハハ! タナトスの野郎がやられやがったか!? ザマァねぇな死体野郎が!」

「随分嫌われてるのね、そのタナトスって奴」

「おお! 嫌いも嫌い! まさに生かしとく価値もねぇって奴よ! ディアブロが許しゃ速攻でぶっ殺してやるよ! にしても面白い事になってきやがったな!」

 尚笑い続けるデスサイズは、レオナの方を向きまた笑う。

「歯応えのある女もいやがるし最高に楽しい状況じゃねぇか! こりゃ次が楽しみだ!」

「悪いけど、あんたを楽しませるつもりはないわよ! さっさとお母さんの事を吐きなさい!」

 レオナが剣を振るうがデスサイズはそれを避け尚笑う。

「ヒャハハ! そいつを知りたきゃ攻めてこい! 俺は逃げも隠れもしねぇ! 俺達の本拠地で、てめぇらを迎えてやるよ! 待ってるぜレオナ!」

 デスサイズはそう言い笑いながらその場を去っていった。

 追うのは無駄だと判断したレオナは剣を消した。

「次は絶対聞き出してやる。 首洗って待ってなさいよ骨野郎」

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