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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
296/360

人魔決戦3・レオナの成果


 自身の刃を受け止められたデスサイズは確信した。

 この女は前より強くなっている。

 たった一回だけの、ほんの僅かな感覚だったが、それでも十分伝わった。

 その事実にデスサイズは久しぶりにただ獲物を狩る以外の高揚感を感じ目を光らせる。

 そんなデスサイズと対峙しながら、レオナはメガロに意識を向ける。

「大丈夫? 動ける?」

「あ、ああすまない。 助かった」

「動けるなら行って。 こいつはあたしの獲物だから」

 メガロは共に戦おうと言おうとしたが、手に持つ剣を構えるレオナの姿に自分では足手まといになると察し、他の仲間の補助こそ今出来る最善だと認識した。

「わかった。 知ってると思うが、油断はするなよ」

「ええ。 身に沁みてわかってるわ。 こいつのヤバさは」

 メガロが去ると、レオナは改めてデスサイズに向き直る。

「あんたが彼が行くまで待ってくれるなんてね」

「折角久しぶりに楽しめそうな獲物なんだ。 他のに浮気する訳にゃいかねぇだろ?」

「あら、意外と紳士なのね。 ほんのちょっとだけ見直してあげるわ」

「ヒャ〜ハッハッ! そいつはどうも! でもよぉ、それよりてめぇがどれだけ俺を楽しませてくれるかの方が重要なんだけどな」

「楽しむね。 そんな暇、あげると思う?」

 瞬間、レオナの体が鎧に包まれる。

 だがそれはかつての骸骨兜(スカルヘルム)の鎧ではない。

 兜は無く、一部にドクロはあしらわれている紫色の鎧は、見た目の禍々しさとは違う圧の様なものを放っている。

 デスサイズはその圧に覚えがあった。

「なるほど。 オーディンを取り込みやがったか」

 かつて自分が死に物狂いで抑え込み、その隙にラミーアが漸く封印した化け物。

 それを取り込んだという事は、レオナは少なくともその時の自分より強くなっている。

 デスサイズは武者震いする様に骨をカタカタ鳴らした。






 レオナは特訓中オーディンと何度も戦った。

 正直金属を取り込む能力に関しては早めに身に付いた。

 お陰で鉄分不足にならず前より長時間の戦闘も可能になった。

 恐らくオーディンを取り込むだけなら、もっと早く出来ていただろう。

 だがそれでは意味がない。

 実力でオーディンに勝たなければデスサイズには届かない。

 それからレオナはただひたすらオーディンに挑んだ。

 武器を産み出す力で自分の操るあらゆる武器を使い、予想外の所から刃を出現させる奇襲を駆使した。

 だがそれでもオーディンには届かない。

 その内レオナは悟った。

 オーディンを超えるのは純粋な技術のみだと。

 レオナは武器を剣のみとし、オーディンの戦闘技術を超える為に何度も挑んだ。

 死にかける様な怪我も何度もした。

 だがレオナは、それでも挑み続けた。

 そして100を超える挑戦の中、レオナの剣はとうとうオーディンの刃を砕いた。

 無我夢中だったレオナが自分のやった事を把握出来ていない中、今までの猛攻が嘘の様にオーディンは静かに俺は剣を見詰めていた。

 そして跪くと、折れた剣を差し出した。

 まるで王に忠誠を誓う騎士の様に。

 かつての主の様に己を満たす相手との戦いを求め続けたリビングアーマーが、ついにその心を満たした瞬間だった。

 レオナは、オーディンの手に自分の手を添えた。

「ありがとう。 貴方の力、使わせてもらうわね」

 レオナはオーディンの剣と鎧をそのまま吸収した。

 そして、自分がオーディンの全てを受け継いだ事を実感した。





 鎧に身を包んだレオナの気持ちは意外な程落ち着いていた。

 デスサイズの強さは十分理解している。

 むしろオーディンを吸収した事で、それは前に対峙した時よりも更に鮮明にその強さを感じられる。

 だがそれでも、レオナは動じない。

 まるでオーディンがレオナの心を守る鎧になった様にレオナの精神は冷静だった。

「行くわよ、オーディン」

 レオナはすぐにデスサイズと間合いを詰めた。

 デスサイズは速いと感じながらも下から来るレオナの剣を受け止めようと骨の刃を前に出す。

 だがレオナは瞬時に剣の軌道を変え横凪にデスサイズの肋骨の下の部分を斬る。

 デスサイズは驚きながら、その肋骨を刃に変えてレオナを刺し貫こうとする。

 レオナは後退し構え直すとデスサイズの姿は既に前にはなく、レオナの背後を取っている。

「これで終いか〜!!?」

 デスサイズがレオナの首筋目掛けて刃を振るう。

 だが次の瞬間、無数の刃がレオナの背中から飛び出しデスサイズの体を削り取る。

 吹き飛ばされたデスサイズがすぐに着地すると、レオナは振り返り不敵に微笑んだ。

「あたしが剣だけだと思ったの? 残念でした。 体のどこからでも武器出せるのはあんたの専売特許じゃないのよ」

 オーディン並の技術に自身の肉体をフルに使ったトリッキーな技。

 その2つが合わさり、レオナはデスサイズと拮抗する程の力を手にしたのだ。

「く、クククっ・・・ヒャハハ・・・ヒャ〜ハッハッ!」

 デスサイズはそんなレオナを見つめると、突然大声で笑いだす。

「いいねいいね! そうこねぇとな! 仮にも俺の名前を異名に持ってんだ! この位してくれねぇとな!」

 確実にダメージを負った筈にも関わらず、デスサイズは愉快そうに笑う。

 それはハッタリでもなんでもなく、本心からレオナの成長を喜んでいる様だった。

「本当はこの名前返上したいんだけどね」

 軽口を言いながら、レオナは油断しない。

 何故なら、デスサイズに向けた背中の刃の何本かがいつの間にか折られている。

 折られた部分も含め全てまた吸収したので損害自体はないが、レオナはまだデスサイズが遊んでいると認識した。

 そしてこれから、デスサイズは本格的に攻めてくる事を確信する。

 ひとしきり笑うと、デスサイズは上機嫌の様子で目を光らせる。

「しかし本当、いい具合に仕上がってんじゃねぇか。 いいだろう。 約束通り1つだけいい事教えてやるぜ」

「約束?」

「おいおい忘れちまったのか? てめぇのお袋の話だよ」

 瞬間、レオナの顔つきが変わる。

 デスサイズはその顔を見てカタカタと楽しそうに骨を鳴らす。

「いい顔すんじゃねぇか。 そそるねぇ」

「あんた、お母さんの何を知ってるのよ?」

「大した事じゃねえよ。 そうだな〜。 何を教えてやるかな」

 イタズラを考える子供の様にわざもらしく振る舞うデスサイズは、レオナに歪んだ笑みを向けた。

「てめぇの母親、まだ生きてるぜ」

 レオナはその言葉に体を撃ち抜かれた様な衝撃を覚えた。

「うそ、だってお母さんは・・・」

「嘘じゃねぇよ。 しかも更に朗報。 なんと、そいつは今俺の所にいる」

 200年前に生き別れ二度と会えないと思っていた母親が生きている。

 しかもどういう理由か知らないがデスサイズの所に身を寄せている。

 衝撃の事実にレオナは頭が混乱しそうになるのを必死に堪える。

「そんな、どうしてお母さんがあんたなんかの所に!?」

「おっと。 ご褒美タイムはここまで。 もっと褒美が欲しけりゃ、俺をもっと楽しませてみろよ」

 デスサイズが骨の刃をギラつかせ近付いてくるのに対し、レオナは呼吸を整え構え直す。

「いいわ。 ここからはあんたの体に聞いてあげる」

「いいねぇ! そうこなくっちゃな!!」

 レオナとデスサイズの刃が、再び激突した。


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