聖人の策謀
今回はレオナメインです(^_^ゞ
翌朝、レオナは眠そうにしながらベッドから身を起こした。
フランクと共に食堂をやり始めてから朝は早いのだが、今日は特に眠い。
理由はわかっている。
昨日のリナ達とのことだ。
かつての仲間達がノルウェの子、ノエルと共に来た。
肝心の理由は聞かなかった。
というより、リナとの口論で聞く間もなくその場は解散となった。
ただ1つだけわかっていることはある。
リナ達は五魔を復活させようとしている。
そして自分を呼び戻そうとした。
何かと戦う為に。
恐らく相手は聖帝。
魔帝の子であるノエルがいたから復讐かとも考えたが、リナ達がそんなことで力を貸す筈がない。
なら他に何かリナ達が動かなければならない理由があったということ。
そんな事を延々と考えていたら、眠れなくなってしまったのだ。
「全く、リナの馬鹿・・・」
リナに悪態をつきながら、レオナは昨夜のリナとのやり取りを思い出す。
リナの真意はわかる。
自分が結婚したから、巻き込まないようにわざと怒らせたのだ。
そしてノエルやクロードが説明を始める前に自分の前から消えた。
なんとも不器用なリナらしい気遣いだ。
実際あのまま何らかの形で協力を求められていたら、レオナは悩んだだろう。
今のフランクとの生活、かつてのリナ達との絆。
今の家族とかつての家族を天秤にかけるのは、レオナにとってかなりの苦痛となった筈だ。
それを察したリナの行動は、今は素直に嬉しかった。
年下の癖に生意気で、その癖真は優しい。
そんなリナにレオナは苦笑する。
そして後で一緒に行けないお詫びに、せめてリナ達の好物を届けて送り出してあげようと思い、ベッドから降りようとする。
すると、そこで違和感に気付いた。
隣に寝ていた筈のフランクがいない。
フランクは普段から一緒に寝ており、特に昨日はレオナを気遣いずっと一緒にいてくれていた。
そんなフランクが自分より先にベッドからいなくなっている事に、レオナは違和感を覚える。
「仕込みに降りてるのかな?」
レオナはすぐに着替えると2階の居住スペースから1階の食堂に降りた。
「フランク、いる?・・・!」
知らぬ気配にレオナは素早く警戒体勢を取る。
その視線に、食堂の椅子に座る見慣れぬ女が写った。
「流石かつての五魔。 素晴らしい反射速度ですね」
五魔という言葉に反応しながら、レオナは目の前の女、アルファから目を離さない。
「あなたは誰? まだ開店の時間じゃないんだけど。 後、余り物騒な格好は出来れば遠慮願いたいわね」
レオナの指摘に、アルファはクスリと笑う。
「失礼。 手頃な服を今持ち合わせていなくて。 ですが、ご安心を。 敵対するつもりはありません」
「だったら申し訳ないけど出て行ってくれる? 正直今あまり機嫌が良くないの」
「では、手短に用件だけお伝えします」
アルファはレオナの返事を聞かず水晶をテーブルに置いた。
すると水晶から光が放たれ、上空に映像を写し出した。
『お初にお目にかかる。 私は聖五騎士団最高幹部が一人、聖人ウリエルこと、ギゼル・ラグノアという。 以後お見知りおきを、魔器デスサイズ殿』
レオナはギゼルの登場にも動じず、冷静にギゼルを見据える。
「あなたが上司? あまり部下のしつけがなってないんじゃない?」
『これは失礼。 本来なら私が直接出向きたかったのだが、何分忙しいのでね。 この様な形になってしまったのだよ』
「ならさっさと用件を言ってくれる? こっちは忙しいのよ」
あくまで冷静なレオナに内心感心しつつ、ギゼルは『では・・・』と話始めた。
『昨夜君の昔の仲間が来たようだね』
「ええ。 すぐ喧嘩になって帰っちゃったから何しに来たかはわからないけど」
『それは嘘だ。 君は何しに来たか見当は付いてるんだろ?』
「それでも関係無いわ。 あたしは皆に着いていく気はないし」
『うんうん、実に素晴らしい判断だ。 君はなかなか聡明な様だ』
ギゼルの態度に、レオナは段々イライラしてきたが、それを表に出さないよう堪えた。
「で? わざわざその確認の為にこんなふざけたことしたの?」
『いやいや用件は別にあってね。 ディアブロを始末してほしいんだ』
「・・・は?」
ギゼルの言葉に、レオナは始めて動揺する。
「何を、言って・・・」
『ディアブロ、あの女は危険だ。 奴の力は我々の想像より遥かに上だ。 もしあの女がこのまま野放しになれば、我々の大きな脅威になることは必定』
「ふざけるな!!」
レオナは激昂しアルファをテーブルに組伏せ、袖から取りだしたナイフを首筋に当てた。
あまりの速さにアルファは反応できず、ギゼルは『ほぅ』と小さく声を出す。
「リナはあたしの家族よ!? そのリナを殺せなんてふざけるのも大概にしなさい! 今すぐ出ていかないと、この女の首かっ切るわよ!」
『流石に死神と恐れられた女だ。 そちらが君の本当の姿か』
「いいから早く消えなさい! あたしが躊躇うと思ったら大間違い・・・」
『まあまあ、それよりこれを見たまえ』
ギゼルの言葉で、水晶の映像が切り替わる。
瞬間、レオナは血の気が一気に引いた。
アルファを見た時からもしかしたらと予測はしていた。
だが実際その光景に、レオナは見えないナイフを首筋に当てられた様な感覚がした。
夫フランクが、同じ顔の男二人に捕まっている。
「フランク!?」
『安心したまえ。 別に危害は加えていない。 君の態度次第ではわからないがね』
レオナはギゼルを睨み付けるが、ギゼルは動じず笑みを浮かべながら問うた。
『さて、魔器デスサイズ殿。 今の家族とかつての家族、どちらでも好きな方を選びなさい。 聡明な君なら、どちらを答えるべきかわかるね?』
レオナは怒りに体を振るわせるが、やがて静かにアルファを離した。
瞬間、リナの不器用な気遣いが無駄となってしまった。
 




