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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
304/360

人魔決戦10・ルシフェル参戦

「あ〜あ、出てきちゃったか」

 タナトスは頬杖を付きながら戦場に現れたルシフェルを見ていた。

 だが意外と落ち着いた様子なので、普段のタナトスを知るベアードは首を傾げた。

「随分余裕ですねミスタータナトス。 なにか秘策でも?」

「まあね。 どの道あいつが出てくるのはわかってたしね。 奴への対策なんて余裕だよ」

 先程先発隊や秘蔵の死者が何体か倒されてイライラしていた癖にと思うベアードを他所に、タナトスは邪悪な笑みを浮かべた。

「さてと、君の為に用意したんだ。 たっぷり踊って見せてよ」






 ルシフェルは怒っていた。

 自分を待たずに戦を始めた事は許す。

 そもそもラミーアの命があったとはいえ間に合わなかった自分に落ち度がある。

 劣勢も許そう。

 寧ろこの兵力差でここまで渡り合えている事を評価しよう。

 かつてのルシフェルの傲慢さであったらこの時点で既にキレていた。

 その点ルシフェル自身丸くなったと自己評価する。

 だがそんな今のルシフェルですらどうしても許せないものがある。

「あの様な物に制空権を取られるとは、なんという醜態か」

 ルシフェルの視線には自分と同じ天翼族の屍兵達の姿があった。

 連合軍にとってそれが空中で最も厄介な存在となっている事を察したルシフェルの声には怒りが滲んでいた。

「すまないね。 私達の認識不足だ。 そこは素直に認めよう。 まさか天翼族がここまで厄介だとは思わなかったよ」

 素直に不甲斐なさを謝るクロードだが、ルシフェルは首を振る。

「貴様達の不甲斐なさはどうでもいい。 問題は、私に及ばぬとはいえ同じ天翼族でありながらあの屍使い如きにいい様に操られる奴らよ」

 ルシフェルが抱いた怒りは死者とはいえあっさり操られている天翼族の同族への怒り。

 そしてそれを使い捨ての駒として使うタナトスへの怒りだった。

 仮にも自分と同じ種族がタナトス如きに操られるのはルシフェルにとって最大級の侮辱だった。

「バハムートがここに来ない訳だ。 この様な恥辱を味わえば怒りで戦場に立つ気さえ失せるというもの。 いや寧ろ喜ぶべきか。 バハムートにまだそれだけの誇りが残っていた事を知れたのだからな」

 ルシフェルの鋭く突き刺す様な殺気に、クロードとリーティアは思わず戦慄する。

「この屈辱の褒美だタナトス。 これから本物の天翼族の力を見せてやろう」

 ルシフェルは片手を上げると空間に黒い穴が現れた。

 そしてその中から、武装した何体もの天翼族が出現する。

「っ!? これは!?」

「天翼族は滅びてはいない。 住処を地に変え、外界と極力接せぬ事で生き延びていたのだ。 かつての同族程ではないがその力、存分に味わうがいい!」

 ルシフェルが手を下げると、天翼族の戦士達が突撃を開始した。

 死者の天翼族同様その高い魔力と小回りを活かし、タナトスの空軍を駆逐していく。

「これが、君が離れていた理由か」

「その通りだ。 集められるだけ集めたったの2千程度しか集まらなかったのは口惜しいが、今の貴様らにとっては万の軍勢に等しい助っ人だろう」

「確かにね。 その上堕天使様が来てくれたなら、本当に万に等しい助っ人だよ」

 ルシフェルは不遜な態度で「ふん」と言うと翼を広げた。

「つまらぬ世辞を言うなら働け。 この戦、何が何でも勝つぞ」

 ルシフェルはそのまま敵軍に向かって飛んでいった。

「あれ、照れてましたよね?」

「だろうね。 素直じゃないというかなんというか」

 クスリと笑いながら、クロードとリーティアは構え直した。

「さてと、助っ人も来たことだし私達ももう一踏ん張りといこうか」

「ええ、クロード」

 二人は魔力を高めると、再び周囲に熱戦で満たした。






 ルシフェルは飛びながら屍兵を次々と潰していった。

 時には燃やし、時には素手で頭部を叩き潰し、駆逐していく。

 特に天翼族の屍は念入りに潰し、欠片も残らぬ程に消し飛ばしていった。

「これ以上痴態を晒さずに済むのだ。 感謝していくがいい」

「なるほど。 君は今もそうなのか」

 ルシフェルが声に反応し見上げると、思わず言葉を失った。

 不遜な態度は消え、ただただ目の前の存在が信じられないという気持ちが押し寄せてくる。

「馬鹿な。 貴様は、いや貴方は!」

 ルシフェルの目の前に現れたのは天翼族。

 ルシフェル同様6枚の羽を持ちながら、金色の髪を光らせ白き衣を纏うその姿は、地上の人間が天使と呼ぶものそのものだった。

 しかもその溢れる魔力と後光はルシフェルと同格、もしくはそれ以上の力を感じさせた。

「久しぶりだね、ルシフェル」

「大天使長、ミカエル」

 大天使長ミカエル。

 それはかつて天界で暮らしていた頃天翼族の長として君臨した最高権力者だった天翼族だ。

「貴方が、貴方までが、死者共の中に加わるとは」

 動揺するルシフェルを他所に、ミカエルは懐かしそうに穏やかな笑顔を向ける。

「まさかこうしてまた君と話せるとはね。 世の中何が起こるかわからないものだよ」

「話せるだと? ふざけるな! 今までの死者共は禄に話せなかったではないか!? どうせ貴様もタナトスの傀儡として喋らされてるに過ぎん!」

「そういう所は相変わらずだね。 自分の予期しない事が起こるとそうやって激昂する。 君を天界から追放した時もそうだった」






 それは1万年をも超える過去の事。

 膨大な魔力で浮かぶ天空の島、通常天界。

 多くの天翼族が暮らしていたこの天空の楽園で、それは起こった。

「どういうつもりだミカエル大天使長! 私をこんな目に合わせるなど!」

 ルシフェルは数人の天翼族幹部の手により魔力の拘束を受けていた。

 その背後は天界の淵であり、一歩でも踏み出せば地上へと真逆様という状況だった。

 激昂するルシフェルに、ミカエルは子供に言い聞かせる様に告げた。

「君を天界から追放する事が正式に決まった。 これから君にはそのまま外界に落ちてもらう」

「外界だと!? 私が!? あんな下賤なゴミ共の巣掃き溜めに私を追放するというのか!?」

「その通りだよルシフェル。 君はそれだけの大罪を犯した」

「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 私程優れた者が大罪だと!? 他の天翼族ならまだしも、この私が!? 一体何の罪だと!?」

「その君の発言こそ、罪の証だ」

 意味がわからないルシフェルに、ミカエルは続けた。

「君は確かに天翼族始まって以来の天才だ。 その魔力、知力は凄まじく、成長次第では後千年もしない内に私を超えるかもしれない。 長い天界の歴史の中でも不世出の存在と言える程だ。 だが、故に他者を見下す傾向がある」

「それのどこが悪い!? 優れた者が劣る者を蔑んで何が悪い!? 世界は優れた者を中心に回る! 天翼族はその中で特に選ばれた種族であり、私はその中で才を示しただけだ!」

「そこがまず間違っている。 この世界は大きな流れの中にある。 そこに君の言う優れた者も劣る者もない。 その全てがあるからこそ世界は成立する。 だから天翼族が選ばれた種族だもいう君の弁も、他者を見下す理由にはならない」

「詭弁だ! 実際は優れた者がこの世を支配している! 優れた者がいるからこそこの世は成り立つ! 貴方だって、他より優れていたから今の地位にいるのではないか!?」

「そこは否定しない。 だが、それだけでは駄目なんだ。 そういった狭い世界しか見えていないのでは、いずれその種族は滅びる。 あらゆるものの価値を認められる者でなければ、長にはなるべきではないんだ」

 ミカエルが手を上げるとルシフェルの体から宙に浮き、淵の外へと移動させられた。

「君の罪は傲慢。 他種族は勿論、自分より劣る同族の存在価値を認めず、蔑み、侮辱し、冒涜した罪だ。 君がそんな彼等の価値を認められるようになるまで、天界は君に道を開かない」

「待っ!?」

 ルシフェルが言うより早く、ミカエルはルシフェルを支えるのを止めた。

 瞬間、ルシフェルは重力に従い抵抗も出来ずに地上へと落ちていった。

 まるでこの世の終わりかのような絶望を抱きながら。






 当時の事を思い出し、ルシフェルの表情が曇る。

「あの時から随分経ったけど、君の傲慢な物言いは変わらない様だね。 やはり君は、どうしても傲慢なままの様だ」

 ミカエルは右手から剣を出すと、刀身から炎が出現する。 

「全てを焼き尽くすデュランダル。 やはり、貴方は本当に」

 ミカエルしか使えない筈の武具が出現した事で、ルシフェルは目の前の死者が本当にミカエルの意志を持った存在なのだと確信せざるおえず、より心がかき乱される。

「今、ここで君の旅を終わらせてあげよう。 それが、君を地上に堕として私のせめてもの情けだ」

 デュランダルを構えたミカエルはルシフェルへと斬りかかっていった。

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