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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
306/360

人魔決戦・12 タナトス急襲

 敵空軍すら配備されていない天空から見下ろすのは、今回の作戦の決め手となる精鋭達。

 現五魔の魔王リナ、聖王エミリアを筆頭に、聖獣王ラズゴート、魔甲機兵団総隊長オメガ。

 そしてセレノア元帥ダグノラ、ラバトゥ八武衆最強アシュラ、ヤオヨロズ馬の国大名シンゲン、そして蟲人近衛最強のヘラクレスと各国の最強クラスの強者が勢揃いしていた。

「ガッハッハッ! 絶景絶景! 敵の本陣を見下ろせるとは、なかなか良い物じゃのう!」

「気楽に言ってくれるよなラズゴートのおっさん。 こちとらヤオヨロズの軍師野郎のせいで慣れねぇことさせられてんのによ」

 今皆が立っているのは、リナの重力場を応用した足場だ。

 重力場を固める事で空軍よりも高く浮かび上がらせ、敵本陣へ移動してきたというわけだ。

「まあそう言わんでくれリナ殿。 マサユキの無茶も出来ると思ったからこその進言。 あやつは不可能な事は言わんからのぅ」

「確かに。 それに今回の策を成功させるにはこれ位せねばならないというのも仕方ない事」

 シンゲンに同意しつつ、ダグノラが見下ろす視線の先にあるのはタナトス本人。

 今回の奇襲の最大ターゲット。

 タナトスを倒せば敵の実力者の一角を消せるという単純な成果だけではない。

 タナトスの操る死者の軍の無力化は勿論、これから先味方の死者を復活させられる事も無くなる。

 タナトス一人消すだけで、戦略的に大きく優位になれる。

 だからマサユキは巨大な壁を出現させ、正面から迎え撃つ形で戦いを開始し敵の目を正面に向けさせた。

 実際タナトスは完全に正面の戦闘に気を取られ、主力級の者はほぼ前線に出ている。

 加えて生者の実力者をレオナやライル達に足止めさせる事で援軍も出来ない状況を作り出す事に成功。

 まさに奇襲の好機といえる状況の完成だった。

「それだけ失敗出来ないって事よ。 だからこうしてわざわざ最初に決めた部隊の人員変更したり、彼まで引っ張り出してきたんだものね」

 エミリアのし線の先には赤肌の巨漢、皆殺しの悪魔アンドラスの姿があった。

 サタンに敗れたアンドラスは、サタンとの賭けによりその傘下に加えさせられた。

 素直に従うのは癪だが、完敗して更に駄々を捏ねるなんて真似などしたくなかった。

 それにこちらに付けば自分を幽閉していた魔族に復讐出来、更に実戦経験を摘み今度こそサタンを倒す実力も身に着けられる。

 そう前向きに捉えながら、アンドラスは今回の戦列に加わる事を了承した。

 尚、当のサタンは今回の戦いには不参加だ。

 理由はイグノラにいるディアブロ、バハムートの牽制役。

 この状況で一番避けたいのはその両者の参戦だ。

 今もギリギリな状態なのにその両者が本格参戦すれば勝機は薄くなる。

 だからサタンにはアンドラス同様に傘下にしたキマリスを連れイグノラ方面に出陣して貰い、何かあればすぐに対処出来る様にしてもらっている。

 サタンの力とキマリスの兵力があれば万一の時でも時間稼ぎは十分に出来る。

 ジンガに乗ったノエルは腰の黒刀を抜くと、タナトスのいる敵本陣を指した。

「では行きましょう。 目標はタナトスただ一人! 出陣!」

「「おお!!」」

 リナが重力場の道を作るとノエル達はそれを駆け下り、オメガやヘラクレス等飛べる者は急降下を始める。

「では手筈通りに! オメガ殿!」

「承知した。 ツイン・ライトニングフィスト!!」

「暴波天嵐!!」

 オメガの雷の渦とダグノラの暴風が混じり合い巨大な雷の竜巻が何本も生み出され、それがまだ迎撃体制も何も出来ずにいた屍兵達を飲み込んでいく。

 そこで漸く襲撃に気付いた無事な屍兵達は迎撃しようと魔力弾を放つ。

「しゃらくせぇ!!」

「邪魔くせぇんだよ雑魚が!!」

 リナとアンドラスが前に出ると重力と崩壊の力を前に出現させる。

 魔力弾と接近してくる屍兵達はその身が削れさり、重力に巻き込まれ潰れていく。

 ならばと範囲外から攻撃しようとする竜の屍達がブレスを吐出そうとする。

「無駄だ」

 竜の屍達の横腹を、高速で飛ぶヘラクレスの突進が貫いていく。

 貫かれた竜の屍達は吐こうとしたブレスが暴発しそのまま崩れ落ちていく。

「ガッハッハッ! 蟲が竜を穿つか! なら仕上げはワシが行くかのぅ! どぉりゃ!!」

 ラズゴートは重力波の道から飛び降りるもそのまま急降下していく。

 その手にはドルジオスとマグノラに鍛えられた新たな戦斧が握られている。

「初陣じゃ相棒! 唸れ! 獣王の斧!!」

 両手で握り締められた獣王の斧は中心の宝玉を光らせると爆炎を纏った。

 その勢いのままラズゴートは地面を叩き付けると、周囲に巨大な爆発が起き屍兵達を吹き飛ばしていく。

 粉塵が舞い上がりそこには大きなクレーターが出来、ラズゴートが獣王の斧を肩で担ぎ笑っていた。

「ガッハッハッ! 少々はしゃぎ過ぎたわ!」

「なんちゅう玩具手に入れてんだよおっさん」

 漸く全力を奮える武器の手応えにはしゃぐラズゴートの横に、リナ達も着地していく。

 空中、地上にいた屍兵達は今の攻撃で大多数が消し飛び、少なくとも見える範囲ではノエル達以外の気配はなかった。

「ラズゴートさん、タナトスは?」

「恐らく無事でしょうな。 直撃したならともかく、ただの余波程度で倒れるなら苦労はせんでしょうからな」

 ノエル達がタナトスを探していると、ジンガが警戒する様に唸り出した。

 ジンガが唸る方向を見ると徐々に粉塵が晴れていき、タナトスとベアードが姿を現した。

「あれだけやって無傷とは。 タナトスはともかく、隣の老人も侮れぬ様じゃな」

「ああ、あいつがベアードだよ。 四天王でサタンの飲み友達だとよ」

 リナはダグノラに説明しながら、タナトスの様子を見た。

 攻撃を受けて再生したのか避けたのか知らないが、ダグノラとオメガ、そしてラズゴートの攻撃にも完全に無傷。

 隣のベアードも同様なのを見ると、少なくともタナトスに近い力を持つのは明白。

 だがそれよりも目がいくのはタナトスの表情。

 あどけない少年の見た目にも関わらず、その表情は完全に怒りに満ちている。

 タナトスはリナ達に見向きもせず隣のベアードを睨みつける。

「ベアード! なんでこいつらが上にいるのに気付かなかった!?」

「いや、これは失敬。 前方の戦いが余りにも面白くつい見入ってしまいましてな」

「ついじゃないよ! お陰で僕のコレクションが台無しじゃないか!?」

「まだいくらでも蘇るのですから構わないでしょう。 それに他の軍を突撃させたお陰で被害も最小限。 いや、ミスタータナトスの作戦が功を奏しましたな」

 悪びれもせず飄々と言いのけるベアードに、タナトスは怒りを顕にする。

「お前、本当にこの場で消してやろうか?」

「それは構いませんが、それだとあの方達をミスタータナトスのみで相手する事になりますが?」

 そこで漸くタナトスはノエル達の方を見た。

「ああ、こいつらが例の連中か」

「ええ。 皆かなりの手練ですな。 それに、また腕を上げましたなミスターノエル。 それにミスリナにミスエミリア」

「お久しぶりですねベアードさん」

 戦場で出会ったとは思えないにこやかな表情で挨拶するベアードに答えるノエルを見て、タナトスは更に目を見開く。

「ちょっと待って。 なんでお前がこいつらと顔見知りなんだよ?」

「いや、昔の飲み仲間と飲んでいたら偶然出会いましてな。 特にミスターノエルは是非我が軍にお招きしたい逸材でしたよ」

「お前、そんな大事な事報告もしないで・・・」

「昔の仲間と飲んでいただけですから、報告の必要はないかと。 それよりよろしいのですか? 彼らと貴方のみで戦うのですかな?」

 タナトスは怒りが込み上げてくるが、今ベアードを殺すのは得策ではないと思いなんとか怒りを抑え込む。

 そしてノエル達を睨みつける。

「今は殺さないでやるけどお前は手を出すな。 信用出来ないし、こいつら程度僕だけで消し潰してやるよ」

「それは結構。 ですが・・・」

「いつまで話してるのよ?」

 タナトスが声に意識を向けようとすると、自身の体が落ちていくのに気付く。

 視界には切り落とされた両手足と、剣を抜いているエミリアの姿があった。

「ほお、見事な速さですな。 わたしでも目で追うのがやっとでしたよ」

「こっちは必死なんでね。 不意打ちでもなんでも倒させてもらうわよ」

「そういう事じゃ! そりゃ!!」

 タナトスに突進したシンゲンはタナトスの胴体を掴むと上手投げで地面に仰向けに叩き付ける。

「このっ!?」

「どっせい!!」

 そのままシンゲンは右脚を高く上げ、四股で思い切りタナトスの胴を踏み付けた。

「ぐっ!? こんなもの・・・ッ!?」

 体を再生させて反撃しようとするタナトスだったが、体に違和感を覚える。

(力が、発動しない!?)

「なぜヤオヨロズ最強のケンシンではなく、わしがこの隊に加わったと思う?」

 シンゲンは更に四股を踏むとタナトスの体が地面にめり込んでいく。

「わしの使う相撲は元々神儀でのぉ。 四股は邪悪な者を地面に封じ込める役割をしとるんじゃよ」

 脚に力を込め更に地面にめり込まされ、タナトスはシンゲンの狙いが理解した。

「まさか、お前達は!?」

「死なんなら封じ込めるのが一番じゃろう? じゃからわしが来たんじゃ。 それに、ケンシンの好敵手ならこの位は見せんと、わしかっこ悪いからのぅ!!」

 どんどん地面に沈んでいくタナトスはベアードの方を見た。

「ベアード! お前何してるんだよ!?」

「先程手出し無用と言ったではないですか。 上の者の命令に従うのは当然でしょう?」

「馬鹿か!? そんな場合じゃっ!?」

 タナトスの体の大部分が埋まると、シンゲンはダメ押しとして三度四股をタナトスに浴びせる。

 タナトスはそのまま全身を地面に飲み込まれていった。

 完全に埋まったタナトスを注目していると、ベアードは拍手をしてきた。

「いやお見事。 ミスタータナトスの油断を突き何もさせる暇もなく対処させるとは、実にお見事」

「随分余裕ね。 次は貴方だっていうのに。 それとも今更だけどこっちに来てくれる気になった? それなら大歓迎だけど」

「いやミスエミリア。 私はあくまでミスタータナトスの命令を聞いたのみ。 これから皆さんの相手をしろと言うなら喜んで致しますが、どうやらそれもお預けの様ですな」

 ベアードの視線に気付いたエミリア達が見た瞬間、シンゲンの右脚が宙を待っていた。

「シンゲン殿!」

 追撃されるとマズいと感じたノエルはジンガにシンゲンを助けさせた。

 素早い動きでシンゲンを加えたままその場を去ると、タナトスが静かに地面から出てきた。

 だがすぐに体から魔力が溢れ出し、先程奇襲された時以上の怒気をノエル達に向ける。

「お前達、みんな揃って僕をなんだと思っている? まさか僕がディアブロ達より弱いと思っているのか? 死なない体を死者の軍を使うから特別扱いされているだけだと? だからこんな舐めた真似をしてるのか?」

 大声で恫喝する訳でなく、ただ淡々と言葉を放つタナトスの一言一言がまるでリナの重力の様なプレッシャーを放つ。

「いいよ。 なら見せてやるよ。 冥府の王タナトスが、一体なんでディアブロ達と肩を並べているかをね!」

 怒りに満ちたタナトスは、そのままノエル達に向かっていった。

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